−第4章『この世の果てでデンパを放つ少年』− PART37 「香奈子、オマエもか」 「あれ・・・瑞穂。どうしたの?」 登校してきた瑞穂に、同級生が驚いたような声をかける。今日の瑞穂はいつもの彼 女と違った。 「え・・・その、ね。コンタクトにしてみたの・・・」 照れくさそうにはにかんでみせる瑞穂。そう、彼女の顔にはトレードマークともい える眼鏡がなかった。 「でも・・・どうして眼鏡を握りしめてるの?」 彼女の右手には、今までかけていた眼鏡が、眼鏡ケースに納められて握りしめられ ていた。 「ああ、これね・・・私、何時でも手元に眼鏡がないと安心できなくて・・・」 「ふ・・・ふうん・・・」 よく分からない顔をするクラスメート。その時、 「やあ、藍原君じゃないか」 雪山で遭難し、凍死しかかったとの噂がある月島拓也が二人の背後から、瑞穂の後 ろ姿に気付いて声をかける。 「あ・・・月島先輩」 「え"・・・」 瑞穂が振り返った途端、拓也の顔が凍り付く。 「あ・・・あのう・・・」 「?・・・どうしたんですか?。月島先輩?」 表情が見る見る青ざめ、脂汗をダラダラと流す拓也に、二人は怪訝がる。 「あ・・・いや・・・その・・・何だ・・・だ、大丈夫なのかね?」 「え?」 「顔色、悪いですよ」 「は・・・はは・・・無事なんだね。そ、それならいいんだ・・・じゃ、じゃあ!」 慌てたように、その場を立ち去っていってしまう拓也。 「私・・・そんなに変かな・・・?」 少し、しょんぼりしたような顔をする瑞穂を、 「そ、そんな事ないよ。ただ、驚いただけだと思う・・・」 そう同級生が慰めていると、 「藍原先輩っ!!。おはようございますっ!!」 礼儀正しい、けど大きすぎる声でやって来た葵が挨拶してくる。 「あ、葵ちゃん・・・」 「葵ちゃん。おはよう」 「あれ?。藍原先輩、眼鏡・・・コンタクトにしたんですか?」 「うん・・・変・・・かな?」 「そんな事ないですよっ!。ただ、眼鏡をかけてないとその他大勢に紛れ込むと見分 けがつかないとか、文で表現するとき困るとか、真面目意外個性が無くなるとか、多 少の弊害はあるかも知れませんが・・・全然、バッチグーです」 力強く、親指を立ててみせる葵。 「そ・・・そう・・・」 段々、沈んでいく瑞穂。 「あ、吉田さん・・・」 「あら、瑞穂・・・イメチェン?。私との区別、つくんでしょうね?」 「・・・・」 「桂木さ・・・」 「え・・・誰です?」 「長瀬く・・・」 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、許してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」 「・・・いーんだ、いーんだ・・・私なんか・・・」 香奈子の病室で、いじけている瑞穂。 「香奈子・・・私・・・」 「ミズホ、ニアワナイ。ミズホ、ニアワナイ。ミズホ・・・」 ひゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ〜 病室の窓が開け放たれて、カーテンが風に靡いている。 「あら?。藍原さんは?」 病室に入ってきた看護婦が首を傾げる。 <完> PART38 「葵い鳥」 「やあ、右子、左子」 「あの・・・私・・・」 「・・・吉田由紀です」 校舎の屋上で、拓也は二人を呼びだしていた。しかも、普通の状態で呼び出してい た。 「こないだはすまなかったな・・・」 「あ・・・いえ・・・」 「医者に、「もう少し遅かったら手足の指切断するしかないところだった」って言わ れましたけど・・・」 「死ななかったんだから・・・よしとしてくれ」 「そうですね」 「アンタね・・・」 あっさりと同意する美和子に、由紀は冷ややかな顔を向ける。 「・・・で、まさかわざわざ謝るために呼び出した訳ではないですよ・・・ね」 「勿論・・・」 つき合いきれないとばかりに、由紀が拓也に尋ねると、 「実は・・・君たちに頼みたいことがある」 「任せて下さい」 「お断りします」 「・・・・・・」 同時に違う反応が返ってくる。 「もう一度、聞く。僕の頼みを・・・」 「嫌です」 由紀はもう一度、はっきりと言う。 