「死ぬほどHな救世主」 投稿者:カレルレン
 

 千鶴さんは砂浜に立ち、手を振っている。
 首をこちらに向けて俺を見ている。太陽を背にしているため、よくわからなかった
が笑っていたのかも知れない。たぶん初めて会ったときのように、幼い子供に笑いか
けるような微笑みだ。大きな海と夏の千鶴さん。白い縁取りとブルーの生地の水着。
 胸元のあたりでミルクパウダーのように光るものがあった、汗と細砂だと思う。そ
れは彼女の胸が揺れるたびに乱反射を繰り返し、日焼け止めのオイルの上で光り、滑
る。
 緩やかなカーブで海と陸を断ち切る海岸線は、俺と千鶴さんの二人だけのものだっ
た。
 海水と砂は細かく刻まれ、砂時計のように時を知らせる。水は太陽の光を真上に反
射させ、砂は赤く燃えている。
 一本のビーチパラソルの影の中。グリーンのクーラーボックス、ビニールのスポー
ツバック、折り畳み式の椅子が二つ、ホテルで借りた白いテーブル、ストローが差し
込まれた二つのグラス、レモンティーとテキーラサンライズ、グラスの中で氷が溶け
かかっている。俺は氷を一つ掴んで、口に放り込んだ。熱くなっていた舌が冷えて、
気持ちが良かった。
 千鶴さんは手を下ろし何か言ったが、よく聞こえなかった。
 太陽が、パラソルの影から出ている俺の足を焦がす。
 金色に輝く砂浜の上で、千鶴さんの影は深く掘られた穴のように見えた。
 千鶴さんは水際に立ち、足先を海水に入れたり出したりしている。乳白色の髪留め
で上手にアップした黒い髪、両手をうしろで組み、肩胛骨のあたりで細く伸縮する筋
肉、海水と汗で光る素足がいつもよりまばゆい。
 太陽は海面で細かく砕かれている。
 千鶴さんがゆっくりとこちらに歩いてきた。
 耕一さん、もう泳がないの?
 うん、もう疲れちゃったよ。
 千鶴さんにレモンティーの入ったグラスを渡した。
 まあ、おじいさんじゃあるまいし。
 千鶴さんはストローを口にくわえ、喉を震わせる。顎から海水と汗が滴る。
 千鶴さんこそ、泳がないの?
 あら、これ以上海水に浸かったらオイルが取れちゃうわ。日焼けしたくないもの。
 しみになっちゃうしね?
 まあ、酷い。
 千鶴さんは椅子に座った。よいしょっと。
 よいしょ、なんて千鶴さんこそおばさんだよ。
 もう、意地悪。
 そう言いながらも千鶴さんの顔は笑っていた。
 波と砂の焼ける音だけが聞こえる。
 静かね。それにとても綺麗・・・。
 梓達も連れてくれば良かったかな?
 ほんとに酷い人。私といるのにあの子達のことを考えるなんて。
 ごめんごめん。
 千鶴さんはずっと俺を見ている。
 耕一さんの目にはいろんなものが映っているのね。
 え?
 海とか太陽とか。梓や楓や初音、いろいろ。
 千鶴さんの目は赤く燃えている。
 わたしの目には何が見えます?
 黒目と白目。
 もう、もっとロマンチックなことを言ってくれてもいいのに。
 ごめん。
 俺は千鶴さんの身体を引き寄せ、俺の膝の上に座らせた。
 千鶴さんの目には俺が映ってる。俺しか映ってない。
 ふふふ。
 こそばゆい鼻息を絡めながら、お互いの唇を近づける。ふたりの焼けた肌が擦れて
熱かった。俺の腕が千鶴さんの背中に回されると、千鶴さんの手は俺の頭に蛇のよう
に絡まった。熱い抱擁とともに、千鶴さんの手は俺の髪の毛をまさぐり、薬指にはめ
られたリングが髪に引っかかる。
 あなたの目にも私しか映らないようにしてあげます。
 銀色の唾液を光らせながら千鶴さんの唇が動いたとき、千鶴さんの髪留めが外れ、
俺の視界は千鶴さんでいっぱいになった。
                          (終わり)
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こんにちは、カレルレンです。
設定は新婚旅行中の千鶴と耕一です。普通の旅行でもいいかな?
今回、第一稿は激しいHシーンを描いたのですが、あまりに過激になってしまったの
で、大幅に削除しました。すごく短いですね・・・
次回は綾香のお話を描いてみたいです。