『どうしようもない僕に降りてきた天使 〜番外編〜』 投稿者:久々野 彰
「この話は現在、久々野彰が書いているセリオ長編SSの話の番外編・・・ともちょ
っと違う気もしますが、まぁ、適切な言い方が分からないもので、そうして下さい。
 そして、これはテーマとしてメイドロボットを『A musical box』の反対側の見方か
ら捉えています。メイドロボットを愛するセリスさん、鈴木R静さん、そしてあの作
品について色々言って下さったその他の人たちへ、真に勝手ながら贈ります・・・」
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『Sexual intercourse means "LOVE".』


 …あれ・・・?

 何故だか、足が止まった。

 急に懐かしい風が吹いたようなそんな錯覚に囚われたのだ。


「リバイバル・・・か?」
 そして僕はその映画館の前で立ち止まり、時代遅れの象徴とも言うべき大きな看板
を見上げていた。どうも視界の隅にその映画のタイトルが入ったらしい。そしてその
映画は、僕が子供の頃に見た、懐かしいと言うより、忘れていた筈の映画だった。
「そうだ・・・間違いない」
 細かい説明部分を読んでみて、納得する。

「・・・どうなさいましたか?」
 隣を歩いていた僕が急に立ち止まったのに気付いて、セリオは僕の所まで歩いて戻
っていく。
「あ・・・ああ・・・」
 一度は再び歩き出そうとしたが・・・
「セリオ」
「はい」
 何故か声を掛けていた。


「映画、見ていかないか?」

・
・
・

 ジジジジ・・・・

 レトロな音が、映画館に僅かに響く。この時間は、僕達の貸し切りになっていた。
 スクリーンでは物静かな音楽と共に、二人の人間を中心に物語が進行していた。

 どうして子供の頃、見ていて詰まらなかったかが分かった。

 …これは・・・恋愛映画だったんだ。

 父と母に連れられ、見た映画。そう言えば、その日は特別な日だったような気がす
る。多分、結婚記念日か何か・・・。
 あの時の僕は、そんな両親が思い出に浸る為に見に来ていた映画館で、ただ退屈に
時を過ごしていたのだ。確かに、この映画は子供には詰まらない。内容も変わったも
のではない。男がいて、女がいる。そして二人は愛し合い・・・と、何の裏もない、
有り触れた恋愛映画だ。

「・・・・・」

 だが、その内容は引き込まれる物があり、ちょっと二人の心情に近付いて、胸が苦
しくなる。ひねていた筈の僕だが、意外と涙もろいのだ。

 …そう言えば、あの時もお袋は涙を零していたっけ。そして、親父がハンカチをそ
っと手渡すと、グシャグシャに握りしめて目元を拭いていたんだよな・・・。

 その時を思い出し、隣にいるセリオをチラリと見る。
「・・・・・」

 勿論、泣いてなどいない。
 いつもと変わらない、その無表情な瞳で、スクリーンを見続けていた。期待はして
いなかったが、やっぱり残念でもある。

 セリオはあの頃の僕のように、分からないことを聞いたりしない。彼女は自分が分
からない事は、自分で調べることが出来る。その方が不確かな僕の知識よりも正確な
情報を得る事が出来るし、僕を煩わせる事もない。あの時、考えてみれば随分と邪魔
をしたものだ。退屈な自分に構って貰いたかったのだろう。今思うと、悪いことをし
たと思う。
 セリオはそんな真似はしない。僕に聞くのは、僕と、その身の回りのこと、つまり
いくら衛星に聞いたところで分からない些細なことだけだ。


 物語も終盤にさしかかり、二人はお互いの愛を確かめる行為を幾度となく繰り返し
ていた。

 …おいおい・・・この映画は成人、いや最低でもR指定じゃないのか?

