BLOODY BRIDE 投稿者:風見 ひなた
 眠れぬ夜が明け、梓達は一度家へと帰ることとなった。
 結局かおりは梓達の目の前に姿をあらわすことはなかった。
 梓を初めとする関係者一同は憔悴しきっていた。
 誘拐かと思えば身の代金を要求されるでもない、事故に遭ったかと思えばどこ
の病院からも報せは入ってこない。
 事故に遭ったわけはないのだが。男性二人が死亡していた場所にはかおりの鞄
が落ちていた。状況から考えて何者かに攫われたであろう事はまず間違いない。
(かおり…)梓は心の中で呟いた。
 少し変な趣味はあるようだが、それでも自分の可愛い後輩だ。気にならないわ
けがない。
 それが自分の家から帰って行く途中で事件に巻き込まれた。
 責任感の強い梓にとって、その事実はあまりにも強く彼女の胸を締め付けてく
るのだった。
 かおりの家で誰も梓を責めたわけではない。
 それでも、今の梓は全てを自分のせいだと受け止めてしまっていた。
 だがそれにしても、かおりはいまどこで何をしているのか。どんな目にあって
いるのか。
(まさか、もうとっくに…)
 心の中に浮かんだ最悪の事実を彼女は頭を振って消し去った。
 滅多なことを考えるもんじゃない。
 …疲れているんだ。
 彼女は思った。
 疲れているから、弱気になってしまっているんだ。
 帰ったらゆっくり休もう。何か適当に作って、熱い風呂に入って、ぐっすりと
眠ろう。それから目を覚ましたら、なにか変わっているだろう…。
 梓は見慣れたいつもの通学路を歩いている。後少しで自宅に着く。
(…通学路か…)
 今日は学校は休まなければならない。
(耕一の奴と同じ身分だな…)
 あいつにも謝らねば。
(『梓、もし目の前にかおりちゃんを攫った奴がいたら…どうする?』)
 苛立っていたせいで、少し乱暴に応対してしまった。
 耕一は悪印象を受けてしまったかも知れない。
 謝ってから寝ることにしよう。
 梓は家の前に立った。
 今日は千鶴は会社だったろうか?
 初音と楓は学校に行ってしまったことだろう。
 家にいるのは耕一くらいのものか。
 …その方が謝りやすくていい。
「耕一、ただいま…?」
 玄関に立った梓は違和感を感じた。
 どこかおかしい…何かが間違っているような気がする。
 反射的に靴を脱ごうとして気がつく。
 …何故、靴があるのだ?
 耕一と千鶴がいるのは不思議ではない。だが、楓と初音の通学靴が残っている
わけがない。
 玄関の時計を確認する。
 九時四十五分。
 学校では一校時、二校時、どちらにしろもう授業は始まってしまっている。
 …そして何故…。
 こんなにも、静かなのだ…?
 居間のほうから物音は全く聞こえてこない。
 四人がいるのならもう少し騒がしくてもいいはずなのに。
 梓は唾を飲み込むと、ゆっくりと玄関から上がった。
 居間への廊下を梓は歩いて行く。
「千鶴姉、耕一…」
 居間には誰もいない。
 だが、よく見ると机が傾いている。
 机ばかりではない。壁には鋭い爪の後が残っているし、畳は激しく毛羽立って
いる。
 何か大型の獣が暴れたような…*んな光景だった。
 梓は居間を出て、奥に向かう。こちらは風呂場だ。
「楓…初音…?」
 梓はしばらく歩き…彼女たちを発見した。
 正確には、彼女たちだったものを。
 梓は慌てて駆け寄った。
 初音と楓は全裸で倒れている。
 その股間からは破瓜の鮮血が生々しく流れている。
 …そして、その胸に見えるえぐれた傷痕。
 絶命しているのは間違いなかった。
 顔から血の気が引くのを感じながら、梓は一歩さがる。
 何かを踏みつけた。
 柔らかかった。
 振り返る。
 耕一が死んでいた。
 後頭部を削り取られて。
 その向こうには。
 千鶴。
 体中に鋭い爪痕をつけられて、物言わず壁にもたれかかったまま…。
 絶命していた。
 梓の口から絶叫が漏れた。
 鮮血の中の四つのオブジェの真ん中で梓はしゃがみこみ、叫ぶ。
 目から流れる涙は止まらない。
 そして梓は、涙と共に…砕け散った心を、身体の外に流してしまった…。

