『服を買いましょう 〜どうしようもない僕に降りてきた天使・番外編2〜 投稿者: 久々野 彰
「本編を知っていればその中での話です。番外編1からは前で高校生時代の話です」
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 これは客観的に言えば、僕に彼女が出来たとでも評されてしまうのだろうか。


 いや、「彼女」と呼べるほど大層なものではないし、そこまでの関係かと聞かれれ
ばそこまででないと断言できるし、そう説明するしかない。


 だが、同棲生活となれば、そう呼んでも差し支えないのではと思ったりもする。
 複雑と言えば、複雑な関係だ。


 ただ、これが人ではないから話が呆気なく簡単に終わり、僕自身にとっては深い泥
沼にはまりこんでしまう。


 僕の家に一体のメイドロボットがいる。
 彼女は一般的に「セリオ」と呼ばれ、僕も彼女を「セリオ」と呼んでいる。


 人は彼女を最高家電と見、
 僕は・・・



 僕は・・・・



『服を買いましょう 〜どうしようもない僕に降りてきた天使・番外編2〜』



 自分の服もあまり、気にかけない人間にとって、他人の服を買うという行為は大変
に勇気がいる。
 しかも異性の服というものは、なかなか簡単に買える事でもないし、その機会もあ
まりあるものじゃない。
 更に突き詰めれば男が、女の子の服を買うという事はかなりないと思う。


 普通なら一緒に買いに行く所だし、女の子も自分の服は自分で選ぶ。
 男が女の子に買って貰った服で満足することはあっても、その逆はまずないと言っ
て良く、男にとっても、一緒に来て貰った方が数倍楽である。
 せいぜい、「こっちの服とこの服、どっちが似合うかな?」と聞かれるだけで、殆
どが女の子が自分で選ぶ間、待つだけで済むからだ。

 ・・・待ち時間が相当に長いのは別の話とするが。



 で、僕の家にも一人の女の子がいる。
 それも外見や体型からすれば「年頃の女の子」と呼んで差し支えない娘が。


 僕が先日、とある老婦人から譲渡して貰った来栖川製のメイドロボット「セリオ」
には替えの服がなかった。
 基本でついている白のボディスーツ、そして僕の家にやって来た時に来ていた服、
この二着だけだった。
 勿論、一人暮らしの僕は女装癖などない訳だから、僕の家にある女物の服はボディ
スーツは論外として、唯一この一着だけだった。


 つまり、替えの服がないのだ。


 僕は大変迂闊な話ながら、この事態に気付いたのはセリオが家に居着いてから一週
間近く経った頃だった。


 今までは正直、そこまで頭が回らなかったのだ。
 それまでに、炊事に洗濯、買い物まで行かせていたのだから随分な話である。


 セリオは人間と違い、肌の老廃物、つまり垢にあたるものは出ないし、汗などが流
れる訳ではないので、それ程内側から服が汚れると言うことは人間に比べればないが
、それでも空気中の塵や埃、それにどうしても汚れる事態に陥ることは限りなく多い
訳で、それは初めて僕が彼女と出会った時、数ヶ月放置されていた為にボロ状になっ
ていた服を着ていた事からも判っていたはずである。


 よって、気付いた今は、セリオには僕の大きめのトレーナーを裾をまくったGパン
の中に入れてベルトで締めつけることで、ウエストの問題を強引に片付けてた服装を
させている訳だが、ずっとそうさせる訳にはいくまい。


 気付かない内、由々しき問題になっていたのだ。



 そして、話は冒頭に戻るわけだが・・・。


 困ったことにセリオには自主性と呼べるものが限りなく少なく、しかもそれが自分
自身のものともなると、無頓着と呼んで差し支えない程の体たらくである。
 だが、これは仕方がないと言えば、仕方がない。


 メイドロボットとか、どうとか言うよりもまず、


 ・・・これが「セリオ」なのだから。


 まだ短い付き合いながら、その事は嫌と言うほど分からされていた。僕の体調の不
調に気付く(センサーとか何かで計っていたりするのかも知れないが)と、あれこれと
自主的に(そういうプログラムが最低装備されているのかも知れないが)行動をとった
りするが、基本的にセリオは自分から動かない。
 僕に予め言われている日常生活の自分の定められた役割をこなすための働きをし、
その為にだけ行動を起こす。

 僕の朝食を用意するために、僕の起床予定時間に間に合うように起きて、その日の
朝食にする為に予めその日までに買っておいた食材を使って調理する。

 そんな事の積み重ねが、セリオの基本の行動だ。
 間違っても買い物途中で「ちょっと時間が余ったから今日は映画でも・・・」なん
て真似はないし、予算が余ってもへそくりをため込んで置くようなこともない。


 話は逸れたが、そんなセリオだから

「服が欲しい」

 と言うことはない。

 もし、僕が気付かなければ一生同じ服で過ごすことも厭わないかも知れない。
 それよりもまず、考えの隅っこにも浮かばないかも知れない。
 かなり怖いが、考えられないこともない気がする。
 僕から見る「セリオ」はそんなヤツに思えたから。


