「第7話までだとキリが悪いから・・・。これで最後に、マジで最後です」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 第8回 「俺とセリオ・・・」 日曜日の午後。俺は、マルチを引き連れて、近くの河川沿いの草むらを散歩してい た。 「浩之さん。見て下さいっ!。お空がとっても青いですぅ・・・」 「そーだな・・・」 はしゃいでみせるマルチに、おざなりの返事をする俺。 「わぁぁぁぁ、蒲公英さんですぅ・・・キャッ!?」 と、何でもない所で、思い切り転ぶマルチ。 「・・・・・」 少し離れていた俺は、落ち着いた目でそれを見つめる。 「痛いですぅ・・・」 ウルウルと目に涙を溜めながら、俺を見るマルチ。 「・・・・・・」 「浩之さぁぁぁん、御免なさいですぅぅぅぅぅ」 と、ピクニック用に持参していたバスケットから握り潰して潰して潰したお陰で石 のように硬くなったおにぎりを取りだして、泣いてみせるマルチ。 「浩之さん、浩之さん。アリさんですぅ・・・プルプル聖火のアリさんですぅ!」 と、アリの行列を見つけて、騒いでみせるマルチ。 「お花さんがとっても美味しそうですぅぅぅぅぅ」 ご丁寧に食べようと口まで開けた仕草までして俺に見せるマルチ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 耐えきれなくなって、俺は言った。 「セリオ。マルチはそこまで馬鹿じゃないぞ・・・」 「――そうですか?」 と、これまでの無邪気さが嘘のように落ち着いた顔になる。 「ああ・・・しかも中途半端にマニアックな知識さらけ出しやがって・・・タンポポ の漢字なんて、マルチがわかるか。モハメド・アリとかも・・・」 「――・・・・」 小首を傾げるマルチ。いや、マルチの中にいるセリオ。 それは・・・寒い、寒い春の日の出来事だった。 「――対藤田浩之対処プログラム。マルチさんの反応予測・・・検索完了。『泣いて 謝る』・・・・・」 マルチは暫くの沈黙の後、今にも泣きそうな顔をしてみせると、 「御免なさい。浩之さぁぁぁぁん。私は・・・私は駄目なロボットですぅぅぅぅ!」 大声で泣き喚く。 「だぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!。だから泣くなっ!!。セリオっ!! 。これ以上マルチのフリをするのは止めてくれっ!!」 俺も、負けじと喚いた。 …これ以上・・・これ以上いると・・・壊れる。俺、壊れちまう・・・。 マルチと・・・いや、マルチのフリをし続けるセリオとの生活はもう一週間もの長 きに渡っていた。初めこそ、マルチの意識が回復するまでと我慢していたが・・・そ ろそろ、いや本当はとっくに・・・って言うか最初から限界だった・・・。 確かに、マルチの事は俺が悪かったかも知れない・・・だが・・・これでは身が持 たない。 「いいか、セリオ。確かにだな・・・」 俺が言いかけると、ふとマルチの表情が曇っている事に気付く。セリオが作ったマ ルチの顔ではない、自然な・・・セリオの・・・顔。マルチの顔を使って俺に見せた セリオ自身の心・・・。 「――私・・・」 ポツリと呟く。下を向いて、俺の顔を見ないように・・・。 「私だって・・・私だって・・・必死にマルチさんの意を汲んで浩之さんのご機嫌を とろうと頑張っているのに・・・」 「セ、セリオ・・・?」 「私・・・こうなったのは全て私の責任だと推察した上で・・・私が出来ることを出 来る限りしようと・・・」 「・・・・・」 「マルチさんが、浩之さんが喜んで戴けるようにと・・・精一杯励んできたのに・・ ・」 そこまで震えるような声で、絞り出すように言ったかと思うと、ゆっくりと顔を上 げた。俺の顔を見つめる。 「・・・・・?」 …長い・・・沈黙。 そして、ゆっくりと口を開いた。 「私、このまま修理工場に行きます。マルチさんを直して貰えるように、頼んできま す」 「え、セ、セリオ・・・・」 「大丈夫です。私の全てに代えましても・・・・マルチさんは・・・必ず・・・」 笑顔を作る。マルチの笑顔・・・だけども、俺の記憶にあるマルチの笑顔とも違う 笑顔。そして、ずっと俺の顔を見続ける。まるで、忘れないように・・・。 「そ、それはいいけど・・・セリオ・・・は?」 