『A green Christmas(リーフキャラクターズ・クリスマス)』 出発前、TVの天気予報では「雪は降らない」そう聞いた。いくらチャンネルを変 えようとも、誰を選んでも、同じ事を繰り返していた。 「今夜は残念ながらホワイトクリスマスとはいかないようです」 と・・・ 二人が屋敷を出ようとした時、 「お、お嬢様方。お待ち下さいっ!!」 止めに入った男がいた。 「・・・・・」 「「急がないと、遅れてしまいます」って姉さん言ってるわよ」 玄関で淡い桃色のオーバーコートを着た綾香が、隣にいる濃紺のコートと帽子を被 った芹香の言葉を止めに入ったセバスチャンに伝える。 「今宵のクリスマスパーティーには沢山の・・・」 「そんなの放って置けばいいのよ。私と姉さんは出たくないんだから・・・」 「しかしですな・・・」 「・・・・・」 何かを言おうとしたセバスチャンに、一歩前に出て毅然とした態度で芹香が何かを 呟く。 「ははあ・・・わかりました。このセバスチャン。不束ながらお供させて頂きます」 深々と頭を芹香に下げるセバスチャン。結局、屋敷を三人で出た。 「それでも俺は諦めないんだ・・・あかりぃぃぃぃぃ」 「その通り!!。俺達だってリーフキャラだぁっ!!」 矢島と橋本先輩の二人は肩を組んで酔っぱらい宜しくフラフラしながら、"雪道"を 歩いていた。 「もっとイイ役で出せぇぇぇぇぇっ!!」 「俺は少しだけど出たぞ」 「・・・・・」 ポツリと橋本が呟く。二人が無事に辿り着けるかどうかは分からない。 「琴音ちゃん」 「・・・葵さん」 道ばたでばったり出会う二人。どうも琴音は途中でウロウロしていたらしく、バツ の悪い顔をして、顔を下に向ける。 「あの、急がないと遅れちゃいますよ・・・」 「でも・・・私なんかが・・・」 「何を言っているんですか。藤田先輩も絶対来てって念を押してらしたじゃないです か・・・」 「・・・・・」 「皆、きっと待ってますよ。急ぎましょう」 「・・・うん・・・」 小声でコックリと僅かに、しかししっかりと琴音は首を縦に振った。 二人して歩きながら、智子が鞄の中から何かを取りだして、並んで歩いているレミ ィに見せる。 「ウチ、今夜の為に滅茶苦茶、おーきい靴下持ってきたで。プレゼント仰山貰えるよ うになあ」 「ヘイ。ワタシも願いがかなうように短冊に願いを書いて吊したね」 「レミィ・・・それ、七夕やん」 「Oh!?」 大袈裟に驚いて見せたレミィに、智子はどうしていいのか分からなかったのか、や や複雑な顔をしてみせたが、すぐに笑顔へと変わった。レミィも笑い出す。 「あははははは・・・・」 二人の笑い声が重なった。 「あうあうあう・・・セリオさぁ〜ん。どうしましょう。迷っちゃいましたぁ〜」 「同じ様な場所を繰り返し何度も往来した結果だと推測されます・・・」 迷子をあやすようにマルチを宥めるセリオ。優しかった。 「えぇぇぇん。遅れちゃいますぅぅぅぅ」 「上空から行くのがいいかと。屋根伝いなら視界も開けますし、場所も直ぐに特定さ ると・・・」 「駄目ですぅ。煙突から入るのはサンタさんだけですぅ・・・」 「別にそこから入る必要は・・・」 「ううう・・・姉ちゃん。腹減ったよう・・・」 「ほらほら・・・もう少し我慢なさい」 理緒が幼い妹や弟を連れて会場を急ぐ。 「でも・・・本当に俺も行っていいのかな?」 「大丈夫よ、皆で来てくれって招待状には書いてあるんだから」 「でもさ・・・」 「アンタ達も立派な登場人物よ」 そう言うと、理緒は可愛い弟の頭をポンと優しく叩いて乗せる仕草をする。 「・・・うん・・・」 いつもなら恥ずかしがって邪険にその手を払う筈だが、何故か素直に頷くだけだっ た。 「さ、急ごう・・・」 その手を引いて、楽しそうに理緒が言った。 浩之とあかり、そして志保と雅史の四人は小走りに走っていた。