とぅ・まさし 投稿者: 仮面慎太郎
最終話  「当たり前だよ・・・友達じゃないか」

体が動かない・・・汗が冷たいと思うと、すぐに何も感じなくなる。そして、また冷たい。
そんな事が、身体中いたる所で起こっている。
何も見えない・・・いや、視覚は働いている。そこに誰が居るかはわかるが、
頭が五感についていけない・・・今見た物を思い出す事でやっとだ。
志保の声が聞こえる。だが、何かが邪魔をしてよく聞こえない。
そうだ・・・コレがさっきから、五感の働きをほとんど止めている。
だから、何も伝わってこない。断片的な情報を、俺の今までの経験が
想像でつなげているにすぎない・・・頭が重い・・・眠りたい・・・・・・眠れ・・・ない・・・
俺の口から言葉が漏れているのに気が付いた。何と言っているのかは
聞こえない。もう・・・どうデモイイ・・・ドウデモイイ・・・ドウデモイイ・・・・ ・ ・ ・ ・
!!
うわああぁぁぁぁぁぁ!!
急に、はっきりとした情報が頭の中に流れ込んで来た。
今までの考え全て、五感の全てが痛いほど明確に、それも信じられない量が
一気に理解できた。志保が、あかりが、先輩が、俺を覗き込んでいる。
その顔を見るたびに、彼女達の事が頭に浮かび上がって来る。
過去の出来事。覚えている言葉。それにともなった、彼女達のイメージ。
部室の壁の色。訳のわからない置物。夕暮れの赤い日差し。汗で冷たくなった身体。
いつのまにか目に溜まっていた涙。隣で横になっている友達の名を、
連呼していた自分。今まで止まっていた全てが一瞬に、凝縮されて頭の中で弾けたようだ。
痛い。頭が痛い。考えられない。思考が止ま・・・らない?
頭が!耳が痛い!何かが!情報とは違う別の何かが!体の中で暴れている!
だめだ。
先輩が視界から消えた。志保が「ヒロ!しっかり!」と、いっている。
だめだ。止まらない・・・
雅史が起き上がった。よかった。無事だったか・・・。瞬間、雅史についての記憶とイメージが
湧き起こる。聞こえる音の考察。雅史が立った音。先輩が何かを急いで探してる音。
志保の声。雅史に状況を説明している・・・雅史の返す言葉。
どうやら乗っ取られていた間も、意識はあったようだ。状況は理解しているらしい。
頭の中に感じる。声。音。におい。まったく異質の、苦しんでいる意識・・・ヤツだ。
雅史の声・・・雅史の奴苦しそうだ。今起きたばかりだからな・・・しかたないか・・・
!?雅史の走る音。先輩に何かいっている。
「来栖川さん!浩之はどうなるんですか?このままじゃ・・・えっ、
予想以上の時間が経ってる?そんな!」
へへへっ、なんだかおかしくなった。あの雅史があわててやがる。
俺の中のこいつも、だんだん薄くなってきやがった。・・・俺もか・・・
・・・さっきからだ、急に何も感じなくなった。いやっ、感じてはいるが・・・
それが当たり前の様な気がして・・・急にだるく・・・もう・・・だめか・・・
雅史が何かいってるな。よく聞こえない。
「それじゃあ、もう一度・・・・・・そんな事言っても・・・・・・浩之のためだ!うっ、ごほっ、ごほっ・・・!?そうだ!」
「ちょっと、雅史まで大丈夫?」
「雅史ちゃん、無理しちゃだめだよ・・・」
雅史の奴大丈夫か?・・・俺が・・・死んだり・・・したら、あかり・・・泣くかな・・・泣くか・・・・・・
暖かい・・・も・・う・・だめか・・・・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・・・?
何?身体が急に楽になった?死・・・違う!視界が広がる!
手足が動く!もう、情報が勝手に入ってこない!勝ったのか?
身体が重い!・・・立ち上がれ!・・・よし!立てた!
不意に何かがもたれて来る。顔面蒼白の雅史だ。
「おい!雅史!しっかりしろ!」
雅史の身体を小刻みに揺らす。
「おい!・・・先輩、雅史どーなったんだよ。・・・えっ、俺の代わりに、
もう一度入り込ませた・・・あんな体でか?止めたけど聞かなかった・・・って」
俺は雅史の身体を抱きしめたまま、その場に座り込んだ。雅史の頬を零れ落ちた涙が透明の道を作る。
「大丈夫よ!ヒロ」
志保・・・
「ああ、そうだな。雅史が死ぬはずないもんな」
「だからぁ、ち が う の!雅史寝てるだけなのよ」
「へっ?」
「あのね、浩之ちゃん。私達も、雅史ちゃんと一緒に悪い奴やっつけたの」
「・・・?」
「つまりぃ、私達三人の意識ってやつ?が一つになったの。それで雅史が大丈夫だってわかるのよ」
「じゃあ・・・」
「そっ、雅史は無事。あいつは、消えちゃった。任務完了ってやつよ」
先輩が泣きそうな顔で、座っている俺達を覗き込んだ。
「・・・・・・」
「えっ、ごめんなさいって?いいよ、もう。それに、雅史無事だっただろ。
こんなにうれしい事はないよ」
「・・・・・・」
先輩は納得のいってないようだったが、俺が先輩をまねて、なでなでをしてやると
ちょっと困った顔をして、頬を赤らめた。
         *BGM・Brand New Heat
う・・・ん
 
気が付いた・・・俺の腕の中の雅史と目が合った。

「大丈夫だった?浩之?」弱々しく聞いてくる。
 
ばーか、それより・・・お前が大丈夫か?俺は雅史を抱く腕に力を込めた。

首を縦に振り、大丈夫だよ・・・と、力無く呟いた。耳にかかる息がこそばい。

あんな身体でどうして・・・と、聞くと ・ ・ ・俺の ・ ・ ・親友は ・ ・ ・

見た事の無い極上の笑顔で・・・この物語最後のセリフを言ってくれた・・・・・・
    
                                               完