「かおりさんの遺体はあるマンションのごみ捨て場から発見されました。一応住
民を一戸ずつ当たってみたところ、ある部屋の大学生の男が麻薬中毒で廃人とな
っているのを発見し、取り調べました。結果、部屋の中からかおりさんの血痕と
麻薬を発見し、男を逮捕しました」
 梓は虚ろな瞳で刑事の話を聞いていた。
 あれからもう一週間になる。
 今ごろになって、ようやく警察は梓に事情を説明に来た。
 …今更、必要もないというのに。
 一家惨殺の後。
 梓は結局アリバイの為に、容疑をかけられることはなかった。
 しかしマスコミは来る日も来る日も梓を追いかけ続けていた。
 この地域で最も有名な一家、柏木家で起こった惨殺。
 獣が暴れたような、不可解な殺戮者。
 このニュースをマスコミが見逃すはずもなく、梓は日本中から注目された。
 鶴来屋は各方面に金をばらまいて報道を差し控えさせたが、それでもしつこく
食らいついてくる者はいた。同業者がやはり大学生の部屋から遺体で発見された
というのに。
 梓の疲労は頂点に達し、体調を崩した。
 それでマスコミが引き下がるかと思えばそんな事はやっぱりなく、梓には気の
休まる間もなかった。
 そこに事情聴取もかねてのかおりの事件の説明である。
 長瀬刑事もさすがに気まずそうだった。
 部下の若い刑事は平然としていたが。
「現場に残っていた爪痕の原因はいまだ不明です。それから…」
 長瀬はごほん、と咳払いしてから言いにくそうに、ゆっくりと言った。
「こちらの事件の件ですが…」
 それまで無表情だった梓の眉がぴくりと動いた。
「残念ながら、全く詳細は不明です」
 梓の目に一瞬宿った光はすぐに失せ、元の無気力な目に戻った。
 長瀬は何かわかったらもう一度報告に伺います、などと言い残して帰って行っ
た。
 その時部下の刑事が梓をちらりと見て、唇を少し歪めたような気がしたが、そ
んな事は梓にはどうでもよかった。
 梓は刑事達が立ち去った後も応接室のテーブルの前にずっと座り込んでいた。
「一人じゃ、狭いね…」
 ぽつりと梓は洩らした。
 静寂が再び場を支配する。
 それを打ち破るように、もう一度繰り返した。
「とうとう一人になっちゃったね…」
 両親。叔父。姉。妹。従兄。後輩。
 何もかも失ってしまった。
 自分と親しい者は皆いなくなってしまった。
 いまの自分には生きている意味は既になくなりつつある。
 探さねば、と彼女は思った。
 自分が生きる為に、探さねばならない。
 皆を殺した、憎い鬼を。

「絶望していたな。後を追わなければいいが…」と長瀬は柏木家を出たところで
呟いた。
 柳川は彼に見えないよう冷笑を洩らす。
「いいえ、僕には生きる気力に満ち満ちているように思えましたが」
 長瀬は驚いて彼を見る。
 柳川は笑みを顔面に貼り付けたまま、考えていた。
(そうとも、復讐という名の気力にな…)

 その晩。
 梓は予感していた。
 だから、雨月山の麓で静かに彼を待っていた。
 奴が来るのを。
 果たして、彼は現れた。
 強力な鬼気が迫り、小動物達の逃げる音が聞こえる。
 圧倒的な力が梓をひるませる。
 今日は満月のはずだが、曇天の為男の顔は見えない。
 彼は不敵な笑みを浮かべながら、梓を眺めた。
 雰囲気でわかる。梓は完全に軽視されている。
「待たせたな、柏木家の生き残り」
 梓は歯噛みすると、まだ人間形態を保っている男に飛び掛かって行った。
 鬼化する前なら倒せるはずだ。梓はパワーだけなら千鶴をも凌ぐ…。
 だが、踏み込んで放たれた梓の重い一撃はやすやすと躱され、逆に腕を取られ
てしまった。
「遅い、な…これなら貴様の姉のほうが二倍は強かったな」
「黙れ!」
 腕を振り解き、梓は膝蹴りを当てる。
 腹から鈍い音が響き、梓は会心の笑みを浮かべる。
 だが、男はにたっと笑うと、再び距離を取った。
 その動きは負傷前と全く遜色ない。
「わかっていないようだが…今のはわざと食らってやったのだぞ」
 そう呟くと、背筋を伸ばして男は笑った。
「なめるなっ!」
 梓は大きく跳ぶ。
 目指すは男の頭部。