「頼むよ」 「ハイ・・・」 コクコク 「ああ、やっぱり・・・」 瞳が虚ろになる由紀がカクカクと首を振って答えると、美和子が嘆息する。 「どうやら・・・僕に何者かが嫌がらせをしてきているんだ。まあ、頭が良く、スポ ーツも万能、ルックスその他諸々、まるで神の分身とばかりに申し分ない僕が、心な い連中に逆恨みされる事はあっても、多少は仕方がないと思っている。今までもそん な事が多々あったが、心を込めて話し合った結果、無事に解決してきた」 「はぁ・・・そうですか・・・」 抵抗するのも疲れたのか、諦めきった顔をして由紀がぼやく。 「だが、今までとは違い、今度の相手は卑怯な手段を使って僕の前に姿を表さない」 「なんて・・・卑劣な・・・」 「まあ、当然でしょう・・・」 対照的な反応を見せる。 「僕の上履きに画鋲を入れたり、ジャージにまち針を仕込んだり、無言電話をかけて きたり、椅子の脚を一本、折れやすくしておいたり、机に彫刻刀で「死ね」と彫った り、校内に貼られた僕のポスターの鼻の部分に画鋲を突き刺したりと・・・小癪な手 段ばかりを使って・・・」 「ひどい・・・何て事を・・・」 「少しは賢くなったと・・・」 「左子君。まさか、君じゃないだろうね・・・」 「CV:平松晶子。あれでは二役やってますって・・・もういい。違いますよ・・」 「だったら誰が・・・」 「わざとボケてると思ってたんですけど・・・違うようだから、言いますけど」 「何だね?」 「さっきから、あそこでじっと敵意の籠もった目で見ている彼女。彼女じゃないんで すか?」 由紀が指差す先に、給水タンクの影に隠れて双眼鏡を持って様子を窺っているつも りの好恵がいた。いや、隠れてなどいないと言えよう。その姿はここから丸見えだっ たのだから。 「そこの君っ!!。何をしてるのだねっ!!」 拓也が叱責すると、 「えっ!?・・・あの・・・その・・・バードウオッチングですっ!!」 好恵が慌てて答え、何もいない青空に双眼鏡を向ける。 「だ、そうだ・・・下司の勘ぐりはいかんな・・・」 「もう、いいです。何も言いません・・・」 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!!!!!!!!!!!」 美和子が急に叫び出す。 「っ!?。ど、どうしたのよ。急に大声あげて・・・」 「右子。何だと言うのだ?。まさか、心当たりでも・・・」 「そうじゃありません・・・。あそこ・・・立ち入り禁止だった筈じゃ・・・」 「あのね・・・」 「何っ!?。君っ!!。いかんな、そこは生徒が立ち入っちゃいけない場所だぞ」 スタスタと好恵の方に歩いていく拓也。 「え・・・あ・・・先生の許可、取ってます、多分・・・」 「そうか、ならいい・・・」 「え・・・ちょっと・・・由紀・・・」 「いいから・・・帰るわよ・・・つき合いきれないわ・・・」 美和子の両肩を掴みながら、屋上から立ち去る由紀。 「君は・・・何が好きなんだね?」 「あ、葵ですっ!!」 「葵鳥かね・・・あれは、日本ではなかなか・・・」 そこにはかみ合わない会話を続ける二人だけが取り残されたのだった。 <完> PART39 「プレゼント大作戦」 「月島先輩・・・」 「ん・・・君はハムサンド君じゃないか」 「もしかして・・・わざと言ってませんか?」 葵がちょっと困ったような顔をしてみせると、 「はっはっは・・・分かったかね・・・」 高らかに笑う拓也。 「もう・・・先輩ったら・・・」 そこで何故、頬を赤らめる。葵!。 「で、カツサンド君。一体何のようかな?」 「松原葵です」 ケロリとした顔をして言う拓也に、今度は失望感を胸に訂正する葵。 「その、先輩・・・先輩が好きな物って・・・」 「瑠璃子」 即答する拓也。こんなトコ、ちょっと祐介に似てるな。 「瑠璃子・・・ああ、先輩の妹さんですね。とっても可愛くて・・・私も、あんな妹 欲しいです」 「あげないよ」 「わ、わかってます・・・その、で・・・先輩が今、欲しい物って・・・」 「瑠璃子の愛」 「愛・・・ですか?」 流石に、葵も拓也の普通ならざるものに気付いたらしい(今頃かい)。ちょっとぎょ っとしたような顔になる。が、 「そうですか・・・妹さん・・・好きなんですね」 「ああ。