PART46 「はじまりの予感(最終回後編)」 「マァルチィィィィィィィィィィィィィィィィィィ――――ッ!!!!!!!!!」 祐介が咆吼する。講堂内をその全身から漏れだした電波が音を立てて、光を放って そこら中を覆い尽くす。 バチィッ!! 「わっわっわ・・・」 「何て事だ・・・」 「・・・・・」 足下で飛び跳ね、散る電波のカスを避ける沙織の横で、拓也と瑠璃子は静かにその 光景を見つめていた。 「いけない、いけない・・・怒らせちゃったよ・・・」 「瑠璃子・・・」 「アンタね・・・」 ニコニコと笑い出す瑠璃子。引きつる二人。 「お兄ちゃん・・・どうしよっか?」 「そ、そんな事言ったって・・・」 「アンタの責任でしょうがぁっ!!。何とかしなさいよっ!!」 「瑠璃子をっっ!!!!」 グシュッ・・・ 拓也の足下で口から泡を出して白目をむいて倒れている沙織。目の前でやられちゃ たまらない。 「そうだなぁ・・・こうなったら・・・」 「逃げるの・・・なしね」 先手を打たれて、固まる拓也。 「・・・・・・」 困った顔をして瑠璃子を見る拓也。瑠璃子の目には何も映っていないように思える が・・・。 「やれば・・・いいんだね・・・」 ガックリと肩を落とす拓也。流石に何を要求しているのか分かっている。 「こうなったらヤケだ・・・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 拓也の全身を黄金色の光が包み込む。 ドババァ〜ンッ!! 「電波戦隊デンパマンっ!!。キータ○ラーっぽく参上ですっ!!」 ウイン○マンの敵っぽい(でも良い役)てな感じの衣装になった拓也が何故か虚空を 見つめながらポーズを決める。 「さあ、行くぞ。改造人間祐介サタンマリアンヌ!!」 まるで獣のように咆吼し、辺り一面に放電を繰り返す祐介に向かって指差すと、 「とおっ!!」 拓也はそのまま飛びかかる。 バキィッ!! カウンターで殴り返される拓也ことデンパマン。 「うわぁっ!?」 瑠璃子の横に落ちる。 「・・・・・」 「し、しまった・・・肉弾戦では強くないんだ・・・」 気のせいか、瑠璃子の瞳に嘲りの色が・・・。 「くっ・・・くそうっ!!。破壊電波ぁ――――――っ・・・」 チリチリチリ・・・ 立ち上がり、両手を広げるデンパマンに電波が集まり出す。 「死ねいっっっっっっっっ!。猛虎電波拳!!」 そして腕を振り下ろすと、電波で作られた巨大な虎が牙を剥いて、祐介に襲いかか る。 「・・・・・」 電波に魅入られ、電波に犯された祐介がその凶暴な光を放つ瞳で襲いかかる虎を見 て、その虎の口の上下を両手で捕まえると、 「ウシャァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 バリバリバリィッ!! かけ声と共に、一気に口を引き裂く。 「なっ!?」 「・・・・・」 そして驚愕するデンパマンと、落ち着き払って見ている瑠璃子の方を向くと、 「ウゴキャァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!」 完全に人間らしさを失った祐介が、掌に電波の渦を作り出して、わざわざ野茂のフ ォームを真似して投げつける。 「くぅぅぅぅっ!!」 「・・・・・」 一瞬、横を向くデンパマン。瑠璃子の顔は「どうするの?」と平然と告げていた。 ドギュルルルルッ!! 「くっ」 ケースが壊れて、近くに落ちていたモップを持って打ち返そうとするが、 スカ お約束のフォークボール。見事に空振りし、 チュド――――――――ンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!?」 「・・・・・」 足下に着弾し、吹き飛ばされるデンパマンと瑠璃子。 「えごろわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!!!!!!!!!!!!」 