…あっつい・・・。 大きく両手を広げ、仰向けに寝転がる。 そして、大きく、息を吐いた。 熱い息が口から吐き出される。 近くに置いたスポーツバッグの中にある、スポーツタオルを取りに行く気にもなれ ない。 下は草むらとはいえ、分厚い胴着ごしに伝わる感触はさほど快適ではない。 ただ、動きたくなかった。 坂下好恵。 空手界注目の空手部主力選手。 彼女はあれから、結局の所何も変わったようには見えなかった。 葵と主張が割れ、決闘にまで及んで・・・負けた。 理由は数え上げたらきりがない。 が、好恵には最早どうでもいいことだった。 今の彼女には、過去は・・・ない。 初めの数日こそ、いろいろと悩んでいたようで、部の先輩を初め、クラスメート達 も心配していたようだが、今、野外で練習を積む彼女に、迷いらしきものは少なくて も感じ取ることは出来なかった。 彼女は今、もうじき開かれる大会の練習を行っている。 修学旅行中も、欠かさずトレーニングを重ねてきた彼女だ。 それなりの結果は残すはずだ。 彼女は、変われなかった。 でも、彼女は自分の進むべき道を選び、歩き続けていた。 …汗、拭いておかないと・・・。 そう思っていても、彼女は動かなかった。 全身から絶え間なく噴き出す汗が、不愉快でもあり、心地よくもあった。 ・ ・ ・ 「本当に、いいのね?」 この確認は何度しただろう。 幾度、重ねただろう。 彼女は、羨ましかったのかも知れない。 実際は、両親を説得する役を引き受けたくせに、自分はこうやって聞き返す。 …聞くまでも、ないのに。 シンディ宮内は、既にアメリカの人間になる事に躊躇いはなかった。 日本が嫌いだったわけではない。 むしろ好きな、出来ればずっといても良かった国である。 しかも、彼女は自分が望めば同行する理由など特になかった。 両親も、彼女には初めから好きに選ばせてくれた。 ただ、「出来れば家族一緒に」との親としての要望を付け加えてはいたが。 そして彼女は、両親とアメリカへ帰ることを決めた。 職も、追々見つけることにして、同行することに決めた。 特にどうというものはない。 ただ、今のままでは行き詰まっていたような気がしたのだ。 だから、帰ることに決めた。 しかし、歳の離れた妹レミィは嫌がった。 好きな人がいるの 愛した人がいるの はなれたくないの いっしょにいたいの そうレミィは言った。 普段、物わかりの良い、親になど滅多に逆らったことのない彼女がだ。 年を取ってからの娘とあって、普段からかなり甘いところのあった両親ではあった が、こればかりは認めることはなかった。 彼女は既に28。 レミィはせいぜい16、17。 この歳の差が決定的だった。 …でも、その想いはそんな事を超えていた・・・。 だからこそ、レミィは行動を起こした。 自分の出来ることをしてみせた。 精一杯。 彼女なりの行動を。 彼女は信じている。 行動をして見せた妹を。 妹を駆り立てた彼を。 …だから、私は・・・。 頼もしさの裏側に籠もった寂しげな笑顔は誰にも見せないまま、電話を掛ける。 そして、自分も還ってみようかと思いながら。 ・ ・ ・ 仲直り・・・。 出来ない訳じゃない。 ただ、気まずかったから。 気恥ずかしかったから。 初めはただのすれ違いだった。 気にくわないヤツ それはそれで良かった。 相手にしないならしなければいい。 不干渉を求めているなら、無理に近寄らなければいい。 きっかけは誰だったか、 誰からだったのか。 今となっては言い訳に過ぎないし、 どうだっていい。 責任の擦り合いでしかないから。 ただ、私は彼女に・・・ 言われなくたってわかってた。 やりすぎだって、思ってた。 きっと、私だけじゃない。 松本も、 岡田も、 きっと思ってたと思う。 でも、それぞれが、気まずくて、素直になれなくて、言えなかった。 誰もが臆病だったから。 きっと、それぞれがいなければ・・・何も起きなかった。 何もしなかった。 醜い言い訳。 今更な言い分。 でも・・・ これだけは、言わなくちゃ。 皆、言いたくて言えなかったこと。 言わなくちゃいけないこと。 一言。 …「御免ね」・・・と。 でも、今はただ、溜息をつくだけしか出来ない。 私には。 そんな弱虫な自分に呆れるように、自虐的な気分のまま、溜息をつく。 幾度目かの。 その直後、電話が鳴るまで・・・。 …あ・・・。 ちょっとだけ、自分の友達が誇らしくなった。 同じ思いを抱えていた友達が。 嬉しくて、涙が出た。 ・ ・ ・ …貴女様の微笑みは、人を幸せにします。 それこそ、お嬢様の魔法でございましょう。 常日頃、思っております。 私も。 旦那様も。 奥方様も。 綾香お嬢様も。 きっと、大旦那様も。 家族によって封じられてしまった魔法。 その扉を開くのは。 開くことが出来るのは。 私が、お嬢様も魔法の力を知ったのは、あのお方よりずっと後のことでしょう。 それでも、きっと家の者の中では最初でありましょう。 その魔法の力を知ったらきっと、もっと多くの皆様を幸せにすることが出来るでし ょう。 お嬢様自身は、まだ気付いていらっしゃらないようですが。 お嬢様の魔法。 お優しい、何よりも力強い魔法。 その魔法を知れば、きっと大旦那様の心も・・・今よりもずっと幸せになれると思 うのでございますが・・・。 今度、話してみましょう。 その、手助けを致しましょう。 それこそ、セバスチャンの名前と共に私が戴いた、貴女様の魔法に酬いる手段だと 信じまして・・・。 ・ ・ ・ 屋上で浩之に寄りかかり、安心していたように目を閉じていたあかりが、急に目を 開いて声を漏らす。 「あ・・・」 「どうした、あかり?」 浩之が、怪訝な顔をしてあかりを見ると、 「何か、聞こえた・・・」 あかりはそう、噛み締めるようにゆっくりと呟く。 「はぁ?。ここ、屋上だぞ?」 夕焼けも落ちかけた景色を見ながら、浩之が言うと、 「でも・・・」 あかりは困ったように言う。 「何が聞こえたんだ?」 「わからない・・・」 仕方なしと言った表情で浩之が聞くが、あかりは困った顔のまま言う。 「おいおい・・・」 「でも・・・」 「でも?」 そこで、あかりは立ち上がる。 あそして、浩之の方を向き、夕焼けの光に照らされて、言った。 心地よさそうに、目を細めて。 「何か・・・気持ちいいなって・・・そう思える・・・そんな気がするよ」 <完> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ちょい役大行進作戦、完了(笑)」 「『脇役推進委員会』会長の面目躍如?(笑)。でも、THに絞ったわね…」(綾香) 「一応、TH&シリアスの年と年頭に言っていたんで(笑)」 「誰も覚えていないって・・・」(梓) 「あ、良太は勘弁して下さい(笑)。矢島&橋本も(笑)。個人的にセリオ&綾香はちょ い役とは思えなくなってしまってきているので、こんなメンバーになりました」 「一周年ねぇ・・・何か、最近記念行事続きね・・・」(綾香) 「次は二百作品投稿記念か感想のべ五百人斬り記念か・・・」 「んなネタ、ないでしょ?」(梓) 「うん・・・」