愛してるからな」 どうやら、痘痕も靨状態らしい。めげないぞ。 「・・・物で欲しい物、あります?」 「物?」 「はい・・・プレゼントされたら嬉しい物って・・・」 「そうだなぁ・・・?」 腕組みして考え出す拓也。 「瑠璃子がくれる物だったら何でも・・・」 「はぁ・・・」 「それ以外だったら・・・う〜ん。他で今まで欲しい物は、だいたい手に入れてきた からなぁ・・・」 「すごいんですね」 「まあね。う〜ん・・・やっぱり瑠璃子の物だったら、何でも嬉しいな。しかも普段 身につけているものだったら・・・尚更だね」 いい加減、そこから離れろ。 「わ・・・わかりました・・・じゃ・・・じゃあ・・・」 「ああ。またな」 拓也はニブチンだった。 その夜・・・ 「葵・・・」 一軒の家の近くで好恵が泣いている。塀には、ほっかむりをして黒装束に身を包ん だ葵が登っていた。そして、棒を使って二階のベランダにある物干し竿から、瑠璃子 のショーツを取ろうとしていた。恋は盲目・・・でも、流石にあんまりである。 「でも・・・何にでも熱血出来るそんな貴女が好き・・・」 隠れて見守っているつもりの好恵の表情は嘆いているのか、歓喜にむせているのか 判別がつかない。 ガタンッ!! 「!?」 葵はすくい取る事は成功したが、拍子に物干し竿を落としてしまう。慌ててブツを 握りしめて塀を飛び降りると、そのままダッシュして逃げ出す。 「葵っ!!」 葵の失敗を見て、慌てた好恵が飛び出して来たが、逆方向に走り去っていってしま った為に取り残された形になる。脇で葵が持ってた棒が音を立てて落ちて、転がる。 ガラッ!! 「・・・・・」 二階の自分の部屋の窓を開けたパジャマ姿の瑠璃子と目が合う。寝ていたとは思え ないほど、パッチリと目は見開き覚めていた。 「・・・何、してるの?」 「・・・バード、ウオッチング・・・」 首に下げていた双眼鏡で、勿論何も見えない夜空を覗き出す好恵。 ウゥゥゥゥゥ〜〜〜 何処かで野犬が、吠えた。 翌日、下駄箱で待ちかまえていた葵が、拓也に 「せ・・・先輩っ!!」 「あ・・・カツ、レツ、キッカじゃないか・・・」 「先輩・・・その、これ、受け取って下さいっ!!」 包装紙にくるんだ包みを手渡す。だが、上手くくるめなかったらしく、変梃な包み 方だった。リボンも固結びでつけられていた。 「あ・・・葵ぃ・・・」 松葉杖をついた全身包帯でくるまれた好恵が、その光景を涙を浮かべて見つめてい た。 <完> PART40 「世界一、幸せな日」 げっそりと疲れ果てた表情で、拓也は言った。 「僕は殺されるかも知れない・・・」 「はぁ・・・?」 「な・・・」 「誰にです!?」 「どうしてです!?」 「どうでもいいですケド、どうしていつもここで話すんです?」 拓也は生徒会室で、由紀、祐介、葵、美和子、瑞穂の前でそう言った。 「理由は分からない」 最後の瑞穂の言葉を無視して、 「でも、殺されるかも知れない・・・」 痩せこけた頬、窪んだ目、これが理由の無い自信に満ちあふれたあの月島拓也とは 思えない豹変ぶりである。 「もしかして・・・以前おっしゃっていた、例のストッパー!!」 「美和子・・・もしかして、ストーカーって言いたかったの?」 「先輩っ!!。私に出来る事があれば・・・」 「だから・・・業務の邪魔なんですけど・・・」 コンタクトを止めて眼鏡に戻したらしい瑞穂が、頭に包帯を巻いたまま呟く。 「分かってないなぁ・・・月島先輩が恐れるのはこの世にただ一人・・・」 祐介が自信満々に言い出すと、拓也も僅かに頷く。 「これは今朝からだった・・・」 「・・・ちゃん・・・お兄ちゃん・・・」 「う・・・ううん・・・る、瑠璃子っ!?」 「お兄ちゃん・・・お早う」 目覚めると、瑠璃子がいた。優しく、揺り起こす瑠璃子が。 「瑠璃子・・・だよな」 拓也が寝過ごせば、放っておいて先に学校に行ってしまう事はあっても、こうして 起こしに来る事など・・・あの事件以来、皆無だった。 「おかしなお兄ちゃん。早く、顔を洗って目を覚まそうよ」 クスクスクスと、おたまを持った右手を口元にあてる。気がついたら、彼女は制服 の上にエプロンをつけていた。 「こ・・・この匂いは・・・味噌汁・・・?」 