そして瑠璃子を庇うように下敷きになってみせたデンパマンに追い打ちをかけるよ うに、今度はサッカーボール大の大きさの電波を足で蹴り込む。 電波渦が二人の目前に迫った瞬間、脇から声がする。 「崩拳っ!!」 葵が身を挺して現れ、己の必殺技を撃ち込む。 ドバシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!! 「くっ・・・・」 しばらくの後に、お互いに威力が相殺される。 バシュウッ!! 「先輩っ!!。ご無事ですかっ!!」 戦う制服美少女こと松原葵が、デンパマンこと月島達の方を向く。 「あ、ああ・・・」 「ところで先輩、それ何のコスプレですか?」 「あ、いや・・・」 葵はデンパマンの変身の謎を知らない。作者も知らないが。 「兎に角・・・大変なんです!。謎なんです!」 「あ・・・藍原君・・・」 いつの間にか気付いたのか沙織と共に瑞穂までがやって来る。 「学校が・・・傾いているんです。沈んでるんです。地盤沈下を起こしているんです ・・・」 「学校が?・・・どうしてだね?」 「ここ、学校の地下なんですって」 沙織が答える。 「下は大穴、上はドタバタ・・・なぁ〜んだ?」 そして、二人の後ろから間の抜けたクイズのような事を言う人物が現れる。 「え・・・ああっ!!」 「むぅっ!?」 沙織が大声を上げる。拓也も目を見開く。 「はぁい、元気にしていた?」 そこには・・・紛れもない、太田香奈子が立っていた。 「僕1号っ!!」 「違うって・・・相変わらずね、月島先輩」 思わず苦笑する香奈子。 「今までの私は周りの目を欺くためのもの。薬を使って壊れたフリをしてきたの」 「何で・・・そんな真似を・・・」 「キャアアアッ!!」 香奈子が説明を始めていると、少し離れた所で沙織が祐介に襲われていた。 「ニィィィィィィクゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!!!!!!!」 バチバチバチィィィィィ!! 「私は長瀬先生に頼まれたの。マルチに壊れていく甥を救ってやってくれって・・・ 瑠璃子ちゃんと共に・・・」 「瑠璃子・・・」 「うん。御免ね、お兄ちゃん」 変身を解いた拓也が傍らの瑠璃子を見ると、あっさりと肯定する。 「じゃ・・・じゃあ、今まで僕に辛く当たったのは・・・」 「それは・・・面白かっただけ」 「そうか・・・」 「・・・兎に角、私たちは祐介君に対抗できる人を捜したわ。そこで見つけたのが・ ・・」 「僕だったと言うわけか・・・」 頷く香奈子。 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、電波は嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」 「やかましいっ!!」 一人で祐介の集中攻撃を受けて七転八倒している沙織の悲鳴に怒鳴る拓也。 「・・・それで、私は瑠璃子ちゃんと話し合った結果、私は再び壊れた振りをして、 外から様子を窺う・・・瑠璃子ちゃんが、祐介君の注意を月島先輩に向けさせる」 「・・・お兄ちゃんも、長瀬ちゃんも、助けてあげたいから・・・・」 「先輩も?」 ようやくここで葵が口を挟む。 「うん・・・お兄ちゃん・・・ずっと虚勢はってた・・・あの時から、ずっと・・・ 外では傲慢な振りしてたけど・・・ずっと苦しんでた・・・」 「好意的見方だと、私は分析します」 瑞穂が瑠璃子の言葉に信じられないといった顔をする。 「そして・・・このまま長瀬君を放っておくと・・・学校が崩壊すると気付いたの」 「でも・・・それだったら、最初っから事情を話した方が・・・」 葵が正論を入れると、 「痛い痛い痛い!。止めて止めて止めて!」 沙織が祐介に馬乗りにされて殴られている悲鳴が遮る。 