「名前すらマトモに明記してないキャラもいますが、全員登場しています」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 夕方の公衆電話に、留守電のメッセージを入れる。 大したことではない。 一言。 二言。 三言・・・。 ちょっと予定より間延びして、ちょっと予定より無駄な事を吹き込んで、受話器を 戻す。 誰が見ている訳でもないが、何処か、照れくさい。 ピピー、ピピー、ピピー 同時に、 電子音と共に、テレフォンカードが勢いよく飛び出してくる。 それを財布にしまい、財布も上着の内ポケットへとしまい込む。 ――いつもより、丁寧な仕草。 そうしてからドアを開け、中途半端に閉じこめられていた空気が、外の空気に同化 する。 「やけに寒いと思ったら・・・雪・・・か・・・」 電話ボックスを出て、その青年は手をかざすようにして空を見上げた。 降り出したばかりで積もることのない雪を浴びながら、ただ濡れただけのアスファ ルトの道を歩きだす。 その青年は雪があまり好きではないようだった。 ただ、取り分けて嫌いという訳でもなく、 雪。 それ以上のこともそれ以下のことも感じていなかった。 ・ ・ ・ 駅前の大手デパートに出来る人の波。 当たり前のようで、当たり前でない日常。 大きな荷物を抱える人。 両手一杯に紙袋を持っている人。 水色のはっぴを着た店員。 ベンチに腰掛け、荷物番をしている父親。 そして、この空間を圧倒的多数で支配する女性。 「浩之ちゃん、じゃあ荷物お願いね」 「ああ・・・」 赤い髪をした幼なじみを筆頭に青、黄色、緑、茶、黒の原色から、藤色に至るまで 選り取りみどりの色彩が彼を置いて、人の森を探検隊となってかき分けていた。 「あかりちゃん、元気だね」 「ああ、そうだな」 買い出しに向かった女性陣を見送る男が二人。 変わらない二人。 気の置けない関係が続く。 「家の方だけど・・・志保、大丈夫かな?」 「まぁ、先輩がついてるんだから・・・」 「・・・」 「・・・」 「不安だね」 「ああ、そうだな。だからあかりもいつになく焦ってるんだろ」 「そうなんだ」 「・・・ああ」 ・・・いつまでも、いつまでも。 ・ ・ ・ かなり薄暗くなった道を急ぐ。 予定よりもそれほど遅れているわけでもなく、十分に間に合う時間帯だったが、せ っかちな気性と、初めての場所に早めに着いておきたいとの意識から、歩くスペース はのんびりとはほど遠いものだった。 「プレ○ステーション、如何ですかぁ〜」 人通りの多い商店街。 今年、最後の大売り出しとばかりに周辺が賑やかしい。 リアカーにプレ○テの箱を山積みにして、ハンドスピーカーで道行く人に売り込ん でいるマルチのコスプレをした女の子が頑張っている。 髪はカツラだろうか、蛍光色がかった緑色が綺麗に髪としての形状を保っている。 下手に乗せただけだと、高○ブーの「雷様」になってしまう。 そして両耳にはトレードマークとしての耳カバーが取り付けられていた。 市販の物ではないらしく、プラスチック製のその耳は自然に映る。 モップは流石にないようだった。 そして性格まで類似した女の子を用意したのか、何処かとろくて鈍そうな雰囲気を 漂わせているその女の子は、精一杯、声を張り上げて訴えかけていたが、道行く人は そんな彼女に軽く目を向けるぐらいがせいぜいで立ち止まる人は少なかった。 …おや。 その少女が森川由綺だと気付いたのは、彼女が前のめりに転びかけ、自分の引いて いたリアカーに足を轢かれかけた時、僕と目があったからだった。 「親子で安心してTHが出来る、ソ○ーのプレ○ステーション、如何ですかぁ〜」 僕にちょっと照れたような、困ったような顔をして「てへへ」と声を漏らした後、 再び彼女は売り子に専念する。 