『Solitude(吉田由紀編)』 投稿者:久々野 彰
『Solitude(吉田由紀編)』

『置いていく、靴を下さい』


 …誰でも良かったんだ 誰でも・・・


 制服を着て、学校に通う私。
 私服を着て、友達の家に向かう私。
 お気に入りの服を着て、遊びに行く私。
 何処にでもいる女子高生。少しも珍しくない女の一人。

 別にすれ違う人が振り向いたり、大勢の中から目を惹くような存在じゃない。

 …誰も私に目も止めない・・・。


 誰でもいいんだ・・・私でなくても・・・


 ・・・私である必要がないの。

 それに気付いたのはいつなんだろう。

 …いつの間に、私は舞台を降りたのだろう。

 エキストラの一人に成り下がった覚えはない。
 でも、自分でも気付かぬ間に諦めかけていた。

 …ヒロインにはなれないんだ。

 ・・・と。
 だから・・・もがいたの。


 子供の頃は夢ばかり見ていた。
 夢の中では、アイドルや大女優になったり、スチュワーデスになったり、看護婦さ
んになったり、保母さんになったり・・・お嫁さんになったりしていた。

 夢の中の私は、いつも輝いていて、どれも間違いなく主役だった。

 …キラキラ輝いていたあの日・・・。

 自分の事なのに、ひどく・・・遠く感じる。

 子供の頃と呼べる時期が過ぎていき、学生と呼ばれる長い時間・・・この時間の間
に私は変わっていった。
 途方もなく大きな、それでいて純粋な夢を見られなくなった代わりに、その年頃に
応じた夢を描き始めただけ。誰もが歩むような道を歩みだしただけに過ぎない・・・
と、思う。好きな男の子を見つけて、素敵な恋に落ちて、一生を添い遂げる。それが
夢の最終目標のように考えられ、自分でもさして疑わなかった。退屈な夢かも知れな
いけど、幸せで、幸せで・・・素敵な夢だと、思った。

 ・・・女の子って・・・恋をした時に輝くの。その時に、主役になれるんだよ。

 馬鹿みたいに・・・本当に馬鹿みたいにそんな事を信じていた。


 待っていた・・・。
 ずっと待っていた・・・。

 でも・・・
 何も・・・無かった。
 待ち続けても・・・何も・・・。

 だから、私は・・・自分から動く事を覚えた。
 自分から恋をしてみた。
 積極的に人を好きになってみた。
 進んで心を許し、身体を許した。


 ・・・秘していたものが暴かれた瞬間程、醜悪なものはない。


 そう・・・みんな、嘘だった。

 私は恋をしなかった。
 あの人を好きになっていなかった。
 身体は許しても、心は許さなかった。

 演技をしてみせただけだ。
 大根役者。
 そんな言葉が私の耳を掠める。


 …だからかな、幸せ、来なかった。

 全員が幸せになれたらいいのに。
 皆、楽しめればいいのに。
 一人でも多く、喜べればいいのに。

 そして・・・その主役になりたかった。


 もてはやされる存在になりたかった。
 中心になりたかった。
 なくてはならない人間になりたかった。


 端役なんて詰まらない。
 ガヤなんて目立たない。
 エキストラなんて分からない。


 …どうしたら良かったんだろう・・・私は。


 脇を固める人がいるから、スターはスターでいられる。
 そんなの、嘘。
 スターはスターなの。誰の力も借りないで、何もしなくても・・・"選ばれた"だけ
で、目立つ事が許される。
 "選ばれなかった"人は、ただ、こうして見つめる事しか出来ない。


 …だったら・・・出来るだけ近付くしかないじゃない・・・。


 近付くことで、少しでも雰囲気を味わうしかないじゃない。
 女々しくてもいい。
 未練がましくてもいい。
 一度でいい。
 一度でいいから・・・ヒロインになりたいの。


 …プリマになりたいよ・・・。

 夢見るだけじゃ、何も起きないの。
 魔法使いのお婆さんも、
 白馬に乗った王子様も、
 夢見るだけの少女には見向きもしないの。


 …だから、私は賭けたの。

 ヤクザなならず者か、身分を隠した王子様か・・・。
 貴方に・・・託したの。


 …脇役が、賭けに勝てる筈・・・ないよ。

 本当は、もっと素直に生きたかった。
 普通の、恋する乙女でいたかった。
 平凡でも、楽しく過ごしたかった。


 幸せを求めて、幸せから一番遠い道に踏み込んでしまったの。

 きっかけが不純だから・・・
 醜い打算があったから・・・


 輝きたいと思って・・・何がおかしいの。
 這い上がろうとして・・・何故駄目なの。
 運命に逆らっちゃ・・・いけないの。


 私はお城のパーティーに行く。
 そして終始、隅っこで踊るの。
 王子様は気付かない。
 いつでも、いつまでも待っているのに・・・。


 …でも、もう・・・もがくのも疲れたの・・・。

 少し、休みたい。
 あの人とも離れて
 誰とも会わないで
 今は、一人になりたいの。


 規則的な、機械の音がする。たったそれだけの静かな、静かな部屋。私に与えられ
た、ちっぽけなお城。ヒロインになりたくてもがいた、私の舞台。白いシーツはステ
ージ衣装。観衆のいない、好きな人のいない、誰もいない、私だけの・・・場所。


 きっと起きたら、私はまたもがくだろう。
 スポットライトを目指して、歩き出すだろう。
 報われなくても・・・きっといつまでも・・・私はもがく。

「だから・・・今は休もう。ゆっくりと・・・」

                           <完>
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「実は前からこういう立場の人で一本、書きたかったんです。誰でもよかったキャラ
である彼女。設定もはっきりしない彼女・・・(これ以上言うとRune様に何か言
われそうだな)。恋愛感情は無いけどさ。彼女も登場人物なんです。例え、誰からも見
向きされ無くても・・・。収拾つかなくなった部分もありますが、今の状態では袋小
路になるので、思い切って・・・」