やや浩之と志保、 雅史の三人があかりの速度に合わせているような感じだったが。 「ひぃぃぃぃ、遅刻遅刻」 「全く・・・遅れたらヒロのせいよ」 「おいおい・・・下らないことで人を散々引っ張り回したの、志保のガセのせいじゃ なねえか・・・」 「何ですってぇ!!」 「まあまあ・・・」 「二人とも・・・今夜は特別な夜なんだから・・・少しは仲良く・・・」 「これとそれとは別よ」 「そうそう・・・ま、とにかく急ぐぞ。皆待ってるだろうし・・・」 「もう・・・」 「ははは・・・」 四人の関係はこれからも続きそうだ。 「祐く〜ん!」 都会のビルに囲まれた待ち合わせの公園に遅れて来る沙織。 「御免ねぇ、ちょっとリボン結ぶの手間取っちゃって・・・」 「でも、似合ってるよ。そのリボン」 祐介は時間前から来ていたのだろう、やや耳と頬が赤くなっていたが、沙織の元気 な様子を見てクスリと微笑む。 「へ?。そう・・・てへへ、ありがとう」 そんな自然な祐介の微笑みと科白に、沙織も顔を赤くして照れた表情を見せる。 「急ごう、皆待ってる」 「うん・・・」 二人は自然に手をつないだ。本当に自然に・・・ イリュミネーションが光輝く歩道に拓也と瑠璃子は並んで歩いていた。自転車が二 人の横を走りすぎる。 「瑠璃子。気分はどうだい?」 「・・・?」 「あ、いや・・・その服、どうだい」 「お兄ちゃんのプレゼントだもん・・・」 言葉の後半が隣の車道を走るトラックの音でかき消される。 「ありがとう。お兄ちゃん」 「ああ・・・」 自然に手が繋がれる。仲睦まじい兄妹の姿がそこにあった。 「香奈子ちゃん・・・どうして!?」 瑞穂の家の前に、病院にいる筈の香奈子がいた。 「だって・・・今日はクリスマスだもん」 地味ながら暖かそうなコートを着て、瑞穂に心から嬉しそうに笑いかける香奈子。 「あ、瑞穂ちゃん・・・」 「香奈子もいたんだ・・・」 美和子と由紀も二人して瑞穂の家の近くを通りかかり、瑞穂達と合流する。 「皆・・・」 「瑞穂・・・」 ジワっと涙ぐむ瑞穂に、優しく肩を抱きながら香奈子が微笑む。 「ほら、せっかくの日なんだから・・・」 「はい、ハンカチ」 「ありがとう・・・行こう」 「うん。皆、待ってるよ」 「先輩も妹さん連れて来るだろうしね」 「も、もう・・・由紀ったら・・・」 瑞穂達4人、それぞれ笑い興じながら歩き出す。本当に楽しそうな笑い声をあげな がら・・・ 「さ、探したよ・・・」 息を切らせながら向こうから青年が走ってやってくる。放浪していた筈の柳川の元 に・・・。 「た、貴之・・・」 柳川は驚愕して自分に向かって来る青年を見る。 「僕の所にも招待状が来てね・・・勿論・・・」 「あ、ああ・・・来たけど・・・」 柳川は「行くつもりはなかった」と言うつもりだったが、貴之の嬉しそうな顔を見 て口籠もる。 「行こう。きっと皆待ってるよ。僕達を・・・」 「貴之・・・」 ギターケースを担ぎ直して柳川の手を引く貴之。いつになく積極的な貴之の楽しそ うな顔を見て、柳川も顔を綻ばせる。 「そうだな、行こうか・・・」 他人には決して見せない笑顔を貴之に向け、彼の華奢な肩に担がれていたギターケ ースを引ったくって自分の肩に担ぎ直す。 「うん・・・」 いつになく力強く、貴之は頷いた。 「何だか・・・大掛かりですねぇ・・・」 「確かに、そうですねえ・・・」 「まあ、いいですけど・・・」 会場の隅に男が三人、クローンの様に同じ顔をした男達が一つのテーブルを囲んで せっせと準備に追われる会場の喧噪を無視するようにポーカーを延々とやっていた。 「あ、捨てましたよ・・・」 禁煙なので、仕方なくニコチンガムを噛んでいる源一郎がそう言うと、 「「ダウト」」 残り二人が口を揃えて言った。 「何だ、やっと来たか・・・耕一」 「わりいわりい、列車が込んでてね・・・」 調理場で一心不乱にお菓子作りに精を出している梓の元に、耕一がやって来る。 