箱入り彩 投稿者:くま
注意:この話は、こみパの彩シナリオのネタバレを含んでいるようです。
  (まだクリアしてない・汗)
   というよりは、やっていないとオチが分からないのではないかと。

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 ある晴れた朝。
 それは唐突にやってきた。
 前触れも、なく。

「こみパに向けて、いざ出陣!!」
 がちゃっ。ゴン。
「なんだ?」
 おそるおそるドアの陰をのぞいてみると、段ボール箱がおかれていた。
 中に入っているのは……彩。
「おはようございます、和樹さん……」
 体育座りをして箱の中に収まっている彩は、俺を見上げてそういった。
「迎えに来たぞ、まいぶらざぁ」
「おう、それじゃ行くか」
 なにも見たくなかった。
 なにも考えたくなかった。
 彼女があそこにいた理由も。
 箱の中に収まっていた理由も。
 大志は、それを察したのだろうか。
 なにも聞かなかった。
 本当にいい奴だ、お前。


 会場に着いた。
 サークル入場口から入り、自分たちのスペースを探す。
 と、そこには。

 …………。
「彩」
「なんでしょう……」
「お前、いつの間に?」
「徹夜は、していませんよ……」
「そんなことは聞いてない。何でお前が机の上に座ってるんだ!?」
 しかもご丁寧に段ボール箱に入って。
 いや、むしろ玄関で見たときと寸分違わぬ状態で。
「今日の目玉です……」
「新刊落としたとか言うなよ?」
 ぎく。
 そんな音が聞こえた気がした。

[踊り子さんにはお手を触れないで☆]
 段ボールに書かれた言葉は、全く意味が分からなかった。
 踊ってねえし。

 …………。
 さっきから、誰も彼女に目を留めない。
 そりゃそうだ。
 何しろ、地味すぎる。
 華って奴がないんだよな……。
 顔がいいだけに気の毒だ。
 いっそ不細工なら、まだ諦めも付くってのに……。

 いや、待て待て。
 さっきから流されてないか、俺?
 そういうのが問題なんじゃなくて、やっぱり段ボールごと机に乗っているのがまずいだ
ろう。
 やっぱり、そういう奇行に及ぶのは危険だと思うのだが。

 おかげでみんな無視しているじゃないか。瑞希や詠美や由宇ですらも。
 …………。
 痛い。南さんに、退場を言い渡されたのは痛いっ!!


 会場外。
 木枯らしの吹く中、放り出された俺は呆然と佇んでいた。
「一冊も売れなかった……」
 俺の同人人生、初の快挙だ。
 全然嬉しくねえ。
 そんな俺に、彩が優しく声を掛ける。
「和樹さんも段ボール……」
「いらねえ」
 俺は、寒さよりもプライドを選んだ。

 日が暮れて。
 彩を段ボールごとカートに乗せて帰る自分が、情けなかった。
 そんな俺にも、彩は優しい。
「こういう日もあります。明日はきっとホームランです!!」
「黙っててくれ、頼むから」


 それから一ヶ月。

 また、玄関先に彩がいた。
 一ヶ月前と、ただ一つ違いがあるとすれば……。










 ケバい。


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 ども。
 ずいぶんと久しぶりに作品を書きました。
 ネタと暇さえあれば、書きたいんですがねえ……。

 これは、「箱入り」を書いて下さった方に対する返礼のようなものです。
 そういう風習です。
 ただ、これまでのパターンとは違って、同じキャラを使っていません。
 実は「返礼」にかこつけて、久しぶりに書いてみたかっただけという噂もあります。

 で、オチですが……本編で何があったか知っていれば、分かるようです。
 彩がケバくなった理由も、その後の二人も。

 それでは、また。