『あの日のままの君でいて(相田響子編)』(前編) 「はぁ・・・」 …満足出来ない。 事が終わり、相手の男が帰った後、響子は余韻の残るベッドに寝転がりながらそう 感じていた。その思いは相手にも通じているのか、今迄のように泊まって行く事も無 い。関係は・・・最悪だった。 原因は分かっている。あの事件以来、私は変わってしまった。 あんな体験をしてからというもの、もう普通には戻れない身体になってしまったの だろうか。 「あっ・・・」 少しでも思い出してしまうと、身体が酷く疼く。思わず手を伸ばして自分で慰めて しまうのだが、到底あの悦楽に及ぶべくもない。先ほどの性交渉と同じで、ただ空し いだけだ。こんな馬鹿らしい日々が続いていた。 勿論、色々と努力した。忙しい仕事の合間を縫っては、男とは色々なプレイを試し て貰い、それ関係のお店に出入りして研究したり、怪しい店であの時同様の太いバイ ○を購入して使ってみたり、あの時使っていたのと同じ鎖と首輪を着用したりと、あ りとあらゆる努力をした。だが、そのどれもが私に満足を与えてくれる事は全く無か った。 そして、今、結論を出していた。 ・・・もう一度、鬼(カレ)に犯られたい。 そしてから、響子は更に歩き回って情報を収集する事に努めた。もう一度会う為に 、もう一度犯してもらう為に。そして鬼の存在を裏のルートから知り、詳しい話をラ イターとしての意地と根性で集める。そこで知った鬼こと柳川の失踪(どうして知っ たかは私も知らない。まあ、そう言うことにしといて)、一度は落胆しかけた響子の 元に、柏木一家が実は鬼の血を引いているとの情報が手に入った。 「行こう・・・」 それを知ったとき、響子はもう矢も盾もたまらなかった。毎晩、疼く身体にこれ以 上耐えきれそうも無かった。 「鬼に・・・会いに行こう」 相田響子・・・固い固い決意だった。 <続く> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ああっ!!。お蔵入りになったって聞いたのにぃ〜」(響子)「ふっふっふ。ジャー ナリストとしては迂闊だね。リニューアルしたのさ」「原型、全然残ってないじゃな いの」(響子)「うん。ほぼ書き下ろしって言うか、完全に書き下ろし。話の筋は同じ だけどね」「オチも前と同じなんじゃあ・・・?」(響子)「さ、さあ・・・(汗)」 『あの日のままの君でいて(相田響子編)』(後編) 鬼の巣窟と噂される柏木家に潜伏してもう何日が経っただろうか・・・。 「はあ・・・」 響子はこの短い間、鬼と言う者がどんなものなのか、十分過ぎる程分かってしまっ ていた。と、言うかほぼ一人の人の行動が本物の"鬼"と、いう認識を響子に与えてい た。性格が猛々しいのは問題ない。食べ物は欲しくないからこれも問題ない。だが、 これだけは譲れないという部分があった。 「皆、みんな・・・」 4匹もいるのに、全員雌だった。 「私、別にレズの趣味は無いし・・・」 考え込む事3日、ちょっといいかななんて思う事2日、いけない妄想に取り付かれ る事4日、そして遂に彼女らの会話を盗聴し続ける事一週間。ようやく響子は聞きた い事を聞く事が出来た。 「柏木・・・耕一」 この名前は聞き覚えがある。彼女らの親戚の名前だ。どうやら彼女達の会話を聞い た結果、彼も鬼であるらしい。 チャンス、チャンス、チャンスゥ〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!! 「男なら・・・きっと!!」 思わず握り拳を作ってガッツポーズを作る響子。長い間のテント生活もこれで終わ りだった。テント村の引き上げだ。 「耕一さんの住所・・・ですか?」 「はい。こないだ会って色々とお世話になって以来、お礼らしいことが出来なかった ので・・・」 千鶴に会って耕一の住所を訊ねる響子。気分はルンルン、ウキウキサンバ状態の響 子にあからさまに怪しむ千鶴だったが、断る理由もないので耕一の住所を教える。 「ありがとうございました。それじゃあ・・・」 「おかしい・・・」 響子が去った後、千鶴はずっと会長室で考えていた。何せ、取材の申し込みを受け て聞かれた事は、 1,「最近、寒くなりましたねえ」 2,「景気はどうなんですか」 3,「で、耕一さんの事なんですが・・・」 と、3つしかなかった。そして3の関連質問が延々と続いた。あからさまに怪しか った。千鶴はあることを思いついて目の前を受話器を取った。 「あ、私です。東京出張の件ですけど・・・」 鬼に会える。もう一度、あの快感を・・・! 響子の頭の中には、それしかなかった。だから終始、浮かれたままでずっと過ごし ていた。列車に乗り、電車を乗り換え、駅からタクシーを拾い、耕一のアパートの前 で降りてようやくにして響子は、ある事に気付いた。 「これから・・・どうしたらいいかしら?」 細くしなやかな指を顎に当てて考え込む。ベッドの上での妄想シーン、シミュレー ションはばっちりもう何度と無く考えていたのに、その前の段階は何一つ考えていな かったのだ。 