 このシーンは正直、記憶にない。


 ベッドの上でもつれ合い、絡み合い、身体を重ねる。
 キスを繰り返し、愛の囁きを、絶叫と共にお互いに確かめ合う。


 そして翌日、女性はベッドで眠っている男性を起こさぬまま、旅支度をしてその屋
敷を去っていく。

 …このシーンは、あった気がする・・・。

 どうやら僕が見たのは修整が入っていたらしい。まあ、子供の僕が一緒に入れたの
だから、そうなんだろう。
「・・・・・」
 結構長いベッドシーンに、僕は途中、チラチラとセリオの方を見たのだが、当然な
がら顔色一つ変えず、目も逸らすことなく、普通に見続けていた。


 そして、再会。
 二人は、笑い、泣き、最後に抱きしめあって、キスをする。
 THE END。

 ・・・映画は、ハッピーエンドで終わった。あの時と変わらず。



「ふぅ〜〜映画なんて、久しぶりだったなぁ・・・」
 薄暗い映画館を出て、僕はそう言いながらわざとらしく伸びをする。
「・・・・・」
 セリオは無言で、それに続く。
「セリオ?」
「はい」
 ちょっとセリオの表情が違って見えたのは、僕の気のせいだっただろうか?。
「どうだった?。面白かったか?」
「面白い・・・映画の事、ですか」
「ああ」
 セリオの答えは、いつも杓子定規で固められた平凡なものである。感情の事を聞け
ば、それについて否定する。
「自分がどうだから・・・じゃなくて、今、自分で思ったことを聞かせてくれ」
 自分の立場から入るセリオには、まずこう言う事にしていた。が、
「あの映画は、面白いと言う言葉の概念に該当するような部類を意図して作られた物
ではないように思いますが・・・」
 と、来る。メイドロボットとすれば当然の考察力から出る答えなのかも知れないが
、僕に言わせれば、その言い方はかなりの偏屈か頑固者である。
「僕の言う「面白い」は単なる「面白い」じゃなくて・・・作品として良かったかな
ってさぁ・・・」
 だから、更に言葉の説明を必要とする。
「作品として優れているか否かは、個人の価値観による物でして、返答しかねますが
・・・」
「だから、「セリオがどう思うか」だよ。僕が聞きたいのは・・・」
 単なる質問でも、ここまでかからないといけない。これでもかなりマシになった方
である。学習能力がついている筈だが、もしかしたらこれが彼女の「地」なのかも知
れない。僕はそう思うことにしている。
「セリオが感じたこと、聞かせてよ・・・」
 苦労して話を進めた分、解答を期待するのは当然だろう。だが、これまでは僕の期
待に応えてくれた事はない。やはり平凡な答えが多い。
 でも、それでも満足はしていた。それは紛れもなく"セリオ"が自分で考えた"答え"
なのだから。


「・・・疑問がありました」
 そして今日は、初めて、セリオは僕の思惑に応えてくれた。
「疑問・・・?。それは・・・何だい?」
 ちょっと嬉しくなって聞き返す。こんな風にセリオが言うのは、そうある事じゃな
い。もしかしたら、教育の成果だろうか。だとしたら、めげないで良かったと本当に
思う。


「あの映画の途中のシーンですが・・・」

 あのベッドシーンの事だった。
「あの二人は何をしていたのかが、分かりませんでした」
「え?・・・だって・・・それは・・・」
 ややドギマギする。

 …もしかして、いつも口うるさく追求する僕をからかっているのではないか?
 …あの時ジロジロ横目で見ていたのに気付いたとか?

 そう邪推してみるも、全く表情に変化はない。もし企みがあったとすれば大した役
者である。と、言ってもいつも通りの顔なのだが。
「し、知らない訳はないだろう?」
 と、僕はやや照れくささと、動揺から言葉を端折りながらも男女の性行為について
話すと、
「それは知っています。ですが・・・」
 まさか観察した結果、実際にはしていなかっただとか何とか話がヤバイ方向に向か
うのではと、本当に危惧したのだが、問題は別の事だった。

「どうして、あそこで性行為が必要なのでしょうか?」

 彼女の疑問はそうだった。純粋に映画のストーリーとして、疑問に感じたらしい。


 …確かに、カットした部分だもんなぁ・・・。

 だが、それは子供でも見せられるものにしたからであって、不要なシーンではない
。あそこで、お互いがお互いを強く愛し合うことを確かめあい、深く信じ合う事で、
女性は安心して旅立つのだ。無くていいシーンではない。

 僕はその事を説明したのだが、
「そうですか・・・」
 残念ながら、納得はして貰えなかったようだ。


 …何故、愛を確かめ合うのに、性行為が必要なのか・・・?

