真・鬼伝説 最終章 Gift 最終話 投稿者: くま
 女は泣いていた。
 精神波増幅器の核(コア)となった男を抱いたまま。
 彼の姿は既に人ではなく、音叉と呼ばれるものに似ていた。

 女は決意する。
 精神波変調器となることを。
 精神波増幅器となった男を手伝うため、その姿を音叉に変えて。

 いつの頃だろう。
 あの『二人』がここを出ていったのは。
 いや、あの『二人』の意志ではない。
 彼らの力を必要とする者達がいたから。
 私には、笑って見送ってやることしかできなかった。


 どうしてみんな、すれちがっちゃうのかな・・・。
 お互いを解った気にならずにきちんと話し合えば、みんなこんな悲しい思いをせずに済
んだのに。
 『メルクーア』・・・。もう、いいよ。
 人と人の心をあなたがつなぐ必要なんてない。
 だって、絆は自分たちの手でつなぐものだから。
”おやすみ、キルシュ・・・”
 聞こえた気がした。長年の役目を終え、静かに眠りにつく『メルクーア』の声が。

「くそ!!分解が止まらねぇ!!」
”川崎・・・。お別れだ”
「なに言ってるんだ!?お前が真っ先にあきらめちまってどうするんだよ!!俺は認めね
ぇぞ!!」
”すまん・・・。お前には、私のせいで苦労ばかりかけるな・・・”
「俺は、お前がいたからここまで来られたと思ってる。絶対に消させはしないからな!!」
 『神刃(カムジン)』を腕から引き抜き、投げ捨てる。
 本当に、ここまでなのか?
 そのとき、右腕の修復が始まった。
「これは・・・?」
”どうやら、『ギフト』のおかげらしい。停止していた『鬼』の力を強制的に再起動した
ようだ”
「そうか・・・。やっぱりあきらめなくてよかっただろ?」

「・・・これで君の友達も助かる。やれやれ、彼ほど『鬼』の力を制御することができる
者がいるなら、元々『メルクーア』は必要なかったのかもしれないな」
「結局、すれちがっていたのは私たちの方だったのね」
「ところで」
「なに? キルシュ」
「二人とも、元々はエルクゥだったんじゃないですか」
「うん・・・余計な心配をかけたくなかったから、ああ言っちゃったんだけど・・・」
「本当のことを言わなければ、解り合うことなんてできっこないよ」
「うん・・・。反省してる」

「・・・精神波が消えた・・・」
「どうやら、丸く収まったみたいです。帰りましょうか」
「ああ」
 俺は柳川さんと一緒に地上へ出る階段を上った。
 今、何時頃だろうか。
 地上に出てみると、朝日が昇りかけていた。
「知らなかった・・・。朝日がこんなにも優しい色をしていたとは」
 柳川さんはそう言って眩しそうに朝日を見つめた。
「あ、川崎君」
「キルシュ、ご苦労様」
 うまく笑えただろうか。
「じゃあ、僕は『グライス』と『ギフト』を蔵に戻しておきます」
「うん、お願いね、シュヴァルツ君」
 『ギフト』に操られてた彼も災難だったな。
「俺はもう疲れたから帰るぞ」
「お疲れさま」
 柳川さんは振り返りもせず片手で挨拶をして帰っていった。

 俺はキルシュからことの顛末を話してもらっていた。
 土手の上に寝そべりながら。
「じゃあ、その『メルクーア』がなくなった今は人間は絆を失ってるのか?」
「そうじゃないと思う。ネットワークがなくなっても、私たちの記憶がなくなる訳じゃな
いから」
「そうか・・・。かりそめの絆、ってとこかな・・・」
 すっ・・・
 と、キルシュの顔が近づいて、唇が触れた。

「きっとこれが、人類最初の絆だね」

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くま「ども。ようやく終わりました。打ち込みながら修正したんですけど、今回かなり削
   りました」
川崎「そのままだとなんかくどかった・・・」
くま「それでは、また」

タイトル:真・鬼伝説 最終章 Gift 最終話
コメント:それぞれの想い。形は違っても、きっといつか届くから。
ジャンル:シリアス/ALL/川崎