 一撃で砕いてしまえば問題はない。
 だが男は動かない。
「もらったあ!」
 梓の叫びと男の顔に嘲笑が浮かぶのはほぼ同時だった。
「甘いな」
 梓は次の瞬間に地面に叩き付けられていた。
 高速で放たれた男のカウンターは梓の攻撃を完全に逸らし、なおかつ梓に強力
なダメージを与えていた。
「う、う…」梓は地面にはいつくばったまま苦悶の声を洩らす。
 動けない。ダメージのせいもあるが、なにより、圧倒されていた。
 男の力は完全に梓の全てを上回っていた。
「爪を使わなかった理由は分かるか?」
 男はそう言いながらゆっくりと梓に近づいてきた。
 ざくり、ざくりと地面を踏む音が死神の行進に聞こえる。
 梓の目の前に立つと、立ち止まった。
「おまえを殺すわけには行かないからだ、同族の女」
 男の淡々とした口調に本能的に危険を感じ、梓は総毛だった。
 梓のショートヘアを鷲づかみにすると、顔を引き上げる。
「おまえには俺の子を作ってもらわなければならない」
「だ、誰がおまえなんかっ!」
 男はにやっと笑い、梓の横っ面を強く張った。
 梓は物も言えず、絶望を目に浮かべる。
 男は梓の瞳を覗き込んだ。
「解ってないな。より強力な種を残す為には血を濃く受け継ぐ者同士を掛け合わ
せるに限る…おまえの姉は強かったが、殺してしまったんでな」
 梓は何も言わない。
 再びうつろな目をしてぼんやりと陰になった男の顔を見上げている。
「俺の花嫁になるがいい、柏木 梓」
 その言葉に梓は再び我を取り戻し、柳川の顔に唾を吐きかけた。
 今度は拳で殴られ、梓は沈黙する。
 それでも眼は男をしっかりと見据え、反抗を示していた。
 男は低く笑った。愉快でたまらない、というように。
「それでいい。…本来狩猟者の結婚に愛などは不要…狩猟者は繁殖の相手を奪う
ものだ!」
 そのとき雲が切れ、月の光が柳川の顔を照らした。
 梓はその顔を見ても別に驚きはしなかった。
 何故か初めから解っていたような気がしていた。

「花嫁になる覚悟が出来ればいつでも来るがいい…俺は貴様をいつでも待ってい
てやろう」
 そう言い残して柳川は去った。
 後には服を引き裂かれた梓が残る。
 陵辱の痕跡はまだ新しかったが、梓の眼には光が宿っていた。
 それをどう表現するか。
 希望ではあった。歓喜でもあった。そしてまた、何よりも狂気であった。
 満月の光に照らされて梓は笑っていた。
 復讐の相手を見つけ出して。
 生きる目的を見出して。
 梓は笑っていた。
 満月の光が照らす中、高らかに笑っていた。
 砕け散った心は、もう元には戻らない。

 『雨月山の洞窟には近づいてはならない。そこには次郎右門が滅ぼした鬼の住
処がある。次郎衛門が鬼の力を封じて使った刀は未だに鬼共の魂を縛り付けてい
る。雨月山の洞窟に近づいてはならない。鬼共は新しい身体を求めて、柏木家の
一族が訪れるのを待っている…』
 柏木家に伝わる口伝である。
 鬼の力に覚醒した者は、この口伝を親に伝えられる。
 千鶴も楓も、もちろん梓も賢治から聞かされていた。
 梓は禁を犯そうとしていた。
 いや…梓は笑った。
 柏木家は既に滅びた。滅びた家の慣習に従う必要などさらさらない。
 梓は一ヶ月をかけて洞窟を発見した。
 昔、来たときにはなかった洞窟。強く望んだもの、そして中の者が招き入れた
いと望んだ者しか入ることも、見ることさえも出来ない。
 梓はためらわず中に入って行った。
 洞窟自体が発光しており、懐中電灯は不要だった。
 梓は無言のまま洞窟を歩き続ける。
「そこか」
 梓は呟くと、当然のように壁をすり抜けて先へと進んで行く。
 まるで、道をすべて知っているかのように。
 やがて、行く手におぼろげな影が浮かび上がった。
 数十体、かなりの数だ。
『アズエル…!』
『裏切り者め…!』
『許さぬ…!』
『貴様もわれらと共に…!』
 そんな恨めし気な呪詛の声が聞こえてくる。
 まさに地獄の亡者もかくや、といったものだ。
 鬼の力に覚醒していない者にははっきりとは聞こえないはずだが、それでもこ
