夕日射すグラウンド。 はたっとよろめく少女。 その体育服は土に汚れ、ぼろぼろに破れてしまっている。 涙の飛沫が宙を舞い、広すぎるグラウンドのほんの一欠片のみを濡らす。 耕一:どうした、立てっ!梓っ! 梓:だめだよコーチ!もう立てないっ! 耕一:甘ったれるなあっ! ごすっ! 耕一のビンタが梓の頬を捉え、梓の身体を軽々と吹っ飛ばす。 梓:がふっ! 耕一:そんなことで宇宙ナデシコの栄冠を手に入れられると思っているのか! 梓:いや、あたしは単に地区予選に出場できればそれで… 耕一:馬鹿野郎っ! がすっ! 耕一の拳が梓の顎を捉え、空高く舞いあげる。 梓:ぐわはっ! 耕一:志を低く持つなあっ!やるだけやってみる、それがスポーツマンシップって奴だ ろう! 梓:ううっ… グラウンド隅の大木の影からそっと見ているかおり。 かおり:先輩…ファイト! 耕一:さあ、分かったらもうグラウンド一周だ! 梓:だめだよコーチッ!あたし、才能ないんだ! 耕一:愚かものっ! どごすっ! 耕一の回し蹴りが梓の側頭部に入り、梓を地面に叩きつける。 耕一:やる前から何を諦めている!貴様はそんなに軟弱な奴だったのか! 梓:才能ない奴は何やったって駄目なんだよ! 大体動きが遅くて柳川に軽くあしらわれてたじゃないか! 耕一:決めつけるなぁっ! ずがしゃぁ! 耕一の背負い投げが梓をグラウンドの端に飾られていた石碑に叩きつける。 耕一:人間努力と根性で大概の欠点は克服できる!さあ、走れっ! 梓:そんな精神論で納得できるかっ! 耕一:これほど言っても分からないのかっ! がすこっ! 耕一が手にしたスコップが梓の頭を重くはたく。 梓:ぎゃふっ!? 耕一:梓、俺はお前が憎くてしごいているんじゃない! お前の才能を信じればこそだ! 梓:ああ、そうかよ!コーチはやっぱりあたしの人間性なんかちっとも見ていないんだ な! 耕一:見損なうなっ! じゃりじゃりじゃりっ! 梓の頭をひっつかんで、地面に強くこすりつける。 梓:あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!? 耕一:梓、お前は勘違いをしている! 俺はいつでもお前を見ているぞ! 梓:だけどコーチはいつだってあたしにきつくあたるじゃないか! 耕一:どこまでふやけているんだ貴様っ! ざばざば…じょぎじょぎじょぎじょぎっ! 梓の顔を水をためた水飲み場に沈めた後、傷に荒塩を刷り込む。 梓:うぎょええええええええええええええ!? 耕一:言われなければ何も分からないのか!それでも脳味噌は入っているのかっ! 大木の影からまだ見てるかおり。 かおり:先輩…負けないで! 耕一:ガッツだ!根性を見せるんだ! 梓:そんなこと言われてもいきなりできるかっ! 耕一:見誤るなぁ! ずぶりっ! 手にしたアイスピックで梓の眉間に一突きを喰らわせる。 梓:血がぁっ!?額からぷしゅーーーって血があっ!? 耕一:人生何事も気迫だっ!逃げ腰では何も叶えられんっ! 梓:逃げたくもなるわっ!この鬼コーチがっ! 耕一:当たり前だっ!エルクゥなんだから! 大木の影からうるうるとした目で見ているかおり。 かおり:先輩…私が付いてますから! 梓:もういいよ!これ以上あたしに構うな! 耕一:どこまで馬鹿なんだお前はっ! ごおっっ! 手にしたガスバーナーを思いっきり噴出する。 梓:あじゃあああああああああああああああああああああああああああっ!? 耕一:分かるか梓、俺の思いが!? 梓:何を解れってゆーんだよぉっ!? 耕一:この大馬鹿野郎っ! どごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ! 目にも止まらぬ高速拳の嵐! 梓:ぐ…ふっ。 耕一:梓…いい加減に解るんだ。 梓:な…何をだよ? 耕一:この…この特訓が、愛のなせる業だという事をっ! ざっっぱあああああああああああああああああああああああああああああん! 見つめ合う二人の眼と眼、天高く立つ白波。 梓:はっ!?こ、コーチ!あたしが間違ってました! 耕一:分かってくれたか梓ぁ! 梓:コーチ! 耕一:梓! だきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっ! かおり:馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!! ごす。 かおりの手にしたつるはしが耕一の脳天を突き破った。 かおり:先輩の…先輩の馬鹿ーーーーーーーーっ! 泣きながら走り去るかおり。 耕一の亡骸の側でぐぐっと拳を握る梓。 梓:かおり…あんたも、愛なんだねっ………!!!!!! 絶対に、違う。