『空』 投稿者: 久々野 彰
  青い、空。
 曇りない、空。
 綺麗な、空。

 快晴・・・本当に快い、晴れの日だった。

 だが、そんな晴れやかな日差しに包まれながらも、柏木梓は全くその眼を動かす事
なく、空を、眺めていた。
 まるでそれが無駄と言わないばかりに、そのただただ青いだけの5月末の空を、見
つめていた。

 …あれから、早、何ヶ月経過しただろう。

 季節の移ろいは確実に進み、真夏の向日葵、新春の息吹、三月の梅も桃も桜もその
役割を終え、今はただただ緑色のみを日々色濃く顕わしていた。

 その短くも長い期間、梓は・・・


 長い、長い、孤独の時。
 永い、永い、悲しみの時。
 ながい、ながい、退屈の時。

 彼女はいつも、この街の空を見上げていた。

 昔から見つめていた。
 両親が死んだときも、
 叔父が世話をしてくれたときも、

 彼女はこうしていた。


 …それしか、紛らわす手段がなかったから・・・。




 確かに・・・
 確かに叔父さんは、優しかった。
 昔と全然変わらずに、優しかった。


 でも、あたしは・・・淋しかった。
 ちょっと、辛かった。


 どうして、耕一は来ないの。
 どうして、耕一はいないの。
 どうして、耕一は駄目なの。

 あたしは・・・耕一じゃなきゃ駄目なのに・・・。


 叔父さんは寂しそうに、写真を持ってた。
 叔父さんも、寂しかったのに。


 だから耕一が来てくれたとき、とても嬉しかった。
 変わらない耕一が、嬉しかった。
 変わらず接してくれる関係が、楽しかった。

 だから・・・怖かった。

 自分の気持ちが変質していたのは、早くから気付いていたから。

 それで崩れるのが、怖かった。

 変わってしまうのが、怖かった。


 空はこんなに変わらないのに
 あの頃と、変わらないのに

 どうしてあたしたちは変わらなくちゃいけなかったんだろう

 ううん、変わりたかったの、きっと。
 そう、あたしが、望んだの

 だって・・・

 あたし、耕一が好きだったから。
 誰よりも、好きだったから。


 空は、青い。
 こんなにも、青い。
 変わらなく、青い。

 どんな時も、いつだって・・・変わらない。


 時には雲に隠れたり、雨を降らせたり、赤く染め上げたり、漆黒の闇に消えて見せ
たりしても、最後には、いつだって・・・変わらない。


 心地いい、日差し。
 爽やかな、風。
 ほんのりと感じる、暖かさ。


 あたしは・・・こんな変わらない青空が・・・好きじゃなかった。
 いつだって無関心で、いつだって無遠慮で、あたしの気持ちなんかお構いなしに、
晴れてみせる。


 …あたし・・・好きなんだ。


 そんな空に、打ち明けてみた。
 初めて、心の想い、打ち明けてみた。 
 切り払うように、
 突き刺すように、
 でも、そんなあたしの言葉も、飲み込んだまま、変わらなかった。
 だから、この空が嫌いだった。
 だけども、いつだって・・・ここにいた。


 今日も、青空。
 まるで懲りることのない繰り返し。
 懲りることなく、あたしはここにいた。

「でも・・・ね・・・」

 でもやっぱり、そんな変わらない空が、好き。

 いつだってあたしを見つめてくれて、迎えてくれて、受け入れてくれて、包み込ん
でくれるような錯覚を覚えるから。




「梓〜、何してんだよ?。そろそろ挨拶に行く時間だぞ」
 柄にもなく、背広にネクタイという姿の耕一が、小高い丘の上に立つ梓に、下から
呼び掛ける。
「あ、待ってよ。耕一〜」
 振り返り、駆け下りるようにして、耕一の元に向かう梓。
「おっと・・・あんまり、無理すんなよ」
「わかってるって・・・」
 ちょっぴり心配顔の耕一。そんな顔を見て、梓はちょっと悪戯っぽく笑う。まるで
、あの時と、子供の頃見せたのと変わらない笑みを、浮かべていた。
「あっ・・・と!」
 耕一の前まで差し掛かった時、梓は小石に足を取られて耕一に抱きつくような格好
になる。
「とと・・・全く・・・だから言っただろう」
「へへへ・・・御免」
 梓の身体を抱きとめつつ、苦笑いを浮かべる耕一。
 そのまま両腕を巻き付けるようにして抱きしめる梓に、耕一は包み込むように自分
の両腕で抱きかえす。
 そして昔の癖なのか、自然に置かれた耕一の手がゆっくりと梓の頭を撫でる。


 雲が、流れる。
 鳥が、囀る。
 風の音が、草木を揺らす。


 澄み切った青空の下、二人はしばらく動かなかった。
 その暖かい日差しはまるで祝福しているかのように、二人を包んで離さなかった。


 いつまでも・・・そう、いつまでも。


                            <完>
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「やっぱり梓は可愛いよね・・・の久々野です。いくら楓ファンがアメーバのように
増殖してこようとも、梓が一番は譲れません。作中では明らかに表現が足りず、アピ
ール不足で後れをとってますが、姉妹で一番「柏木耕一」を知っているのが彼女だと
思います。だからって結ばれるかどうかは別ですが・・・」
「しかし、梓さんのSSは、他の方に比べて反応、低いようです・・・」(セリオ)
「く・・・「痕」を作り直したらかなり梓、初音票は増えると思うのですが・・・」
「――見苦しいですね」(セリオ)
「例えば賢治がいた時、千鶴や楓、初音らと梓の反応、違ったと思うんですよ。これ
は私の思い込みだけじゃなくて、全てのシナリオを終えてそう読みとれると思うんで
す。少なくても彼がいた時点で彼より「耕一」の方をより強く求めていたのは梓一人
だと思うんですけど・・・だって本当にその時点で「耕一」に恋してたの、梓一人で
しょう?。自覚した上で、はっきりとした形で持っていたの。だからこそ、梓が切な
い。それであのEDでHシーン入れてその辺説明すれば梓票、増える筈・・・」
「それを「思い込み」と言うのです(きっぱり)。言い訳よりもまず・・・」(セリオ)
「まだまだですね」

http://www.asahi-net.or.jp/~iz7m-ymd/leaf/masata.htm