去年、クリスマスライヴや音楽祭で大活躍した今世紀最後のアイドルとも言われた 森川由綺が、どうしてこんな普通の街角の玩具屋の売り子のアルバイトをしているの かはわからない。 悲しいことがあったのかも知れない。 辛いことがあったのかも知れない。 人には言えないことがあったのかも知れない。 でも、時折チラシを配ったり、笑顔を振りまいたり、声を張り上げたりと忙しい今 の彼女に、別段哀愁は感じない。 生き生きとして、晴れ晴れとして、輝きすら感じられる。 自分の知っている森川由綺だ。 何となく、安心して嬉しくなった。 ・ ・ ・ 冷たい風が吹き付けていた。 勢いよく、殆ど途切れることを知らないで吹き続けるその風は、アスファルトを歩 く二人目がけて集中的に襲いかかってきているようだった。 「寒い・・・わね」 「うん。そうだね」 等間隔に夜道を照らす街灯の元、お互い、身を縮込ませるようにしながらも、普段 と変わらぬ足取りで道を歩く少女が二人。大きいお下げを垂らした胸の小ささに劣等 感を感じる少女と、図太さを演じることで周囲とのバランスを取る少女。 皆が忘れていても、 誰も気付いてくれなくても、 彼女達がいたこと、 忘れないから。 残されていること、 存在があったこと、 お互い、忘れないから。 人が気付いてくれないから、見てくれだけを気にする。 声を張り上げ、無視されるのを恐れて、壁際の花となる。 胸を張る事が怖くて、目を瞑る。 エスコートの手に気付かない。 それでも、前を向けたのは、呼び掛けてくれたから。 見ていてくれる人が、この世界にいてくれたから。 だから、着飾れる。 着馴れないパーティードレスを着て、コートを羽織る。 これだけで、オードリーにもマリリンにも負けない気分になれた。 ・ ・ ・ 紅か朱か、鮮やかそうで、そうでない髪の色をした少女が家の前に立っている。 その瞳は琥珀色をして、まるで全てを見つめているような錯覚を与える輝きを放っ ていた。 だぼだぼの黄色いセーターを着込んでいたが、その袖からは青みがかったように白 い指が覗いていた。コートは羽織っていない。 そしてその掌には片手で持てる大きさの箱が掴まれていた。 重そうにも見えないその箱は、綺麗な包装紙と、真っ赤なリボンで彩られていた。 彼女は、明らかに待っていた。 気まぐれに振ってくる雪が、彼女の頭上に積み重なっていく。 細かい白い粉が砂になり、砂が土になり、土が山になる。 彼女の頭にも、白い山が出来るのだろうか。 無防備に晒された耳朶が、心なしか染まっているのは錯覚だろうか。 彼女は、その場に立ち続けていた。 ・ ・ ・ 電飾で着飾った街路樹と反対側を向く。 無意識に向く。 コートを着込んだ少年のような女性の自転車が人気のない公園を横切って走ってい るのが見えた。 薄手の絨毯のようにほぼ一面に広がった白い地面を、黒い跡で切り裂いていく。 …何故か、初めて補助輪を外した子供の頃を思いだした。 危惧していたとおり、お約束のように転ぶ。 「足が折れた。痛い、痛い」 誰も見ていないのにそう言ってうんうん唸る。 そしてから何事も無かったように立ち上がる。 服の汚れを両手で払ってから、再び自転車にまたがって先を急ぐ。 ・・・予行演習だろうか。 ・ ・ ・ 若さと熱気が比例しているかのような華やかな舞台。 初めから、違和感しか感じない。 明らかに浮いている自分に苛立ちと腹立たしさを感じる。 …場違いもいいところだ・・・。 男は次第に盛り上がっていく会場の雰囲気に気分が悪くなって、廊下に出るとポケ ットから煙草を取り出す。 「ここは禁煙みたいですよ」 飄々として、どこかつかみ所のない冴えない風貌の中年が声を掛けてくる。 …胡散臭いヤツだな・・・。 普段は無視するのだが、何故か気分が乗らずに素直に場所を変える。 