かたい椅子に30分以上座っている。 熱く煮えたぎった、コールタールのような空気の漂う密室に、閉じこめられている 僕にとって、開口部から流れ込む夏のそよ風が唯一の安らぎだった。 手に持ったペンはしばらく動いていない。黒板は僕のノートには写されていない 言葉で埋め尽くされていた。 教壇に立つ中年教師の手は衰えず、あまった黒板のスペースに、暗記された言葉 や記号や数字を猛烈なスピードで書き続ける。彼の手から削られたチョークの粉 がキラキラと舞い、彼の体を包む。まるで、いまにも天に召される雰囲気だ。 午後の授業だった。僕の教科書はない。クラスの誰かに捨てられたのだろう。 きっと今頃、焼却炉の中。午後の晴天の空に黒い煙を吐いてるに違いない。 今日は僕が生け贄らしい。みんなが、心に巣くった爆弾が爆発しませんようにと、 狂気の扉が開きませんようにと、その日の人身御供を探していた。 生け贄にはクラスの波長に合わない者が選ばれた。だから、いつも神経を研ぎ澄 まし、その日の波長を探っていたのに。今日は失敗したみたいだ。 みんな、退屈な日常を打開するためいじめをし、くだらない会話をする。 日々、揺れ動く波長を調べ、自分の存在をアピールするための信号を発信する。 そのためのアンテナを誰もが持っていた。 僕のアンテナはまだ小さいみたいだ。誰も僕の信号を受信してくれない。 もっとアンテナを大きくしなければ。 もっともっと信号を強くしなければ、誰も僕に気づいてくれない。 もしかしたらこの学校には僕の信号を受信してくれるアンテナはないのかな? 来年、受験する高校にはいるかな?僕のSOS信号を受信してくれる人は・・・ (終)