平日の昼間。 俺は電車に揺られている。 車内には、まだ肌寒い四月の風が吹き込んでいた。 俺の隣には、セリオ。 日差しは少し、暖かかった。 それはある日の夕方だった。 マルチを探して俺は、ゲーセンの前のバス停へとやってきた。 「藤田さん」 「セリオ、マルチ見なかったか?」 「いえ、今日はまだ来ていないようです」 「どこに行ったんだ? あいつは」 「ところで・・・」 「ん?」 「『うみ』、というのはどういった場所なのでしょうか」 「海か・・・う〜ん、言葉で説明するにはちょっと難しいな・・・」 「そうですか。私はまだ一度も見たことがないものですから」 「ん、まあ、そうだろうな。じゃあ明日にでも行ってみるか? その海って奴に」 「よろしいのですか?」 「ああ」 「ひろゆきさあぁぁ〜〜〜ん」 「マルチ、何してたんだ?」 「みちにまよってましたああぁぁ〜〜〜〜」 そんなわけで。 俺達は海にいる。 こんな季節に海に来ているのは俺達ぐらいのものだ。 海から吹く潮風が、セリオの髪を揺らす。 日が差しているとはいえ、やっぱり風が吹くと寒い。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「あの・・・」 「ん?」 「『海』というのは結局、なにをする場所なのですか?」 「それはだな、泳いだり、日光浴をしたり、スイカ割りをしたり、貝殻を拾ったり、砂に 埋められてみたり・・・っておい!!」 「なにか?」 「服のまま泳いじゃダメだろ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・そのようですね」 とりあえずセリオに俺の上着を着せ、服を乾かすことにした。 そのままとりとめのない話をしながら過ごし、服が乾く頃には日が暮れかかっていた。 セリオは元の服に着替え、夕日を眺めている。 お互いに言葉もなく、緩やかな時が流れる。 ガキの頃日が暮れるまで遊んだことを思い出し、少し懐かしかった。 あの頃見た夕日はもっと大きかった気がするが、今となってはもう思い出の中にしかそ の夕日はない。俺が居なくなれば、その夕日も俺と一緒になくなってしまうのだと思った。 ・・・そんなとき。 セリオの頬を伝う雫を見つけた。 「セリオ・・・」 「なんでしょう。・・・え?」 セリオ自身も驚いたのか、あわてて拭っている。 涙を。 俺は、ホッとしている自分に気が付いた。 海を見て涙を流すことができるセリオに。 続く。 **************************************** くま「ども。無性にセリオシナリオっぽいものが書きたくなってしまいました」 川崎「前中後編でやれるのか?」 くま「わからんけどな。セリオがなぜ『海』について浩之に訊いたのかは、データとして ではなく実感として知りたかったからだと思って下さい」 川崎「いつものギャグのノリが出てる気がするが・・・」 くま「気にしない、気にしない」 川崎「いいのか、それで」 くま「それでは、また」 タイトル:セリオ 前編 海へ コメント:セリオと海へ行く。そして見つけたこと。 ジャンル:シリアス/TH/セリオ