真・鬼伝説 第三章 出会い 後編 投稿者: くま
「・・・ありがとう」
「礼なんて言わないでくれ。俺が彼を殺したことに変わりはない。
変わりはないんだ・・・」
「まだ彼は死んでいないわ。運ぶのを手伝って」
「え・・・?」
「あなたがとっさに手加減をしたから、急げばまだ彼は助かるのよ」
「あなたは・・・?」
「その昔、エルクゥの故郷、レザムで民族を二つに分ける対立があ
ったわ。その原因となったのがオニヘンゲタケ。鬼になるか否か・
・・。次第に対立が激化する中で、私たちの先祖である穏健派のエ
ルクゥたちは故郷を捨てることを選んだ・・・」
「それじゃあなたは・・・」
「エルクゥよ。鬼ではない、ね。まだ名乗っていなかったわね。私
はキルシュ=ブリーテ。あなたは?」
「川崎涼、です」
俺はさっきの鬼を担いで、キルシュについていった。
「私たちの祖先は、四百年ほど前に地球についたわ。そして、ごく
わずかながら『鬼』がいることに気づいたの。そしてずっと、『鬼』
を監視しているのよ」
「ずっと・・・?」
「ええ。力を持てば誰でも、自分の中の欲望に逆らいづらくなるわ。
人も、エルクゥも、欲望にうち勝てるほど心が強くなかった。ただ
ね・・・。心に悲しみを持っている人は違うの。少しだけ・・・、
ほんの少しだけ、欲望に逆らう力が強いのよ。本当はそんな少しの
ことなのにね」
「・・・・・・」
キルシュの横顔が少し、哀しそうに見えた。
「でも最近では、心に悲しみを持っている人でも鬼を抑えづらくな
っているわ。いつの間にか人間の・・・、ううん、人間だけじゃな
いわ・・・エルクゥの心も、弱くなってきている。自分の感情にさ
え押しつぶされてしまうほどに・・・」
「・・・・・・」
哀しそうに見えたんじゃない。
哀しいんだ。
長い間、鬼を抑えきれなくなった人を見てきたから・・・。
「着いたわ」
そこは古びた村の中央にある古びた屋敷だった。
その中の一室に案内された。
部屋の中央にあるベッドに鬼を寝かせる。
周りにあるのは、機械と言うよりむしろ、生物のような形をした器
具達だった。
「最近はこの村も過疎化が進んでね。人手が足りないのよ」
「この村はエルクゥしかいないんですか?」
「そうよ。でもそんな閉鎖的な暮らしを嫌って、村を出ていく人も
多いわ」
「ところであなた達は鬼を嫌っているんじゃないんですか?」
「レザムを追い出されたから?それは違うわ。争いを避けるために
は仕方のないことだったんだもの」
「優しいんですね・・・」
「そう?あ、もう終わったみたいね」
キルシュは顔を赤くしながら器具を操作しに言った。
「その人は鬼の力を使えないようにして置いたから、もう大丈夫よ。
とは言っても、菌糸を取り去ることができる訳じゃないから、治癒
力は高いままだけどね」
来栖川さんの魔法の時と同じか。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
「それじゃ」
「またね」
そのとき俺はまだ気づいていなかった。
彼女が言った「またね」の意味に。

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くま「ども。とりあえずこれで、次のネタができるまでお休みです」
川崎「しかし今回、パクリの台詞があるなぁ」
くま「こんな台詞も作ったんだけど」

キルシュ「私はエルクゥが歌った『死の歌』だから・・・」

川崎「わかる人にしかわからん上に、こんな台詞いつ使うんだ」
くま「つかわん」
川崎「そりゃそうか」
くま「明日からしばらく親父の実家に行くので前、後編出しました」
川崎「次来るのは15日頃」
くま「それでは、また」

タイトル:真・鬼伝説 第三章 出会い 後編
コメント:「監視者」。その悲しき定め。
ジャンル:シリアス/痕/川崎