この歳になるまで僕はクリスマスプレゼントに縁の無い人生を送って来た。 それでもかなりの幼少の頃、親から貰った事ぐらいはある。 けれども、誰かにあげるという事は今まで無かった。 そう、今までは。 僕は今、クリスマスプレゼントを買った。 特にプレゼントをあげるという行為は初めてではないし、特に彼女の物は全てどう いう経緯にしろ僕の懐から賄われたものなのだから、全て僕からのプレゼントと言う 言葉が間違っているとは思わない。 ただ、それだからどうだというものでもない。 単純な事実でしかなくて、それ以上の意味もないし期待もしていない。 十二月が始まると同時にマスメディアを中心にして、クリスマスというイベントを 半強制的に意識させる。 確かにクリスマスという行事がただの記念日や行事という域を越えているものだと いうことは理解できるし、実際にカウントダウンしたい程、待ち遠しい人もいるだろ うとは思う。 けど、十二月も最後の最後に近い25日の話だ。前日のイヴも勘定に入れても24 日の話だ。 二十数日間、延々と待ち続けるほど、騒ぎ続けるほどの代物なのかどうかよく分か らない。 別に四年に一回しか来ないものでもないし、年が変わる訳でもない。学期の始まり として学年が変わるわけでもないし、劇的に何かが起こる事もない。 殆ど意識することもなく、関心を払う事もなく、過ごしている人間も少なくない。 昔は異国文化云々な主義、今は単純に特別視する理由がないだけのことで、そうい う人達はこのクリスマスという日を通過する一日としてしか捉えることがない。 僕もまた、その一人だった。 親という存在が身近にいなくなって、 親友と呼ぶ同胞を作り出す事に失敗して、 世間という大きな流れに乗る事も出来なくて、 僕は世の中にある多くのものを誰かと共有することもなく、一人で楽しむ機会もな かった。 クリスマスというものもその多くのものの一つだった。 別にそれが悲しいとか、寂しいとか、空しいとか感じた事はなかった。 それが好きだとか嫌いだとか、追随を好まないとか我が道を行くだとか何か意識が あった事も一度も無かった。 何か拗ねていたり、醒めていた訳でもない。 ただ単に僕の前を通らずに流れ過ぎて行く。 そんな感覚だ。 そんな訳で、クリスマスを祝うとか楽しむとかそういう気持ちを持つ事はなかった。 従ってクリスマスプレゼントというものに興味を持つ事もなかった。 子供の頃はサンタが全世界の子供たちにプレゼントを渡す為に、トナカイの引くそ りに乗って煙突からやって来るという話が伝えられるらしいが、僕は実はその話を良 く知らなかった。 小学生低学年の頃、同級生達の会話が聞こえた時に「サンタさん」「サンタクロー ス」という人名らしき単語を耳に拾ったのが初めて知ったきっかけだった。 トナカイという生き物を良く知らず、音楽の時間だかに「赤鼻のトナカイ」という 歌を歌わせられてもまだイメージが掴めなかった。 それ位、僕とサンタクロースの関係は希薄だったので、サンタを信じている同級生 達が子供だとかどうとかという感情すら持つ事はなかった。 それはよく判っていなかったからだが、判っていてもあまり気にしなかったような 気がする。 その頃から僕はあまり他人の動静を気にしない人間だったような気がするからだ。 そんな性格だった僕が、ある日を境にそうでもなくなったというか、反転してしま ったのではないかと自分でも思えてしまうほどに変わってしまったのは、彼女のせい だ。 それは間違いはない。 長い間一人暮らしになっていた僕の家に彼女が来る事になったのが去年の事だ。 去年は僕自身、激動の年だった。 まず、僕が変わった年でもある。 それはさっきも言った通り、彼女のせいなのだから話として何なのだが。 そして僕は受験生だった。 熱心どころかかなり受験生としての劣等生だった僕が大学に入れたのも彼女のお陰 である。 小さくは勉強を教わるということから、大きくは僕自身の意識改革の原因だという 彼女自身は関係無い筈の事も含めて彼女のお陰である。 