「いやぁ・・・ここ、禁煙ですかぁ・・・」 「・・・」 向こうからさっきと同じ馬面の親父が、やはり馬面の髭親父に注意されていた。 「あれ?、ここ、煙草駄目なの?」 その声に振り返ると、 ・・・やっぱり同じ顔だった。 気分が悪くなった彼はパーティー会場を後にした。 ヤクザという商売柄、刑事の顔は忘れない。 兄弟がいたとは、初耳だったが。 ・ ・ ・ 「あのう・・・いいですか?」 途中、男性に呼び止められる。 見覚えがあるようで、見覚えのない顔。 大学生くらいだろうか。 …どことなく、冬が似合いそうな雰囲気の男だと感じた。 「今日、何の日ですか?」 立ち止まった事を肯定と解釈したらしく、そう訊ねてきた。 「・・・・・」 それにも答えず、ジッとその男の顔を見つめたままでいると、 「今日が、誕生日なんですよ・・・」 と、言ってきた。 そこでようやく、口を開く。 「あなたの?」 「いえ」 即座に答える。 俯きがちになっている男を見て、意地悪な質問をする。 「雪は・・・嫌いですか?」 「いえ・・・嫌いじゃないです・・・むしろ、好き・・・なんでしょうね、きっと」 その時、気付いた。 その男は瞼を赤く腫らしていた。 そして、一言二言言葉を交わして、男は走っていった。 今まで、悩む事から逃げてばかりいたから、そのツケが溜まる。 幾度となく悩み、沢山の知人、友人を巻き込み、互いに傷つけ合う。 ――嗤えない。 誰も、彼を嗤えない。 再び、歩き出す。 ・ ・ ・ ――あのね、恋がひとつ、消えてしまったの。 男が歩く。 女の子を横に連れて。 女が見ている。 何かを握り締めて。 ・・・見ていて涙が出る。 それは昔の私だから。 名も知らぬ他人から、自分自身へと。 だから、涙が出る。 だから今夜だけは、蝋燭を沢山買い込んで、家を明るくしよう。 家族と一緒に。 肉親と一緒に。 あの子と彼を祝う振りをして。 そうすればきっと楽しくなるから。 忘れられない思い出を無駄に悲しくしないで済むから。 きっと、今の私は誰にでも優しくできる。 女神にも天女にも負けない。 今日一日だけは。 ・ ・ ・ ヒーターが効いているのか、レトロなストーブがあるのか、部屋全体が暖かい。 「えっと・・・お酒の準備は?」 「何言ってるのよ、まだ未成年だろ?。今日はノンアルコール」 「えぇ〜・・・」 「まぁ、乾杯用のシャンパンは用意してあるから・・・」 「あ、でもワインぐらいは・・・」 「駄目だって・・・」 台所の方から漏れてくる華やかな声。 それこそが暖かな湯気に香ばしい香りに思えてくる。 部屋の隅の電話機のランプが点滅している事も気が付かず・・・。 ・ ・ ・ 山下に広瀬、マライアにSPEED。 冬の定番の曲がCDショップの店先のスピーカーから流れてくる。 …曲の数だけ、恋がある。 誰だったか、そんな事を言っていたことを思い出しながら、私は雪が降り出した歩 道を歩いていた。 絵本で読んだ七面鳥を初めて食べた時、鶏と変わらない味がした。 ――鶏だった。 TVで美味しそうに飲んでいるシャンパンを飲んだ時、出来の悪いサイダーのよう な味がした。 ――子供向けの偽物だった。 夢膨らむ幻想に身を委ねる日。 それがつまらない馬鹿騒ぎの口実にすり替わってしまったのは、いつの頃だろう。 純粋な喜びから、転がるように堕ちていってしまったのは誰のせいなのだろう。 「おぅ、我が愛しの妹よ・・・待たせたな」 白い息を手に吹きかけながら、思った。 ・・・目の前の兄に違いない。 ・ ・ ・ 「はい、じゃあ・・・「昔あるところに・・・人々に悪さを働く悪い「鬼」がいまし た。その鬼は・・・」 大勢の子供達の前で、スケッチブックを切り取った画用紙にクレヨンで描いた絵を 広げながら、その女性は一人一人の子供達の表情を追っていた。 