似非・痕 投稿者:風見 ひなた
 其の一  初音バッドエンド・その後

 初音ちゃんと俺がエルクゥ達に取り囲まれた、その後………。

 俺はじっと洞窟の暗闇の中で静寂に耐えていた。
 周囲にはエルクゥ達もいる。
 俺と同様にまんじりとせず闇の果てを見つめている。
 次第に待ちかねてきた俺は、手近なエルクゥの方を向いて
「なぁ、遅いと思わないか?」
 と呟いてみた。
『短気は良くないぞ、次郎衛門』と諭す声が帰ってくる。
 …………結構こいつらって面倒見が良いかも知れない。
 飯もどっからか果実やら獣やら持ってくるし。
 中には落語が得意な奴もいたりする。狩猟民族でもやっぱりいるんだなぁ、芸人って。
 俺はともかくじーーーーっと闇の向こうを見つめ続ける。
「考えてみれば、生まれたとして声なんて届くのか?」
『いくらなんでも反響で聞こえてくるだろう。お前、そんなに心配なのか?』
 幽霊に茶化されたくないなぁ。
 と、思っていると。

 ほぎゃぁぁぁぁぁっ、ほぎゃぁぁぁぁぁっ!!!

「………届いた」
 どっかで聞いたようなセリフを呟きつつ、俺は全力で洞窟の奥へと突き進んでゆく。
 そしてその奥にいたのは………………!
 可愛らしいってゆーか猿みたいなものを抱きかかえた最愛の女の子…
 ってゆーか身体からぶしゅうううううううって豪快に血ぃ吹き出してるしいぃぃぃぃ!
「あ、お兄ちゃん!」身体から鮮血をまき散らしながら初音ちゃんはニッコリ微笑んだ。
「見て、お兄ちゃんと私の子だよ」
 俺はそんなことより震える指先で初音ちゃんを指さした。
「は、初音ちゃん…………?」
 彼女はようやく自分の身の現象に気が付いたらしく、可愛らしく頬を抑えると赤くなっ
た。
「あ、これね。エルクゥの赤ちゃんってお母さんのお腹を引き裂いて出て来るんだって。
私もこんな風に生まれたんだねって思うと感動しちゃった」
 そんなこと言いつつ涙ぐんでみせる初音ちゃん。
 うーん、そーか。
 エルクゥって不思議だね。
『はっはっは、だから身体を引き裂いて取り出すって言ったじゃないか』と呑気そうに傍
らにいたエルクゥが言った。
 ややこしいんだよっ!っとツッコミを入れてみると案の定素通りした。
「それより耕一お兄ちゃん、この子に名前を付けないと」
「ああ、それならもう考えてあるんだ。元がダリエリだから………………」
 俺は赤ん坊を抱きかかえると、ニッコリ笑いながら言った。
「ムック」

 ばきっっっっ!!!!!!(←寝返り)


 そんなこんなで月日は流れ…………。
 俺は息子を捜しながらうろうろと歩き回った。
「おーーーーい、ムックーーーーーーーー!!!」
「その名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ごきっ!!
 俺は後頭部に蹴りを喰らいつつも息子の頭をぽんぽんと叩いた。
「おお、こんなとこにいたのか………ってどこから出てきたんだ耕次」
「ダリエリと呼んで欲しいんだけどなぁぁぁぁ………………とほほ」
 泣いても名前は変えんぞ。
 しっかしこいつ、18の時の俺そっくりになってきたな。
「そんなことより耕次、今日はついにお前の36人目の兄妹が誕生するわけだな」
「親父もいい年こいて十八年間よく頑張ったな」
 ばきっっっっ!!!!!!!!!!!!!!
「てめえがやらせたんだろがっ!!!!」俺は耕次の頭をどつきながら叫んだ。
 全く、このクソガキめ。
 耕次は頭を撫でながら立ち上がった。さすが前世でエルクゥの長を務めただけあって頑
丈だ。
「確か、今年で全員終了だったな?」と俺は耕次に確認する。
 全力で殴られた耕次はこくこくと涙目で頷いた。
「これでようやく全エルクゥを回収したわけだ………」