彼女との出会いがなく、それまでの僕が続いているようだったら、きっと大学には 受かっていないし、受かっていても今の大学よりレベルが低いところ、もしくは同レ ベルでも「ただ在籍しているだけ」の今までの高校時代の延長のような生活を続けて いただけだろう。 彼女が僕の家に住み着いて以来、全てが変わったのだから彼女が来たからこその激 動の年と言う事になるのだろう。 それほどの僕の恩人と呼んでも問題無いほどの彼女は、僕に対してに限らず万事に 対して何か具体的に行動する事は全くと言っていい程ない。 だから彼女が僕に何かしたとかいうより、僕が彼女を見て自発的に思った事が全て のきっかけなのだろう。今の僕があるきっかけは。 でも、それで「気づいた僕が偉い」とか思えるほどの人間では僕はない。どういう 形にしろ僕の恩人であり、今の僕があるのは彼女のお陰である。 逆を言えば僕が彼女にしてあげられたこととしては、物を与えるという形でしか報 いていなかった。 それも特に彼女が求めたものでもなんでもない。 僕の一方的なアプローチでしかない。 ――彼女の気持ちは、判らない。 彼女はメイドロボットと呼ばれるロボット――もしくはアンドロイドと呼ぶのが近 いのか。どちらにしろ僕には判らないし、どうでもいい――である。 気持ちがどうとか以前の問題である。 けれども、僕はそう割り切れないものがあった。 数ヶ月間の間、ずっと主人を待ち続けていたという彼女との出会いの印象が鮮烈だ ったこともある。 単純に外見が人間と殆ど相違無い程だということもある。 その二つでもう既に理由としては十分で、納得出来てしまう程の筈なのだが、それ 意外に何か感じるような気がするのだ。 単純な思い込み、買い被り、錯覚、都合のいい勘違い。 その辺に原因が落ち着きそうな気もするが、別に指弾されるようなものでもないし 、誰がする訳でもない。 僕は彼女に対してどう思おうとも、僕の勝手である。 それでも、どこか後ろめたいのは小心だからだろう。 僕の中で彼女――セリオに対してかなりの頑固もので融通が利かない面倒な性格の 持ち主だという認識が出来上がっている。 一つ一つ突き詰めていけば、ただの僕の都合のいい解釈でしかないことは重々承知 しているつもりだが、それでもそう思う。 自分から行動を起こさない彼女が自主的に行動を起こすのは彼女が自分の立場―― 僕の家のメイド的存在――に沿ったものでしかない。 具体例を挙げれば切れ掛かった電球を取り替えるとか、暗くなってきたのでカーテ ンを閉めるとか、予め知識として備わっているものに従ったようなものでしかない。 そして本当に何もすることがない時は、ただ単に立ち尽くしたままという、非常に 見てしまったら目障りというよりも、こっちの方が気になって仕方が無いような存在 になっている。気になるからといって掃除機のように物置の中で待機させるような勇 気は少なくても僕にはない。 後は客観的判断に従った行動は珍しくない。自分の事を考えての行動は皆無だとい うのに。 それで僕はその状況をどうにかしたくて、あらゆる事を試してきた。 何かに興味を持たせようとしたり、彼女独自の判断をさせようとしたりと。 それも僕も相当、暇な時に限るのだが。 正直、かなり疲れる作業なのだ。 それは。 取り敢えず、基本は彼女を論破、もしくは彼女がどういう形にしろ納得させる事が 出来ないと意味が無い。 僕が「あれをやれ」では、普通の命令と変わりが無い。 単純に仕事がひとつ、増えるようなものだ。 そしてそれが相当の難事なのは言うまでもない。 彼女は基本的にも僕以上の知識を持ち合わせえいるし、必要に応じて幾らでも情報 を引き出す事が出来る。 それに対して僕は「思う」だの「気持ち」だの形のはっきりしない位置付けが明確 でない意味が決まっていないような曖昧な言葉だけが頼りなのだ。 今までのやりとりを勝敗として星取表を作れば僕は殆ど黒だらけなのは疑うべくも 無い。