の声をかすかにでも聞いてしまえば身動きが取れなくなってしまうだろう。
 しかし梓は全く動じず、ポケットから「お守り」を出すと、鬼の亡霊達にかざ
した。
 叔父の生前、初音が貰ったものだ。
 当時は何か全く分からなかったが、今なら分かる。
 これはエルクゥの力を凝縮して封じた、力の固まりなのだ。
 純粋なエネルギーの結晶なので、エルクゥ自身のような不安定な存在にしかダ
メージを与えることは出来ないが、それでもこの洞窟のようにエルクゥの力で構
成された場所では重要な道標となる。
 エルクゥ達は悲鳴を上げ、逃げ去って行った。
 冷徹な目で梓は去り行く方向を見、「お守り」を握り締めると、先に進む。
 梓は柳川に犯されてから急速にアズエルとしての記憶を取り戻しつつあった。
 それが同族と交わったせいかはわからない。だが、梓にとってはどうでもいい
ことだ。要はより強くなった、ただそれだけのこと。
 だが、それでもまだ柳川には勝てない。
 だから梓は次郎衛門の刀を手に入れることにした。
 鬼を斬る為の刀、それさえあれば柳川にも勝てるはずだ。
 梓はただひたすらに「お守り」の示すままに洞窟の中を歩いて行った。
 突然天井が高くなる。
 ここが、「ヨーク」の眠る場所と力の座標的に対になる場所。
 次郎右衛門の刀がエルクゥの亡霊達を静めている場所だ。
 そして、その広間の中央に青白く輝く光の渦があった。
 渦の中央には、蒼く煌く水晶にも似た材質の刀身を持つ刀がある。
 その材質は「お守り」と同じだが、封じられた力はその何十倍にもなる。
 これこそが次郎衛門の刀。永くエルクゥ達の転生を封じてきた存在。
 梓は表情も変えず刀に近づいて行く。
『久しいな、アズエル』
 その声に梓は振り返った。
 広間の入り口に先ほどまでの有象無象とは明らかに存在のレベルが違うエルク
ゥが揺らめいていた。
「ああ、ダリエリか」
 梓は表情を変えない。
『おまえは自分が何をしようとしているのか解っているのか?』
「…リネットが次郎衛門に与えた刀を取りに来た」
 梓は何の感情も差し挟まず、言った。
 ダリエリが不審そうに揺らめいた。
『転生して性格が変わったか?おまえはもっと激情家だったように思ったが…ま
あいい。それより、本当にその刀を持っていく気か?』
「…どうしても狩らねばならない敵がいるから」
 その一瞬の間だけ、梓の瞳には強い光が宿った。
 ダリエリはそれに興味を示した。
『面白い…次郎衛門とまみえる時はまだ来そうにない…しばし付き合うのも面白
かろう…』
 梓は鼻で笑った。
「所詮ヨークにしがみついている存在でしかないくせに何が出来るって?」
『…さて。いろいろと出来ようよ…。それにしても皮肉なものだな、次郎衛門の
子孫におまえが生まれ、封印を解き放つか…』
 梓はダリエリの言葉に耳を貸さず、黙って刀に近づいて行った。
 エルクゥのみの存在には強すぎる刺激も、肉体を持つ者にとっては何でもない。
 ぱちっ、という音を立てて梓の手は渦を通り抜け、刀の柄を掴んだ。
 梓は勢い良く刀を抜き放った。
 その双眸にはまばゆく輝く光が宿っている。
 次の瞬間、洞窟は大きく振るえ始めた…。

 次の晩。
 満月の中を鬼が駆けてくる。
 大きな力を感じ、狩猟者の本能を刺激されて。
 柳川は哄笑を上げた。
 雨月山の麓、前回と同じ場所に梓が待っていた。
 強い鬼気を感じる。
 梓の持っている、不思議な材質の刀からだ。
 それは柳川の力に反応し、ねっとりと絡み付いてくるようだった。
「花嫁になる準備が出来た…というわけではなさそうだな、柏木 梓?」
 梓は黙って刀を柳川に向けた。
 その瞳は強く輝いたまま。
「うれしいぞ、柏木 梓…その瞳だからこそ、狩りがいがある…!」
 柳川は今度は自分から梓に攻撃を仕掛けた。
 梓は吠えると、刀を構えて柳川を迎え討たんとした。
 だが、いくらエルクゥの武器だからといって梓はまったくの素人。
 構え方はめちゃくちゃであった。
(甘いぞ、柏木 梓!強い武器を持ったからといって…)
 柳川は爪を振り上げる。
(それだけでスピードの差は補えん!)
