『道にまよいて 〜どうしようもない僕に降りてきた天使・番外編6〜』 投稿者:久々野 彰
「こっちが本家(笑)。とりあえず、感想でもなんでも宜しくお願いします(笑)」
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 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・どぉぉぉぉぉぉぉん・・・



「わぁ・・・凄い人出・・・」


 今日、年に一度の花火大会が行われている。
 進んでいく花火の技術とは対照的に、最近では何処の街でも花火大会が開かれると
言うわけにもいかなくなっているらしい。

 ここの花火大会も隣町のもので、僕の街や近隣の街からも多くの人が見物に集まっ
ている。
 大会自体がそれなりの規模のもので、それに比例していて人も、出店も多い。


 今までは花火大会があるのは知っていても、何となく気にしただけでいつの間にか
終わってしまっていて、行けば良かったかなとか少し後悔する連続だった。
 かといって行って良かったと思えるようなことがあったかどうかは判らない。
 子供の頃は、ただ花火を見るだけで喜べたし、何か食べられるだけで嬉しかった。
 そんな純粋な気持ちは、持っていない。
 だから花火を見て、淡々と醒めていく自分を自覚するのが何となく嫌だったのかも
知れない。
 何か失っているものを自覚するようで。


 そんな腰が重かった自分だが、今年は案外、あっさりと気軽にこうして出掛ける事
が出来た。
 今年は、一人きりではないのが大きな理由のひとつだ。



「凄いね・・・」
「――はい」



 お揃いの浴衣は、雑誌の懸賞に当たったものだ。
 いつもはあまり懸賞など「当たるはずもない」で出しもしなかったのだが、他の「
夏グッズ」に混じって景品になっていたその浴衣が、セリオに似合いそうで、そう思
ったら応募していた。
 変な行動力だとは思うが、多分、外れていたら外れてたでやっぱり買った気がする
。そう考えれば、当たった分、安く付いた。自分で買う物よりいいものだし。



「でも、ちょっと・・・人が多いかな・・・」



 昔のゆっくりと上を見ながら歩けたイメージと違い、今は何処を向いても人がいる
ちょっと芋洗いと表現される、海水浴客のような人の多さに困惑する。
 手にしていた団扇も、人混みに引っかかって壊してしまった。こちらは駅前で配っ
ていた、広告入りの貰いものだから左程気にはならなかったが。
 雑踏のざわめきの中を揉みくしゃにされそうな危険をはらみつつ歩くというのは、
あまり風情のあるものではない。
 期待していたものと、何か違うような気がする。
 それとも、子供の頃は背丈が違い、視線が違ったから気付かないだけで、何も変わ
らないのか、どっちかは僕には判らなかった。
 何にしろ、お祭り色の方が、色濃く出ていた。



「どこか、もうちょっと人気の少ないところ・・・ないかな?」
「――検索してみますか?」
「・・・・・・うん」


 ちょっと迷って、頷いてみた。



・
・
・



「へぇ・・・」



 こんな都会でも星が綺麗に見えることがある。
 それが、今日のようだった。



 山の中腹付近だと知り、躊躇したが来て良かったと思う。
 あれから先導するように前に出たナビゲーション機能を発揮しているセリオは、衛
星から送られてくる地図を元にしていたのか、ここに来るまで足取りに迷いがなかっ
た。



 …そう言えば、セリオはこういう機能もついているんだよな・・・



 妙なところで感心してしまう。
 少し斜面になっていることを覗けば、人もいないし、人の喧騒も遠く聞こえるか聞
こえないかぐらいで、気にならない。
 そして、遮る物は意外と殆どない。


 そして、花火の音。
 花火の光。


 さっきとは格段に近くて、ちょっと顔の角度を上げるだけで、花火の上がるに、華
を咲かせる音、星のように流れていく残光に、風下にたなびく煙・・・その全てを見
ることが出来た。
 誰にも邪魔されることなく。


 気分が、良かった。



「・・・こういうの、いーな・・・」
「――・・・」


 子供の頃は、花火が上がる度わいわいきゃいきゃいとはしゃぎ、飲み食いが中心に
なりながら、イベントとして楽しんでいたが、
 今はこうして純粋に楽しめるものだと、確かめることが出来た。


「座ろうか?」
「――はい」


 ゆっくりと草花が敷き詰められている斜面に腰を降ろす。
 地肌が露出している部分はないが、地面の冷たさはお尻に伝わってきた。
 だが、気にならない。


「・・・・・・」
「――・・・」


 …たーまやー。


 そう、心の中だけで言ってみる。
 ちょっと口に出すにはこの雰囲気では恥ずかしい。


 純粋に見つめる花火は、とても美しくて、綺麗だった。

 花火が上がる度、その光が僕たちまで照らしてくれる。
 距離がさっきより断然近いせいだ。


 その照らされたセリオは、花火を見つめているセリオは、



 …・・・やっぱり、綺麗だな。



 そう思わずにいられなかった。



 お尻が冷たく痺れそうになるので、少し腰を浮かせて、移動する。
 その際、手で支えて少しだけ横に動かすと、セリオの手の感触があった。


「あ・・・」
「――・・・」
「・・・」
「――・・・」


 花火の音がした。



 僕は何も言わず、その花火を見た。
 手は、そのままで。



 疑似恋愛とは、思いたくなかった。
 ただ、こうしていた。


 こんな気持ちだけは、持ち続けたいとは思いながら。


・
・
・


 最後の連続した花火が終わり、音の余韻と漂ってくる煙が、それぞれ耳と鼻を通じ
て、この時間の終わりを告げてきた。
 僕は勢いよく立ち上がり、地面の冷たさで冷えて痺れ気味のお尻を、汚れをはたく
ようにして、強く叩く。
 セリオの手を引いて起きあがらせようかと思ったが、そうする前にセリオも立ち上
がった。



