「勝負師伝説 浩之 〜雀聖とよばれた男〜」 投稿者:カレルレン
 これは後世の文献に「麻雀の神」「雀聖」と記された男の若かりし時代の話である


 勝つためには手段を選ばず、徹底した勝負運、麻雀運、洗練された技で連戦先勝の
浩之はこの街では「坊やヒロ」と呼ばれていた・・・

・・・某日某所

 夏の午後の熱気が街を溶かし、時折吹く風が土煙を振りまいていた。

「浩之〜、僕とコンビ打ちしてよ〜。いっしょにやろうよ〜」

 きちんとした学生服をきた男、雅史は目の前を歩く黒いシャツの男に呼びかけた。

「うるさいな〜、俺は誰とも組まないんだよ!」

 黒シャツの男、浩之。ギラギラとした光りを内面から放つ若者。

「ふたりでやったほうが絶対にいいよ。僕だって簡単な通しや左手芸ならできるんだ
よ〜。」

 雅史は浩之の片手を取り、しつこつ食い下がる。

「うるせーっていってんだろ!お前も玄人なら一人で食っていけよ!」

 浩之にはすでに心に決めたコンビがいる。いや、「いた」というべきだろう。浩之
の師匠といえる男は以前、自分の勝負師としての限界を知り、浩之の前から姿を消し
た。あれからすでに数年が経っていた・・・

「ううっ、僕だって一人でやって行ければそうしてるよ・・・」

 雅史は、浩之の瞳に宿るギラギラしたものに気圧され、情けない声を放ち、地べた
に座り込んだ。

「なんだ?誰かにカモにされたのか?」

「二日前に、この先にある雀荘で・・・」

「なさけねーな〜」

「強かったんだよ、浩之だってかなうかどうか・・・」

「なんだと・・・」

 それまで、まったく興味を示さなかった浩之だが、自分の評価が甘く見られてさす
がにいい気分はしなかった。

「あ、いや、その・・・」

 自分の口から思わず出てしまった言葉にあたふたとする雅史。

「誰だよ?そいつ」

「え?」

「お前をカモにした奴だよ!」

「あ・・いつもその雀荘にいる奴で・・・」

「そいつが俺より強いってんだな?・・・おもしれえ・・・」

「え?!敵を取ってくれるの?」

 先程とはうってかわって瞳をキラキラと輝かせる雅史を見て、浩之はふんと軽く鼻
を鳴らした。

「いいだろう、そこに連れてってくれよ。」

「ありがとう、浩之!やっぱり僕たち友達だね!」

「その台詞やめろよ・・・へんな誤解されるぞ・・・」

 浩之は意気揚々とする雅史に腕を強く引かれ、「雀荘鶴来屋」と看板のかかった、
古ぼけた木造の雀荘に連れて行かれた。

「あれ?鶴来屋って全国チェーンの店だろ?それがこんなに古ぼけてていいのかよ?」

 今にも倒れてきそうな建物を見上げながら浩之は呟いた。

「ああ、ここは鶴来屋の裏雀荘らしいよ。なんでも全国の強者を集めて夜な夜な麻雀
大会を開催してるらしいよ。」

「ふん、気にいらねえな、全国の強者の中に俺が含まれてないなんてな・・・」

「ここは自己申告制なんだ、自分こそが一番と思う人が勝手に集まるんだよ。」

「ふん、まあいいさ、とっとと入ろうぜ。」

 ぎいっと音を立てて開くドア。むっとした熱気と煙草の煙が身体を包む。店の中は
広く、20もの卓が置かれ、そのほとんどが満席だった。
 一瞬、客の好意を持たない視線がふたりに向けられた。