 がきん!という硬質の音がし、柳川の爪と梓の刀は正面からぶつかり合い、拮
抗した。
 しばらくは力押しの戦いが続く。
 不意に柳川は爪を素早く退くと、足を梓の胸へとぶつける。
 靴を引き千切って生えた爪が梓の服を軽く裂いた。
 しかし梓は肉を切らせてはいない。
 こちらも素早く身を退き、足をめがけて刀を振るった。
 柳川の足が突然硬直し、刀が薙ぐ。
 小さく叫ぶ。
 そして、跳びさがる。
「狩猟者の力を封じる刀か!?」柳川は叫んだ。
 梓の刀の正体は、エルクゥの力の凝縮体。相手の力を圧倒することでその動き
を止める。
「だが」柳川は不敵に笑った。
「狩猟者の本来の姿の前ではそうはいくまい!?」
 柳川が吠えた。
 その咆哮により、付近の空気が轟く。
 見る間に柳川は狩りの体勢に入ろうとしていた。
 叩き付けるような強烈な殺気を梓は刀を構えて避けた。
 刀身がエルクゥの力を裂いている。
「行くぞ、柏木 梓!」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
 双方がぶつかり合う。
(問題は…)
 柳川は走りながらも狙いを定めていた。
(その刀だけだ、柏木 梓!)
 柳川の爪が刀を激しく叩いた。
 刀は悲鳴を上げ、刀身は根元から折れ、そして後方へ吹き飛んで行く。
 柳川は勝利を確信した。
 そして、空間が凍結する。
 ただ梓の唇だけが動いていた。
「姉さん達だけ死んであたしだけ生き残るってのはずるいと思わないか?」
 瞬間的に柳川の身体を未知の恐慌が襲う。
 …ばかな、こんなに速いはずが!?
 梓の心の中に柳川の「想い」が流れ込んでくる。
(そうか、あんたも大事な人を失ったのか…でも)
 梓は柳川を睨み付けた。
(許すわけには行かないんだ、皆へ謝る為に!)
「これで!」梓の叫びが耳を打つ。
「あたしの償いは終わりだ!」
 柳川はとっさに腕で梓の攻撃を防ごうとした。
 強力な衝撃が彼を貫き、柳川は自らの敗北を悟る。
 柳川は気付かなかったのだ。
 刀は、囮に過ぎなかったことに。
 梓の、いや梓の体内の鬼気を隠す為のカモフラージュでしかなかったことに。
 柳川は花嫁の横顔を心臓を貫かれたまま眺め、笑った。
 防御の為胸を覆った腕を貫通され、心臓を打ち抜かれたまま。
 生まれて初めて心の底から笑った。
「まだだ!まだ、貴様の償いは終わらん!」
 満月が二人を照らす。
 遠くから見れば、抱き合う恋人達にも見えただろう。
 花嫁は花婿の返り血を浴び、鮮血にまみれながら静かに夫を見つめていた。

 三度季節が巡った。
 梅雨の季節も終わり、いよいよ夏が本格的に始まろうとしている。
 いまでは柏木家の惨劇もすっかり忘れ去られ、隆山市はいつもの平穏を取り戻
しつつあった。
 鶴来屋は社長となった安達の手によって何の問題もなく運営されている。
 かおりの両親は娘の死を未だ忘れきれていないが、そろそろ兄弟達に娘の分ま
で生きてもらうことにしたようだ。
 例の大学生は麻薬中毒のため、犯行時は正気でなかったとされ、裁判はもめに
もめているが、彼が現実社会に帰ってくることはあるまい。噂では、うわごとの
ように行方不明になった刑事の名を呼んでいるそうだ。
 柳川は失踪した、といわれている。彼がいなくなっても警察機構には何の影響
もなかった。
 そして、梓は…。

 梓はダムの上から隆山市全景を眺めていた。
 この町のいたるところにエルクゥの末裔達が眠っている。
 彼らは未だ自分達が何者であるかを知ってはいまい。
 連中にそれを教えてやるのもよいだろう。
 胸に抱いていた赤ん坊が突然泣き始めた。
 梓はそれをあやし、一生懸命眠らせようと努力している。
(あのとき、この子がいなければ勝てなかったな…)
 梓はそんなことを考える。
 エルクゥの胎児を宿したことで、梓の能力は一時的に高まっていた。
 狩猟者達が子をなすことはあまり多くない。子を孕ませても、母体を男性が殺