言い方が気になって、聞いた。 「・・・・・・・」 「セ、セリオ・・・?」 間が、沈黙が、気になった。 「気になさらないで下さい。元々、マルチさんの好意で居座らせていただいただけで すから。だから・・・」 「い、いや・・・さ。だって・・・まぁ・・・一応・・・少しは俺の責任もある・・ ・から・・・さ・・・その・・・」 「いいんです。最初の身体を破壊したのも、スペアを破壊したのも間違いなく浩之さ んですが・・・そう、浩之さんをさせてしまったのは・・・きっと私のせいなのでし ょう。そして、この間借りした身体、マルチさんの精神部分を吹っ飛ばしてしまった のもやっぱり浩之さんのせいだったりしますが・・・きっと私がいたせいで負荷がか かりやすくなっていたのでしょう・・・ですから・・・全て浩之さんが発端で、原因 で、全ての責任は浩之さんに間違いはありませんが・・・私が至らないから・・・そ れもあると思います・・・ですから・・・気にしないで下さい」 …色々な意味で、気になるぞ・・・・。 「ですから・・・いいんです」 寂しそうに、マルチ・・・いや、セリオはもう一度笑った。 「私は、今日は泣いて眠ります。そして起きたら、まず最初に貴方の姿を捜すでしょ う。これが、夢であるように・・・そう、心から願って・・・。でもきっと、やっぱ り冷たい、大型汎用機の中で目覚めるのでしょう。動くことも、喋ることも出来ない 冷たい冷たい・・・機械の一部になって・・・。だから・・・願います。マルチさん の・・・浩之さんの幸せを・・・私は・・・ずっと・・・」 「セ・・・セリオ・・・」 「さようなら、浩之さん・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 そしてゆっくりと俺に背を向けて歩き出すマルチ。 …俺には、その背中が震えているように思えた・・・。 ・ ・ ・ 数週間して、マルチは、還ってきた。セリオはおろか、その間の全ての記憶を、マ ルチは失っていた・・・。 「浩之さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」 泣きながら俺に抱きついてくるマルチ。俺はその細い弱々しい身体を抱き留めなが ら、 「誰にでも優しいと誰にでもいい顔をしたがることを間違えていませんか?」 とか、 「未だにロリコンを脱却できないのですか?」 何て、マルチの口から飛び出すんじゃないかって・・・そんな気がしたが・・・ 何も、起きなかった。 ・ ・ ・ 「わぁぁぁぁぁぁ、トンボさんが飛んでいますぅぅぅぅぅ」 俺はマルチをあの日、マルチの中にいたセリオと最後に来た河川沿いの草むらに連 れていっていた。 「あんまり、はしゃぐと転ぶぞ」 「はいぃぃぃぃ!?」 ズベシッ!! 「ううううううう・・・・」 「全く・・・しょうがないな・・・」 「ずびばぜーん・・・・」 見事に転んでくれたマルチに手を貸しながら、俺は泥で汚れたマルチの顔を見つめ た。 マルチの・・・マルチ自身の感情から作られる、マルチの・・・顔。 「マルチ・・・」 「はい」 しばらく 「・・・・いや、何でもない」 「?」 …今更、何が言えるってんだ・・・。 初めて会った時、俺を冷静・・・冷徹な目で観察していたセリオ。 俺の顔を平然と見ながら、言いたい放題好き勝手に言ってくれたセリオ。 俺の知らないところで色々な人を唆して、俺を襲わせたセリオ。 問いつめた俺に軽く切り返して、酷薄な言葉をかけてくれたセリオ。 マルチとの再会にこれ以上ない言葉でもって凍り付かせてくれたセリオ。 …そのセリオは・・・もう・・・いない・・・。 やけに夕日が、赤く感じた・・・。 …これで、いいんだ・・・これで・・・。 どこがいけないところがあるのだろうか。いいや、俺はどこも間違ったことをして いない。当然のことをして、当然のことを言ったまでだ。非は、ない。俺は・・・俺 は間違ってない。だから、後ろめたくなんか・・・ない。 だけど・・・どこかはっきりしない・・・胸に突き刺さるような、痛み。 この痛みは・・・なんだろうか・・・俺は・・・俺は・・・。 「浩之さん?」 気がつくと、はしゃいでいたマルチが俺を心配そうに見上げていた。 「マルチ・・・」 【選択肢】 1,更にセリオの事を考える。 