「朝食、作ってあるから・・・一緒に食べよう」 「あ・・・は、はいっ!!」 100万$の笑顔を惜しげもなく拓也に向ける瑠璃子。こんな事は例えればパチン コのフィーバーが60回とちょっと連続で来て、打ち止めと共に店長が泣いて土下座す るような事態である。 つまり・・・ありえない事である。 「こ・・・これは・・・」 キラキラキラ〜 拓也は顔を洗い、向かった食卓には、古今東西のありとあらゆる食材が使われた御 馳走が並べられていた。いつの間に揃えたのだろう。少なくても、昨日夕食を作った 拓也が台所にいた時にはこんな物は一つも見あたらなかったと言うのに。 「お兄ちゃんの口に、合うといいんだけど・・・」 はにかんでみせる瑠璃子。思わず頬を抓る拓也。 「えぇっ!?」 「あ・・・あの瑠璃子さんが・・・」 「信じられない・・・」 「あの、皆さん・・・?」 思わず引きまくる周囲に、一人、怪訝そうな顔をする葵。 「世界が・・・世界が終わるのっ!?」 「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」 「確かに頼まれて全国を回って食材を買ったのは僕だ・・・でも、どうして・・・先 輩に振る舞うなんて・・・そんな・・・」 「あのう・・・瑠璃子さんって・・・?」 一人我関せずって顔をして仕事をしていたが、流石にペンを取り落としていた瑞穂 に、葵が尋ねる。 「例えて言うなら・・・橋本総理がメイド服を着て共産党の不破委員長にモーニング サービスを届けたって所かしら・・・今度の事って」 「甘いわ、瑞穂。そんな生やさしい話じゃないわよ。美味しんぼの最終回が海原が「 実は儂とオマエは親子じゃないんじゃぁぁぁぁ」って言うとか、鉄鍋のジャンの最終 回が大谷が「実は儂とオマエは親子なんじゃぁぁぁぁ」って言うとかぐらいの・・・」 「違うわよ、由紀。センチメンタルグラフティの追加エンディングが某国に移住して 12人全員と結婚して仲良く暮らしたっていう・・・」 「違う違う。久々野彰の正体が実はクリントン大統領だったぐらいの・・・」 「何だかよく・・・分かりません」 「とにかく・・・天変地異クラスの出来事だと・・・」 「そ、そんな人なんですか?。瑠璃子さんって・・・?」 葵が拓也に尋ねるが、 「何か語弊がある言い方だな・・・」 としか答えなかった。 「今日もいい天気ね。お兄ちゃん・・・」 「あ、ああ・・・そうだな」 並んで登校する瑠璃子。最近では、わざと時間をずらしているのではと邪推したく なる程、一緒に登下校する事などなかったので、拓也は歓喜に震えていた。 『僕は世界一の幸せ者だぁ・・・うおぉぉぉぉぉ――、世界一ぃぃぃぃぃぃぃ!!』 顔を紅潮させ、目尻から滲み出る涙を指の腹でしきりに拭う。 「お兄ちゃん!」 少し前に出た彼女は、両手を回して鞄を後ろ手に持ちながら拓也の方を振り返る。 「え・・・あ、何だい?」 幸せの花園に埋もれて眠っていた拓也は、瑠璃子の呼びかけに気付いて現実に呼び 戻される。 「お兄ちゃん・・・もしかして・・・瑠璃子と歩くの、嫌?」 ブンブンブンッ!! 首を強く横に振る拓也。首が千切れんばかりの勢いだ。 「そう・・・良かった」 陳腐な言い回しだが、まるで向日葵の大輪の花が咲いた様に、ニパアァァァ、と眩 しい笑みを浮かべる瑠璃子。この笑顔を見たら例え拓也でなくてもイチコロである。 「今日は早く帰ってきてね。お兄ちゃんの好物、作って待ってるから・・・」 昇降口まで来たとき、瑠璃子は拓也に手を振りながらそう言った。 「ああ・・・」 完全にサキュバスにでも魅入られた様に腑抜けな状態になった拓也が手を振る。だ が唐突にその時、彼の脳裏に、 最後の晩餐 と、言う単語が閃いた。そして徐々にそれは彼の心を恐怖のドン底へと確実に浸食 していった。この日一日、自分が学校で何をしたか覚えていない程・・・。 「え・・・じゃあ、今朝の事、覚えて下さってな・・・」 「確かに・・・最後なのかも知れませんね・・・」 「・・・嬉しそうですね。理由は聞きませんが・・・」 葵の言葉を遮って言う祐介の言葉に、瑞穂が言う。 「どうせ、僕の死を願ってやまない君だからな・・・」 「違いますよ、もしかして・・・」 美和子が祐介の代わりに、思いついた事を話し出す。 