「秋とか冬は・・・好き」 いつだったか、彼女はそう言っていた気がする。 素直になること。 さらけ出すこと。 怖かったけど、逃げることは選ばなかった。 何処ででも見つめてくれる優しさと、 側にいるだけで感じさせてくれる楽しさ。 外から入ってくるものと、内から感じるもの。 拒まないで、流される。 …狡さに甘えてる。 ドアが開く。 一斉に歓声が沸き上がる。 「わるいごはいねーがー」 鬼じゃなくて、なまはげがいた。 細身の身体を隠して余りある大きい真っ赤な服を着て。 けど、子供達は恐れることなく、一斉にその来訪者に群がっていく。 「お待ちなさいっ!!。こんな平和な世界に子供達を浚おうだなんて・・・」 「あれ、ヒーローショーだったの?」 「いいのよっ!!。こーゆーのはノリなんだからっ!!」 「そ、そうかなぁ・・・?」 その後ろから転がり込むようにして、三人組の女性が乱入してくる。それぞれ原色 が派手で、目立つせいか子供達には大うけだ。 「何の、いでよ沙丹黒須四天王っ!!」 なまはげに従っていた猫の引くそりの乗っていた大きな二つの袋のうち、一つから これまた三人の怪しげな雰囲気な女性が飛び出してくる。 「おお――――っ!!」 「わーいっ!!」 「やっちゃえ、やっちゃえっ!!」 「あ、皆さん・・・私、こういう者です・・・あ、そんな押さないで下さい」 「これ、もーらいっ!!」 「あ、その人形はプレゼントじゃなくて・・・」 「いいぞ、やっちゃえっ!!」 「お互い、肉弾戦だからねっ!!」 「わかってるって。そっちはバイト料、かかってるんだろ?」 「きぃぃぃぃぃ――――っ!!」 「取り敢えず、ドア締めなさいよ・・・」 「にゃ〜にゃにゃーにゃにゃーん」 大勢の珍客が増えたお陰で、広いくせに侘びしさが付きまとっていた場が一気に騒 がしくなる。 保母さん達は目を白黒させてその騒ぎを見つめている。 「全く、もぅ・・・」 「ふふふ・・・」 先ほどまで部屋には似つかわしくない浮いた雰囲気の絵画の横で、女性が笑う。 「いいの、これで?」 呆れたような声で、その女性に違う女性の声が訊ねる。 「・・・いいと、思う」 可笑しそうに、笑う。 ・ ・ ・ いきなり、消えてしまった。 遠くに行ってしまった。 追いかけるべくだろうか。 追い縋るのが、筋だろうか。 涙を流す。 一筋の道から押し寄せる水の流れ。 全てが流れていく。 全てが。 「空を見ているんですか?」 ふと、背中から声がかかる。 少年は振り返ることもせずに、空を見続ける。 「この星を・・・見ているんでしょうか?」 少女の言葉は少年への丁寧語ではなく、主語の隠れた独り言。 似た思いを抱えている二人がベランダから星を見つめる。 「あー、祐君と藍原さん、何しんみりしてるのよー!」 ・ ・ ・ 壁に掛けられた白いダッフルコートは最先端の流行の証。 かつて、ポケベルにセーター、靴下にマフラー、そして某ショップのビニール製の 手提げ袋が流行ったように、流行っている。 そしてその中で着ているミニスカートに生足こそ、現役女子高生の証明。 室内の今はまだしも、外で生足はなかなかできるものではない。 …個性の欠片もない、只の猿真似。 そう言って馬鹿にするヤツもいるけど・・・別段、やめる理由もない。 個性。 有りすぎても、困ると思う。 隣で黙々と料理の下ごしらえをしていく個性的な女性を見ていると「平凡」も悪く ないと思う。 そこそこがいい、そこそこが。 ドタドタドタドタ 「御免!!、遅れちゃったって・・・うっ!!」 「あうぅ〜、御免なさいですぅ〜」 「御、御、御馳走はぁ〜?」 「来栖川さん、長岡さん、す、す、すぐに手伝いますっ!!」 「く、来栖川先輩・・・この、イモリの黒焼き・・・飾りですか?」 「何や、この臭いは!?」 「Oh!?」 