第拾話 ヒグマダイバー (HIGUMA DIVER) 投稿者:剣士”


「つーめーたーいー。冷たい冷たい冷たいヨ〜」
ヒグマきぐるみ式D型装備に身を包んだレミィは、深く深く、春先のまだ冷たい川の底に沈んでいく。
武器はもちろん弓矢だ。
 川の中に仮死状態の「彼」がいるという報告があったのは、つい先刻のことだ。
A17が発令され、浩之とマルチ、レミィが雨月山の水門に出動することとなった。
 レミィは空港で修学旅行に行くクラスメートを見送ったときのことを思い出した。

「浩之ちゃーん。お土産買ってくるからねー」
「あーあ、二人とも残念だったわねー。
ちゃんと帰ってきたら報告してあげるわよん♪(ガセネタです)」
「あんたらの分まで楽しんで来たるからなー」

 みんながホッカイドーで観光を楽しんでいる間、
アタシ達は川で寒中水泳・・・。

 深度1350・・・1400・・・水圧で非常用固形食料の一つが破裂する。腹が減っては戦ができない。
なぜ、川なのにこんなに深いんだか。
 ま、レミィで失敗しても、マルチがいるし。
 原作とは違い、そんなことを考えていてもおかしくないんだよな、この人の場合。

さらに深く沈む。・・・1480・・・限界深度をオーバーした。
・・・いつしか背負っていた弓矢も川底に沈んでいった。
「千鶴さん、もうこれ以上は! 今回は人が潜ってるんですよ!」
 矢島が叫ぶ。
「作戦の責任者は私です。続けて」

「うー。寒いヨー。冷たいヨー」
「作戦が終わったら、いい温泉知ってるから、そこに行きましょう」
「へえ、なんて温泉なの、チヅル?」
「鶴来屋旅館よ」
「・・・・・・」
「なんで黙るのよ!」

 ・・・しばらくして。
「見つけたヨ! ・・・これが・・・『彼』?」
 『彼』は眠っているように見えた。
だが、白いTシャツは斜めに裂け、胸からは赤い煙のような血が漂っている。
呼吸しているなら口なり鼻なりから気泡が出ているはずだが、それも確認できない。
仮死状態。
 にも関わらず、レミィからの映像が送られてきた
作戦本部のみんながまず連想したのは、「ぐーたら」という単語だった。
「間違いないわ・・・。彼よ」
 千鶴が呟いた。
「レミィ、捕獲作業に入って!」

 レミィは、どこぞのおさげで眼鏡な同級生なんぞより、はるかに上手に鬼キャッチャーを
操ってみせた。 
「電磁膜展開。No problem! 目標捕獲したヨ!
 捕獲作業終了。これより浮上しまス」
「レミィ、大丈夫か?」
 はるか頭上、水門にいるはずの浩之から通信が入った。
「・・・大丈夫、大丈夫。案ずるより産むがやす・・・え、なになに!?」
 突然、警報が鳴り響いた。
「どうした、レミィ!」
「電子膜が、破られちゃうヨ!」

 報告を聞いたシンディは驚いた。そういや、似てるな。
「・・・まずいわ。鬼化が始まったのよ!
 レミィ、鬼キャッチャーを切り離して!」
 取っ手の部分の爆砕ボルトが機能を発揮し、
キャッチャーはレミィの手から離れた。  
 
「作戦変更。これより、『彼』の殲滅に移ります。
レミィは浮上しながら戦闘準備」

「YES!・・・って、弓矢がなくなってるヨ! どーしよう!?」
「レミィ! 今、マルチが武器を落とした。それを拾え!」
「OK、ヒロユキ!」
 などと会話をしているうちにも、『彼』は接近してくる。
身長は常人の二倍近くもあり、筋肉、骨格も生物の限界を超えた姿だ!
 レミィは焦った。上を見る。黒い影、おそらくマルチが落としてくれた武器だ!
「Hurry up!」
 叫ぶのと、レミィの手に武器が収まるのと、衝撃とが同時だった。
 レミィは武器を『彼』に叩き付けた。効かない! 
レミィは手に持っている物を見た。
 モップだった。
「What!?」
「す、すみませーーーーん」

 レミィにしがみついた『彼』は噛み付こうとして口を開いた。
と同時に口と鼻から水が入り、『彼』はジタバタともがき苦しんだ。

「・・・馬鹿」
 その様子をモニターで眺めていた千鶴がなぜか呟いた。

 またも非常用固形食料が爆裂した。
「そうだ! それだ、レミィ」
 浩之がハッと気がついた。
「YES!」
 浩之と同じことに気付いたレミィは、手持ちの非常用固形食料を全て『彼』の口に押し込んだ!
 ・・・一瞬の沈黙。
「(#)ぅぽJRをRF|=$~#"L$ピ#)ル ん)$”‘P$=”!$ぇ !!」
 水中なので聞こえないが、『彼』は絶叫を上げた。
口と腹を同時に押さえるという、器用な行動をとりながら・・・
身体をビクビクと痙攣させる。やがて、その痙攣も小刻みになり、
最後にはまったく動かなくなった。
「殲滅完了。Mission completedだヨ・・・」

「やったぜ、流石は千鶴さんの手料理だ!」
 浩之は叫んだ。最初、受け渡されたときはどーしよーかなーなどと、処分に困っていたが、
まさか、こんなときに役に立つとは思わなかった。
 ふと気がついたのだが、本部との通信が途絶えていた。
多分、千鶴の八つ当たりによって破壊されたのだろう。 
 しばらくすると、水中からレミィが引き上げられてきた。
 ・・・さらに、魚もプカプカと浮いてきた。
「しばらく、この川の水は使えねーぞ、こりゃ」

「宅配便でーす」
「あ、はいはい、なんでしょう」
 鶴来屋旅館の玄関に出た浩之に、宅配のあんちゃんからポンと荷物が手渡された。
「なんだこりゃ。ええと、なんだ、源五郎のおっさんからか」
 荷物を開くと、中からはジャンガリアンが現れた。
 パタパタとスリッパの音を響かせ、着物姿をしたおかっぱ頭の少女が現れ、
困ったようにジャンガリアンを見た。
「あの・・・ネズミとか持ち込まれると困るんですけど」

 カポーン。
「ふー。いい湯よねー」
 頭にタオルを乗っけた千鶴が湯舟につかりながら、大きく息をついた。
「景色もVery beautifulネ」
 ポニーテールを解いたレミィが、その横で感嘆のため息をもらす。
その胸を見て、千鶴も小さくため息をもらした。
「後はお食事ね」
「ウンウン。納豆にソース混ぜてご飯にかけるの、おいしーヨ」
「そうなの? 私はいつもマヨネーズかけてるけど」
「ウン、それもいいネ。でも、マヨネーズはやっぱり刺し身だヨ!」
「他に、ヒジキの煮物とかにもよく合うのよねー」

「・・・勘弁してくれ」
 隣の女風呂で楽しそうに展開している悪食談議を聞いて、浩之はグッタリと疲れた声を出した。
  
 キャラはこの三人に絞りました。
 タイトル、ほとんど意味無いよーな気がします。
とりあえず、熊の着ぐるみで勘弁してください。
なんせ最初に思いついたのが、川の底にいる『彼』だったので
そのまま決行しました。あとがきなんかは
うちのホームページにでも載せることにします。
 あと、第九話、後半15分で終わってくれないと大変困ったことになりますぜ。


http://www2s.biglobe.ne.jp/~teraoka/default.htm