「言い訳はいいから・・・ホラ、早く中で着替えて着替えて・・・」 「はい?」 「お兄ちゃん。サンタ役やるんでしょう」 「え"?」 駅で耕一を出迎えた初音がそう言って無邪気な笑顔を耕一に向けたのに戸惑う。 「「え"」じゃないわよ・・・」 「耕一さん・・・奥の部屋に衣装、用意しておきましたから・・・」 どこからか楓もやってくる。 「あ、耕一さん・・・」 「千鶴さん・・・」 「会場の準備は進んでいますから・・・」 にっこりとそう耕一に言う千鶴。 「やるんですか・・・」 「この期に及んで何、ウダウダ言ってるのよっ!」 「この期って俺、何も聞かされて・・・」 「せんぱぁーい。これ、どうするんですかぁ?」 チョコを溶かした鍋を両手で持って、かおりが割り込んでくる。耕一を無視するよ うに・・・。 「じゃあ、頼んだからね。それは、あっちの方に置いといて・・・」 「やれやれ・・・仕方ないか・・・」 「耕一さん。頑張って下さい・・・」 調理場では梓の指揮の元、楓、初音、かおり、そして響子や由美子までがそれぞれ 縦横無尽、八面六臂と料理やお菓子作りに励んでいた。ここで料理やお菓子作りをし ていないのは、やって来たばかりの耕一と、千鶴だけである。 「・・・・・」 「わ、私は会場の準備がありますから・・・これで・・・」 耕一のそんな視線に居たたまれなくなったのか、千鶴はそそくさとその場を離れて いった。 「今夜は・・・雨が降らなきゃ上出来・・・かぁ・・・」 ぞくぞくと来場者が集まる会場の外で星が煌めく夜空を見上げながら、さっきまで サイズ調整の為に着込んでいたサンタの衣装をひとまず脱いだ耕一が呟く。 「さ・て・と・・・そろそろ準備するか・・・」 「耕一・・・」 「お・・・親父!?」 耕一が振り向いた先に、耕一の父、賢治の姿があった。 「ど、どうして・・・!?」 「今日は・・・聖夜だからな」 「ははは・・・ムチャな理屈だな」 当然のような顔をして微笑んで見せる賢治に、耕一は苦笑するが何だかどうでもい い事の様に思えてしまった。 「お前もゆっくりしていろ。サンタは・・・俺がやる」 「そっか・・・その方が千鶴さん達も喜ぶかもね」 そう言うと親子二人はゆっくりとパーティー会場へと歩き出した。 「立派になったな。耕一・・・」 別れ際、更衣室になっている奥の一室へ向かう賢治は耕一にそう呟いた。安心した 口調だった。 パーティー会場には浩之が、祐介が、あかりが、沙織が、志保が、拓也が、琴音が 、芹香が、瑞穂が、矢島が、理緒が、響子が、葵が、マルチが、由紀が、橋本が、か おりが、雅史が、綾香が、瑠璃子が、祐也が、レミィが、美和子が、橋本が、セリオ が、貴之が、智子が、香奈子が、由美子が、そしてセバスチャンも、他の沢山のリー フキャラいた。勿論、柏木姉妹も主催者側として会場内をそれぞれ立ち回っていた。 「今更・・・何を言えってんだ・・・なあ」 それぞれ勝手に飲んで、食べて、喋って・・・興じていた。皆、楽しそうにしてい た。だから・・・ 「無理に何をする事もない・・・そうだよな」 耕一は手にしたシャンパンの入ったグラスを傾ける。 「メリー・クリスマス!!」 会場の盛り上がりがピークにさしかかった頃、サンタの衣装を着込んだ賢治がステ ージの隅から現れる。歓声と一部の驚きの声が会場を包む。 「メリー・クリスマス・・・」 外で雪が降ることはなかった。だが、そんな事はどうって事はない。笑い興じる会 場。不幸だった人も、死んだ筈の人も、壊れちゃった人も、悲しかった人も、忘れら れた人も、そして嬉しかった人も、楽しかった人も、みんな集まって楽しんでいる。 「メリー・クリスマス」 もう一度耕一は呟いた。この"Leaf"という会場から・・・全てのキャラクター の思いを代弁して・・・ 私たちに向けて・・・ Merry Christmas!! For You・・・