・
・
・

「・・・・・」
 家に戻り、セリオが台所で食事の支度をしている最中ずっと、僕は部屋の真ん中に
大きく寝転がりながらその事を考え続けていた。

 …セックス・・・性行為でお互いの愛情を確かめ合うのは・・・人間だけなのだろ
うか?


 はっきり言って分からない。だが、人間はそうだと思う。そうでなくては、本当に
あのシーンの意味が無くなる。
 何度か考える。だが、分からない。

「食事の支度が出来ましたが・・・」
 呼ばれて、初めて我に返る。
「え・・・あ、ああ・・・」


・
・
・

「・・・・・」
「眠れないのですか?」
 布団の中で隣で寝ているセリオが声を掛けてきた。別にセリオまで布団で寝る必要
などないのだが、これには訳があった。
 詳しい経緯は省くが、セリオは炬燵以外の暖房器具を殆ど持たない僕の壊れた電気
アンカの代わりとして、僕の布団にいてくれていた。今も、常温よりやや高めに体温
を設定して布団を暖めてくれている。
 これも色々あって初めは文字通り足下の部分に丸まって潜り込んだのを説得し、次
に抱き枕状態になる事を言いだしたのをやんわりと断り、取り敢えず今は添い寝に近
い状態で眠ることにしていた。最終的に断らなかったのは男のプライドよりも、冬の
布団の極度の冷たさと、セリオを"維持"する為から発生する容易に買い換えの出来な
い金銭面の事情が勝った訳である。それともう一つ、理由はがあった。
 これは"セリオ"が言いだしたこと"だったからだ。
 勿論、自分がいることでの財政難と、主人に仕えることから言いだした事なのだろ
うが、その時はかなり嬉しくて、すぐに承諾しかかってしまい、かなり慌てたもので
ある。端から見れば、かなり恥ずかしい光景であった。

 …人には見せられないな・・・。

 まぁ、普通寝ている所に第三者が来ることは、泥棒などでも無い限り無いわけで、
本当の理由は自分が気恥ずかしいだけだったのだが・・・そんな動揺する自分に対し
て、セリオは全くの恒常なままでいた事もあり、もう今では何となく慣れてしまって
いた。
 だが、妥協案の添い寝状態では、当然ながら直接暖まれる訳ではない。先に入った
セリオが布団の中で移動して、そこに潜り込みひんやり感を無くすだけなのだが・・
・それだけでも大分違った。そして僕が寝るのを確認してから、セリオも充電に入る
・・・らしい。

「・・・え、あ、いや・・・」
 こちらから声を掛けない限り、布団の中でセリオと会話をすることはあまりない。
だからこそ、動揺する。
「やはり・・・」
 どうも、彼女もあれから、僕の様子がおかしいのを気にしていたらしい。何だかん
だ言っても彼女はメイドロボ。例えこちらから求めたにしろ、自分の発言がきっかけ
で主人が考え込んでしまう羽目になってしまった事に反省しているのだろう。長い付
き合いとは言わないが、これだけ彼女に色々と関わっていると、大体分かってくる。
「私の――」
「ストップ」
 謝罪の言葉を言いかけたセリオを制する。
「良いんだよ。セリオが言った事が悪いとかどうって言うんじゃないんだから・・・
」
「ですが、きっかけは私の発言からですし・・・」
「むしろ、そういう事を考えさせてくれる事が、嬉しいんだ。とても・・・」
「・・・・・」
 よく、僕はこういう時にそう言う。セリオも分かっているので、更に言うことはな
い。初めは納得させるのに数時間かかったものだ。
「当たり前のように思っていた事に、疑問を持たせてくれた、気付かせてくれた事が
・・・ね・・・」
「ですが・・・」
「ああ、でも明日は大学も休みだし・・・少し、夜更かししてもいいんじゃないかな
?」
「はい・・・」
 素直に頷くセリオ。

 …難しいよな・・・実際・・・。

 基本的に主人に「盲従」するメイドロボットに、疑問を発言させる事は至難の業だ
。特にセリオタイプは衛星を使ったサテライトシステムで、世界中のありとあらゆる
情報を自分で入手出来るので、疑問自体が少ないのは前述した通りである。

