『あの日のままの君でいて(柏木初音編)』 投稿者:久々野 彰
『あの日のままの君でいて(柏木初音編)』(前編)

「はぁ・・・」
  柏木家の夕食。いつも通りの夕食。長女の千鶴。次女の梓。三女の楓。そして一番
下の四女初音。その初音が夕食中、ため息をついた。
「何だ。初音、またため息か?」
「だって・・・」
  梓は初音のため息の原因を知っている。そう、従兄弟の耕一が帰った後は、いつも
こうなるのだ。
「我慢なさい。耕一さんだっていつもいつも来る訳にはいかないんだから・・・」
  黙々と食べていた千鶴も手は休めず、顔も向けずにそう窘める。
「うん・・・」
  楓はいつもより更におとなしくなっていて、存在感すら希薄だった。初音には理由
は分からなかったが、千鶴にかなり責められていたらしい。しかし、落ち込んでいる
理由はもっと前にあったと梓は初音に教えていた。{*注(楓編)参照}
「ごちそうさま」
「初音、もういいのか?」
「うん・・・」
  食欲がわかない理由は分かっていた。


「あれ?。初音?。何してんだ?」
「あ・・・梓お姉ちゃん・・・」
  真夜中も0時を過ぎた頃、ふと梓は板の間でたたずんで星を見ている初音の姿を見
つけて声をかける。
「そんな格好のままじゃ、風邪引くぞ」
「う、うん・・・」
  梓に言われるままに初音は立ち上がると、ポツリと呟く。
「どうして・・・一緒にいられないのかな」
「おいおい・・・」
  思わず苦笑する梓。
「皆・・・みんないるのに・・・」
「それは仕方・・・いや、そうか・・・違うんだな・・・」
  自分が思い違いをしていた事に気がついて、口籠る梓。

「楓や初音にとっては・・・違うんだろうな」
  初音を部屋まで見送った後、梓は少しだけ寂しそうにそう呟いていた。


「おっはよ。梓お姉ちゃん」
「おう、初音。もうすぐ朝食準備出来るから待ってろよ」
「うん」
  いつもの朝の光景。千鶴お姉ちゃんがいて、梓お姉ちゃんがいて、楓お姉ちゃんが
いる。いつもと同じ光景。耕一お兄ちゃんがいない光景。あなたがいない光景。
  …何か・・・違う。
  今迄は気付かなかったけど、ひどく違和感を感じてしまうのは何でなんだろう。大
事なものが欠けている。そんな気がしてならないのは何故?。

「ふう・・・」
  無理に普段通りに装っているが、空虚な気持ちは晴れなかった。気分が沈んだまま
、朝食を食べ続けていた。だから、端っこにある奇妙な物体に気付かなかった。

                                                        <続く>
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
祝!「初音のないしょ!!」発売記念!!。(と、言っても書いた頃は出てなかった)
「うわああああ、更に短い。いい加減のつもりはないけど、書くコト無くなってる」
「うん。初音、信じてるよ。久々野お兄ちゃんのコト」(初音)  キラキラキラ
「そ、そんな純粋な目で見ないでくれる・・・」「どうして?」(初音)
「り、良心が・・・俺の心に残ってたちょびっとの良心がひどく痛む」「?」(初音)


『あの日のままの君でいて(柏木初音編)』(後編)