してしまうことがあるからだ。
 そのため、妊娠中の母体には子供の分の能力が上乗せされる。
 これを教えたのはダリエリだった。
 その代価は…。
 梓は赤ん坊の頭を撫で、にっこりと微笑んだ。
 憎い者のの遺伝子を持ち、過去の因縁を持つ者のエルクゥを持ち、愛しい者の
名前を持つこの子は、一体どんな者に育つのだろうか。
 どんな成長を遂げようと、自分はこの子に付いていてあげよう。
 もう、自分にはこの子しかいないのだから。
 自分が生きている理由は、この子の為にしかないのだから。
 梓は我が子に口付けると、その頭をゆっくりと撫でてやる。
「お休み、耕一ちゃん」
                           完
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ひ:あーあ、また勝手な設定を作ってしまいました。
み:ここにある設定は皆ひなたさんが勝手に作った物ですから、始めてみる方は
    本気にしないで下さいね。
ひ:うーむ、しかし本格的に次何しようかわかんなくなってきた。
み:Lメモ外伝でもしますか?
ひ:とりあえずRUNEさんに必殺技の変更を通知しないと…
み:誰でしたか、「次はちびティーナで師匠を骨抜きにする」とか言ってた人は
ひ:あれするとへーのきさんの作品と被る可能性が…
み:「この話の続きもいいな」って言ってませんでした?
ひ:ああ、この話で成長したダリエリと転生した耕一達が対決する奴…
    ゆきさんやアルルさんと被るから没
み:本格的にネタありませんね…
ひ:パロディなら一つある!
み:はあ、何ですか?
ひ:「ダークエンジェル せりかSOS!」
み:やめーーーーーい!!!全く喋れんから芹香様はヒロインできんでしょが!
ひ:それが問題です!
み:もうやだ、こんな作者!!
ひ:レス!
    ARMさん…ああ、ほんといい感じ。こんな話に出来るなんて、才能がうら
                やましい。
    カレルレンさん…でもルーティは僕のものです
    OLHさん…こういう落ちも予想外でした。
    アルルさん…だめだ、溶ける〜!このまま僕もレッドブラッツになってしま
                うのでしょうか?
    久々野さん…ごめんなさい、梓でダークにしてしまいました。
                優しさが微塵もない〜こんな僕をお許しください。
    西山師匠…何故、何故僕は楓が書けないのでしょうか?
              きっと愛が足りないんですね…今回の作品も一度初音シナリオや
              り直して見るまでダリエリの名前間違えてたし…。
              ところで「次郎右衛門」でした?「次郎衛門」でした?
    鈴木R静さん…「T2」は「東鳩T2」っていう拙作の略で、あなたの作品
                   の続きでは…(汗)あんな凄い表現僕に出来るわけないじゃ
                   ないですか…。
     HI-WAIT…ちょっと短くないかい?
             「あの」事件もあったことだし、切って出すのは止めたほうが…。
             僕も「T2」でこりました。
み:以上!
ひ:今回は自分がダークになる話でした。次はやらんぞ、こんな救いのない…!
み:それにしても…「エルクゥユウヤ」と今回の柳川の差が凄いんですが…。
ひ:コメディ書くときは根本的にキャラクターの性格崩しまくるからな…。
    実はシリアス美加香はもっとまともだったりするんです。
み:じゃあ次は私が主人公のシリアス!
ひ:誰が書くか、オリジナルキャラの分際で!
み:私って不幸…!
ひ:それでは「土曜日は書かない主義」風見 ひなたと!
み:「最近後書き漫才がローテンションな」赤十字 美加香でした!