『はじめてのふれあい』 投稿者: 久々野 彰
「綾香SSで、相手は浩之ではなくて、PCメインですがPS対応でもあります」
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 無理矢理、買い物に付き合わせる。
 自分一人だと、目安が意外とわからない。


「ほらぁ・・・たまにはシャンとしなさいよ・・・」
「してるって・・・」
「だったら、その欲も何も捨てて全てを達観したよーな顔、何とかならないの?」
「はは・・・」
「笑うところじゃないわよ・・・もぅ・・・」


 めぼしい買い物を終え、そのまま街中をブラつく。
 提案を受け入れ、近くの店で昼食を食べることにした。


「良い店、知ってるの?」
「この辺は綾香の方が詳しいんじゃないの?」
「そう言われても・・・ヤックとかで済ませちゃうから・・・」


 何となく、脳裏に浮かんだラーメン屋は言いそびれた。


 …別に、他の皆だって知ってる店なのにね。


 心の中で、苦笑する。



「ん――・・・じゃあ、適当にブラついて決める?」
「そうね、それがいいわ」


 そんなことを言いながら、少しばかりアーケードを二人並んで歩いていく。
 休日だから、そこそこの人出だ。
 親子連れやカップルもいないでもない。


 …カップル・・・か・・・。


 チラリと横を盗み見る。
 実を言うと、さっきも見たのだが。


 …こういうのんきさも・・・ホッとできていーわよね・・・。


 下を向いて、足下を見ながら歩く。
 普段、あれこれとハキハキとして頼られる自分でいないといけない時が多いだけに
、こうして気を抜いていられることに安堵感を憶える。

 気安い関係になれる人間は他にもいる。
 飾らないで済ませられる相手も見つけたこともある。


 けれど、両手両脚を広げて寝転がれるような気分が味わえるのは・・・今のところ
はこの男と一緒の時だけだ。


「ねぇ・・・」
「――ん?」

 呼び掛けてみると、あらぬ方を見ているのに気づいた。

「・・・何処見てるの?」
「いや・・・別に・・・」
「まぁ、いーわ」

 今に始まったことではない。
 諦めのため息を付く。


 そして、思いつきをぶつけてみる。


「私たち、どう見られてるかな?」
「どうって・・・第三者に?」
「ええ」

 そう言って、わざとらしく腕を取って組んでみる。
 まるで「恋人」。


 以前、同じ質問をぶつけてみた男がいる。
 その時は、四の五のと言葉を濁して逃げられた。


 …結構、気になってたのになー。


 強気の自分を演じているだけに、結局のところは笑うしかなかったのだが。
 こっちの気持ちに気づいていたから、逃げられたのだと今では思っている。
 なかなか「恋人」にはなれないようだ。


「どうでも・・・いいんじゃない?」
「あっ、そう・・・」


 そうあっさり言われるとこれはこれで悔しい。


 その惚けた顔が、憎たらしい。


 この顔が、そう変化を見せることはない。
 笑った顔は、多種多様なくせに、他の表情はあまり見せない。



 怒った顔や泣いた顔を見ることが出来たら・・・少しは近付けるのだろうか。



 言葉を操る人。
 言葉の空虚さを自覚している人。



 最近・・・どうも意識し始めた。






 『はじめてのふれあい』



 キチンと遊びに行くと連絡を入れてから来ているのに、キチンと出迎えてくれた事
は数えるほどしかない。
 部屋が片づいてないで汚いとか言う訳でもないし、迷惑がられている訳でもないよ
うなのだが・・・こういうのは「飾らない」というのとは断じて違うと思う。


「何してるの?」
「ん――、ちょっとね・・・」

 部屋に入ると、今の今まで続けていたのだろう、テーブルの上に乱雑に置かれたレ
ポート用紙やら、資料のコピーやら、本やらを整理していた。
 チラリとだけ目をやると、太田だの窪田だの見馴れない名前と共に、島崎藤村だの
正岡子規だの、高浜虚子だのと見馴れた名前を見つける。
 どうやら、俳人歌人関連のものらしく、資料のコピーには短歌が書いてあったりす
る。正直、あまり興味のある分野ではない。


「レポート?」
「まぁ、そんなとこ」


 クリップでA4サイズの紙をまとめながら顔を上げてこっちを見る。
 ちょっと楽しそうだ。


 …あ・・・。


 いつもの寝ぼけたような惚けたような顔と、少しだけ違う顔。
 たまにしか見ないような顔をしていた。
 大概、私といるときは私を見ている顔か、何も見ていない顔しかしないのに・・・
昔に思いを馳せている時ともちょっと違う、私の見えないものを見ているような、そ
んな顔だ。