赤を筆頭に、色とりどりの髪をした女の子がその空間に入っていった。 「御免、手遅れよ、皆・・・」 精一杯、自分は努力した事を告げ、その場を後にした。 ・ ・ ・ 「それでは、どうも・・・」 「はい・・・ねぇ、いづみ、のぶこ・・・何してるのよ?」 「あ、マナ」 「ねぇ、ねぇ、この子、可愛いんだよ」 千絵美に飲み物を作って貰っていたマナが、友人達の元に戻ると、二人は一人の子 供を連れてはしゃいでいた。 「・・・子供じゃないぞ」 「何処の子?」 「さあ」 「迷子じゃないみたいだけど・・・」 マナの疑問に二人は面白そうに笑うだけで、容量を得ない。 …どこが可愛いのかしら? ハナを垂らしているくせに胸を張っている子供に、マナは疑問に思ったが口には出 さなかった。 ・ ・ ・ 「あの・・・」 …再度、呼び止められる日だ。 偶然か、必然か、馬鹿馬鹿しくて考える気もしない。 今度は、ブロンドと流ちょうな日本語のアンバランスが吹き替え映画を想像させる 美人の女性だった。 今度は、単なる道案内に終始したが。 ・ ・ ・ 『・・・フシギナモノダナ』 「ええ、気張った甲斐がありましたよ」 「・・・・・・・・・」 「え?。「が・ん・ば・っ・た・か・い・が・あ・り・た」。ええ、貴方の協力がな ければこの・・・宇宙船?」 『・・・ヨーク』 「あ、すみません。ダリエリさん」 足立が着ぐるみっぽい人物と二人で、そのくせ会話は三人で会場全体の賑わいを眺 めるようにして、微笑んでいる。 『シカシ、リズエルハモウ、カエッタノカ』 「りず?・・・あ、ちーちゃんなら、家で耕一君達と・・・」 『ダリエリさん、ちょっと・・・いいですか?』 割り込むように子供の声が聞こえてくる。 『・・オ、カ?』 ダリエリの気配が消える。 「何、あのお爺さん。一人でぶつぶつと・・・」 「岡田、あんまりじろじろ見ないの。はしたない・・・」 「でも、吉井・・・」 「少しは松本を・・・って、あっちはあっちで問題ね」 奥のテーブルで着飾った松本が、七瀬彰に絡みつくようにからかっていた。 「次は、広瀬ゆかりのミニコンサート・・・か」 小林芳美が脇にいた良子のプログラムを覗いて、確認する。 「ありきたりよねぇ・・・」 その良子の言葉は会場のざわめきの中、かき消されていく。 「ホント、ありきたり・・・でも、そのありきたりが、いいのかもね・・・」 ・ ・ ・ 「お待ちしていました」 人通りの少なくなってきた小道で、まるでこの時間にここに来ることを予期してい たかのように、大きく流れる黒髪の女性が軽く、こちらに頭を下げる。 …なんか、王族に仕えているみたいだな。 その旨を苦笑と共に、彼女に伝えると、 「・・・メリー、クリスマスですね」 違う言葉を返された。 …誰よりも先に言っておこうと思いまして。 そんな彼女の声無き声を聞いた気がした。 「どうかしましたか?」 無表情に見える彼女の恥じらいを、覗き見た気分のこちらにそう訊ねる。 不思議そうでもなく、 照れた素振りでもなく、 ・・・無機質を装って。 …残念だけど、この手には上手がいるからね・・・ それこそ忠実無比で疑うことを知らない、少女を知るだけに、彼女の仕草はとても 可愛らしかった。 「うん、めりーくりすます」 自然に、にこやかな気分で言った。 彼女が唯一求めていることだと思ったから。 ・ ・ ・ 「今日は純粋に遊びに来ただけだ、諍いを起こす気はない」 「わかってるって・・・まぁ、一杯」 彼にとって我が家のように感じる居間で苦笑しながら、叔父に当たる年長者のコッ プにビールを注ぐ耕一。 「お兄ちゃん、ギター引くんだ」 「趣味でね・・・ちょっとだけ・・・」 その隣でギターケースを抱えた貴之に、初音が興味を持って訊ねる。 台所では、彼女にしては必死な形相をして大鍋を見つめる楓がいた。 