 で、そう言うわけで僕はセリオの替えの服の調達を思い付いたわけだが・・・


 チラリ


 横目で部屋の奥で控えているセリオを見る。
 既に今日の掃除も終えて、買い物に行く時間にはまだ早い。
 仕事がないらしく、手持ち無沙汰と言ったところか。
 暇の使い方を知らないようだ。
 まぁ、TV付けっぱなしで、婦人雑誌に目を落としながら炬燵で煎餅を囓られてい
てもちょっと困るが・・・まぁ、本ぐらいは読んでいても・・・。


 いつもセリオの事を考えると思考が脱線する。
 彼女のせいではなく、自分自身のせいだろうが。



「それじゃあ、行ってくるよ」
「――はい。お気をつけて・・・」


 僕は結局、セリオを家で待たせることにした。


 一緒に行っても僕一人で選ぶことになるだろうから。


 …これとこれ、どっちがいいかな?
 …――いいかな。と言いますと素材の確認ですか?
 …いや、そうじゃなくて・・・
 …――値段的に計算しますと、こっちの服は強度も申し分ない作りになって


 ・・・洋裁店でのやりとりが頭に浮かんできそうだ。


 どう言っても基本的に「逆らわない」彼女だけに、扱いが難しい。
 自主的に服を選んでくれれば僕にとっては嬉しいのだが、あまり普段の事を考える
と自信がない。
 選べても、その基準は間違っても「自分に似合う」とか「この服が可愛くて好き」
とかではないだろう。
 そんな事を聞いて落胆するような思いをしたくなかった。


 ・・・落胆?


 ちょっとだけ、自分の思考に首を傾げるが、敢えて気にしないでやり過ごす。



 彼女の身体のサイズは説明書に書いてあったから、大丈夫だろう。
 痩せたり太ったり、身長が大きくなったりすることはない。
 便利な反面、物足りない気がするのは変だろうか。



 売場に到着する。
 偉そうな事を言っても、資金的にゆとりがあるわけでも、見る目があるわけでもな
んでもないので、近くのデパートの婦人服売場だ。
 高校生一人が足を踏み入れるのは勇気がいる。
 いや、行ったことが無いわけではないし、別段普段は意識もせずにいることが出来
るのだが、いざ、そこにあるものを買おう、選ぼうと考えると、周囲の視線が妙に気
になってくる。
 制服姿の書き眉の女子高生グループを見かける度、緊張して汗が出る。



 僕に異性の友人がいない事が悔やまれる。
 今まで、そんな事に別段、悔やんだことはなかったが、今は悔やまれてならない。



 そして、僕は売場で硬直していた。



 行くときは「適当に数着見繕って即座に帰ってくる」筈だった。
 必要なのは着替えの服であって、それほど変な服でなければ問題ない。


 だが、いざとなるとどれを買ったらいいものか迷ってしまった。
 選んでいると言うより、迷っていた。
 どれもそれ程違いがないようで、可もなく不可もなくな服ばかりだ。
 一方で種類の多さにも圧倒され、完全にどうしていいか判らなくなっていた。
 門外漢と言う言葉がこれほど相応しい経験はなかった。


 僕は馬鹿みたいにあっちをうろうろ、こっちをうろうろ、手に取ってみてははっき
りとどうしていいか判らずに戻したりして、かえって店員に万引きか何かと不審がら
れるのではないかと思う程の挙動不審だった。
 暑くもないのに全身から汗が噴き出す。
 余計なことばかり頭を過ぎって、落ち着けない。


 服を選んでいる筈が、誰かと闘っているような気がしてならない。
 誰と闘っているかは僕も知らないけれど。


 こういうのはネクタイが必要なような本格的なフランス料理の店とかに入ってワイ
ン選びの辺からまごついているとかと同じ様な気がする。
 勿論、僕は行ったことはないが。


 …まぁ、あっちは本なんか読めば、見栄を張らずにソムリエに聞けとか書いてある
んだろうけど・・・


 洋服選びにソムリエはいない。
 店員はいるが、何か違う気がする。
 それに、普段着選びだし。


・
・
・


 数十分後、僕には数時間後に感じられたが、結局僕は何も買えなかった。
 早い話、しっぽを巻いて逃げ帰ったのだ。



「えっと・・・予算はこれくらい。で、基本的に外出着として着る物を・・・そうだ
な、7、8着は最低。それと、色々コーディネイト出来るといいとも思う。それで・
・・下着も同程度は必要だと思うけど・・・」
「――わかりました」

 結局、変な気を使うことが難しいと思った僕は、すごすごと家まで戻って明らかに
何もすることがなかったようなセリオを連れ出していた。
 店員の目が怖かったので、さっきとは別の店で、下手な色気を出さずに服を選ばせ
ることにしたのだ。
 自分一人で買えない以上、仕方がない。


 僕はセリオが素材表示、値札を一つ一つ調べながら回っているのを確認してから、
少し離れた場所にあった長椅子に腰を下ろす。


 …はぁ・・・情けない・・・


 精神的な疲労が溜まっていたが、それよりも何処か考えすぎの自分に呆れていた。
 自分の家の生活家電こと、メイドロボットの事である。
 それが、こうまで振り回されることになろうとは。
 と、言うより自分で勝手に舞い上がっただけだが。