それも彼女が「主人である僕を立てる」という譲歩の上での成績なのは言うま でもない。 けれども、そんな努力の甲斐もあって、初めて僕の家に住みだした頃に比べればい くらかは柔らかくなった気がする。 ただそれも「僕がそう言っていたから」という「主人の望む姿」を行っているだけ なのかも知れないが。 そうだとしても進歩したと僕は思っておく。 考えれば、考え出せばキリがない問題なのだ。 そういうこともあって彼女の物を彼女の為に買うという行為は、お礼としての意味 と、彼女の教育という側面と、僕の対外的な体面と自己の満足というオマケを抱えつ つ、必要な事だと思っている。 まぁ、本当のところはそう難しく考えてのことでもないのだが。 実際のところは僕が彼女の為のものを自然に買い、その買うという事に抵抗がなく なり、彼女がただ単に受け取る。 そこに何かドラマを期待する僕がいる。 それだけだ。 完全に僕は道化だけれども、それだけだ。 そして今年、ふと気付けばクリスマスが迫っていた。 前の年もその前の年も、毎年この時期になれば嫌でも気付いていたが。 因みに去年のクリスマスはクリスマスどころではなかった。 かと言って、余裕があってもクリスマスを祝うという気分になれていたかどうかは 判らない。 少なくても、何か物を買おうという行為は特別に働かなかっただろう。 「ありがとうございました」 そう、こんな場所に入る事も考えなかったし、ましてや物を買う事など思いもよら なかった。 化粧品売り場。 この駅前のデパートでたまに買い物をするようになってからかなり経つが、この場 所に行った事は、それどころか婦人専門フロア状態のこの階で降りた事すら皆無だっ た。 それがもう婦人服売り場を中心に今年になって幾度、徘徊したことだろう。 そしてとうとう、このような店で買い物をすることになろうとは。 しかも店員の視線があまり気にならなくなって。 人生とは判らない。 僕の持つ紙袋には香水とマニキュアが入っていた。 元々、香水でもと思ったのだが、次いでに目に付いてしまったマニキュアも購入し てしまった。 その元々の香水でもでさえ、自分の完全な意志とは言えない。 雑誌で目に入ったのが香水だったのだ。 昔から有りがちなプレゼントだと思ったが、代案なんて全く無かったからそのまま 決めて買いに来た訳だから考えてみれば随分な話だ。 おざなりだと言うよりも、単純に思い付かなかっただけである。 この辺は急には変われない。 いつまで経っても昔のままだ。 もっとも昔はそれで全然平気だったのだが。 セリオの爪は指先から少し出ている程度だ。 長ければ本来の仕事の障害にしかならないし、短ければ格好が悪いからだ。 よく考えれば無くても構わない部分ではあるのだが、臍まであるのに爪が無いのは やっぱりおかしいだろう。 臍以外はまだ・・・良く知らない。 元々、セリオの爪はマニキュアなど必要なさそうな程、綺麗な爪をしている。 必要ないんだろう、実際。 害はあっても益はない気がする。 なのに何で買ってしまったのかと聞かれれば、答えるのが難しい。 よく、わからない。 目に付いた勢いそのままに深く考えることなく――いや、そこそこは考えたからこ そ買ったのだ。 ちょっとした悪戯心じみた気分からマニキュアを塗ったセリオの爪を、指先を見て みたくなった。 それに対してセリオはどう反応するだろう。 多分、いやほぼ間違いなく無反応だろう。 それでも今までの数々の企み――色々と彼女に対してやってみたい、試してみたい というのは「いつかきっと・・・」と期待しているのか、それとも「何があっても変 わらないで」と歪んだ気持ちがあるのか。 その両方に近いのかもしれない。 もしこのままセリオがプレゼントを受け取った時に「――嬉しいです。ありがとう ございます」とか言って僕に笑いかけたら、何か全てが終わりそうな気がする。少な くても今までの僕ではいられないだろうし、それは寂しい事になりそうな予感がする。 