おひさまの匂いがする日 投稿者:風見 ひなた
 初めまして。
 ボクは、ティーナっていいます。
 お父さん達はボクは本当はHM−212Cマルティーナっていう名前なんだと言います。
 ボクは今七つです。七つになったから212型になりました。五つの時は162型で、
生まれたばかりの時は112型だったです。でもボクはあまりよく覚えてません。
 マールお姉ちゃんは「じんかくのイクセーにタイオーして体をバージョンアップさせる
ことでよりすぐれたセイチョーをうながす」と言っていました。
 マールお姉ちゃんは生まれた時間は一緒なのに、難しいことを知っていてすごいと思い
ます。
 ボクには二人のお姉ちゃんと一人の妹がいます。
 一番上のお姉ちゃんはマールお姉ちゃんです。髪があかりママみたいに赤くて、とって
も賢いです。いつもはおとなしいけど怒ったら恐いのも同じです。
 二番目のお姉ちゃんはルーティお姉ちゃんです。髪の毛はパパみたいに茶色です。体を
動かすのが得意で、いつもいろんな遊びを教えてくれます。でも、ママ達のお手伝いが嫌
いでちょっと困ったお姉ちゃんです。
 妹はひかりちゃんといいます。ひかりちゃんだけはマルチママから生まれたんじゃなく
て、あかりママから生まれたんだそうです。髪の毛が赤いから、マールお姉ちゃんにかわ
いがられます。緑ならボクとマルチママとお揃いだったのに。
 あと、時々おうちにお爺ちゃんが遊びに来ます。長瀬のお爺ちゃんはお嫁さんがいない
から寂しいんだ、とマールお姉ちゃんが言ってました。
 それから、お爺ちゃんと一緒に芹香お姉ちゃんも遊びに来ます。芹香お姉ちゃんはお父
さんとあかりママより一つお姉さんで、三十歳なんだけどそうは見えません。あかりママ
よりもずっと若く見えます。
 それで、ボクはみんなが大好きです。
 みんなみんな一緒なので、ボクは毎日とっても楽しいです。
 でも、一つだけ悲しいことがあるんです。
 大人はみんな賢いマールお姉ちゃんや腕白なルーティお姉ちゃんばっかり誉めて、ボク
のことはあんまり誉めてくれないんです。
 ボクが出来ることなんて、お掃除だけだし、それで、だめなのかな。
 お姉ちゃん達ばっかり「初めて」のものもらってずるいな。
 ボクだって「初めて」のもの欲しいな。
 妹なんて、損だな…。

 今日は、マルチママと一緒にお洗濯をお片づけしました。
 マルチママは何もないところでもよく転ぶので、ボクはママの足下を一緒に歩いてあげ
て、ママが転びそうになったらお足にしがみついてあげなければいけません。
 ママが転んじゃうと、せっかくお日様の匂いがするお洗濯ものがどろんこになっちゃう
からです。
 ボクはお日様の匂いが大好きなので、せっかくのお洗濯が汚れちゃうと悲しくなります。
 それだから一生懸命頑張りました。
 途中でルーティお姉ちゃんが前を通りがかったので、手伝って、と言ったら逃げちゃい
ました。困ったお姉ちゃんです。でもルーティお姉ちゃんは乱暴だからお洗濯を取り込も
うとすると汚しちゃう時があります。だから、見逃してあげました。
 全部取り込むと、マルチママがご褒美に飴玉をくれました。
 212型になってから「ばーじょんあっぷ」して、お菓子を食べられようになったので、
嬉しかったです。
 マールお姉ちゃんにもあげようと思ってボクは階段を急いで登っていきました。
 お部屋に入ってボクは「マールお姉ちゃん!」と叫んでみました。
 でも、返事がありません。
 お部屋を眺めてみると、ご本をお膝の上に載せて、マールお姉ちゃんがお椅子の上でお
昼寝していました。
 マールお姉ちゃんはボク達より賢くてたくさんご本を読む分、たくさん眠らなくちゃい
けないそうです。
 どんなご本を読まれているのかな、と思ってご本の表紙を見ると、『ホーキンスの十次
元ひも理論の証明と探求』と書かれていました。やっぱりあかりママのお部屋から取って
きたものみたいです。マールお姉ちゃんはやっぱりすごいなあと思いました。
 お父さんが、お昼寝ちゅうのロボットは起こしたら「記憶の混乱」を起こすから起こし
ちゃいけないよ、と言っていたので、ボクはお姉ちゃんを起こしませんでした。
 しょうがないので、ボクはお姉ちゃんのお膝の上に飴玉を起きました。
 ルーティお姉ちゃんはお外に遊びに行っちゃったし、マールお姉ちゃんはお昼寝してる
し、マルチママはお洗濯をたたんでいます。
 あかりママとひかりちゃんはパパの実験室に行っちゃいました。
 誰か構ってくれないかなあ。
 お手伝いをしてもいいんですが、なんだか眠たくなってきちゃいました。
 ボクはベッドに飛び乗ると、少しだけお昼寝することにしました。

