『あの日のままの君でいて(日吉かおり編)』(前編) 梓センパイ、私、誰よりもセンパイの事、愛してます。 だから私、センパイの事誰よりも深く知っているつもりです。 センパイ。センパイは昔から誰か好きな人、いるんですよね。 ずっと思い続けているんですよね。 でも、私はそれでもセンパイの事が好きです。 諦めません。それが愛だと、私は信じているから。 それだから・・・センパイが振り向いてくれるまで、私は追い続けます。 「梓セ〜ンパイ。一緒に学校に行きませんかぁ〜〜」 色々な事件があってから、耕一がこっちへ来ていた。大学が暇だったのか、日常が 退屈だったのか、向こうで何かあったのか、ずっと放っておく事で千鶴姉の機嫌を損 ねるのが怖かったのか、梓には分からなかったがとにかく耕一が来ていた。だが、梓 にはどうでも良かった。耕一が来ている。その事実だけで梓には満足だった。何せ、 わざわざ訪ねて行った時には散々な目に遭った挙句、会えなかったのだから(ボロ雑 巾状態でチラとは見たが)。{*注 (梓編)参照} そして昨日の夕方に到着して今朝、いつもにも増して気合を入れて作った朝御飯。 慌ただしい中で、アイツが気持ち良く食べてくれる姿を台所から覗き見る。視線が合 えば「早く食べろよ、食器洗わなくちゃいけないんだから」と言うつもりである。そ んな朝の忙しい中でのささやかな楽しみ。それを玄関から聞こえて来る下級生の声で 破られた。 「センパァ〜イ。駄目ですかぁ?」 玄関の中に入って更に催促するかおり。それが効いたのかエプロンを付けたままの 梓が申し訳無さそうに、やって来てのたまう。 「あ、かおり・・・悪いけど、もう少し待ってくれない。耕一が・・・」 その瞬間、かおりは自分の目が釣り上がるのを感じた。梓の泳ぐような視線の先を 追うとかおりの視界の奥にあの男が入ってくる。 「どうせ暇なんでしょうから、自分の食べた食器ぐらい自分で洗ってあげたらどうで すか?」 梓の心、かおり知らず。今夜は初音と楓が耕一の為に腕を奮う事になっている。だ からこそ梓にしてみたら、今日の梓の料理はこの朝食だけとなる。だからこそ梓はゆ っくりと耕一に食べてもらい、それを脇で見ていたかった。だが、心の補完が出来て いない人類であるので、そんな梓の思いをかおりが分かる訳もなかった。 「あ・・・そうだな。悪い、梓。気がきかなくて・・・」 梓の心、耕一知らず。耕一はそんな梓の思いが分かる訳もなく、かおりの睨みにも 圧される形であっさりと言ってのける。 「へえ〜、少しは申し訳無いと思ってるんだ」 だから、梓はこう言うしかない。そんな口調で暫く辛辣な言葉を耕一に向かってぶ つける。そそくさと出かける準備をする。そんな梓を見ていてかおりは満足だった。 だが、同時にそれが梓の本心ではない事も気付いていた。 「センパイ・・・」 相変わらず楽しそうに今夜のディナーの話をしている初音と耕一の声が玄関まで聞 こえて来る。かおりはやや寂しそうな顔をしている梓の顔を見逃さない。 「センパイ?」 「え・・・な、なあに?」 靴を履きながらボ〜〜としていた梓だったが、かおりの度重なる呼び掛けにようや く気付く。 「気分・・・悪いんですか?。もしかして、調子が良くないとか・・・」 「そ、そんな事無いよ。大丈夫」 「もしかして・・・迷惑でした?」 家を出てすぐにかおりは少し申し訳無さそうな顔をしてそう聞く。勿論、はっきり と「迷惑だ」と言われるなどとは夢にも思ってはいない。ずるい考え方だが、ここで 梓に「そんな事ないわよ」と言われておくことで、自分の心の中の免罪符にしようと 考えての発言だった。 「そんな事・・・ないわよ」 少しだけ、ほんの少しだけ逡巡して梓は答える。梓にしてみれば、本音と建前の葛 藤がちょっとした遅れとなって出たのだろうが、かおりにとっては随分長い間に感じ られた。 