「五月蠅いわね・・・」 香奈子がかすかに顔を歪めて、 「ちょっと場所、移動しましょ」 と、全員を引き連れて悲鳴の届きにくい奥に移動する。 「薄情も・・・」 「で・・・今日、この日を迎えた訳・・・いよいよ彼を・・・マルチに魅入られた者 、マルチに魂を惹かれた者・・・を・・・やっちゃって」 「そういう言い方ってマズいんじゃないのか?」 「この部屋・・・この神殿もどきを作って・・・」 香奈子は大きなマルチの黄金像を指差す。 「あんなものまで作った彼がマトモだと思う?」 「異常だな」 「あなたもね・・・でも、危機が学校にまで迫ってるとなると、放って置けないわ。 ここで終わらせるのよ・・・全てを」 「質問していいですか?。いまいち分からないんですが・・・もし、学校に危機が訪 れなかったとしたら・・・どうしていたんですか?」 葵が尋ねる。 「今までどうり、面白がって見ていたわ」 「香奈子ちゃん・・・・」 頬をピクつかせながら、瑞穂が呻く。友情のピンチに香奈子は気付かなかった。 「兎に角、後から考えた設定なんだから辻褄の一つや二つ合わなくて当然なのっ!。 今日、ここで長瀬祐介を倒す。それでいいの!。後のことは考えなくていいの!」 「一号・・・テメエは・・・」 「お兄ちゃん・・・頑張ってね」 「ああ、任せておけ」 「やると思った・・・」 瑞穂が呟く。 「先輩、手伝いますっ!」 「おお、闊葉樹。期待してるぞっ!!」 「・・・・が、頑張りますっ!!」 こちらは名前を読んで貰えない事よりも、そう言ってくれた事の方が嬉しかったの か、頬を紅潮させる。 「待たせたね。長瀬祐介君!」 沙織の鼻の穴に指を突っ込んで振り回していた祐介の元に、拓也と葵が並んで呼び 掛ける。 「お・・・おひょい・・・」 「兎に角・・・彼女を放すんだ」 おおっ、何かヒーローっぽい正義のセリフ。 「んぎゃっ!?」 拓也の求めに応じたのか、拓也の足下に沙織を投げ捨てる祐介。 「や・・・やっぱり・・・最後ぐらいはいい人になりたかったのね。貴方も・・・」 散々弄ばれた鼻を押さえながら、拓也に近付く沙織。 「危険に対する保険その一は必要だからな・・・」 「え・・・?」 「先輩・・・それって?」 「別に珍しくないだろう?。誰だって・・・なぁ。ただのチェンジじゃダメージくら って不利になるから捨て石作るだろ。誰でも同じ事を・・・」 作者はやった。よくやった。 「ち、因みに・・・その二って・・・」 「心配するな。骨ぐらい持ち帰ってやる。石碑に名前を彫ってやる」 「あのね・・・」 沙織がぼやくと同時に、 「ウシャシャシャァァァァァァァ――――――――――――ッ!!!!!!!!!」 溜めていたのか、両手を覆い尽くす大きさの電波渦を抱え、祐介はジャンプしてダ ンクシュートよろしく飛び込んでくる。 「いけないっ!!。あんなのを食らったら・・・」 「貴女に私の苦労が・・・ねぇ、聞いてるのっ!?」 後ろから泣いている瑞穂に、髪を引っ張られていた香奈子が、状況の悪化に絶叫す る。 「くっ・・・デンパ・スレイヴ!!」 「蒼龍奮迅拳っ!!」 「さおりんラブラブフェイス!!」 二つの攻撃技が迫り来る祐介を迎撃にかかるが、 バシィ! バシィ! あっさりと弾かれる。 「え・・・?」 「そ、そんな・・・」 「ニコニコニコ・・・」 ズドドド――――――――――――――――ン!!!!!!!!!!!!!! 床に開けられたクレーターに、屍が三体。 「な・・・何っ!?」 流石にその振動が伝わったのか、地上にいた好恵が驚いて立ち上がる。 「こ・・・校舎が・・・傾いてる?」 恐るべき事態になっていた。 「くっ・・・これまでか・・・」 「あ、ありがとうございました・・・」 「祐くん・・・私のこと、忘れちゃったの?」 よろよろと立ち上がる三人。だが、己を完全に見失っている祐介は容赦なく、止め を刺すべく、ゆっくりと近付いて来る。 「このままじゃあ・・・」 「まずいわね・・・」 流石に状況に気付いたのか、瑞穂も我を忘れて見入っている。 