「まさか・・・「とにかく、何も言わないで犯って頂戴」なんて、言えないし・・・」 今度は腕を組む。 「「こないだのお礼。私を貰って」・・・唐突だし、あんまりね」 ちょっと手を胸の前で交差させる仕草をしてみせる。 「「貴方が好き」・・・嘘が見え見えね。きっと私の演技程度じゃあ見透かされるに 違いないわ」 祈りを捧げるように手を組む仕草に変える。 「「言葉は要らない・・・抱いて」突然現れて言う台詞には不適当ね」 手を広げるような仕草に変えて、そう言った時、 「あ、響子さんじゃないですか」 後ろから大学帰りの耕一が、一人で変な悩みを抱えてブツブツやっている響子に気 付いて声をかける。 「こ、こ、こうひちくん!?」 あんまりにも驚いたのか、素っ頓狂な声をあげる響子。 「・・・どうしたんです?」 「ど、どうして・・・」 「ここ、俺のアパート前なんですけど・・・」 「あ、そ、そう。そうだったわよね。おほほほほほ」 「・・・・・ま、まあ・・・久しぶりですね」 「そ、そうね。そ、そのね、ぐ、偶然・・・偶然ね、通りかかったの。うん、そうな の」 顔を真っ赤にして誰が見ても不自然な挙動をとりながら、響子は後ずさりする。 「は、はあ・・・」 「そ、それじゃあ・・・じゃね!!」 「あ、ああ・・・さよならです・・・」 ブンブンと子供のように大きく手を振りながら、その場を後にする響子を、耕一は 疑問に思いながらも仕方なしに合わせて手を振ってみせる。 『私の馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁ〜〜〜〜』 号泣しながら、道を駆け抜ける響子。勇気が足りなかったようだ。 『数ヶ月の努力が一瞬でぇ〜〜〜』 走る。走る。走る・・・。 「響子さん・・・一体、何だったんだろう?」 耕一はしばらく響子の走っていった先を見つめていたが、しばらくして部屋に戻る と、 「まあ、兎に角、風呂にでも入るか」 服を脱いでバスタオルを探すべく裸で狭い室内をウロウロする。 ズバァッ!! アパートの扉が爪で引き裂かれる。驚く耕一が見たものは・・・ 「耕一・・・・さん!!」 出張にかこつけてやって来た千鶴様だった。 「ち、ちづるさん・・・」 千鶴はトランクス一枚でいる耕一の全身を隈無く眺めると、 「信じてたのに・・・耕一さんを信じてたのに・・・」 行動からして、まるっきり信じていなかった様な気もするのだが、そこは乙女心と 言う彼女にはやや似つかわしくない事で納得していただこう。 ビュウゥゥゥゥゥゥゥ 「耕一さん・・・以下略!!」 「ま、またかよ。俺が一体何をしたぁっ――――――!!!!」 アパートから絶叫が聞こえた。ドアが開けっぱなしだから、付近の住民にも良く聞 こえた事だろう。 「男の悲鳴・・・何やろ。一体?」 その時、近くを歩いていた保科智子は自分でも知らない間に駆け出していた。凄ま じい殺気がこんな道ばたにまで流れ込んでいる。ただ事ではない。彼女はそう感じて いた。だが、彼女はそれに対して全く反応の見られない周囲こそ眉をしかめる。都会 の人は薄情・・・関東人は隣近所のつきあいが少ない。そんな話をチラホラと見聞き していた委員長こと、『蹴りかましゲーマー野郎』でも女、は自分が駆けつける事こ そ使命だとばかりに、走っていた。だんだんと殺気が近づくのを感じる。 「どないしたんっ!!」 開け放たれたアパートのドアを見つけ、その部屋の前までやってくると、大声で叫 ぶ。 「・・・ミタワネ・・・・」 猫の爪研ぎのように全身が引っ掻かれた状態の青年の身体をなおも爪で刻みつける 黒い人影・・・いや、角らしきものが見えるから人ではないかも知れない。部屋の中 には・・・見てはならない光景があった。 「ヒィィィィッ!!!!」 やっぱり神戸に帰りたい・・・これやから東京は・・・。 東京はあまり関係なかったが、これ以降、彼女は男の悲鳴に駆けつける事は無くな った・・・。 「貴方に・・・せつない夜を・・・」 夜の公園のベンチに響子はポツンと一人、座っていた。その手には怪しい店で見つ けた怪しいクスリの小瓶が握られていた。いつの間にか、である。 「駄目な・・・私」 だが、彼女は彼とヨリを戻すことになる。望んでいた快楽も得ることとなる。偉大 なクスリの効果だった。だが、しばらくして彼女は記事を書いた。タイトルは勿論、 『ドラッグの副作用』だった事をここに付け加えておく。 <完> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「シリーズ完結した筈なんだけど・・・ね」「ま、まあ、これは元々、千鶴編の次ぐ らいに完成されていた話だからね・・・いいじゃないの、ね」(響子)「そう言われて も・・・」「ほら、『平安無用!』みたいで・・・」(響子)「かなり違うケドね」「 で、やっぱり・・・」(響子)「?」「目、瞑って」(響子)「?」「歯、食いしばって 」(響子)「・・・・・」 バアキィィィッッ!!!!!!! 「痛いの・・・」