『Favorite 〜どうしようもない僕に降りてきた天使・番外編5〜 投稿者:久々野 彰
「葉書、暑中見舞いより残暑見舞いになりそうです・・・出せたらの話ですけど」
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 目の前に下着姿の無防備な女の子がいる。




 無論、女の子であるからしてくたびれた三段腹な母親とかそんなオチはない。
 健全な青少年には目の毒な妙齢の女の子だ。


 そして、その女の子は姉とか妹とかではない。
 更に言うと、恋人でもない。


 そんな女の子が僕の目の前にいる。




 ・・・無論、僕が覗きとかしている訳ではない。




 そんな時、僕はどうしたらいいのだろうか。


 これを誘いと解釈し、お誘いに乗る、もしくは毅然として撥ねつけるのが正しいの
だろうか。
 顔を赤らめて、逃げ去るのがいいのだろうか。


 人生において、このような事態に直面することはそうそうない訳だからして、一瞬
だけ、そんな事を考えてみたりもする。
 だが、落ち着いて考えてみれば、僕がすることはひとつしかない。



「その・・・なんだ・・・着替えは自分の部屋でしてね・・・」
「――申し訳ありません」




 僕は・・・困った顔を作ってみせる。
 それしか、今は出来なかった。





『Favorite 〜どうしようもない僕に降りてきた天使・番外編5〜』





「あー、びっくりした・・・」



 弁明させて貰えば、こんな事態に直面したのは僕が別に命令した訳でも、それとな
く誘いをかけた訳ではない。
 帰って来た僕を出迎えてくれたセリオの服に、微かに汚れが付いているのを見て、


「あ、ここちょっと汚れてる・・・」


 そう言っただけだ。


 大学に行く僕に代わって、僕の家の仕事をこなしていてくれているのだから、ある
程度汚れるのは当たり前だし、別に今日に限ったことではない。
 ただ、その汚れがはたけば落ちる程度の埃みたいだったのと、その箇所がセリオの
袖の肘の部分付近と、恐らく彼女の死角になっているのではないかと思ったからであ
る。そうでなければ、その程度の汚れなら僕に言われるまでもなく自分ではたいてい
るからだ。
 無論、それで綺麗になるわけではないが、はたいて落ちる程度の汚れを気付かない
でいるようなので教えた。
 それだけのつもりで他に意図はなかったのだ。



 …ええぃ、何を言い訳している・・・。



 つまり、
 まぁ、



「だからって、いきなり脱ぎだすこともないだろーに・・・」



 予想外の展開になった訳だ。
 何せ、目に入ったのでその上記の理由の元、何の気なしにそう声を掛けていたので
、その言葉にセリオがどう反応するかなんて考えもしなかったし、軽くはたいて終わ
るとばかり思っていた。


 だから僕はそのまま靴を脱ぎ、自分の部屋に行って鞄などの荷物を置きに行く。
 それだけのいつもの当たり前で平凡な行動をしていたので、セリオなど、見もしな
かったのだ。



 …特に見る必要もなかったし。



 だから、冷蔵庫から何か飲み物でも飲もうと、居間に戻った時、下着姿のセリオに
遭遇するなど、考えも付かなかったと言うわけだ。


 セリオの裸は見た覚えがない。
 それについては色々言いたいことも、単純に言いきれるものでもないが、詰まると
ころ、恥ずかしいのだ。
 僕の方が。



 見ようと思えば見られるし、多分、見せてもくれるだろう。



 だけど、理屈も多々、捏ねようと思えば捏ねられるがやっぱり、その・・・なんだ
、まぁ・・・つまるところ「こっぱずかしーじゃん。やっぱり」なのだ。

 しかも相手が照れもせずに、僕を見つめている・・・そんな光景を考えると、何だ
か男というか、人というか、何だか尊厳やらなんやらが、立たない気がした。
 毅然としている相手に不純な思いを抱く事の、恥ずかしさと言えば適切だろうか。