 起き出してみると、なんだかお部屋の中が真っ暗でした。
 椅子を見てもマールお姉ちゃんはいません。
 起こしてくれれば良かったのに、と思いながらボクはベッドから降りました。
 ボクはルーティお姉ちゃんほど「うんどうしんけい」がよくないので、よくベッドから
落ちます。マールお姉ちゃんほどじゃないけど。
 廊下に出ようとして、ボクはどきっとしました。
 お部屋の外も真っ暗なのでした。
 それに、階段の下も暗くて、電気が点いているようには見えないのです。
 お姉ちゃんやママは一体どこに行っちゃったんだろう。そう思うと、ボクは心臓がばく
ばくいってるのを感じて、心がしゅうんと縮んでいっちゃうのがわかるんでした。
「どうしたの?」
 突然後ろから声をかけられて、ボクは飛び上がりました。
 びっくりして振り返ると、きれいなお姉ちゃんが薄く笑いながら窓際に腰掛けているの
でした。
 それは本当にきれいとしか言いようがなくて、黒いお服もとってもよく似合っていまし
た。
 ボクはもうちょっと小さいときに、お姉ちゃんの格好を見たことがあったのであっ、と
声を上げました。
 ちょっとさきっぽがねじれた三角お帽子に、黒いお服に、ご箒を持っていました。
「魔女だ…お姉ちゃん、魔女なんでしょ?」
 お姉ちゃんはまた少しほほえむと、こくっと頷きました。
 ボクはその仕草をどこかで見たとおもって、目を凝らしました。
 すると、それはどこかで見たどころかボク達が大好きな芹香お姉ちゃんなのでした。
 でも、いつも見ているお姉ちゃんよりずっと若くて、いつかお父さんのアルバムで見た
ときの、セーラー服を着ていた頃の芹香お姉ちゃんなのでした。
「芹香お姉ちゃんなの?」
 こくっ。
 ボクは飛び上がって喜びました。
 大好きなお姉ちゃんが絵本でよく知ってる魔女だなんて!
「芹香お姉ちゃんすっごーい!魔女だ魔女だあ!」
 お姉ちゃんはちょっと照れたように笑って、ボクの頭を撫でてくれました。
 ボクは頭を撫でられるのが大好きなので、思わず眼をつぶっちゃいました。
 芹香お姉ちゃんはくすっと笑うと、「お散歩に行こうか?」と言いました。
 ボクはびっくりして、「でもこんなに暗いのにお外に出て良いの?」と訊きました。
「平気よ、私がついてるもの」
 それでボクは内心うずうずしていた夜のお散歩に繰り出しました。