「瑠璃子ちゃん・・・別き・・・」 「美和子っ!!」 慌てて美和子の口を押さえ込む由紀。新たな災いを引き起こすのを恐れたのだ。 「そうだ・・・そうに違いない。とうとう瑠璃子さんが・・・僕と暮らすことに決め たに違いないっ!!」 「な・・・何っ!?」 「はぁ・・・そうでしょうか?」 瑞穂が懐疑的な目を向けるが、 「それは間違いなく「お世話になりました」の意味っ!!。間違いないぃぃぃぃ!」 一人で盛り上がって、騒ぎ立てる祐介。 「そ・・・そんな馬鹿・・・な・・・そんな筈は・・・」 こちらはいつもと違って、自信がないのか弱々しく否定する拓也。 「先輩・・・」 「何か、変なことになってきたわね・・・」 「さ、て、と・・・今日の分は終わったし、帰りましょうっと・・・」 瑞穂が書類の束をトントンと揃えて、立ち上がる。 「月島先輩・・・忘れてるのかな?・・・」 「どうかしたの?」 寂しそうに呟く葵に、由紀が尋ねる。 「オォォォォ〜♪ シャンデリア〜♪ オォォォォ〜♪ ジャンボリィ〜♪」 「今日は・・・」 「?」 「ああ・・・今日は・・・ね」 「美和子まで・・・何なの?」 祐介が歌い出す生徒会室で、一人、由紀が分からない顔をしていた。拓也は肩を落 として去り、瑞穂はとっとともう帰っていた。 「あ、お帰りなさい。お兄ちゃん」 夢じゃない。拓也が家に帰ると瑠璃子はエプロンをして台所に立っていた。 『瑠璃子・・・まさか・・・』 「あれ?。お兄ちゃん、どうかしたの?。先にお風呂入るでしょ?」 「え・・あ、ああ・・・」 「ひょっとして、疲れてるのかな?。だったら、一緒に入る?」 「ええええぇぇぇぇぇ――――っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」 思い切り驚愕する拓也。 「ふふふ・・・冗談よ、冗談。もう、お兄ちゃんたら・・・お・茶・目・さ・ん」 瑠璃子はペロリと舌を出しておどけると、最後の言葉に合わせて人差し指を立てて 、拓也の頬をポンポンポンと突つく。 ボムゥッ!! 「はひぃ・・・・」 完全に壊れる拓也。まあ実際、こんな瑠璃子だったら、誰でも壊れるかも知れない 。もう死んでもいい。拓也はそんな気持ちになっていた。だが、 「あ・・・あのさ・・・瑠璃子・・・」 「なあに?。お兄ちゃん?」 「い、いや・・・何でもない・・・」 この笑顔を曇らせるのが怖くて、聞けなかった。別れたくない。だけど・・・ 「はぁ・・・情けない・・・」 目先の幸せに浸ることを選んでしまった拓也は結局、瑠璃子の真意を聞き出せない まま、夜を迎えてしまっていた。 「突然別れを告げられる位だったら・・・だが、しかし・・・」 ベッドの中で今度こそ、本当に、真面目に悩み続ける拓也。 コンコン 「お兄ちゃん・・・まだ起きてる?」 枕を小脇に抱えた瑠璃子が拓也の部屋に入ってくる。 「瑠、瑠璃子・・・」 「一緒に・・・眠っていい?」 絵柄が人参のパジャマを着た瑠璃子は、拓也の返事を聞く事なく、枕を抱えたまま 、拓也のベッドに潜り込む。 「瑠璃・・・子」 思わず怖々とゆっくり、しかし確実に瑠璃子の身体を抱きしめる拓也。 「お兄ちゃん・・・大好きだよ」 …もう、死んでもいい。間違いなく、死んでもいい。 「今夜は・・・特別だから・・・」 幸せに満ち満ちた表情で、瑠璃子を抱きしめながら寝ている拓也の寝顔を見て、瑠 璃子が呟く。彼は知らない。今日が彼の誕生日だと言う事を。彼は知らない。わざわ ざ取り寄せたセイカクハンテンダケのせいだと言う事を。彼は知らない。明日からま た、いつも通りの日々に戻る事を。そして、彼は知らない。彼女の本当の気持ちを・ ・・。 「だから、今はお休み。お兄ちゃん・・・」 優しく瑠璃子は微笑んで、拓也の頬にキスをした。 <完> PART41 「葵の夜」 「う・・・ううん・・・」 葵は魘(うな)されていた。寝苦しい夜でもないのに、彼女は身悶えしながら自分の 寝床で眠っていた。顔を歪ませながら。 「はっ!?。ここは・・・?」 気付くと、葵はリング上に設置されている巨大シーソーの片一方に乗っていた。 「え?。何?」 周囲を見回すと、コーナーポストにキング・○・100tが立っていた。 