「大学生もたまには勉強するんだ」
「ええ、たまには・・・ね」


 内心の動揺を隠し意地悪い笑いを浮かべてみせるが、あっさりとかわされる。


「色々調べたりしなくちゃいけないんでしょ。まぁ、そういう処は大変ねー」
「でも、楽しいからね」
「・・・楽しい?」


 控え目に言っているが、その表面の言葉以上の物を感じた。
 さっきの顔の正体は意外につまらないものに向けてだったようだ。
 私にとっては。


「うーん・・・」


 私のその思いが顔に出たのだろうか、ちょっと考えて見せてから更に付け足す。


「こーゆーの、好きなんだ」
「どういうところ?」
「そう言われると・・・うーん。そうだなぁ・・・気取った言葉、飾った言葉、格好
をつけようと考え出された言葉、見栄、自己顕示、そんな他愛もないことから、一転
して恨み無念を込めたり、泣き言を昇華させようとしていたり・・・まぁ、形はとも
あれ・・・皆、言葉の、記録だろ」

 手際よく本やレポート用紙をしまったり、隅に積んだりして片付けながら、説明し
ていく。
 ただ、説明の方は上手くまとめきれていない。


 …意味がどうとか、理由がどうとか以前に・・・ってことなのかしら。


 何か、癪に障った。

 その言葉を話しているのがまるで別人のように感じた。
 口調も、態度も変わらないのに。
 自分の範囲外にいるような錯覚をしていた。



 遠く、感じた。



「・・・まぁ、そういうのを見るのが、好きなんだ」


 向こうも説明しきれてないことに気づいているらしく、適当にまとめたようにそう
言った締めくくった。


 ・・・こういうこともあるのだ。

 ちょっと驚いた。
 いつも煙に巻くように言う癖に。
 惚けきる癖に。



「・・・よくわかんないわ」

 自然と憮然とした口調になった。
 何か、面白くない。
 いつもと違う人間がそこにいるようで。


 違う顔をしていて、違う言葉を吐いているのは・・・。
 私が・・・そこにいないからだろか。
 私に見せない顔の理由は・・・。


「だろうね。自分だって、わかってる訳じゃない。だから・・・「楽しい」としか言
いようがないのかも知れない・・・あ、御免・・・今、お茶でも煎れるよ・・・」


 苦笑しながら、お茶の用意をしようとする――



 はなれようとしている。



 ――その手を捕まえる。


 無意識ではなく無自覚に。


「――ん?」
「・・・・・・・・・」


 顔があげられない。
 爪先だけを、見つめる。


 どう言いたいのかわからない。
 何を言いたいのかわからない。


 ただ、今、言わないと距離が広がる気がした。
 心に沸いた感情が広がってくると直感した。


「あ・・・あのさ・・・」


 言葉が浮かぶ。
 だが、意味があるような無いような言葉だと思う。
 言っていいのか、どうかさえ疑わしいぐらいの胡散臭い言葉だ。
 それこそ、向こうの専売特許だ。


 いつ頃からこうした関係が続いてきたのだろう。
 どうしてこういう関係が続いてきたのだろう。
 初めて接触してきたのは、向こう。


 気まぐれ――だと言っていた。


 二度三度と会う機会を作ったのは、こっち。


 物好き――だと自分では思っていた。


 特に私は、ここに、この人に会うことを好んだ。
 ストレス発散に身体を動かす時のように、心のモヤモヤをうち消してくれることに
気づいて以来。


 否――それは、初めて会った時から感じていた。


 ただ話を聞いてくれるだけで、ただ当たり障りのない抽象的な言葉を聞かせてくれ
るだけで、何もしてこないのに。求めていないのに。


 否――だからこそ、安らいだのだろう。



 そして、更に今、私はそれ以上のものを求めている。
 安らぎの本当の理由を求めている。
 だから、今、こうして押し寄せる不安が途轍もなく怖く感じる。
 理由が判らない。
 でも、じっとしていられない。黙り込んでいられない。


 だから、手を掴んでいた。
 引き留めていた。


 知りたい。
 聞きたい。


 全てを曝け出すのが怖くないのは少し、おかしくなっているからだと疑う。



 …おかしくなっていてもいい。



 途切れた、切れ切れの、この想いをそのまま引き取ってくれるのは・・・




「私・・・貴方が何を見ているのか・・・正直、わからないわ・・・・」



 顔を上げて黙って、顔を見つめる。
 向こうも、こっちを見ている。




 ――数分に感じる数秒後




「・・・そうかな?」
「・・・うん」


 軽く首を傾げるようにして、そう言ってくる。
 不思議そうな顔をしている。
 少しだけ、さっきより癪に障る。
 ただ、たまにしか見せないが見たことのある顔だったが。


