耕一・イン・ザ・風呂3 投稿者: くま
  湯船につかり、長い息を吐く。
「ふぅーっ」
  我ながら、オジン臭いな、と思う。とはいえ、自分の意志で止められるものでもないから仕方が
ない。これは人間の習性なのだ。・・・根拠はないが。
  ・・・風呂ってのは不思議な空間だ。こうして湯船につかっていると、なぜか余計なことまで考
えてしまう。小さかった頃のことや、ふと思いついたこと。この場所を出てしまえば、砂の城が崩
れて行くように記憶の中から消えていってしまう儚い想い。普段なら絶対に考えないようなことも
、この場所ではなぜか考えてしまう。今日も、そんなことをボーッと考えていた。ふと、俺は・・
・
  1,親父のことを考えた。
  2,将来のことを考えた。
  3,そう言えば、俺の前って誰が風呂に入ってたっけ。

  1を選んだ。俺にはもうこの選択肢以外に残されてはいない。というわけでさっそく・・・。
  親父・・・。
 小さい頃、一緒にキャッチボールをした親父。
 ある日、俺達の元を去った親父。
 母親の葬式の日に、一緒に暮らさないかと言った親父。
 遺影の中の親父。
 いつから、すれ違ったんだろう。
 いつから、憎んだんだろう。
 いつから、許したんだろう。
 ・・・親父はどれだけ、俺のことを思っていたのだろうか。
 いつかは俺も父親になる。そうすれば、解るのだろうか。
 子供のことを思わない親はいない。
 子供の幸せを願わない親はいない。
 でもそのためには、乗り越えなくてはいけない。
 ・・・鬼の力を。

「親父、教えてくれ。俺はどうしたらいい?」


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
  頭の中にもやが掛かっているような感じがする。だがそれは、ほんの一瞬のことだった。急激に
視界が広がって行く。・・・そこは、あの水門だった。
  初めて鬼に目覚めた場所。
  初めて鬼を制御した場所。
  ここに来なければ、今の俺はなかっただろう。きっと、鬼に取り込まれていたに違いない。
  ・・・そんなことを考えているうちに、俺は一つの人影に気づいた。・・・それは、俺・・・い
や、二十年前の俺に良く似た男だった。
  二十年前??・・・そうだ。あれからずいぶんと時間が経ってしまった。俺ももう、八十の大台
に乗ってしまった。当然結婚して、一人息子もいる。
  そこまで考えて、俺はハッとした。
  目の前にいるのが、その一人息子、耕介だったからだ。しかも・・・鬼になりかけている。
「耕介!!鬼を制御するんじゃ!!このままでは、大切な人たちを巻き込むことになるぞい!!」
  それは嘘だった。俺にはわかっていた。耕介の力では、俺には勝てない。だから、耕介が町に出
ようとしたら殺す覚悟を決めていた。だから、決して誰も巻き込まない。
  とはいえ、鬼を制御できるようにするには、人間の心に訴えるのが一番いいだろう。これで駄目
ならもう・・・。
「久しぶりだな、ジローエモン」
  !!
  前世の記憶がよみがえる・・・。あれは、ダリエリ・・・。
「私の魂がこの世を去って早六十年。この日を待ちわびていたぞ・・・」
「おまえの目的は何じゃ!!また罪のない人間達を狩ろうというのか?」
「フフフ・・・。お前こそ、『罪もない』エルクゥを根絶やしにしたではないか」
「罪もない、じゃと?」
「ああ。ただ本能に従って生きていただけだからな」
「くっ・・・。そんなことで・・・」
「まあいい。俺はもう、人間などに興味はないのだからな」
「なに!?」
「そう恐い顔をするなよ。俺が興味を持っているのは、お前だ。同族の血を引きながら、人の心を
持つ・・・。どうだ、狩りの相手には十分すぎるくらいではないか」
「ふざけるのもたいがいにせい!!」
「ふざけてなどいないさ。俺はお前と戦うことだけを、この六十年間考えてきたのだからな。お前
に勝つには、お前が老いぼれるのを待つのが一番だからな。しかし皮肉なものよ。よもやお前の息
子として生まれるとは思っても見なかったぞ。おかげで、探す手間が省けたがな。ハーッハッハ」
  油断していた。今の今まで、鬼が目覚めなかったから、安心しきっていた。
  耕介のからだが膨れ上がり、獣のような声で吠え・・・ない。様子がおかしい。
「ぐ・・・がっ」
 胸を押さえて苦しんでいる。まさか、肉体の急激な変化に心臓が持たなかったのか?
「フッ。やはりお前には勝てなかったか・・・。これでも、お前のことは誰よりも認めていたのだ
ぞ・・・」
「ダリエリ・・・わしゃなにもしとらんわい・・・」
「ううっ・・・親父・・すまない・・・俺にはどうすることも・・出来・・なかった・・・」
「耕介!?耕介ーーーーーーーっ!!」
  平和な日々が続いて、自分の宿命から目をそらしていたのかもしれない。一番大切なことを忘れ
るなんて。俺達が本当にしなければいけないことは、鬼を倒すことじゃない。運命に打ち勝つこと
だ。それなのに。守れなかった。大切な、大切な、この世界にただ一人の息子を。
  俺は、耕介が生まれてからの楽しかった日々が、急速に遠のいて行くのを感じていた。
  俺は泣いた。ただ、ダリエリの情けなさに。