「グォッ、フォッ、フォッ、フォッ・・・」 「何・・・何なの?」 「100tっ!!。トドメを刺せ!」 戸惑う葵を無視するように、リングサイドからマリ○ーサらしき超人が長方形のシ ルエットのプラカードを掲げる。葵は何故かその形に見覚えがあった。 「え・・・え・・・!?」 コーナーを跳躍した100tの身体が、反応して見る見るうちに変化していく。 「・・・・・え?。え?」 シーソーから逃げようとするのだが、身体が動かない。 「死ねぇぇぇぇぇぇぇ」 思わず見上げる葵。 巨大なカツサンドがシーソーの反対側の皿に向かって落ちてくる。 「いや・・・」 ガッシャーン!! 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!」 その重みで一気に天井に放り出される葵。 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!」 一気に目の前に天井が迫る。 ガバァッ!! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」 悪夢から、覚めた。 「また・・・あの夢」 あんな夢、よく見るんかい。 「喉が・・・水でも・・・」 カラカラになった喉を癒すべく、葵がベッドを降りようとした瞬間、 「!?」 自分が寝ていたものがベッドじゃなくて、巨大な食パンである事に気付く。 「あ・・・え・・・」 既に冷や汗でびしょ濡れだったが、更にその上を脂汗が滲み出す。 「そ・・・な・・・?」 食パンの下は・・・恐る恐る覗き込むと・・・ 「うきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!!!!!!!!!!!」 ガバァッ!! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」 また悪夢から、覚めた。 「また・・・あの夢」 あんな夢も、よく見るんかい。 「カツサンド ほぼ同価値の この私」(by龍胆) 一句詠んだ所で、葵はベッドが食パンでない事を確認してから起きあがる。 「やっぱり・・・大丈夫よね?」 念の為、振り返って自分の部屋を見る。別に、何らおかしな所がない。 ガチャッ 「ふぅ・・・」 ドアを開けて、外に出ようとすると、 「え?」 足場がない。 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!」 そのまま断崖絶壁に落下していく葵。 下を見ると、崖下にびっちりと、カツサンドが敷き詰められていた。 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!」 ガバァッ!! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」 こうして、葵の夜は明けていく・・・。 <完> PART42 「ストーカーの言い分」 早朝の河川敷。そこに、一人の少女がトレーニングに励んでいた。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――っ!!!!!!!!!!!!!!!!」 腕を振り上げて突進する好恵。 ズボムッ!! 等身大のわら人形に手刀を突き刺す。ご丁寧にも、人形には「月島」と書かれた紙 が貼り付けてある。 「はあっはあっ・・・・」 屈辱の日々。今の好恵を形容するにはこの言葉が一番似合っているだろう。 「何なのよ・・・あの兄妹はっ!?」 瑠璃子にボンバー君シリーズの洗礼を受けた好恵だったが、何とか無事傷も癒えて 、再びトレーニングに精を出していた。 「兄貴も兄貴なら・・・妹も妹よ・・・」 吐き捨てるように言って、背後のわら人形を後ろ回し蹴りでなぎ倒す。 「何で私が・・・この私が・・・」 歯がみする。 「やってみて改めて気付いたケド、リーフファイトで私が出てないなんておかしいじ ゃないのっ!!」 おお、私にのみジャストオンタイムネタ(笑)。彼女の話は読んだけどさ、ここで。 「ああ・・・このままじゃあ・・・葵が・・・私の葵が・・・」 天を仰いで、悲しげな眼差しになって自分の身体を抱きしめる。 