「何だ・・・だったら、殺っちまえばいいじゃん」
  その瞬間、初音はそんな事を口走っていた。確かうし○と○らでチョイ役がこんな
事言っていたような気がする。まあ、そんな事はどうでもいい。
「千鶴姉っ!!。一体、何をしたんだ!。え!?。何をしたんだ!?」
「いや、その、ね。昨日、元気無かったから元気付けようと・・・」
  気が付くと、食卓を挟んだ向こう側で梓が千鶴を問い詰めている。どうやら先程、
自分が食したものは彼女が作ったものらしかったと初音は気付く。まあ、そうだろう
とは思ったが。材料も聞くまでもない。
「なあ、楓?。どうしてお前は楓なんだ?」
「え・・・?」
「生意気なんだよ・・・」
  何だか理由もなくむしゃくしゃしてきたので、取り敢えず隣にいた楓にぶつけてみ
る事にした。確か彼女は酷く落ち込んでいたような気がする。だから、元気付けてあ
げていると思えば感謝されこそすれ、批難される事はないだろう。
「は、初音ちゃん・・・」
「大体だなあ・・・どうしてテメエが私よりも先にシリーズに登場してるんだよ。梓
の時は私の椅子だったくせに・・・」
「それは、アンタがやらせてたんだろ・・・」
  指で楓の頬を押してへこませながらネチネチといびっていたら、梓が助け船のつも
りだか、口を挟んで来る。
「喧しいわ。今じゃあずさったら、Pia2のあずさと思われるくせに・・・」
「私のは漢字を使うからいーの」
「Hゲーマの人々の会話で「あずさがさぁ・・・」って言われた時、アンタで無い率
98%位(当社調べ・・・な訳無い。)になってるのにまだ気付かないのかぁ?」
「ほっとけ」
「コラァッ!!。人非人!!」
  こっちで言い争っているうちに、コソコソと逃げようとしていた千鶴にそう声をか
ける。流石にそこまで言われるとは予期していなかったのだろう。ピクリと脚が止ま
る。
「は、は、は・・・つ・・・ね。今、何て・・・」
  そして頬をピクピクさせながら、こっちを振り向く。
「人非人って言ったんだよ・・・そのとおりだろ。鬼なんだから、このスカタン」
  なんだか、ファンを更に怒らせた気もするが、後で久々野に謝らせよう。初音はそ
う思う事で後の事を考えるのを止める。
「・・・・・・・・」
  一気に室温が低下する。梓が楓を抱えて避難する。だが、初音は怯まずにニタニタ
と嫌味な笑いをわざと浮かべて見せ付ける。ここまで怒らせれば、十分すぎる程、怒
らせたつもりだ。こうなってくれなければ困る。
「死・・・・・」
  一気に攻勢をかけて来た千鶴。その瞬間、初音は隠し持っていた(どっから出した
と聞かないで、お約束としといて)ポラロイドカメラを取り出してパチリと写す。
「きゃっ!?」
  フラッシュに怯む千鶴。
「ふっふっふ・・・この写真を街中にバラ撒いたら・・・皆、どう思うかなぁ〜〜」
  まだ黒いままの写真の片手に持ったまま、横目で千鶴を見る。
「ウチのお姉ちゃんは・・・ってね」
「な・・・」
「小遣い、くれるよね。千鶴お・ね・え・ちゃ・ん」
  その写真に角が写っていたかどうかは、秘密である。


「よし。じゃあ、ちょっくら東京競馬場にでも行ってくらあ」
  軍資金を調達し、初音は気分良く鼻歌を歌いながら、家の前に横付けされたハイヤ
ーに乗り込む。この話、これからどうなってしまうんだろうか。

「ルンルン♪。ルンルルンルルン♪」
  ハイヤーの中で競馬新聞を広げながら、一路東京競馬場に向かう初音。耳にはラジ
オのイアホン、手にはしっかりと赤鉛筆が握られ、チェックが入っていた。
「この馬は1400までしか実績が無いから・・・マイル戦だと・・・」
  そんな風に真剣に考えていると、急に気分が悪くなる。
「うっ!?」
  喉の奥から何か熱い物が込み上げて来る。
「け、景色景色・・・」
  取り敢えず遠い景色を見て誤間化す。
「窓、窓・・・」
  窓を開けて凌ごうとする。長い間車の中で下を向いて新聞を見ていたのが悪かった
らしい。更に朝食を食べた後すぐだったのも、良くなかったらしい。一気に気分は悪
くなってきて眩暈と吐き気がダブルで襲って来る。

    ウイィィィィン

「どうかなさいましたか?」
  運転手が、こっちの状態を察したのか、そう尋ねてくる。
「な、なあ・・・」
「はい?」
「エチケット袋、持ってねえか?」
「・・・・・ご、ございません」
  一瞬、空気がとまってから運転手が答える。
「じゃ、じゃあ・・・止めてくれ」
「し、しかし・・・」
「今すぐ!」
  身を乗り出してそう訴える。かなりきているらしい。脂汗がびっしりと初音の額に
浮かんでいた。
「高速にのってしまったので・・・もう少し我慢・・・」
「出来るかぁっ!!」
  そう叫んだ瞬間、初音の中で何かが壊れる音がした。
「う"・・・」

    ウワアァァァァァァァァ・・・・・・・・

「あれ?。初音、何でこんな所にいるの?」
  ハイヤーの後部座席で正気に戻った初音は不思議そうに周囲を見廻していた。
「あ、あれえ!?。何で、何で!?」
  すっかり胃の中の物を吐き出し、浄化された為にすっかり元に戻ってしまったらし
い。
「そうか・・・またなっちゃったんだ・・・でも、どうして車の中にいるんだろ?」
  今迄のケースから推察して、自分がまた性格反転の発作に陥ってしまっていた事に
気付き、納得する。
「あの・・・私、どこに行くっていってました?」
「東京の方だと・・・取り敢えず途中で停車しますが・・・」
  初音の質問にウインドウの向こう側から、ゲ○まみれになった運転手が、プロ根性
で返事を返す。身体中から酸っぱい臭いが漂っている。早く洗わなくては。
「東京方面・・・もしかしてお兄ちゃんに会いに行こうとしてたんじゃ・・・」
  反転していた自分の性格をイマイチ分かっていなかった初音は、物事をそう都合の
いい方へと解釈して片付けた。競馬新聞は、シートの間に挟まっていて気付かなかっ
た。例え気付いたとしても、自分が読んだとは思わないだろう。ちなみに赤鉛筆とラ
ジオは足元に転がっていた。
「何だか・・・お腹すいた・・・」
  そんな事を考えながら、会いに行くであろう耕一へ想いを寄せていた。


「迎え・・・まだかな?」
  高速を降り、運転手が土下座せんばかりに頼み込んだので一時、休息を取る事にし
ていた初音は、近くの食堂で昼食を取り、代わりの迎えの車を待ち合わせ場所で待っ
ていた。今頃だが、考えて見たらこのシリーズ初めての車での遠征である。

    ギュイィィィィィン!!