  気づけばそこは、風呂場だった。どうやら夢を見ていたようだ。ものすごい汗をかいている。頬
に手を触れてみると、濡れていた。汗・・・いや、涙・・・だな。
「今何時だろう」
  時間の感覚がない。いつのまにか、外は雨が降り出したようだ。雨音が、こんなに悲しく聞こえ
るなんて・・・。
  さっきの夢の内容が、強い現実感を持って甦ってくる。
「どうして・・・どうしてこんな想いばかりしなくちゃいけないんだ!!俺達は幸せになっちゃい
けないのか!?」
  ・・・どこかで、親父の声がしたような気がした。懐かしい、暖かい声。誤解ゆえに、ずっと耳
をふさぎつづけていた声を、今は一番聞きたいと思う。
「空耳・・・か?」  
  それにしてもあの夢・・・。あれは、親父が見せたものだったのだろうか。それとも・・・。
「・・・親父、そのオチはねぇだろ・・・」
  なぜかそう呟いて俺は、頬を伝う涙を拭った。
                                      
      終わり

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くま「ども。ついでにこんな物も書いてみました。いや〜、自分で書いたもののパロディって、結
構面白いですね」
川崎「斗織さんに薦められて、ハイドラントさんの『父から二人に、祝福を』を読んでガフ〜ッて
なったから自分らしさが出るように改造しただけだろ」  
くま「似たシーンが結構あってビビりました。実は、ハイドラントさんの作品は、『星が消えた空
』を読んでショック受けたんで読んでなかったです」
川崎「でもさぁ、本来、耕一をあえて高齢にしてギャグにしようとしたんだろ?それなのにシリア
スすぎないか?」                                       
くま「予想外だったな。あえて中途半端に台詞を直してるのもギャグなんだけどな」
川崎「今、また手を入れたな?うん、さっきよりはギャグっぽい。出だしがシリアスだけど」
くま「ところでさ、初音のお守りって何でできてるのかね。俺は、次郎衛門の角の片方だと思った
んだけど」 
川崎「しらねぇよ。それより、図書館の蔵書をもっと読め。恥かくだけだぞ」
くま「知らないって恐い」
川崎「そうだ。しばらく書き込めないんだからあのこと説明しとけば?」
くま「そうだな。え〜この『くま』と言うハンドルネームですが、別にあかりのくま好きにちなん
でる訳じゃないです。もう、五年くらい前からこのあだ名だったからです」
川崎「でも、あかりファン」
くま「・・・運命だった」
川崎「嘘つけ」
くま「それでは、また会う日まで」