ポツン ポツン・・・ 怪しげな地下室。遠くで水滴が地面に落ちる音が聞こえてくる。 「ん"――っ!! ん"――っ!!」 制服を着た葵が両手両足を縛られ、猿轡を噛まされて、コンクリートの床に転がさ れていた。 「ふっふっふ・・・」 酷薄そうに拓也が嘲りの表情をして、葵を見下ろしている。 「いい格好だな、葵・・・」 軽く葵の背中を蹴る。制服のスカートが捲れて、赤いブルマーがのぞく。 「・・・・・」 葵がどうしてと、目で訴える。 「ふん・・・どうせオマエだって、この俺様になぶられたくてウズウズしてるんだろ 。ああん・・・?」 顎を突き出してせせら笑う拓也。チンピラか、オマエは。どうやら好恵は想像力の 激しいのとは別に、発想力が乏しい。作者と一緒だ。 「・・・・・」 何故か露出度の高いレザーの上下の女王様スタイルで身を固めた瑠璃子がその後ろ で控えていた。 「瑠璃子・・・どうする?」 歯をむき出しにして下司な笑いを浮かべながら、背後の瑠璃子に尋ねる。 「心太・・・」 拓也を見ているのか、見ていないのか曖昧に視線を宙に漂わせながら、ポツリと瑠 璃子がそう呟く。 「ふうん・・・そうか、そうか・・・待ってろ」 これからどうなるのか分からないで恐怖に身を竦める葵に、拓也は心太のパックを 取り出す。 「へっへっへ・・・」 「・・・・・」 ゆっくりと近付く二人に見つめられ、後ずさりしようとするが、縛られていて動け ないでいる葵。 「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、駄目よ駄目よ駄目よ!!。葵を・・・葵を虐め ていいのはこの私だけなんだからっ!!」 早朝だった時間も過ぎ、ゾロゾロと通勤通学の人が見つめる道の横の河川敷で、好 恵が身を捩らせ、絶叫していた。ちょっと顔が紅潮して嬉しそうなのは気のせいか。 「こうなったら・・・白黒つけるしかないわね・・・この拳に賭けて・・・」 そう力んだ時、 ピーピーピー 「はっ!?。い、いけないっ!!」 セットしておいたキティちゃんの腕時計のアラームが鳴る。 「はあっはあっはあっはあっはあっはあっはあ・・・・間に合った・・・」 慌てて駆けつけた好恵は、肩で息をしながら葵に家の前の電柱に隠れて、葵が登校 していく姿を見つめていた。 「葵・・・私が・・・護ってあげる。絶対に・・・護ってあげる」 そう今日も誓った、彼女だった。 <完> PART43 「同じネタは三度まで」 「じゃあ・・・また明日!」 「じゃなっ!」 「ああ・・・」 HRが終わり、ゾロゾロと教室を出ていく生徒達。学校では何処にでも珍しくない 風景。そして、教室を出る拓也を見つめる影がいた。 「月島先輩・・・」 廊下の隅で眩しそうに見つめる少女。・・・葵だった。 「今日こそ・・・今日こそ、この想い・・・」 両手に持ったラブレター。何故か時代劇で「お願い申しあげまする」と、出てきそ うな包み方だったが、多分ラブレターだった。 「先輩・・・」 行き交う生徒に挨拶を交わしながら廊下を歩いていく拓也を追う葵。 …今日こそ・・・今日こそ・・・この、気持ちを・・・ そして、拓也がちょっと人気の少なくなった通路に出た時、 …今よっ、葵っ!! 意を決して走り出す。 「せ・・・」 拓也の無防備な背中がみるみる近付いて来る。だが、 「やっぱり言えないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――っ!!!!!!!!!!!!!!」 ドゴォ――ッ!! 「うごぅっ!?」 背後からの真空飛び膝蹴り。まともに後頭部にヒットする。 「私ってば、私ってば、私ってばっ!!」 そしてそのまま間髪入れずに炎の空中三段蹴り。 ドババババババァ――――ッ!!!!!!! 3つの蹴りが拓也の後頭部、延髄、背中の中央にそれぞれヒットする。 「あぐはぁっ!!」 バタ・・・ 倒れ伏し、そのまま血の海に沈む拓也を後目に真っ赤になった葵はそのままの勢い で顔を両手で覆いながら走り去っていく。 