  暫く初音が待ち続けていると、突然、強烈な勢いでベンツが走ってやってくる。
「あれ?」
  その黒のベンツはタイヤを軋ませ、スピードの限界に挑戦している様な速度で初音
の前を走り過ぎたかと思うと、急にブレーキを踏み込みつつUターンし、初音の前で
急停車する。無茶苦茶な運転だ。
「あ、あれ・・・?」
  初音が呆気に取られてたたずんだままでいると、
「柏木・・・初音様ですね」
  いつの間にか運転席から降りた老人が恭しく頭を下げる。この老人が運転していた
のであろうか。だとすれば・・・クレージーなじじいだ。
「は、はい・・・」
「お迎えにあがりました。長瀬と申す者です」
  やっぱり、ベタだが、セバスチャンだった。
「そう別名――《岬の楼閣》のセバスチャン!」
「・・・・・」
  怪訝そうな初音に更に追い打ちを掛ける事を爺さんは言った。初音はポカンとした
まま動けないでいたので、調子に乗ったジジイは更に、
「どうしてこの長瀬が参上したのか、ご不審のようですな。黒魔術士殿」
  と、のたまう。
「そ、そうじゃなくて・・・」
  何か別の人間が入り込んだ様な長瀬に、初音は何か言いかけるが、
「実はこうでもせぬと出番が無いと密かに案じ、わざわざ頼み込んで出番を貰ったと
言う訳じゃい。さあ、兎に角乗った乗った」
  と、車に乗り込まされる。
「さあ、行きますよ。初音お嬢ちゃん!」
  運転席に乗り込んだ長瀬は、一気にアクセルを踏み込む。
「え?。キャ、キャアァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
  シートベルトを締める間もなく、急発進した為にシートに押し付けられる感覚を初
音は感じていた。再び車が止まるまで・・・地獄だった。


  そして、耕一のアパートの前でようやく開放された初音は、
「お・・・お兄ちゃあ〜〜ん・・・」
    バタ
  力尽き、そのまま気を失った。


「貴方に・・・切ない夜を・・・」
  再び病床に勤しむ事となった初音は、病室の窓の外から見える夜景を見ながら呟い
ていた。最後に、本当に最後に初音もやっぱり耕一には会えなかったと、付け加えて
おく。

                                                            <完>
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「遂に<あの日の〜>シリーズ完結!!」「おめでとう、久々野お兄ちゃん」(初音)
「いやあ、長かった。実に長かった。思えば梓編を作り始めてから・・・色々あった
なあ」「お疲れ様。大変だったでしょ」(初音)  おしぼりを渡す初音。受け取る私。
「ああ。梓や千鶴さんの時は一気に作れたが、最後の二人は結構苦しんだからね」
「じゃあ、これで、お終いなの?」(初音)
「うん。次回は<再開5秒前。出会った頃のように>でもやろうか?。意外に純粋な
痕のパロディって最近少ないから・・・。真面目な話か、思い切りブチ飛んでるか、
どっちかだからまだ続けてもいいかなとも思ってます。誰か意見があればお願いしま
す。こーゆーものが読みたい方、違うものを求めている方、意見待ってます」
「あのさ・・・今迄、私達、柏木一家ファンを散々怒らせている事、忘れてない?」
(梓)「貴方を・・・(以下略)」(千鶴)「先輩を汚した・・・」(かおり)「・・・・・
」(楓)「御免ね。久々野お兄ちゃん。初音、許せないんだ(ニコッ)」(初音)
「あ、その・・・や、やめ・・・」  音もなく消失、瞬時に散乱する肉塊・・・。

  シリーズに関する御意見、御感想、質問、苦情、大歓迎!  お願いします。久々野。

<追加のあとがき>
 改めてざっと読み直す・・・一番虐められていたのは千鶴さんだ。千鶴ファンの皆
様、本当に御免ッス。喧嘩売ってません。笑って許して。梓の次に好きなんです。こ
の人。声優なら井上喜久子さんで・・・と言われる彼女ですが、私も彼女の大ファン
です。らんま1/2のかすみさんが好きで・・・話が逸れてるな。兎に角、読んでく
れた人、有り難う!。   97/11/30 編集作業中の自宅より  久々野 彰