「済みません・・・やっぱり、迷惑でしたよね。御免なさい。私・・・」 それはかおりにとってひどく自分と梓の隔たりを感じる瞬間であり、自分がいかに 我儘で自己中心的な人間であるか思い知らされる時であった。だから自然と哀しくな って、歩道を歩けなくなり、ポロポロと涙を流していた。 「か、かおり・・・!?」 普段のかおりの性格を熟知しているつもりの梓だったので、かおりの涙にひどく狼 狽する。 「あ、あの・・・その・・・何だ・・・」 「もう、これ以上、迷惑はかけられません・・・センパイ、御免なさいっ!!」 「かおりっ!!」 いきなり学校とは反対方向に向かって走り出したかおりを、梓は止める事は出来な かった。 「かお・・・り」 泣きながら全力で走って行くかおりの後ろ姿を見送るしかない梓。彼女には何が何 だか分からなかった。 …もう・・・駄目だ。私、もう・・・ 目蓋から零れ落ちる涙を散らせながら、かおりは走っていた。今迄、一度もこんな に真剣で、全力で、長い距離を走り続けた事はない。無我夢中で走っていた。息が苦 しい。でも、足は止らなかった。いや、止めれなかった。身体を引っ張って行く様に 動き続けていた。 <続く> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ひょっとして、フェイントのつもりですか?」(かおり)「何が?」「だって、梓セ ンパイ、千鶴お姉様、そういったら次は誰もが楓ちゃんか、初音ちゃんだと思うじゃ ないですか」(かおり)「断言するがフェイントではない。梓の時点で君か響子さんの どっちかのつもりだった。でも、ちょっとネタを忘れてしまって・・・で、完成が遅 れただけだ。発表も遅れたけど。まあ、気にするな」「じゃあ・・・私って、好かれ てるのね」(かおり)「違う、誰も君を主役になどしないと思ったから、面白いかなと 思っただけだ」「あ、そう(後で見てなさいよ・・・)」(かおり) 『あの日のままの君でいて(日吉かおり編)』(後編) 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ・・・」 それから暫くして、かおりはまたあの場所にいた。梓の夢の中でスキーマスクを被 ってチェーンソーで彼女を追い回し、現実では梓が瑠璃子と『酒ヲ煮テ英雄ヲ論ズ』 した場所である(だから違うって)。そこに停まりたくて停まった訳ではない。ただ、 脚がもつれて転がるように倒れた場所がそこだっただけだ。幸いにして筆者の様に無 様に後頭部を打って気を失う事もなく、多少の擦り傷を身体につけただけだったが、 心はボロボロに傷ついていた。溢れる事しか知らないように涙は止まる素振りも見せ ず、頬から顎、顎の下から制服を濡らしていた。 「はひぃ、はひぃ・・・・」 涙は止まらなかったが、倒れたまま動かないでいたかおりは少し落ち着いていた。 「わ、私・・・」 何て馬鹿な事をしたんだろう。センパイの気持ち、知らなかった訳じゃないのに・ ・・ 「馬鹿よ!、大馬鹿よ!。親子揃って大馬鹿者だわっ!!」 いや、別にアンタの親は関係無いと思うが・・・。兎に角、四つんばいの姿勢のま ま、かおりは更に嗚咽していた。梓の気持ちを知った上での嫌がらせ。梓が気分を害 さない筈がない。(そこまで大層な話ではない。ただ、あの間はかおりにそう感じさ せるには十分な間だったのだ) 「でも・・・このまま逃げてばかりじゃ・・・駄目よ、ね」 やっと前向きな結論に達したのは逃げ出して、落ち込んで、泣いて、ちょっとだけ 自分の悲劇っぽさに酔って、今迄の自分の行動を思い返して、落ち込んで、泣いて、 近寄って来た悪餓鬼を殴り倒して・・・そうこうして夜になった頃だった。 