 そのセリオが折角言ってくれた疑問だ。キチンと応えてあげたい。

「・・・・・」
 チラリと、セリオを見る。変わらない、いつもの顔。


 …そう言えば、メイドロボットも一部のものは性行為も可能だって話だ。そこまで
追求した物は高価な物だから、なかなか実際に試したことがある人はいないだろうが
・・・来栖川の最高級品、この"セリオ"も可能な筈である。


 その時、どんな顔をするのだろう・・・。


 ちょっと馬鹿な考えになる。でも・・・


 どうしてそんな機能を作ったのだろう・・・。


 ただのダッチワイフの為か?。ちょっとした悪戯心か?。


「・・・どうしたのですか?」
「え?」
 気付くと、セリオの顔をずっと見つめ続けていたらしい。セリオがこちらを見て、
訊ねる。

 顔がすぐ横に、ある。不思議そうにする、顔が。

「あ・・・・」
 その時、僕はかなり動揺する。ふとよぎった、思い。偽らざる、思い。

 …そうか・・・。

 そして僕は、ふと思いつく。


 彼女たちを・・・セリオを愛して欲しい・・・。


 開発者達のそんな思いが、込められていたんじゃないだろうか。そんな考えが浮か
ぶ。

 ――身体を重ねることで、お互いの愛情を確かめ合う人間。

 理屈ではないのかも知れない・・・言葉が発達され尽くした人間だから、あらゆる
表現方法をやり尽くした人間だからこそ、その最も大切な所をその最も原始的な方法
で表現する事にしたのだろうか?。どうなろうと永遠に変わることのない、人間のコ
ミュニケーション・・・。


「セリオ・・・」
「はい」
「・・・・あ、いや、いいや・・・」
 自然に伸びかけていた、手を引っ込める。
「・・・?」

 …今はまだ・・・。

「寝よう」
「・・・はい」

 そして、僕は目を閉じた。 

 …今はまだ・・・。

 目を閉じたまま、ゆっくりと考えるが・・・次第に眠りに落ちた。
 そして、夢を見た。あの映画の、夢だ。

・
・
・

「いつまでも・・・」
 彼女はそう言って眠っている男性の頬に口づけを交わす。


 …僕にはその彼女がセリオに見えた。


                           <完>
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「前から書きたかった話ですが、きっかけがなくて・・・で、今書いている『どう〜
天〜』の二人で書きました」
「『どう〜天〜』って仮題でしょ?・・・まぁ、いいけど」(梓)
「『A musical box(未完成版)』では生殖器(身も蓋もない言い方だな)が付いている
理由を「ダッチワイフ」の一言で片付けています。それに不満を持つ人がいるのを承
知で書いたのですが・・・「ではどうして?」なるSSを書きたかったんです。で、
書きました」
「これに触れてるSSも結構あったケドね」(綾香)
「それと・・・メイドロボットの悲劇を書いた時から、メイドロボットの幸福を書き
たかったので書いている『どう〜天〜』。無口の人様のやdye様のとは比べようが
ないケド・・・完成するのか?」
「最近は全く手をつける事もないらしいけどね・・・」(綾香)
「それより、マジで生きていけるの?。今のままで?」(梓)
「まあまあ・・・ここでは発表出来そうもないので、一寸だけでも紹介出来て良かっ
たです。電気アンカの部分の話も少しだけど書けたし。でも、本当に言いたかった事
、書ききれているかな・・・?」
「あ、タイトルの英語、間違ってたら指摘して欲しい・・・そうです」(葵)
「あら、いたの・・・?」(綾香)
「はぃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(赤)」(葵)


「でもさ、コイツ・・・アレを書いた頃は「マルチ賛美風潮」に対抗してだったでし
ょう?。そして最近は落ち着いたけど「マルチ悲劇風潮」が暫く続いたじゃん・・・
やっぱりただの天の邪鬼からなんじゃないの?」(梓)
「そうかも。後、原案ではセリオとしちゃう部分もあったそうよ。でもそうするとそ
こに至るまでの説明も必要だし描写も書かなくちゃいけないし・・・で挫折したみた
い。本人は「長くなっちゃうから」って言ってるケド・・・」(綾香)
「本編の方に入れるからいいの!!」