「申し訳ありませ――――――んっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 頭から血を流し、痙攣を起こしている拓也を、 「あ・・・お兄ちゃん・・・」 丁度、通りかかった瑠璃子が発見するが、 「お夕飯までには、帰ってきてね」 それだけを言って、そのまま横を通り過ぎていった。立ち止まりもせず。 「ほ・・・おほほほほほほほほっ!!!!!!!!!!!。み、見なさい。アンタな んてね、アンタなんてねっ・・・」 後ろから一部始終を見ていた好恵だったので、事の次第に喜び勇んで飛び出してき て喋っていたが、いきなり足首を捕まれて絶句する。 「お、オマエ・・・いきなり・・・何を・・・」 下から凄い形相をして睨み付ける拓也。 「え・・・あの・・・その・・・」 「貴様・・・」 「えっと・・・その、バード・・・」 青ざめた好恵は、震えながら下げていた双眼鏡を見せようとするが・・・。 ・ ・ ・ 廊下に流れるおびただしい血の海の中、超強力な電波を見舞われた好恵が沈んでい た。 「ど・・・どうひて・・・」 「藍原さん・・・これ・・・どうします?」 「血ってなかなか落ちないのよ・・・清掃業者に依託しないと・・・」 またもやの出費に頭を抱える瑞穂。勿論、心配しているのは廊下が汚れた事だけで あり、美和子も好恵には見向きもしなかった。 カアッ カアッ カアッ ガァッ ガァッ ガァッ・・・ 夕暗闇、遠くで烏の鳴き声が聞こえてくる。 「どうして・・・ここぞの時って駄目なんだろう・・・」 いつもの練習場の裏山の神社の境内に座り込んでいる葵。 「今度こそ・・・今度こそ、この思いをっ!!」 そう決意すると、取り敢えず吊してあったサンドバッグを蹴り出す。 「拓也先輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――っ!!!!!!!!!!!!」 バコムッ!! そのサンドバッグは見事にへし折れ、中の砂が流れ出していった・・・。 <完> PART44 「親友の声」 「あ・・・香奈子ちゃん!?」 瑞穂は驚きの声をあげる。いつもと同じ時間、登校する為に校門前の道を歩いてい ると、前方に見慣れた人物を見つけた。そう、入院している筈の太田香奈子を。 「香奈子ちゃん・・・どうしたのっ!?。大丈夫なの?」 慌てて走り寄って回り込む。 「ミズホ・・・」 制服をキチンと着て、包帯も取れてはいたが、やっぱり目に光がない。 「どうして・・・?」 香奈子の両肩を抱きしめるようにして、見つる瑞穂。 「ミズホ・・・」 「なあにっ!?」 表情がない香奈子が呼び掛けると、瑞穂は慌てて問い返す。 「ミズホ・・・フビジン・・・ミズホ・・・ズンドウ・・・ミズホ・・・ペチャパイ ・・・ミズホ・・・」 グシャッ!! 「どうして・・・」 両目にから零れる涙を拭おうともせず、瑞穂はその場に立ちつくしていた。その足 下には、俯せに倒れた香奈子がいた。そして壊れた機械人形のように、 「ミズホ・・・ソトヅラバッカ・・・ミズホ・・・ブリッコ・・・ミズホ・・・カマ トト・・・ミズホ・・・メガネザル・・・ミズホ・・」 バシュッ!! 「どうして・・・」 もう一度、瑞穂は呟いた。その右足の下に、香奈子がいた。 太田香奈子は、またもや学校を休んだ。いつになったら、来るのだろう・・・。 <完> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「うううぅっ!!。締切真近っ!!」 「ジン様・・・セットで御免ね。でも、今回は出番すら殆どないの(笑)。教皇・・・ ああ、あのチビね。さあ?。設定資料集では不明になってたし(時期的に仕方ない)、 いいんじゃないの?。あ、実は私、吉野の正体見抜いてたよ。でも、遅かった(笑)。 『鴉丸羅喉』と『魔神勇二』なら立派なホモダチじゃん(笑)。あれは名作だよね。私 のイチオシは勿論・・・鈴泥棒。蒼い髪の機械人形(意外?)。彼女が好きだな。だか ら私はマルチが嫌いな訳ではないんですよ。セリスさんその他。シナリオは一番良い と思ってるし。あ、昔の玩具ならゴールトライタン(だっけ?)持ってたな。手首無く したケド(笑)」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−