 早い話、セリオ達、メイドロボットが「女性」を模している以上、セリオの裸は「
女の裸」としての認識が僕の頭の中にある。
 多分、それは僕だけに限ったことでは無いとも思う。逆に素直に割り切れるのは一
部ではないだろうか。


 そういう僕の照れもあり、裸でなくても下着姿ともなると、相当照れくさいのであ
る。
 肝心のセリオの方は、どう考えているのか判らないが、少なくとも彼女は理解はし
てくれないだろう。この今の僕の気持ちは。
 無論、説明できる類の物ではない。


 別に変な下着を着せている訳ではない。
 お買い得セールで買った普通の女性用のブラジャーとお揃いのショーツである。


 だが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


 恐らく特に意識しての行動ではないだろうが、脱いだ服を胸に抱えることで自分の
身体を隠すような格好で自分の替えの服がある箪笥のある部屋へと歩いていくセリオ
を見ながら、僕は今更ながら、同居生活と言うものが随分と気を使うものだと思い知
らされていた。



 …慣れないものだな、意外と・・・。



 慣れてしまうことが良いことなのかどうかは判らないが、大学生にもなっていつま
でもこうしているのも子供染みているようで、恥ずかしい気もする。



 毅然とした存在が身近にいるだけに。



・
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 …うわぁ・・・暑い・・・。


 その日は午前中で講義を終え、大学を出ると外の天気はもう夏と言っても差し支え
ないような空模様になっていた。
 それを証明するように、背広を着ている筈の人は殆ど、その上着を脱いで片手に持
って歩いていた。
 ワイシャツの白さが、殊更に目立った。


 本格的に暑くなってくる季節を前に、自分の服のついでながら、セリオの服を買う
ことにした。
 大学からの方が近い、プティックと言うには随分と親しみやすい洋服店に入り、品
物を物色する。
 最近、見つけた店だ。



 白のキャミソールとその上に着る同色のストレッチシャツ、ついでにライトグレー
の薄手のズボン――ソフトストレートパンツとか言うらしい――を買ってきた。
 漠然とだが、こないだ買ったサンダルと似合う気がした。


 先日はひらひらのブリーツスカートに萌葱色と言うより若葉色のキャミソール、そ
の前はキャミの下に着る用のTシャツだったりと、この程度の買い物なら、今では出
来るようになってきた。
 それどころか、自分が慣れてきたのが嬉しくて、ついつい買い過ぎてしまうという
失態までやらかしていた。
 ただ、下着を買うことはまだ無理だったが。



 …等身大の着せ替え人形・・・。



 何だかそう考えると、自分が「大きなお子様」になってしまったような気がして、
一人ドギマギする。
 そして改めて、変な他意はないと言い聞かせる羽目になる。
 マンガで言うところの、柱か壁に自分で幾度も激しく頭をガンガンと叩き付けるよ
うな感じだ。
 だが、どこか完全に否定しきれない自分も少し、自覚していた。
 それが、なかなか自分では動いてくれないセリオのせいだとしても。


 …まぁ、誰が見てるって訳でもないんだし・・・自意識過剰だな。



 これもまた、いつもの、ことだ。


 慣れなのか、立ち直りも段々早くなってきている。
 開き直れるようになってきただけかも知れない。
 昔は受験生という時期だったこともあってか、今考えれば馬鹿馬鹿しい様なことで
さえ、一晩眠れずに悩み通したこともある。



 因みに自分の事でそんなに悩んだことは、まだ一度もない。



 …なんだかなぁ・・・。


 自分が救いようもない人間のような気がしてきて、慌てて考えるのを止める。
 代わりに、最近気付いたことを考え出すことにする。
 僕自身のそういう心の葛藤とは別のところで、別の問題――異変がセリオに起きて
いた。セリオ自身に変化が見られるようになってきた。