 箒に乗って窓から飛び出したボク達を待っていたのは、お空に輝いているお星様でした。
 お星様はたくさんたくさん降りてきて、ボク達の周りで輪になって踊り出すのでした。
 それをくぐり抜けて、芹香お姉ちゃんは夜のお空を駆け抜けます。
 だんだんスピードを上げてゆくと、またまたお空から何かが降ってきます。
 それは、いつもわたがしのように見えている雲の、黒く染まった固まりでした。
 見る見るうちに集まって膨らんで、壁を作り出します。
 芹香お姉ちゃんは「下から行こう!」と言って箒を下に向けました。
 たちまちボク達を乗せた箒は凄いスピードで地面に近付いてゆきます。
 ボクは思わず歓声を上げていました。
 地面に激突するかと思った一瞬で芹香お姉ちゃんは箒を操って地面すれすれを滑空しま
す。
「ジェットコースターみたい!」とボクが言うと、芹香お姉ちゃんは「古いことを知って
いるのね」と呆れたように言いました。
 ボク達を乗せた箒はよく知っている街の中を走り回ります。
 いつもお菓子をくれるおばさんのおうちの前を横切り、静かな公園の中を滑り、植木林
の中を走り抜けます。
 噴水の上を通ったら水面に波紋が立って面白いです。
 それに、お昼には見えないいろんなものが歩いてるんです。
 電信柱の裏でぷるぷる震えてるリスさんみたいな小さなもの、マンホールの影からちら
ちらこちらを見る黒いもの、時々道を横切って、ボク達が上を通るとぴー!と鳴いて逃げ
てゆくネズミさんみたいなもの。
 どれも、とっても可愛くて面白いんです!
「どう、これが夜の世界よ」と芹香お姉さんは風に髪をなびかせつつ言いました。
 ボクは初めてみるいろんなものにびっくりして、ただただぶんぶんと頭を振るばかりで
したが、それでも芹香お姉さんは満足そうに笑いました。
「これを見せたのはティーナちゃんが初めてなの」
 ボクが初めて…。
 そのときボクはなんだかとっても誇らしい気分になりました。
 いつもお姉ちゃん達ばっかり大人にほめられるけど、ボクだって芹香お姉ちゃんに「初
めて」の印をもらったんだ!
 ボクは急に大人の仲間入りしたような気分になりました。
 塀の上でくーくーこっちに呼びかけているものに向かって手を振りながら、ボクは芹香
お姉ちゃんにしがみつきました。
 芹香お姉ちゃんはボクを見て、優しく笑いました。
「あがりましょ!」
 ボク達はまた空に向かって昇ってゆきました。
 でも、ボクはあんまり嬉しくありませんでした。
 いつも見慣れてる町の違う様子が見れるわけじゃないし、変わった生き物も地上の方が
たくさんいたからです。
 そんなボクを見て、芹香お姉ちゃんは叫びました。
「違うよ!ほら、心を一杯に広げてよーく見て!」
 ボク達の周りの風が強くなりました。
 雲につっこんだみたいに周りが真っ白になって何も見えなくなり…。
 次に視界が戻ったとき、ボク達の周りにはたくさんの光達が一緒に夜空を飛んでいまし
た。
「みえるでしょう、光達が。これがみんなの所に行って喜びを与える『希望』なの!」
 芹香お姉ちゃんは心から楽しそうに笑うと、希望達を連れて夜の町を飛び回りました。
 光達はだんだん増えてゆきます。
 白、ピンク、黄色、黄土色、群青色、紫、その他たくさん!
「ティーナちゃん、あなたにひかれて集まってきたわ!」
「ボクに…?」
 芹香お姉ちゃんの不思議な言葉に、ボクは戸惑いました。
「そう、あなたは不思議な子。機械でありながら魔力を持ち、人に幸せを与えられる…」
「ボクが、幸せを…?」
 芹香お姉ちゃんは大きく宙返りをして見せました。
 光達もそれに合わせてくるりんと回ります。
「あなたはみんなに希望を見せてあげられるの!だから、あなたに見せてあげる…魔法の
世界を…!希望を与える力、それがあなたの魔法!」
 ボクはすっかり嬉しくなって光達に呼びかけます。
「みんな、ついておいで!ボクと一緒にみんなの所を回っていこう!」
 ボク達はいつまでも夜空を飛び回っていました。
 みんなに希望を与え尽くすまで、ずっと。
 それから、みんなに配り終わった後一番最後に、芹香お姉ちゃんは残った真っ白な光を
ボクに手渡しました。
「ご苦労様。これ、あげるね。あなたの心の色を表してるのよ…」
「白が?」
「そう」芹香お姉ちゃんはにっこり笑って、言いました。「今から始まる、あなたの幸せ
の色!」
 ボクは光を受け取ると、すうっとその匂いを嗅ぎました。
 お日様の匂いがしました。