「・・・・・」 その時、瑠璃子の手が、瑞穂の眼鏡にのびた・・・ スゥ・・・ 「?・・・・・」 瑞穂の動きが一瞬止まり、そして・・・ 「眼鏡ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!!!!!!」 「!!!!????」 一番近くにいた香奈子がまず最初に叩き飛ばされる。マルチアイテムが陳列されて いるショーケースへとぶつかり、危険な角度で床に落ちる。 「ちょ・・・ちょっと・・・!?」 「眼鏡ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!!!!!!」 「んぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ・・・・ん・・・・ぐ・・・・・」 次に近くにいた沙織の首を鶏でも絞めるように捻り、放り投げる。ドス黒い色に顔 色が変わっていた。 「眼鏡ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!!!!!!」 「あ・・・あの・・・」 そして葵には容赦ないスクリューハンマーをぶち込まれる。受け身など、取りよう がない。そのまま、香奈子と沙織が捨てられた上に飛ばされていく。 「眼鏡ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!!!!!!」 「ぐべ、ばぼ、ぐふ、ざくれろ、どむ、げるるるるぐ、ううう・・・じお、んぐ、ぎ ゃんっ!!」 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュの嵐で拓也を殴りながら前進し、 「ぞごっく!!!!!」 止めの一発でムーンサルトキックをかまされ、これもまた、三人の眠る超人墓場へ と叩き付けられる。 「眼鏡ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――――!!!!!!!!!!」 「ウギャルルルゥ・・・!!」 凶行を繰り広げながら近付いてくる瑞穂に、祐介は電波を手にまとわりつかせ「栄 光の手」状態にして立ち向かう。 「ウガ・・・」 「何処ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――っ!!!!!!!!!!!」 ドカバキグシァャ!!!! 「ウンガッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 瑞穂のマッハパンチは、一瞬にして祐介を遙か彼方へと吹き飛ばした。 ドカァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! マルチの黄金像に叩き付けられる祐介。そしてそのまま頭から地面に落下した。 ・ ・ ・ 「あ、あれ・・・皆、一体・・・」 瑞穂が眼鏡を瑠璃子から受け取り、視界が正常になると瑠璃子以外、周りにはボロ ボロになった拓也達が佇んでいた。 「何だったんだ・・・」 「何だったんでしょう・・・」 「兎に角・・・終わったのよね・・・」 「ミズホ・・・コワイ・・・ミズホ・・・コワイ・・・」 香奈子なんて、前に戻ってるし。 「私たち・・・勝ったの?」 「まあ、一応・・・」 「くぅぅぅ・・・あ、これは・・・一体・・・」 祐介が気付いた。 「長瀬君・・・」 「あっ!!。ど、どうして・・・こんな・・・こんな・・・」 惨状に驚愕する祐介。 「また、発狂したら私、怒るからね」 「そんな・・・そんなあ・・・」 ピキィ その時、天井の一角が崩れ落ちる。 「え・・・?」 「ヤバイ・・・崩れるぞ・・・」 ガラッ!! ドシャァ!! その声に反応して、所々罅と共に聖堂の壁が、柱が、天井が、崩れ始める。 「に・・・」 「に?」 