かと言って、きっとそうであろう反応である、全く無反応のまま受け取るというの も十分に寂しいのだが。 我ながら、歪んでいる考えだ。 一体、僕は彼女に何を望んでいるのだろう。 何を期待しているのだろう。 それとも、僕は彼女を介して僕自身が遊んでいるだけなのか。 擬似恋愛ごっことして。 僕は彼女に気がある。 その事自体は間違いはないけれども、それがどこまでのものなのか判らない。 事実、それで幾度も悩んできたし、考えてきた。 それで判る問題ではないと判っていながらも。 でも・・・今はこう思っている。 可能な限り僕が死ぬまでの将来、セリオと一緒に居続ける事が出来て、僕が自分の 人生に満足できたなら、それで嬉しい。 そして、その時にセリオも満足していてくれたなら、僕にとって最高の人生を歩ん だと言えるだろう。 僕は、それを目指している。 それが正しいとか、正しくないとか以前に、その考えがこのまま続くのかも判らな いし、事情がそうさせてくれない事も十二分に考えられる。 だけども、今、そう思っているし、そう思い続けようと思っている。 そして、その為の努力をしている。 取り敢えずは僕の幸せの人生の為に。 そう、僕は昔の自分では絶対に考えられない、自分の幸せを願うような人間になれ ていた。 本当に何時の間にかだ。 そしてそれを気付かせてくれたのがセリオであり、そしてまたこれからも必要なの がセリオだと確信している。 僕がセリオから卒業する日は来るのだろうか。 僕がセリオ離れする時が来るのだろうか。 ただ、今の僕にはずっと必要に思えるのだ。 僕の大切な相手として、生涯のパートナーとして。 そして「メイドロボット「セリオ」」として。 僕が好きになったのはセリオだから。 紛れも無い、彼女自身なのだから。 …そしてそんな彼女と価値観も共有できたら・・・。 それを望むのが果たして贅沢だろうか。 我侭だろうか。 絶対に有り得ない不可能な話なのだろうか。 僕はきっと、それを目指している。 ・ ・ ・ 「――お帰りなさいませ」 「ただいま、セリオ。今日は・・・ <完> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− あー、そのー、えーと、色々語りたい気分もありますけど(何を今更ですね(笑))、 取り敢えずは、 『LeafSS投稿300回目』 と、相成りました。私個人の中での金字塔を打ち立てたかなと満足していたり、も っと早く行けたのになと思ったり、年内には無理だろうと思ったり、色々ありました が取り敢えずは97年の10月からの二年二ヶ月ばかり・・・何とか書き続けました。 別HN作品とか、他ゲームのSSとか、未公開SSとか入れたり、逆にデンパマン シリーズとかを章単位にまとめ直したりすれば数も変わってくるのですが、取り敢え ず純粋に投稿SS数だけを数え直した結果、これが300ということになりました。 一応の目安というか目標というかそういう類の数でしたので、これでいつ止めても 心残りは少ないかなと思ったりと、適度に安心はしています。 ただ、私が一番感謝している方が今、ここにいないのが残念ですけど・・・。 今の私があるのは間違えなくその方のお陰ですし。 も一つ、色々とお世話になりました当HP管理者まさた様には本当にお世話になり ました。一時期は熱斗嵐の余波で本家即興コーナーから実質締め出された私を手助け してくれたのはまさた様でした。当時から忙しい中を当図書館としての作品ログの残 しに加えての他人の作品投稿の仲介役を買って出て下さった事は、本当に助かりまし た。ありがとうございます。多分、読まれていないでしょうけど(笑)。 それと私の作品に一回でも感想を下さった方。本当にその全ての方のお陰です。 改めて・・・ 「どーも、ありがとうございました」 (しんみりした曲聴きながらだとどーも文章も湿っぽくなるなぁ・・・(汗)) http://www1.kcn.ne.jp/~typezero/kukuno.htm