彼女のエプロンのポケットには、彼女の姉の手書きのあんちょこが隠されていた。 ・ ・ ・ 「下ごしらえはこれで良しっと・・・楓も今頃、頑張ってる頃でしょうね、どうそち らは?」 「ケーキ作りって意外と・・・力仕事なのよね・・・」 ・ ・ ・ 「あら、素敵なドレス着てるじゃない・・・」 「え・・・わ、私ですか?」 華やかな立食パーティー。 今までは居心地が悪くて仕方なかったこの場所に、自然に溶け込めたのに気付いた のは、隣にいてくれた彼がトイレに行って一人でいた今だった。 別れた場所から少し移動していたが、彼の背は高いから、何処にいてもすぐ発見で きるだろう。気にしないことにしていた。 「記念に一枚、撮ってあげる」 「あ、で・・・でも・・・」 「何?。ああ、彼氏待ち?」 「あ、そ、その・・・」 照れるような柄じゃなかった筈なのに、頬が赤らむ。 多少のアルコールと、心の揺れのせい。 ただの、同級生。 下の名前も憶えてない、同級生。 「じゃあ、まずは一枚」 にっこり笑ってカメラを構える。 その女性の両肩の見えるドレスに不釣り合いな大きめの業務用のカメラ。 拘りを感じた。 「私、相田響子。後で写真を送るから・・・住所、聞いていいかしら?」 「あ、はい・・・私は坂下・・・坂下好恵です」 ・ ・ ・ 「じゃあ、私・・・」 「ええ。後は任せて置きなさいって・・・まぁ、何とかなるでしょ」 ・ ・ ・ …頬の古傷が疼く。 屋上から見ることの出来る満天の星空が、「キラキラ星」と感じさせる。 …この夜空を、彼女も見ているだろうか。 私や彼女と星との距離は変わらないから。 何か、微笑ましい事に思える。 顔に出ない苦笑を胸に抱いてから、わざとらしく隣を見る。 横で、穏やかな顔をして見ている彼。 まるで空と同化したように無垢な瞳を向けている妹を労るように、彼女の方を抱い ていた。 ちょっぴり悔しいから、掴んでいた彼のセーターを強く握り締める。 ・・・子供を諭すように頭を撫でられた。 ・ ・ ・ 「今日は歩きだったんだ」 「たまには、宜しいかと思いまして・・・・・・来たようですよ」 「あ・・・」 ・ ・ ・ テーブルが端に寄せられ、オーケストラの演奏が始まる。 「私めと踊っていただきませんか?」 「・・・ええ、喜んで」 老執事の大きい掌に大きめの眼鏡をかけた女性が掌を添える。 「ちょっと、さわらないで・・・しっしっ・・・」 「そりゃねーだろ・・・」 かおりに手で追い払われる橋本がもの悲しい。 そんな喧騒を横目に、彼女はもう片手で持っていたシャンパングラスを歩き出す前 に飲み干そうとして、父親と言うより祖父に近い年齢の相手に止められる。 「・・・?」 グラスを奪い、残りの麦藁色の炭酸をそのまま一気に飲み干す。 「さぁ、いきましょう」 「ええ」 クスリと笑う由美子に、普段の彼には珍しく目元だけかすかに緩めてみせた。 ・ ・ ・ 「――・・・」 「っ!?・・・ま、待ってたんだ。中、入ってれば良かったのに」 「――実は、一番最初に、受け取って戴きたいのですが・・・」 ・ ・ ・ 知ってたよ、そんなこと。 大人になんか、ならなくたって。 判ってたさ、ずっと前から。 騙される経験なんて、いらないよ。 私が好きなこと。 好きに出来ること。 我慢しないで、言ってみよう。 言葉に出して、言ってみよう。 きよしこのよる メリークリスマス ハッピーデー あたたかな日 あなたこそがサンタクロース 私のサンタクロース 本当にいるから ずっと知っていたから 寒そうに震えていたって プレゼントなんかなくたって きっときてくれる かならずきてくれる 私に 私だけに 困ったら笑えばいい 悲しくたって笑えばいい 大好きな人 愛しいあなた そんなあなたはサンタクロース 今日だけはサンタクロース 雪道を踏みしめて歩く。 