黄昏 投稿者:くま
 はじめに断っておきますが、この話はオリジナルです。
 実はトンキンハウスの「Lの季節」(PS)の死神の女の子が可愛かったから書いてみ
たんですが、話は関係ないです。……と言うか、まだ出てない。

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 ずいぶんと長い間床にふせっている。
 こんな私に季節を教えてくれたのは見舞いに来てくれた妻が生けた花だけだったが、そ
の妻も三年前に事故で逝ってしまった。
 妻はたかだか四十年しか生きられなかった。
 不公平だよ、神様は……。
 不治の病なんぞを抱えた私だけをこっちに残すとは。

「あの……」

 頭の上の方で少女の声がした。
 もう、見舞いの者が来なくなって久しいのだが。

「お迎えにあがりました……」

 消え入るような声で私にそういったのは、全身黒ずくめの少女だった。
 その手には重そうな鎌。
 ああ、そうか。
 もう、時間なのだな。

「……驚かれないのですね」
「……そうだな。自分の死期が近いことくらい、いくら鈍感な私でもわかるよ」
「いえ、そうではなくて、その……『死神』というものについて……」
「私が人生の中でただ一つ得た教訓だからね。『世の中は知らないことの方が多い』」
「あ、申し遅れました。私は死神見習いのトートです」
「それじゃトート、行こうか」

 天界へと昇る道の途中、私はトートが嬉しそうな顔をしているのに気付いた。

「あの……私の顔に何か?」
「いや、嬉しそうな顔をしているな、と思ってね」

 それに……誰かに似ているような……。

「私、この仕事を始めてからずっとお客様に歓迎されたことがなかったんです。でも今日
初めて、私を自然に受け入れて下さる方に出会えて……」
「ハハハ、私はただあそこに未練がなかっただけだよ。誰も見舞いに来ることのない病院
に、いつまでもいるわけにはいかないしね」
「でも、私は嬉しかった……。私たちの仕事は、寿命を終えた魂を迷わないように天界に
送り届けることです。この仕事は、この世界にやり残したことがある人たちにとっては、
その……」
「いいじゃないか。きみは間違ったことをしているわけじゃない。自分の仕事に誇りを持
っていいんだよ」
「はい……」


 そして私は今、天界の転生局にいる。

「え〜と、あなたは……地上と天界の転生許可が出ていますね。それでは、この中から転
生先を選んで三日以内に提出して下さい」

 窓口で渡された書類の転生先の欄には、人、犬、猫、牛、馬……といった見慣れた言葉
の他に、天使のいろいろな階級名が書かれていた。

「……死んだばかりなのになあ」

 そんなことをつぶやきながら転生局の中庭のベンチに腰掛ける。

「おじさ〜ん」

 遠くからトートが駆けてくるのが見えた。

「どんなところに転生許可が出てるんですか?」
「おいおい、いいのか? そんな風に人の転生先を見ても」
「……本当はいけないんですけどね」

 そんな風に悪戯っぽく笑うトートを見て、私は少しほっとした。
 初めて会ったときよりもずいぶんと元気になったと思う。
 そうだ。遠い昔にも、こんなことが……。

「天界にも転生許可が出てるんですか?」
「ん、ああ、そうらしいね」
「おじさん、やっぱりいい人だったんですね。天界の転生許可なんて、年に二、三人しか
出ないんですよ」
「ん〜、そういわれても自分じゃよくわからないんだがなあ……」
「それはそうですよね。自分で自分のことを『いい人』なんていってる人に、いい人なん
ていないですから」
「ハハハ、厳しいなあ……」
「で、転生先はどうするんですか?」
「そうだな……もう少し考えてみるよ」
「それでは、私は仕事がありますのでこれで」
「ああ、それじゃ」

 ふと書類に視線を落とすと『死神』という言葉に目が止まった。
 そうだ、あの子……。誰に似ていたんだっけ……。



 三日後に提出した書類には『死神』と書いた。
 これから私は担当者である死神の立ち会いの元、人であった頃の記憶を魂の奥に封じて
新しい生活を始めることになる。

「そんなに悲しそうな顔をするなよ、トート。二度も出会えたんだから、きっとまた会え
るさ」
「……二度? おじさん、それは一体……」

 魂が、新しい肉体へと飛ぶ。

「久しぶりに思い出したよ。『きみ』と出会ったばかりの頃を……」

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くま「ども。何となくダメっぽい……」
川崎「終わり方に多少無理があるかと」
くま「トート(Tod)って言うのは、ドイツ語で死とか死神という意味です。そのまん
   まです。文中で『死神』と書いていますが、本来死神は『死を司る天使』と言うべ
   きものだと思います。無差別に命を刈り取ってるわけではありませんし、定められ
   た寿命を終えた人を迎えに来る神の使者な訳で……って、堅い話はいいんですが」
川崎「トートが後半はしゃぎすぎだな」
くま「それでは、また」

タイトル:黄昏
コメント:『死神』のお話。
ジャンル:シリアス/オリジナル/死神の少女