 それと、同時に


 自分で服ひとつ買えない事態、「セリオ」に服を買ってあげる行為が出来なかった
事、それが「どれが似合うか」以前のレベルだった有様、それらに失望していた。
 そんな心境になった自分へのかなりの戸惑いも、共にあったが。


 …ま、あまり深く考えるのも・・・な・・・。


 外見だけとはいえ、異性を意識させる存在なのだから、それは別に変な事ではない
だろうと、自分の中で片付けることにする。
 やはり、誰が相手とはいえ、自分の物ではない服を買うことの難しさは変わらない
だろうから。


「――お待たせ致しました」


 売場から、7、8着の服を持ったセリオがやって来るのが見えた。


「今のうちは・・・そのローテーションで頼むよ」
「――はい」


 …今のうち・・・


 無意識に漏らした自分の言葉に小首を傾げながらも、一緒にレジへと向かった。


 機会が有れば、その時に一着ずつ買えばいい。


 その時には、今よりもきっと自分じゃない人の服を買えるぐらい、きっと彼女に似
合う服を選べるぐらいになっていることを思いながら。



 初めて会った日、
 雨ざらしでボロボロの服を着て公園のベンチに座っていた彼女。

 その瞳は僕どころか、誰も見ていなかった。

 その彼女がいま、僕の横にいる。
 自分の着ることになる服を持って。



 何か、僕は運命じみたことを少しだけ、信じてみたくなっていた。



                          <完>

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「時期的には『どう天〜』本編の頃の話ですので、主人公はまだ高校生です。因みに
番外編1では大学生です。マルチ小説の話題は既に過去のものですが、「メイドロボ
ットに服を買うということ」は意外と内気な人間には難題ではないかと思い、書きま
した。私もそーですし」

 愚痴1
「心は既に主人公大学生シリーズなので、高校生当時の彼のセリオに対する心境がど
の程度だったか思い出せなくて、とても曖昧な雰囲気になってしかも、結構意識させ
過ぎた気がします。久々にこの二人の話だったので、気負いすぎました。最近、セリ
オSSは秀作が多かったので、それに負けないようにと考えすぎたのも敗因かも。だ
からあまりこの話にはセリオが出てないです(苦笑)」

 愚痴2
「『退屈なロジック』の方が評判、遙かにいいんですが・・・私的セリオの解釈はこ
っちの『どう天〜』セリオだったりします。で、一番参ったのがその私的セリオがし
っかり書けなくなってきてしまったことです。トコトン「消極的」でなくてはいけな
いのです。AE様やtakataka様、睦月様など他の方が描く&自分の他作品のセリオ像
とも違うセリオなのですが・・・ちょっとはっきり思い出せていないのが実状で、そ
れが今、とても悔しいです、ハイ」

 ○感想&レス(相変わらず連載物除く)○

<痕〜輝く季○へ〜> 幸田景太郎様
 初めまして。ONEは未プレイなので、あれこれと言えません・・・何となくわか
りましたが・・・。

<「鬼の伝説」> MA様
 読みました。後書きで驚きました(爆)。どう凄くヤバいのか色々考えてしまいまし
た(ヲヒ)。で、いい話でした。この手の梓復讐劇なノリだと猪突猛進的なキャラに書
かれがちな梓なのですが、押さえきれない感情とのせめぎ合いの部分が察する事が出
来る作りになっていてファンとしてはとても嬉しかったです。第三者キャラを出して
からませるとファンの反応が怖いのですが(笑)、自分がやっている手口のせいか(笑)
、固有名詞作ったオリキャラよりも気持ちよく読めた気がします(笑)。ただ、敢えて
あら探し的発言をすれば・・・・ちょっと恋愛感情出すのは早い気もしましたが(そ
う言えばあの楓SSも最後、誤解した人多かったっけ・・・)。

<セバスな一日> WILYOU様
 何故、皆で浩之に協力しているのかと気になりつつも、素直に楽しませていただき
ました。

<関東藤田組 先輩 後編> vlad様
 電撃文庫で4巻完結のホラー小説です。昔、デンパマンのタイトルにも使った事が
あって(笑)。「東京SHADOW」だったと思います。作者は忘れました。背表紙は
濃紺か灰色だったと。多分、関係ないと思ってましたケド(笑)。

<核武装> MIO様
<我が名はレミィ>
 犬に眉毛を書いたヤツが悪いのか、こんなこと考えたヤツが悪いのか(笑)。


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『服を買いましょう 〜どうしようもない僕に降りてきた天使 番外編2〜』
 シリアス/TH/セリオ
 99/1/11初出。メイドロボットに直面した、切実なる問題に意識した事を自覚した時・・・。

 これは『Sexual intercourse means "LOVE". 〜どうしようもない僕に降りてきた天使 番外編〜』の下にお願いします。

http://www.asahi-net.or.jp/~iz7m-ymd/leaf/masata.htm