「素直に・・・謝ろう。一緒に学校に行きませんかって誘っておきながら、勝手に帰 っちゃった事、放って行っちゃった事、謝れば、きっと・・・」 長い間に、事の起こりを完全に忘れてしまったかおりはそんな事を考えて立ち上が った。 「でも、全ては・・・私がセンパイに好かれないせい。愛してくれないせい。本当の 問題は解決していない。このままじゃ、今回は上手くいっても、私が・・・幸せにな らない限り、同じ事が起こるとも限らない」 それは困った。だが、かおりは新たなる悩みに身をよじらせていた。 「な〜れば、いいじゃん!。な〜れますとも〜〜」 そんな時突然、かおりの後ろから兎の着ぐるみを着た志保が現れる。 「あ、アンタ、誰?」 「幸せ兎」 「嘘」 「・・・・・」 「で?」 「ずんちゃかちゃっちゃ・・・」 「逃げるなぁっ〜」 「冗談よ、冗談」 「で?。誰?。ここじゃあ見掛けない顔だけど」 「私はエンディングは賛否両論、超スーパーミラクル美少女ヒロイン、でも筆者から は「もしかしてTHじゃ一番人気無いんじゃ・・・」などと以前暴言を貰った(御免ね) 長岡志保ちゃんで〜す。」 「知らない。そんな人」 「・・・作品が違うけどさ、今迄は「知らない筈だが・・・」ってフォローはついて いたでしょうに・・・」 「で、何なの?」 「イイ事、教えてあげようか?」 「え?」 「容姿に悩む貴女に、取って置きの志保ちゃんニュ〜ス!」 止めておけばいいのに、かおりは愚かにも(「何言ってんのよ!」(志保))志保の話 を聞いてしまった。そして、翌日、志保に連れられるままかおりは彼女の学校まで行 き、放課後、ある部室へと消えて行った。 「今日も、かおりが学校に来ないんだ」 夕方、学校から帰って来るなり心配そうな顔で梓は耕一に言った。 「へえ・・・」 彼女が大騒ぎして走り去ってから二日、梓も初めこそいつもの発作と思って気にし ないようにしていたが、少し不安になっていた。何せ、自分の前からいなくなったの が失踪前の最後の彼女の姿だったからだ。 「家にも帰ってないのか?」 「うん・・・あ、でも、一度だけ連絡があったんだって。「心配しないで」って」 「ふうん・・・まあ、連絡があったんなら、梓が心配してもしょうがないんじゃない か」 「でも・・・」 その時、玄関のベルが鳴る。思わずビクッとしてしまう梓。 「出ようか?」 「あ、いい。私が出るから・・・」 立ちかけた耕一を制して、梓が立ち上がり玄関に行って扉を開ける。 「センパイ!」 そこには梓の見知らぬ女が立っていた。だから、聞いた。 「あ、アンタ誰?」 「カオリ、ヨ」 「・・・・・」 すっかり別人に変わり果てたかおりに、梓と奥で見ていた耕一は絶句する。 「貴女に、切ない夜を・・・」 硬直した梓の肩をポンと耕一は叩く。もう、すっかりあたりは暗くなっていた。そ の後、彼女を問い詰めた所、志保の勧めで来栖川センパイに作って貰った変身する魔 法の薬を飲んでこうなったらしい。薬の効果はわずか一日で、翌日からは全てが元通 り、何事もなかったように一日が始まった事を付け加えておく。 <完> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「だんだん短くなってくる・・・しかもだんだん苦しくなってるし・・・」(かおり) 「言うな。」「次も、やるの?」(かおり)「取り敢えず次はある。その次はどうなる かわからないが・・・少なくても君は二度と主人公としての出番はない。散弾銃でも 、ロンギヌスの槍でも、レベッカでも、チェーンソーでも、アメリカンクラッカーで も好きな物でも持って何処にでも行き給・・・」 バンッ ズブッ ベシャ キィィィン カチッ 「最低っ!」(かおり) 「パターンだな。もう・・・(バタッ)」