『Solitude(長瀬祐介編)』 投稿者:久々野 彰
『Solitude(長瀬祐介編)』

『さよならに代えてありがとう』


「もう誰も傷つけたくないんだ・・・」

 僕は彼女にそう打ち明けた。

 揺れる思い。
 交錯する現実と理想の狭間。
 見い出すことが出来ない自分がそこにいた。

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「長瀬ちゃん・・・電波、届いた?」
 …届く訳無いよ、だって僕は・・・
 …ボクハ・・・

 何となく気付いてた。
 それとなく感じてた。

 でも・・・認めたくなかった。

 逃げ出す自分。
 何に対して、誰に対して、背を向けたのか、自分でもわからない。

「どうでもいい・・・コト」
 そう無理矢理、自分の中で結論つける。でも、放ってはくれない。そんな自分を、
悩める僕を、皆、放ってはくれない。
 皆、僕に近づいてくる。

 …どうして・・・来るんだ。
 …どうして・・・話すんだ。
 …どうして・・・どうして・・・

 関わりたくない事。関われば良くない事が起きる。それは昔から・・・今も変わら
ない事実。僕の気分を重くする事実。抗えない事実。

 …逆らったことなんて・・・ないじゃないか。

 僕にのしかかる言葉が重い。厳しい・・・言葉。
 嫌な事を避けようとすれば別の嫌な事が待っている。だが、ぶつかっていっても嫌
な事から解消される訳ではない。

 だから、僕は抗わない。流れに身を任せる。
 だから、僕は逃げる。救われないと分かっていながら。

 矛盾する思いが僕の心を絡める。

 …どうしたらいい?
 …どうすればいい?

 答えてくれる人はいない。その問いに反応する人はいない。聞いてくれる人はいな
い。ただ、静寂が僕を包み込む。


「助けてあげるよ・・・・・・私が」
 僕はもう、彼女しか縋るものがなかった。

 だから・・・彼女を抱いた。
 だから・・・彼女の望む事をしてあげた。

 利害関係の一致。"愛"と呼ぶ劣情と欲望の行為。そしてその代価。偽りの偽り。そ
れだけでしかなかった。それだけの・・・


 …冷たい・・・

 僕の中で雨が降る。僕に雨粒が降り注ぐ。足下に溜まっていく雨水。


 …寒い・・・

 僕の足下から風が吹く。僕に冷気が吹き付ける。周囲に取り巻いていく風の渦。

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 僕は、約束を守る事しか、出来なかった・・・。

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「もう誰も傷つけたくないんだ・・・」
 明らかな嘘。傷つきたくないのは自分。誰かが傷つくことで傷ついてしまう弱い自
分。傷つく姿を見て恐怖する自分。己が傷つく事を思い、震え出すひ弱な自分。

 …泣いていいよ

 そう聞こえた。幻聴でもいい。僕の縋ったもの。縋ることのできた・・・人。


 …さようなら、あなた さようなら、ぼく

 そして・・・

 …こんにちわ、きみ こんにちわ、ぼく


 自然に涙が零れる。熱い雫が僕の頬を伝う。今まで、どうして出来なかったんだろ
う。こんなに、こんなに簡単なことだったのに・・・

「行こう」
 僕は彼女をそう誘う。手を引いて、誘う。誰もが傷つき、震えている。それを乗り
越えられるかどうか、それだけの事だと、僕は知った。知ることが出来た。

 …だから・・・泣いてるけど・・・嬉しいんだ。

 僕は見た。僕は・・・見ることが出来たから。

 …僕はもう・・・大丈夫。だから、心配しないで。

 そう彼女に伝えよう。それが、僕の・・・思いだから。

 …ありがとう。

 ただ、それだけを。

                          <完>