2,これ以上、セリオの事など考えない。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1,更にセリオの事を考える。 純真で、無垢で、正直で、汚れのない・・・素直な、マルチ。 …いや・・・セリオだって・・・あいつだって・・・。 …このままで・・・このままで・・・いいのか・・・俺は・・・正しいのか・・・ 本当にこれで・・・。 「浩之さんっ!?」 気付いたら俺は・・・走り出していた・・・。 …謝ろう・・・あいつに・・・。 …正直過ぎた、あいつに・・・。 …ちょっぴり悪戯好きだった、あいつに・・・。 …自己表現が苦手だった、あいつに・・・。 このままでは・・・俺は・・・後悔する。 これからの人生、一生後悔する。 …セリオタイプが売り出され、彼女らの顔を見る度、哀しみが思い出されるなんて 、御免だ・・・。 これからどうなるか・・・会ったところでどうなるか・・・。 そんなのは、分からない。 だけど・・・もう・・・俺はあいつのことで悩まされるのは・・・御免だ。 だから・・・走った。 俺はもう・・・セリオを忘れることなど、できやしないのだから・・・。 <おしまい> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 2,これ以上、セリオの事など考えない。 「そろそろ・・・帰るか」 「はい」 俺は、マルチの頭を撫でながら、気を取り直した。 …今更・・・何だって言うんだ。 これから・・・俺は再びあのメイドロボットに出会う前の輝かしい人生を取り戻そ うとしているんだ。引きずられて・・・どうする。俺にはマルチがいる。あかりもい る。他にも・・・いる。んな無機質な奴にこれ以上、振り回されることがないのは喜 ばしい事であって・・・それ以上、なにものでもない・・・。 そう、思い直した。 そして、俺とマルチが帰りかけたその瞬間、道ばたで声を掛けられた。 「浩之ちゃん」 「!?・・・あ、あかりか・・・」 聞き慣れた幼なじみの声。俺は何の気なしに振り返った。 「聞きたいこと・・・あるの。いい、かな?」 「え、ああ・・・いいけど・・・」 何故か・・・あかりは俺をマトモには見ようとしなかった。マルチのせい、だろう か?。そして暫くためらうような間があり、ようやく言った。 「浩之ちゃんって・・・サド?」 俺の全てが、白くなっていった・・・。 「ちょ・・・ちょっと待て!!。な、何だよ・・・それ・・・!!」 慌てて言いかける俺に、あかりは一枚のDVDを取りだした。 「そ・・・それは・・・?」 「送られてきたの。私の・・・ところに。ううん、私だけじゃない・・・志保も、智 子さんも、レミィも、葵ちゃんも・・・皆、持ってる・・・」 これ以上、何を言うことがあろうか。 セリオの最後の復讐。 そしてこのDVDはこれから発売される全てのセリオタイプに組み込まれる。あの 俺にとって忌まわしい思い出を全て抱えながら・・・そう、俺はこれからの全てのセ リオに対して・・・恥ずかしい思いを抱えることになる・・・。 「あかりさん・・・」 「なあに、浩之ちゃん」 いつもにもまして、冷たいあかりの声。だが、俺は構わずに続けた。 「俺を・・・殺してよ・・・」 遠慮なく近付いてくるあかり。立ち尽くして動けないでいるマルチ。 そして俺は・・・。 <おしまい> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「もう少し、マジっぽくしたかったケド、デンパマンの時と同じ「ラストで急に皆、 いいひと」状態になってしまったので、二つに分けて短くしました。これで本当に最 終回です。3度目の正直です。セリオについての真面目な話は別でやっているので、 こちらで深くやる必要もないでしょうし」 「そうかな?」(河島はるか) 「そうなの。「どう天〜」シリーズは本編が書き終わったけど、番外編を大学編にし て続きを書くつもりだから・・・セリオ真面目話はそこで書くの」 「ふうん。大変だね」(河島はるか) 「う・・・うん・・・(何か張り合い無い・・・)。で、気まぐれで書き続けましたが 、シリーズ全て読んでくれた人、ありがとうございました」 「短かったけどね」(河島はるか) 「くくく・・・・」