「・・・・・・」
「・・・見ていても、気づいていないこともあることだって・・・あるんだけどね」
「え?」
「例えば・・・今・・・君が思っている程、俺は・・・じゃないよ」


 何と言ったか、そこだけ聞こえなかった。
 わざと言わなかったんじゃないかと疑うほど、そこだけ聞き取れなかった。


「綾香・・・・・」
「え?・・・あ・・・」


 さっきの言葉を考えてみていたので、呼び掛けられて初めて自分がじっと見つめら
れている事に気づく。


「あ・・・」


 自分を捉えている瞳を見る。



 不意に、

 怖く・・・なる。


 理由は自分でも判らない。
 唐突に、怖くなった。


「え・・・」

「綾香・・・」

「あ・・・あ・・・」

「・・・・・」

「あ・・・何か・・・その・・・」

 本能的に後ずさりしてしまう。
 怖さを感じた。


 ――恐怖。


 これからどうなるのかわかっているような、わからないような、少なくてもそれを
知ることを恐れている。
 無論、理由はわからない。


「その・・・ちょ・・・ちょっと待って・・・」
「・・・待たない」
「え!?」



 綾香の足が止まる。
 広い部屋ではないから、すぐに壁に背中が着いてしまう。


「あ・・・そ・・・その・・・ち、近づかないで・・・くれる?」
「なんでかな?」
「そ、その・・・」

 言葉に詰まる。
 どうこの感じを表現したらいいのか判らない。
 自分では、理解できていない。


 そこで、彼が笑った。
 クスリと、いつもの笑みに近い。


「今、君が感じているもの・・・今までは感じたこと、ないんだろ?」
「え・・・・・・ええ」


 そう答える。
 ここでいつもの講釈に近いものが出ると思った。
 笑いながら離れて、何か言ってくると思った。


 が、ゆっくりと壁に片手を付くようにして、私の前に立つ。


 追いつめられた。


「あ・・・だ・・・駄目・・・」
「どうして?」
「え・・・そ、その・・・」
「今更・・・じゃない?」
「で、でも・・・その・・・」


 今まで、色々な場面でこんな風に迫られたケースはある。
 それが気にくわない相手なら平然と叩きのめしてきたし、ナンパぐらいだったらの
らりくらりとかわしてきた。
 冗談なら、笑って済ませられた。


 でも、言葉が出てこない。
 身体が動かない。
 ただ、無性に見えない何か、心の奥底にある何かが怖さを訴えていた。



 自分が変わっていく怖さ。
 今までのものが壊れていく怖さ。
 そして、新たに手に入れたものを失うことの怖さ。



 …そう・・・そんな、怖さ・・・。



 恐怖の原因が、朧気ながら見えてきた。



「俺なら、ここにいるんだけどね・・・」
「え・・・?」


 ポツリと呟かれた言葉は聞き逃した。
 いや、耳には入っていたのだが、意味まで理解する余裕はなかった。


「君は俺が何を見ているのか判らないと言ったけど・・・」


 そこで、ちょっと困ったような顔をした。
 いや、ずっとそう言う顔をしていたのに、今頃になって気づいた。


「大分前から・・・君だけを、見てきたんだけどな・・・」


 すっ、と、壁に付いていた手が離れる。
 追いつめられていた状態から解放された。
 同時に、心も。


 …そんな、気がした。



「じゃあ、ずっと・・・側にいて・・・いい?」



 向こうが頷くのを見る前に、目を閉じて待った。




 そして当然のように・・・




 唇が、重ねられた。



                          <完>


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「強いて言えば、プロポーズ編・・・?。ギリギリ間に合ったって感じです。浩之と
綾香の話も書いたし、男の方の外伝SSもあるのですが、多分、今のままならそれら
は出さないことになりそうです。ちょっと状況説明っぽくなってしまって。ただ、近
いうちにもう一本、恐らく18禁な綾香SSを出します。
 今、かなり頭がお馬鹿さんなんで、とんでもないモノに変貌しているかも知れませ
んが・・・如何でしょうか?。良ければ御意見下さいな」

http://www.asahi-net.or.jp/~iz7m-ymd/leaf/masata.htm