次第に家のあかりが近付いてくる。 華やかな顔が並ぶ。 時に空を見上げ、時に談笑して、 困ったように笑ったり、 目を閉じてこみ上げる表情を隠したり、 まるで惚けたように無反応で過ごしたり、 そんな愉快な顔ぶれが並ぶ。 古くさい門を開け、引き戸を開ける。 鳴り響く、クラッカー。 照れくさい顔をしてはにかむ顔と、 可笑しい事を精一杯可笑しそうに見せる笑顔が出迎える。 暖かな部屋。 飾られたもみの木のミニチュア。 焼きたてのケーキ。 色とりどりの蝋燭。 ほのかに香ってくる匂い。 全ては自分のもの。 きみたちのもの。 ハッピー ハッピー クリスマス 卑怯だっていいじゃない。 ご都合主義だっていいじゃない。 僕だけのお姫様がいて 自分一人のお姉さんがいる 諍うことなんて、考えもしないで ただただ、笑って見せる。 たのしいことがすき。 みんな、すき。 人目を気にするのはやめよう。 気を使って様子を窺うことはよそう。 影で涙を隠している人がいる。 どう過ごしていいかも判らない人もいる。 でも・・・ ぼくはしあわせになれればいい。 ぼくのせかいでは。 恋のライバルなんて、いらない。 嫉妬なんか、存在しない。 ただ、ぼくがいて みんながいる。 そして・・・笑うんだ。 笑いの見本とばかり、顔一杯に笑顔を作るあの娘。 微かに目元だけを緩めて、うち解けるあの娘。 豪快と評したいほど、共に喜びを分かち合うあの娘。 喜びを恥ずかしがっているように、困った顔をするあの娘。 キョトンとしているようで、しっかりと味を知っているあの娘。 みんな、みんな笑ってる。 楽しげに 嬉しげに 幸せじゃないか。 本望じゃないか。 そう、最良の日にしたいじゃないか。 ハッピー クリスマス 年に一度のお祭りの日。 大っぴらに浮かれる事の出来るお祭りの日。 ハッピー ハッピー クリスマス シャンパンの栓を開けて、皆のグラスに注いで回る。 ここだけじゃなくて、きっと余所でも。 全ての皆が杯を掲げる。 だから言うのはただ、一言。 「Merry Christmas・・・」 Merry Christmas!! For You… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「・・・もう二度とやりません(笑)。色々な意味で(笑)。取り敢えず、全員登場して いると思います。名前なくて科白のみとか、他のキャラに名前だけ挙げられていると か、終始抽象的扱い等含めての話ですが・・・。話の流れが読めないかも知れません 。痕、雫、THのメインキャラ達はそれぞれ、各自で集まったようですし、脇役達は そっち方面で集まったようです。で、話のメインが一部除くWA連中と、一部のキャ ラ(笑)達です」 ○登場しているキャラ○ 藤田浩之、神岸あかり、長岡志保、佐藤雅史、保科智子、来栖川芹香、松原葵、宮 内レミィ、姫川琴音、マルチ、雛山理緒、柏木耕一、柏木楓、柏木初音、柏木千鶴、 柳川祐也、阿部貴之、長瀬祐介、新城沙織、藍原瑞穂、月島拓也、月島瑠璃子、太田 香奈子、藤井冬弥、森川由綺、河島はるか、緒方英二、緒方理奈、坂下好恵、シンデ ィ宮内、矢島、橋本、千絵美、雛山良太、広瀬ゆかり、小林芳美、良子、岡田、吉井 、松本、セバスチャン、長瀬源五郎、小出由美子、日吉かおり、相田響子、ダリエリ 、ガチャピン、足立、吉川、タケダテルオ、長瀬源三郎、桂木美和子、吉田由紀、長 瀬源一郎、七瀬彰、観月マナ、ひたちのぶこ、てらだいづみ、フランク長瀬、ルミラ 、イビル、エビル、メイフィア、たま、アレイ、フランソワーズ、ティリア、サラ、 エリア、柏木梓、来栖川綾香、セリオ、澤倉美咲、篠塚弥生・・・72(多分)+1名。http://www.kcn.or.jp/~typezero/kukuno.htm