「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 拓也は瑠璃子の手を、瑞穂は香奈子の手を引きながら、皆が慌てて学校の体育倉庫 側に通じるドアに向かって走り出す。 ドガラァッ!! ガシャァァァンッ!! バキィッ!! 「何なの・・・一体・・・?」 好恵の目の前で、ゆっくりと学校が沈んでいく。見事に平行に吸い込まれる様に沈 んでいく。 「消える・・・消えていく・・・の?」 唖然として、呟いた。 校舎が・・・消えようとしていた。 ガシャァァン!! バゴゴゴッ!! 崩れゆく大聖堂で祐介は壊れた黄金像のマルチの首を抱えて座り込んでいた。 「マルチ・・・アイシテル・・・マルチ・・・アイシテル・・・マルチ・・・アイシ テル・・・」 壊れた機械仕掛けの人形のように繰り返していた。そう、初めは「好き」から始ま るのだ・・・何事にも・・・。 「祐君、何してるのよっ!!」 瓦礫が崩れ落ちていく広間に一人、引き返してきた沙織は戻ると、呆然と座り込ん だままの祐介の襟首を捕まえる。 「逃げないと・・・死んじゃうよっ!!」 「マルチ・・・アイシ・・・」 バシーンッ!! 「何、ごちゃごちゃ言ってるのよっ!!。ここを脱出しないと死んじゃうのよ。何が アイシテルよっ!。愛してるんだったら、直接そう言えばいいじゃないっ!!」 平手打ちした沙織の目には涙が光っていた。 「沙織ちゃん・・・」 唖然とした表情をして、沙織を見上げる祐介。そんな祐介に沙織はキッとした表情 をしていたが、 「いいこと・・・私は、さ・お・り・ん・・・よっ!!」 それでいいのか?。もっと違う事言わなくていいのか?。 体育用具室の秘密の出口から次々と脱出していく。 「うわぁー、うわぁー・・・」 「まるで戦災で防空壕から焼け出されたみたい・・・」 小手をかざして美和子と由紀が見ていた。学校には、彼女達以外、誰もいないのか 何故か他には誰も来なかった。 そして・・・ 「瑠璃子・・・」 「お兄ちゃん・・・」 その場に立ちつくした少年少女達。彼らの前には見事に地下神殿のスペースに入り 込んで僅かに屋上の部分が見えるだけの学舎があった。 「消えちゃった・・・のね」 何とか回復した香奈子が、ポツリと呟いた。そう、結局彼女はこの事態を止めるこ とが出来なかった。 「全てが・・・終わった・・・の?」 瑞穂が怖々と尋ねる。 「ああ、終わった・・・悪夢は、全て・・・」 拓也がそう言うと、 「悪夢・・・ですか・・・」 何か夢から醒めたような顔をしていた祐介が、その言葉に反応したのか、そうポツ リと呟いた。 「長瀬ちゃん・・・大丈夫?」 瑠璃子がやや心配そうな目をして祐介を見る。 「・・・瑠璃子ちゃん・・・」 「・・・・・」 二人が顔を見合わせているのを、後ろで沙織が、頬を膨らませながら見ていると、 「沙織ちゃん」 祐介が後ろを向いて、そんな膨れっ面の沙織に声をかける。 「え・・・な、何?・・・」 急にこられたので、沙織がドギマギしていると、 「さっきは・・・ありがとう」 ニコッと爽やかに・・・本当に爽やかに祐介は笑った。自然な、微笑みを沙織に向 けていた。 「明日から・・・どうなるんだろう・・・瑞穂?」 瑞穂にため息をついてみせた由紀だったが、瑞穂が急に嬉しそうな顔をしていたの で、驚いて尋ねる。 「これで・・・」 「これで?」 こちらは美和子。 「解放された・・・全てから・・・」 本当に心の底から嬉しそうに瑞穂はそう言った。 「細々した勘定計算しなくていいもんね。この規模じゃ・・・」 由紀がその後ろで言った。 「任務に失敗・・・かぁ」 大きく息を吐く香奈子。だが、その顔に悲壮感はない。むしろ満足げに見えた。 「まぁ・・・いっかぁ」 久々の運動に疲れたのか、首をコキコキと鳴らす。 「先輩・・・」 祐介の元に瑠璃子と沙織がいて、三人で楽しげに喋っているのを見ている拓也に、 葵が怖々と声をかける。 「ん・・・何だい。葵君」 パワワァァァァ その瞬間、葵の表情が晴れやかに、花が咲いたようになった。 