「ティーナちゃん、起きて」
 その声でボクは目覚めました。
 ふかふかのシーツの上で、ボクはうつぶせになっていました。
 顔を上げると、マールお姉ちゃんがボクの頭を撫でてくれていました。
「いい夢でも見たみたいね」
 ボクはぼんやりする頭で周りを見回しました。
 夕焼けの光がお部屋に差し込んできています。
 マールお姉ちゃんがにっこりと微笑みつつボクを見ていました。
 慌てて腕の中を見ましたが、もちろん何もありはしませんでした。
 ボクはなんだかとても大事なものをなくしてしまったような気がして、とても悲しい気
分になりました。
 いつの間にかあかりママが帰ってきていて、晩御飯の用意をしてくれていました。
 マルチママも手伝っているようです。
 何故かボクはママ達を手伝う気がしなくて、テーブルにつきました。
 ルーティお姉ちゃんはまだ帰ってきていないようです。
 そんなことを考えたちょうどそのとき、玄関の方でがちゃんという音がしました。
「ただいまー!」
「お邪魔します〜」
 ボクは何故か慌てて様子を見に行きました。なんだか、予感がしたんです。
 予感は的中して、玄関からはルーティおねえちゃんとお父さん、雅史さんと美加香さん
と志保さんとお爺ちゃんと、それから芹香お姉ちゃんが入ってきました。
 そのとたん、ボクは思い出して芹香お姉ちゃんに叫びました。
「芹香お姉ちゃん、魔法の…」
 芹香お姉ちゃんは人差し指を立てると唇に持っていき、ウインクしました。
 ボクも頷いて、ウインクを返します。
「何してるの、二人とも…」とルーティお姉ちゃんが不思議そうに訊きました。
「さあ、し〜らない!」
 私は笑いながらキッチンの方へ向かいました。

 その日はお父さんとママ達の結婚記念日でした。
 みんなで美味しいごちそうを食べて、昔のアルバムを眺めました。
 ボクは芹香お姉ちゃんのアルバムと今の顔を見比べながら笑いました。
 それから、パジャマに着替えました。
 今日は家族七人で床に毛布を敷いて、雑魚寝しました。
 
 毛布からはお日様の匂いがしました。
   
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 見つけた…新しい、愛の形を。
 これが風見ひなたRの「優しさ」の形…。
 父性愛…

 皆さんお久しぶりです。旅の途中から送ります。
 風見ひなたR、ついに新しい優しさの形…「レッドブラッツ」に目覚めました。
 今日からほのぼのタッチの作品を書く僕を「風見ひなた@レッドブラッツ」と呼ん
で下さい。(笑)
 今はとても忙しいですが、包囲網をかいくぐってなんとか皆さんに新しい「優しさ」
を見せる事が出来たようです。
 路線変更したわけではなく、人格分裂しただけですから「鬼畜」も帰ってきたら書
くでしょう。(笑)
 ええと、レスしたい事はいっぱいあるんですが、残念ながら僕は今時間がありませ
ん。「ちびティーナ」をお披露目するのが精一杯です。
 墓穴を掘るようですが、本当にこの路線を歩いていいのかな、と今思ってます。
 誰か、面白いよ…と思って下さる方がいらっしゃれば感想メールを下さい。
 今ならもれなく「ちびティーナ感謝状」メールを送ります。(こら)
 とっても忙しいので届くまでに一週間ほどかかるかも知れませんが、必ず送ります
んで。一応「ハンドル」で呼びますが、「お兄ちゃん」と呼んで欲しい方はそう書
いて下さいね。締め切りは次回「ちびマール」発表までです。(いつになる事やら)
 ええと、それでは「Lメモ」に出して下さったジンさん、久々野さん、ハイドラン
トさんありがとうございました。今の僕は「拳の封印をといたひなた」ですからお
間違えないよう。
 OLHさん、ネタパク返しです。
 ARMさん、「エクセル志保」と呼んでいいですか?
 ハイドラントさん、「鬼畜ストライク」は自己流です(^^)
 春夏さん、はじめまして。自分で出さなきゃ。技と性格をお披露目しなきゃ、使え
          ませんよぅ。図書館のあれじゃデータが足りないのでは…
 ええと、あとたくさんの方に「はじめまして」「おひさしぶり」を言いたいのです
が、生憎時間が足りません。
 一段落ついたらゆっくり書きますね。
 それでは…