真・鬼伝説 第三章 出会い 前編 投稿者: くま
また、あの夢を見た。
初めて鬼に出会ったときの夢。
俺は、目の前で親友が殺されようとしているのに何もできなかった。
逃げること以外は。
その後、警察の事情聴取を受けた。
「鬼を見た」という部分に関しては、あまりにも恐ろしい体験をし
たので犯人の姿がそう見えたのだろう、と片づけられた。
事件は迷宮入りになった。
周りの大人達は、
「君が友達を見捨てて逃げたことは仕方のないことなんだ」
と言って俺を慰めようとした。
だが俺は、この言葉を受け入れることができなかった。
確かに、あのころの俺は何の力も持っていなかった。
逃げる、と言う選択肢は生物として当然のことだったかも知れない。
しかし、人間として許されることなのか?
この言葉を受け入れてしまえば、何か人間として大切なものが欠け
てしまうような気がして、怖かった。
・・・これも、エゴなのかも知れない。
小さい頃から悪夢をよく見ていたが、ずっと内容はわからなかった。
鬼になってようやく、恐怖の正体を知ることができた。
正体が分かったからと言って、恐怖が無くなるわけではないが。

俺は、散歩に出ることにした。
夜風が心地いい。
足がいつの間にか、あの公園に向かっていた。
・・・どうやらこの公園は、よくよく鬼に縁のあるところらしい。
初めて鬼に出会ったのも、この間の椎名武男の時も、ここだった。
そして今、ひとりの女性が鬼に狩られようとしている。
あいつは・・・!!
見間違うはずもない。あのときの鬼だ。
仇討ちなんて今時流行らないが、今ここで逃げてしまえばあの言葉
を受け入れてしまうことになる。
はっきり言って倒す自信はない。
自分の中の鬼さえ満足に扱えないのに、あの鬼を倒せるとは思って
いない。
命を捨てるようなものだ。
プライドを捨てるよりはましだ。
自分の中に、ふたつの心が生まれる。
どっちも、捨てる気はないさ。
右腕の鬼を解放し、奴に飛びかかる。
しかし、俺の右腕が奴に届くことはなかった。

ここは・・・あの時の・・・。
広い空間の真ん中に、壊れた檻が置かれている。
檻に近づこうとして気づいた。
自分の体が鎖でつながれていることに。
ただ一カ所、右腕だけは自由だった。
首に付けられた鉄の枷(かせ)に手を掛ける。
右手はいつの間にか鬼に変わっていた。
封印・・・なのか・・・?
今まで俺は、鬼の力を使うことに対して、恐れを抱いていた。
親友を殺したのと同じ力が自分の中にあって、その力が暴走するか
も知れない。
誰かを傷つけるかも知れない。
たとえ相手が鬼であっても、殺したくはなかった。
それでいいのか?
自分の手が血に染まることを恐れて、誰かを見捨てるのか?
あの言葉を受け入れるのか?
首・・・。
左腕・・・。
右足・・・。
そして、左足・・・。
順番に枷を破壊していく。
あっけないほどに脆かった。

胸の痛みが戻ってくる。
それとともに、俺の意識も現実に戻った。
胸の傷はそれほど深くない。
全身を鬼に変えることができても、勝てるとは限らない。
それでも、やるしかなかった。
もうあんな思いをしたくなかったから。

気がつくと、空が白み始めていた。
目の前には、大量の血を流した鬼が横たわっていた。
自分の両手を彩る血の赤が、心に痛かった。

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くま「ども。今回はシリアスです」
川崎「なんでギャグじゃないんだよ〜」
くま「お前の過去を語るのにギャグは不適切だから」
川崎「まあね。シリアスのときの設定を引きずるからだよ」
くま「しかし、あれだけギャグだと言っといてシリアスやると怒ら
   れるか?」
川崎「誰も不幸にはならないからいいでしょ」
くま「そういうもんかね。感想(一部)とレス}
仮面慎太郎さん。
 感想、有り難うございます。
 あれだけ多くの作品の中から選ばれるというのは、やはり嬉しい
 ことです。
 <リーフ童話・赤ずきん(痕編)>
 最初、来栖川姉妹の話かと思いました。
 そのまま読み進んでいくと・・・
 なにぃ〜!?初音お婆さん!?
 それはちょっと・・・。
 「あんな縛り方」?気になる。
 当然狩人は金棒で狩りをするんですよね。ね?
 <或る愛の形・・・>
 実は俺、責任感じてます。
 以前俺が、
 「慎太郎さんは雅史で頑張って下さい」
 などとほざかなければ、こんなことにはならなかったのではある
 まいかっ!?
 ・・・俺のせいじゃないよね。ね?
おばQさん。
 <もう一つのTo Heart(芹香編)>
 この作品をきっかけに、「宣言」を書けました。
 芹香EDを初めて見たときのことを思い出せたから。
 ありがとうございました。
いちさん。
 <忘れない夜のこと>
 アフロ!!
 ビバ、アフロ!!
 あ・・・いや、なんでもないです。
 真面目な感想って、難しい。
vladさん。
 <いじめられっ子>
 藤田組の組長は、昔から組長だったんですねぇ。
 不器用な浩之と、不器用なあかりが印象的でした。
ギャラさん。
 たくさんの感想、有り難うございました。
 はっきり言って、自分の書きたいものを書いているだけなので、
 誉められると非常に照れます。 
くま「それでは、また」

タイトル:真・鬼伝説 第三章 出会い 前編
コメント:「鬼の力」。それは、何のためにあるのか。
ジャンル:シリアス/痕/川崎