「さて・・・終わったみたいだな」
「――はい」
「じゃあ、帰るとしますか」
「――はい」
「それで道だけど・・・」
「――今、検索します」



 暫く経ち、



「――申し訳ありません。衛星とのアクセスにエラーが発生しました」
「へ?」


 そう言ってきた。


 どうも衛星が故障したのか、届かない場所に衛星が移動したのか、良くは解らない
が繋がらないらしい。
 夏場に衛星放送が月食で映らなかったりするのを思い出したが、似たような物なの
だろうか。


「まぁ、いいって・・・そーゆー時もあるさ」


 ちょっとばかり興奮した余韻が残っていたのだろう。
 いつになく機嫌良く僕は笑ってから、


「・・・来た道を戻ればいーんだし、大体大丈夫だろうさ、ね?」
「――はい・・・」
「じゃ、行こう。かなり暗いから気を付けてね」
「――はい」


 そう言って歩き出した。
 何となく、リードしている自分が気分が良かった。



・
・
・


 その優越感に似た感情が保ったのは一時間弱だった。


「・・・・・・」
「――・・・」
「・・・迷った・・・かな・・・?」
「――・・・はい」


 認めたくなかったが、口に出したくなかったが、どうもそうらしい。
 少なくても、山から出ていない。
 下っていけば何処でも降りられると思うのは素人の一番陥りやすいミスだと、今更
思い出していた。


「・・・御免ね」
「――いえ。そんなことは・・・」
「ははは・・・」


 やけくそ気味に笑ってみた。
 柄にもない真似をするもんではない。
 こういう事は、昔からよくある。
 ただ、女の子を前に良い格好をしようとした経験だけは、幸いというか残念ながら
というか、今まではなかったのだが。



「ま、遭難するような場所でもないし、子供でもないから・・・何とかなるでしょ。
ちょっと休もう」
「――はい」


 強引な理由らしき言い分に逆らうこともなく、セリオは頷いてくる。
 素直に従われる方が、かえって恥ずかしいのだが、どうすることもできない。
 適当に腰を落ち着けられる場所を目で探すことに集中することで、羞恥心を追いや
ることにする。


 星の位置から方角を割り出したりもしたが、北南が判っただけでどうにかなるよう
な事はなかった。
 星を見る分には感じなかった草木などの存在が、降りるには行く手を阻む遮害物に
なっていた。


 パキッ


「――あっ・・・」
「っ!?」


 軽い枯れ枝が折れるような音と共にセリオの声が漏れ、バランスを崩したセリオの
身体がこっちにやってきた。
 自然、抱き留める格好になる。


「――申し訳ありません」
「あ、いや・・・」


 何か夜気に晒されていたせいか、浴衣もその中から感じるセリオの体温も冷たくな
っていた。


「・・・」
「――・・・」
「・・・・・・」


 僕は、僕の体温を浴衣越しに押しつけるように少し、セリオを抱きしめていた。
 虫の音が、やけに聞こえてくるような錯覚がする。


 …このまま、押し倒せたら・・・



 そうも思ってみた。



 抵抗はしないだろう。
 そして、セリオは・・・今後も何も変わらないだろう。



 そう思うと、ゆっくりと身体を離した。



「御免御免・・・そろそろ、行こうか」
「――はい」



 セリオもバランスを崩すことを初めて知った。
 だが、休もうと言っていた事もすっかり忘れていた。
 それだけ、僕も動揺していたと言うことか。


・
・
・


「ふわぁ・・・」



 読みかけの本を閉じ、ごろりと横になる。



 あの後、あれから結局、三十分は歩いただろうか。
 案外、入っていったところのすぐ近くから出ることが出来て、家に帰る分には苦労
しなかった。
 別に何もなかったけれども、洗濯されて干された二着の浴衣をここから見ると、今
でも、少しどきどきする。
 何も、なかったけれど。



 ただ、少しばかり足が痛かったが。



「――・・・」



 外で他の洗濯物を干しているセリオと目が合った――気がした。
 多分、合ったのだろう。
 動きを止めないし、視線が固定されなかったから判らなかったけれど。



 こうして眺めているだけで、僕はいつまで満足することが出来るんだろう。
 そして、こういう状態がいつまで続くのだろう。


 僕が大人になるまでか、それからもずっとなのか。



 まぁ、誰にも・・・僕にも判らないことだけれども。



 そして、判らないことはまだある。



「自分が来た道・・・判らなかったのかな?」



 闇夜でただ、ついていっただけの僕には、判るはずもなかったが・・・。




                            <完>

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「予定ではもう少し深く突っ込んだ話になる予定でしたが・・・。今までで一番短い
話になってしまいました」