 そこに、最後の子供の誕生を知らせる産声が聞こえてきた。
 俺達は毎年のごとく洞窟の奥へと走り込む。
 すると、向こうからてこてこと金髪の美少女が歩いてきた………つまり俺の娘なのだが。
「おう、次音!お母さんはどうした!?」
「……………ネーミングセンスが安直だって思わないこともない…………」次音はなんだ
か泣きそうな顔で言った。ほっとけよ。
「お母さんはどうしたのかって聞いている!」
 次音はすっと右に寄った。
 なお、こいつの妹は三音でその下は四音である。やっぱり安直かも。
 そんな事はさておき、ぶしゅうううううううううと鮮血を吹き出しながらいつ見ても変
わらない顔の赤ん坊を抱えている妻が姿を現す。
「あなた………この子達で最後なのね…………」
「ああ、よく頑張ったな」
 不意にふらっと初音が倒れ込む。
 俺は慌ててその軽すぎる体を支えた。
「あ………ちょっと貧血が………」
「もうお前も三十四だもんな、気を付けないと…………」
 ともあれ、こうして全てのエルクゥ達が身体を得たわけだ。
 ようやく故郷への旅が始まる…………………。


 こうして身体を得たエルクゥ兄妹達はお父さんとお母さんに連れられて母なるレザムに
帰ってゆきました。
 ちび耕一とちび初音が十八人ずつ年齢順に行進してゆく様はとっても不気味だったと言
います。どうでもいいけど何で全員同じ顔やねん。

「やった、レザムが見えたぞ!」
「次郎衛門、やったな…………!」
「お父さんと呼べっ!」
「色々あったけど、ようやくみんな揃って母性に帰れるのね………」
「…………みんな?」


「千鶴姉………もしかして、あたしら見捨てられたんじゃ………」
 梓の呟きにつつっと千鶴(四十二歳、独身)は汗を流した。
 その横では何故か全く年を取っているように見えない楓がずずっとお茶を啜っていた。

                     完

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ひ:ごめんなさいごめんなさいっっ!
み:なんじゃこぉりゃぁぁぁぁぁぁ!?
ひ:うーん、本当はちび耕一&初音がぞろぞろと円盤に乗り込むという光景を書きたかっ
  たのに………
み:って、これなんなんですか!?
ひ:むぅ、貴様は1876年に肉屋の息子が恋人と共に森に逃げ込んで旅人を襲っては喰
  い殺しながら近親相姦を繰り返し結局36人に殖えたという歴史的史実を知らないの
  ですか!?
み:嘘つけーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!
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 其の二 ガチャピン来たりて親善漫才

 はっきり言って、人類存亡のピンチである。
 タイトルから判るように、外宇宙生命体が持ち込んできたウイルスのせいでいきなり人
が死にまくり。
 しかも…………その感染スピードは異常。
 バリアを張ったからいいようなものの、そうでなければ今頃世界中で巨大人口減少が起
こっているだろう。
「それというのもみんな貴様のせいだーーーーーーーーーーーーーっ!」
『あたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』
 俺はガチャピンを蹴り飛ばした。きれいに奇跡を描いてぶっ飛んでゆく。
 ゴミバケツにめり込みつつ、頭にバナナの皮を被ってむくっと起きあがった。
『いきなり何するんですかっ!?』
「どやかましい!元はといえばお前がウイルス持ち込んできたからこんなことになったん
だろがっ!」
『うう、わざとじゃないのに〜〜〜〜〜』
 わざとでやられてたまるかこの低級生物がっ!!!!!
 そんな日常の一ページを演じていると、ばたばたっと奥の方で音がした。
 ひょいと覗いてみると、梓が初音ちゃんと揉めている。
「どうしたんだ二人とも?」と俺は気さくな感じで声を掛けた。
 初音ちゃんは困ったような顔で振り向く。
 梓はムッとしたような顔をしていた。
「お兄ちゃん、梓お姉ちゃんがかおりお姉ちゃんのお見舞いに行くってきかないんだよ」
「あたしはいくぞっ!あの子を見捨てられるか!」
 俺は記憶の中の手帳をぱらぱらとめくってみた。
 ああ、あの生意気なブス女か。
「勝手に行けば?」と俺は半眼で言った。
「お、お兄ちゃん!?危ないよ、病院にはここよりももっと濃いウイルスが蔓延してるん
だよ!」と初音ちゃんが慌てて言う。
 いや、でも梓なら病原菌の方が逃げてきそうな気もするけどなぁ。
 などというと殺されるので黙っていたが、梓はなんだか憮然としたような表情だ。
 もしかして、それって…………。
 俺に付いてこいってことか?
 などと考えていると、にゅっとガチャピンが後ろから顔を出した。
『コーイチさん、ウイルスには男性であるあなたの方が抵抗力が高いです。この場合彼女
は残して代わりに様子を見てきて上げると良いでしょう』
 てめえは恋愛ADVのうっとおしい攻略ヒントかっ!
 無言でガチャピンにツッコミを入れつつ、俺は梓に一言言うと外に出かける。
 ……………何故だれも止めない。