「葵・・・」 土煙に巻かれていて、隣で汚れをはたいていた好恵は、そんな嬉しそうな葵の顔を 見て、 「ま・・・いっか・・・」 何故かこちらも清々しい笑顔になった。 「葵が幸せなら・・・いっか・・・」 自分に言い聞かせるようで、それでいて意外に納得している自分に驚いていた。 「・・・・・」 世にも嬉しそうに拓也を見つめている葵と横目に、美和子も苦笑する。 「次は・・・」 「いい男を見つけるってーの?」 美和子の独り言に由紀が突っ込む。いつもと同じ、クスクスとした笑み。 「私は・・・由紀みたいにいい加減じゃないから・・・」 「あ、ひどーいっ!」 「うふふふふふ・・・」 「あははははは・・・」 そう笑う美和子の、由紀の目尻にかすかに涙が光っていた。 「間に合わなかった・・・か」 少し離れた所で腕組みをした全身黒褐色の鬼が立っていた。来週から、この学校に 実習生として来る事になっていた貴之の為に下見に訪れていたエルクゥガーこと、柳 川祐也の姿だった。 「貴之も・・・呼んでやりたかった・・・」 出番が失われた男の、言葉だった。 ・ ・ ・ 「一緒に帰らないのかい?」 拓也は自分の隣を歩く瑠璃子に尋ねる。祐介は脱出の際、足を挫いたらしい沙織と 一緒に病院に寄るべく帰っていった。一度、病院に戻ると言った香奈子、瑞穂も一緒 だ。葵も拳を痛めたとかで同行していた。由紀と美和子はいつも通り、二人して仲良 く連れ立って帰っていった。もう一人の女子生徒はひっそりと姿を消していた。 「お兄ちゃんこそ、いいの?」 相変わらず、何を写し出しているのか分からないその深淵の瞳で拓也を見た。 「僕は・・・瑠璃子が一番大事だから・・・」 「意地悪ばっかりしていたのに?」 自覚はあったらしい。だが、顔は平常のままだ。 「そんな所も含めて・・・かな」 「・・・・・」 多少照れくさそうに拓也が言う。この兄妹、こうして二人で静かに語り合った時が 今までどれほどあっただろう。 「あの時・・・あの時、僕は取り返しのつかない事をしてしまったと思っている」 「お兄ちゃん・・・」 「でも・・・僕は瑠璃子が・・・瑠璃子が・・・」 最後の方は言葉にならない想いが溢れ出す。 「こんな事・・・言う資格はないのかも知れない・・・」 「お兄ちゃん・・・」 立ち止まって震え出す拓也を、瑠璃子は優しく抱きしめる。 「御免な、瑠璃子・・・」 「お兄ちゃん・・・」 拓也の震える身体をしっかりと抱き留めて、瑠璃子は頭を胸に押しあてと、 「やっと・・・謝ってくれたね。あの時の事・・・」 静かに、微笑んだ。 「瑠璃子・・・」 「本当は・・・」 瑠璃子の様子が変だった。逆に瑠璃子の身体が震え出す。 「瑠璃・・・子?」 「怖かった・・・怖かったよ」 ポロポロと涙の雫が拓也の学生服を濡らす。 「お兄ちゃんが・・・お兄ちゃんじゃなかったみたいで・・・」 瑠璃子は泣いていた。いつもの、不思議な雰囲気を身に纏わせた瑠璃子ではなく、 月島瑠璃子と言う、ちっぽけな普通の少女がそこにいた。泣きじゃくる、年頃の女子 高校生が・・・。 …そう、あの日から壊れたのだ。拓也も・・・・そして瑠璃子も・・・ 「御免・・・御免な・・・」 拓也はそんな瑠璃子に詫びながら背中を撫でることしか出来なかった。ちょっとし た間違い・・・その間違いがここまで自分を、瑠璃子を、周囲の人間を狂わせる事に なろうとは・・・今更ながらに、気付いたのだ。 「いいの・・・もう、いいの・・・もう・・・」 暫くの間、泣きながら瑠璃子は繰り返す。そして、 「お兄ちゃん・・・帰ってきてくれた・・・」 ゆっくりと嬉しそうに呟いた。 「瑠璃子・・・」 「私の元に・・・帰ってきてくれた。本当の、お兄ちゃんが・・・」 手をかえして今度は、拓也が瑠璃子を抱きしめる格好になる。 「・・・・・」 「・・・・・」 そしてお互いを見つめ合い・・・ ゆっくりと、口づけを交わした。