楓は今日も坂を上る。
冷たい雪の降り積もる季節、冬。
山に四方を囲まれたこの町には、かなりの雪が降り積もる。
楓はその雪を一歩一歩踏み締めながら、坂を上る。
誰の足跡もない坂道。道の見えない雪は冷たく、深い。
少女の足ではあまりに危険。
だが楓は、杖をつくでもなく、一歩一歩、本当に慎重に歩く。
杖の代わりに手に持つのは小さな包み。
いや、持つと言うより大切に抱えている、というところか。
坂の上は、あのダム池。
冷たい雪を踏み締めて、楓はそこへと向かっていく。
夏・・・
楓の半身が月へと飛んだ。
血の宿命に引きずられ、血の香りに魂をひかれ、血を求めて心を断った。
「また、会えますよね・・・」
楓はそう言った。
「また・・・」
再び、もう一度、会えると言うこと。
いつか、もう一度。
数百年の昔・・・
楓は半身を残して先へと飛んだ。
別の生き物と引かれあい、別の生き物と共に生き、別の生き物を残して飛んだ。
「エルクゥは意志を信号化して伝えあう。」
楓はそう言った。
意志を伝えあう。
思いを伝えあう。
もしかしたらさらに昔から、星々を越えて意志を伝えあっていたのかもしれない。
だから彼の星へ来た・・・だから彼の国へ来た・・・
楓は時々そうも思う。
数十億の星の一つと一つ。
数千兆の命の一つと一つ。
伝えあい、引かれあってこそ出会えたのかも・・・?
それともただの少女らしい夢の思考なのか・・・?
楓はわざと、答えを出さない。
秋・・・
楓の半身だった者が帰ってきた。
落ち葉の浮くダム池。風が冷たくなる頃に。
楓に再び会うために。
楓に向ける目は濁り、不思議そうな光をたたえる。
不思議そうな光。
自分が楓に会いに来たこと?楓が胸で泣いていること?
それとも他の・・・?
その光の消えぬまま、彼の体は土へと帰った。
今度は昔とさかさまに、楓を残して先へと飛んだ。
楓は昔と同じ、言葉を呟く。
「また、会えますよね・・・」
楓は今日も、坂を上る。
楓はエルクゥ。彼もエルクゥ。
「エルクゥは意志を伝えあう。」
エルクゥは思いを伝えあう。
エルクゥは心を伝えあう。
再び生死と時間を越えて。
だからいつか、また会える。
彼と出会った時のように。
楓はそう、信じていた。
だから楓に希望はあった。
だから楓に命はあった。
一日一日その日が近づく。
彼と会える、その日が近づく。
楓は池のそばの、小さな若木の下へと歩む。
冷たい雪に埋もれかけた小さな若木の下で。
両手に抱えた包みをほどく。
大きめのおはぎが二つ。
一つ。
雪を固めたその上に。
一つ。
自分の両手の中に。
「梓姉さんが、作ってくれたので・・・」
それ以上言わない。言葉のいらない世界で彼女は話す。
いつか会える、その人と。
楓は急に、涙を流す。
雪が、冷たい。
また会える。希望はある。命はある。未来に、いつか・・・
だからこそ。
冬の冷たい雪が、楓には痛い。
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陳腐・・・・・・・・・・・・・・・・・・自己嫌悪・・・・・・・・・・・・・
まぁ、それはともかく。
影使いです。
この作品、二時間で書きました。授業中に・・・・・・・・・・・・
ま、そういうわけで、またそのうちに。
ビバ・ルーティ!!
(ああ、俺って馬鹿・・・)