「ふん、どいつもこいつもぎらぎらしやがって・・・」

 勝負師の持つ特有の光。

「で、誰なんだ?お前をカモにした奴は?」

「ええっと・・・」

 きょろきょろと店内を見渡す雅史。

「本当にいるんだろうな?見つかるのか?」

「分かるよ。特徴のある奴なんだ。」

「ふ〜ん、特徴ね・・・」

「あ!いた!いたよ、浩之。あそこだよ!」

「どれどれ?」

 雅史の指さす方向は店の角にある卓だった。

「あの変な耳飾りをした奴だよ。」

 そこには雅史に言うとおり、変な耳飾りを髪の間から覗かせ、ピンクのワンピース
を着た女が座っていた。

「なんだ、雅史、お前、女に負けたのか?」

「女じゃないよ、メイドロボだよ。でも強いんだよ。」

「へ〜、メイドロボね〜。さて、早速お手並み拝見しに行くか。」

 メイドロボの座る卓はすでにオーラスを向かえていた。
 浩之と雅史はメイドロボの後ろに座り、腕前を見ることにした。

「わあ、それあたりですぅ〜」

「あちゃ〜、またマルチちゃんの勝ちか〜、おじさんやられちゃったよ。」

「強いな〜、マルチちゃんは〜」

「お褒めいただきありがとうございます〜」

 どうやら卓の一人の親父がメイドロボにあたり牌を振ったらしい。

「おいこら雅史」

 囁き声で喋る浩之。

「何?どうしたの?」

「なんだ、ありゃ、なんであんなバレバレのあたり牌を振るんだよ!それにどう見て
も強そうには見えないぞ。」

「それは、その、浩之も実際あのメイドロボとやってみれば分かるよ・・・」

 雅史はそれ以上話さなかった。

「さて、おじさんはもう帰るよ。」

「ええ〜!もう半荘やりましょうよ〜」

「はは、やりたくてもお金が・・・ううっ」

「そうですか・・・残念ですぅ」

「じゃあねマルチちゃん、またやろうね。」

「はい!」

 卓を囲んでいた一人で抜けた。

「さて、俺が直々にお手並みを拝見するぜ。」

「がんばって、浩之」

 雅史は意気揚々な浩之を暖かい、暖かすぎる眼差しで励ました。

「ここ、入るぜ。」

 浩之は抜けた席に座った。

「マルチ・・・とかいったな、よろしくな。」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 浩之の相手を威圧するための挨拶にも、マルチはいちいち丁寧に返した。
 なんか、調子が狂う奴だな・・・そのときの浩之はそう感じただけだった。

東1局8巡目

(よし!テンパイだ・・・)

 浩之の牌パイは悪くなく、いつもの左手芸(イカサマ)も冴え渡り、タンヤオ、三
色にドラが二つ乗った状態まできた。

(さすがは僕の浩之!いつみても惚れ惚れする打ち筋・・・そしてその凛々しい姿・
・・)

 浩之の真後ろの椅子に座り、関係の無いところでうっとりとしている雅史。

「あううぅ〜。」

 マルチはおぼつかない手つきで自分の手牌を整え、どれを切ろうか迷っていた。

(こんな素人臭い奴なら簡単に片づけてやるぜ!さあ、振れ!放銃しろ!引導渡して
やるぜ!)

 狼の牙を心に隠し、冷静な表情で待ちかまえる浩之。

「うう〜、えい!」

 長く考えたあげく、あっさりと浩之のあたり牌を切ってしまったマルチ。

(よっしゃ〜!)

「それ、あた・・・・」

 浩之は威勢良くロンと発言しようとしたとき、マルチから発せられた謎の光に気づ
いてしまった。

「ううっ、あたりなんですかぁ〜・・・」

 瞳を涙でうるうると潤ませ、じっと浩之の目を見つめるマルチ。その表情からは、
世の中すべてを洗い流すくらいの無垢な輝きがあった。

「くっ・・・!」

 浩之は・・・動けなかった。

「ううっ、私の負けなんですね・・・・」

 さらに瞳を潤ませ、強く見つめるマルチ。

「い、いや、なんでもねえ・・・」

 浩之はマルチの無垢な瞳に負けた・・・

(なんだ!?あの顔は・・・あんな表情されたら自分がとんでもない悪人に思えるぞ
!)

「え?!ロンじゃないんですね!良かった〜!」

 純粋に喜ぶマルチ。先程とは逆の、ぱあっと明るい笑顔にも浩之は見とれてしまっ
た。

「分かっただろ?浩之・・・」

 愕然としながらも何か憮然としない浩之に、雅史が小声で話しかけてきた。

「マルチちゃんのあの顔を見たら、誰でもあたれなくなちゃうんだ・・・つまり、不
死身なんだよ・・・」

(不死身・・・確かに・・・あんな表情されたら可哀想であたれねえ・・・)

「わあ〜、ツモですぅ〜!」

 マルチはあがったらしい。いつもなら他人のあがりなど少しも嬉しくないのに、マ
ルチの本当に嬉しそうに喜ぶ笑顔は、こちらまでもが嬉しくなる。
 純粋無垢な「あたらないで!」という懇願の表情と、輝くような笑顔。荒んだ勝負
師達に対しては立派な武器だった・・・

「嬉しいですぅ〜」

(無敵の笑顔・・・か)

「マルチちゃんは強いな〜」

 同じ卓の二人の親父でれでれとしただらしのない顔をしていた。

(不死身・・・あたり牌を切っても誰もあがれない・・・まさに不死身・・・!)

 不死身のマルチ・・・!
                        (続く・・・?)
 次号予告!
 華が散らないためだけに、天が授けた不死身の力!無敵の笑顔!
「不死身のマルチ」に「坊やヒロ」はどう挑む?!目を瞑ったままで戦うか?!
 顔を見なければ勝てるかも・・・?!

次号:「マルチの戦う理由」
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こんにちは・・・カレルレンです。
また、やってしまいました・・・・。
今回は「勝負師伝説 哲也」が元ネタです。麻雀を文章だけで表現するのは難しいで
す・・・。「不死身のリサ」の回の話を知っている方には分かると思いますが、ご存
じない方には面白くないですね・・・反省。
次回こそ綾香のお話を・・・!

以下レスです

>風見ひなたさんへ
さっそく使っていただいてありがとうございます!こんな何も考えてないような馬鹿
な役が好きなんです〜。嬉しいです〜。

>Foolさんへ
今回のお話は薔薇色をエッセンスをして入れてみましたが、どうでしょうか?
まだまだ弱いかな?もっと濃い薔薇色が良かったでしょうか?