妹の愛に気付かなかった兄、兄の苦しみを理解し ながらも冷たく突き放す事しか出来なかった妹。壊れていた兄、壊れていた妹、長い 間すれ違いを続けた兄妹の和解。いや、お互いを心から分かり合えた瞬間だった・・ ・。 愛があれば・・・何も問題はない。例え、兄妹だろうと、何だろうと・・・問題な のはお互いを愛し合う心・・・心だけだ。 「ねぇ・・・お兄ちゃん」 家に辿り着く前に坂道、その坂の途中まで登ったところで、瑠璃子は拓也の方を振 り返る。 「何だい?」 「私・・・世界一、お兄ちゃんが好き」 そう言って拓也に微笑んだ瑠璃子はまるで・・・まるで・・・ …眩しいな・・・。 僕に舞い降りて来た天使だった・・・。 ―――――ED Song『あたらしい予感』 "電波戦隊デンパマン" 第4章『この世の果てでデンパを放つ少年』 <THE END> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <登場人物に一言> 月島拓也・・・主人公です。最後はデンパマンとしての活躍は皆無でしたが、彼にと っての最終目的は果たしたから、良しとしましょう。 月島瑠璃子・・結局、あの話を作ってから瑠璃子いい娘モードが消えませんでした。 ですから拓也とハッピーエンド。まあ、いいじゃないですか。 長瀬祐介・・・ライバルは最後まで敵役に・・・エルクゥですね、あれじゃあ。沙織 と結ばれるかどうかはこれから。でも、親密になれそうです。 新城沙織・・・結局の所、「よかったね」と言えるでしょう。祐介が少なくても最初 よりは見てくれるようになったのですから。 藍原瑞穂・・・マトモじゃなくなりましたね。つんつくつん状態にしたのはオチに苦 しんだから。まあ、香奈子も還ったしよしとしてくださいな。 太田香奈子・・静耶様に言われた時、ギクとしました。ちょっと違ったのですが、最 終回にはマトモな香奈子を出す予定は前から立っていました。 桂木美和子・・振られ女の一人。でも、本当は幸せかも知れません。設定資料だけで ここまで書き表せたのは素直に満足しています。 吉田由紀・・・実はまだ拓也の事を・・・だったのでしょうか?。彼女はソロっで一 本シリアスを作った程(多分、誰も書いてないでしょう)で、好きです。 松原葵・・・・THから借りてきたキャラ1。最後は認知されただけです。が、努力 が報われたのはよかったでしょう。問題はこれからです。 坂下好恵・・・思いつきで作ったら大ブレイク。結局、最後まで出ました。葵の事が 好きで壊れかけていた彼女でしたが、あっさりと・・・ですね(苦笑)。 柳川祐也・・・無理矢理出番を作りました。セミファイナルで出そうかとも考えてい たんですが・・・。後半は全く出番なしです。 阿部貴之・・・こっちは完全に出番無し。まあ、別にいっかっ・・・てな感じです。 ここでは特にどうしようとも思わなかったし。 <幻のキャラ> 柏木千鶴・・・謎の"虚乳"教師。誰かを捜しているらしく、本当の身分を隠して拓 也の学校に潜入する。胸の秘密を知った者は生きて帰れないと言う噂 がある。 「彼女がお蔵入りした理由は明白でしょう。Lメモです(笑)。こちらの千鶴は胸パッ トを常にしていて事情を知らない生徒を騙して・・・だから"虚乳"(笑)」 <総括> 本当は最後2話はPART49、PART50の予定でしたが、まあ仕方ないでし ょう。読み切り形式で良かった(笑)。ギャグ物に最後だけ急に真面目ぶるっていうの は本当は反則でしょう。でも、今の私にはこのエンディングが一番いいと思いました 。いろいろあって、でも明日からいつものドタバタ劇・・・ってパターンはこれでは やりたくなかったので。ただ、デンパマンとしての謎の部分には触れてない(苦笑)。 でも未完だけは嫌だったし。まあ、兎に角・・・ 『電波戦隊"デンパマン"』 長い間、ご愛読いただき、真に有り難うございました。 23:22 98/02/05 自宅にて 久々野 彰