 どうも、服装が完全ローテーションでなくなってきたのだ。



 無論、その日の行動予定によって着る服が替わってくるのは当然としても、基本は
最初の頃にセリオ自身に買って貰った服のローテーションだったのだが、次第に服が
増えていくにつれ、そうでなくなってきたようだった。
 気付いたのは、今よりもっと前のことだ。




 その日は珍しく早起きなどして、セリオが慌ただしく朝食の支度をしているのを余
所に、のんびりと顔を洗ってから居間に行った時だ。


「ふわぁ・・・」
「――おはようございます」
「うん、おはよ・・・・・・あれ?」
「――どうかなさいましたか?」
「あ、いや・・・うん。なんでもない」


 台所で支度をしているセリオのエプロンの下の服の色合いのバランスが何となく気
になった。
 その服をつい最近も、着ていたような気がした。


 そう言えばと考えてみると、よく見る服だし、その服に限っては来ている時間も長
い気がする。
 下着や、肌着は別として毎日服を洗っていては生地が傷む訳だから、毎日着替える
ことはないと思うのだが、セリオにそういう融通は効かないのか、外に出ない日でも
二日と同じ服は着ない。
 余談だが、昔、僕は毎日学校に行くということもあって取り敢えず、まだ洗わない
ものはハンガーに掛けておいて、数日おいてからまた着るといったことをして誤魔化
していたので、セリオも似たようなことをしているのかも知れない。
 だから一回一回、その服を洗っているのかどうかは既に僕の判ることではなくなっ
ていたので判らないが、少なくても昔の限られた数の頃から、かなり同じ服を着てい
る間隔は空いていたのを憶えている。
 だから同じ服を見ることがあっても、「これ、他の服より着ている回数が多い」な
どという認識は今まで持っていなかったし、多分そういう事もなかったはずだ。



 …休日とか、一緒にいる時が多い日が重なったとか・・・



「――朝食の用意が出来ましたが・・・」
「ああ、御免御免」


 ぼんやりと台所の隅で突っ立ったままだった自分に気付いて、セリオに注意される
まま居間へと移動する。
 テーブルの上に朝食を並べていくセリオの姿を、チラチラと観察する。しっかりと
見てしまうと何か聞かれそうな気がして、そうさせていた。


 改めて、観察する。


 白のブラウスにスカートとお揃いの薄水色のベストを着て、服装からも春らしい雰
囲気を感じさせた。


 その服は二番目に僕が買ってきた服だからよく憶えている。初めての時より、落ち
着いて選べた記憶が残っているからだ。
 その頃から既にある程度、着替えに困らないぐらいの服装は用意したあったつもり
だが、ローテーションにしては、その服装を見ることが比較的他の服に比べて多い気
がした。
 勿論、それは趣向での意味合いではあるまい。機能性とか耐久性とか何か理由があ
っての割合の多さなのだろう。



 それでも、僕の中ではそれが彼女のお気に入りなのだと勘ぐって考えている。



 そう考えた方が、何か気分がいいから。
 そして、そんな事に気付く自分も、何処か気分がいいことを感じていた。
 そんな彼女こそ、僕にとっては・・・



 …お気に入り・・・か。



 そう考えると、クスクスと笑いたくなった。


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 そんな事を思いだしていると、着替えてきたのか、セリオが戻ってくる。


「――失礼しました」
「あ、ああ・・・あれ?」
「――どうか、致しましたか?」
「いや・・・」


 僕は、セリオの格好を見てクスリと笑った。
 その服も、他の服よりも比較的、よく見る服装だったから。



                            <完>

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「3ヶ月ぶりの『どう天』です。一ヶ月くらい前から殆ど書き終えていたのですが遅
れました。今後も完全に不定期な読み切り連載という形になりそうです。お見捨てな
くば、幸いです」

>ココロのない系のセリオSS
 ・・・って訳でもないのですが。心はあるけど、ありがちなベタベタな感じじゃな
いだけで。個人的にはこれが私的解釈のオフィシャルセリオです(笑)。