「ただいま……」げっそりとやつれているであろう俺を迎えたのは梓だった。
 あれ以降ずっと玄関口で座り込んでいたらしい。
「耕一!かおりはどうだった!?」
 俺の心配はしねえのか。
 ちょっとむかつきつつ俺は無理矢理に笑顔を作った。
「ああ、連れて帰ってきた………」
「えっ!?どこに!!?」
 色めき立つ梓の前に、俺はひょいとバケツを差し出した。
 ぼこぼこと泡立つドロリとした緑色の液体が入っている。
「何これ」
「かおりちゃんのなれの果て」
 ……………………………………………………………………………………………………。
「ええええええええええええええええええ!?」梓がずざっと飛び退く。
 そう、かおりちゃんは時既に遅く、病魔に冒されてどろどろに解けてしまったのだ。
 梓はバケツをひったくると、すりすりとそれに頬摺りした。
「ああ、かおり………なんて変わり果てた姿に…………」
 ちょっと哀れではあった。
 と、そのとき愛の奇跡が起こる!
『先輩、泣かないで!』
 なんとスライム状態になった液体がバケツから飛び出ると、身体の一部を動かしてそう
喋ったのである!
「か、かおりっ!」
『先輩、私生きてます!』
 げげっ!?俺はだらだらと脂汗を垂らして立ちすくんだ。
 そんな俺を全く意に関せず、梓とゲル状の物体は真剣に会話を交わしている。
「あんた、生きてたんだねっ!?」
『はいっ!愛の力ですぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!』
 愛の力かホントに!?
 それって呪いかなんかじゃないのかおいっ!!!
 梓とかおりスライムは熱く見つめ(え?)合って………………………
「かおり、あたしもうあんたを二度と放さないよっ!」
『先輩、あたしこんな姿でもいいんですね!?』
 たったった……………………(←百合咲き誇る草原をバックに)
「かおりぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
『せんぱぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!』
 ひしっ!

 ぶじょるっ!!!!!!

 かおりスライムは辺り一面にその滴…というか破片を飛ばした。
『もう先輩ったら力もちなんだからぁ。今度は優しくしてね☆』なんか再集合してるし。
「あはは、ごめんよぉ」なんか顔面緑色だし。
 幸せかっ!?それでいいのか、お前らっ!?

 離れてみていた楓がぼそっと呟いた。
「もんじゃ焼き」
 初音はその言葉に含まれた裏の意味を感じ、うっと口元を抑えた。

 全身緑色のシャワーを浴びた千鶴さんがニッコリ微笑んで
「めでたしめでたし」と言った。
『それでええんかっ!』ナイスツッコミだ、ガチャピン。


               これでいいのだ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
み:よくねぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
ひ:はっ!?何故バイオハザードのパロ書こうとしてこんなのになってるんだ!?
み:うそだっ!絶対に狙ったでしょ!
ひ:何のことかさっぱり判らないなぁぁぁぁぁぁ!!!!!

                 つるかめつるかめ

 ゆきさん、まさたさん…………ごめん