■4月某日。放課後。 ■駅前。バス停。 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりとセリオの横に立とうと――。 「…俺の背後に立つな」 えーっと、若干 俺から間合いを計りながら正面を向けてかまえるセリオ。その眼光はいつもより隙が無く、緊張感漂い、その手にはいつものように―― 「おい、こら、待て」 「…なんだ」 なんだ、じゃねえよ。 「女子高生が葉巻を喫うな」 ぺそ。 「メイドロボットが葉巻を喫うな」 ぺそ。 「…痛い」 「ついでに口答えするな」 ぺそ。 ようするにアレだな。セリオ。アレだろ。アレなんだろ。 「…東洋系の顔立ちだが人種、国籍は不明」 人間じゃないだろ、お前。 「…いかなる組織にも属さず」 研究所はどーした。来栖川のお屋敷は、西園寺は。 「…イデオロギーとも無関係」 人間至上主義じゃねーのか? 「…俺はセリオ十三(サーティーン)。世界を股にかける超国際規模の凄腕スナイパー」 じゃじゃーん。 ・ ・ ・ ・ こないだバスの待ち時間にセリオをゲーセンに連れてってやったのが、どーも影響しているらしい。 「んな、よく喋るゴルゴ13がいるかっ」 「…まだ一巻目あたりとゆーことで」 おいおい。 俺は思いっっっきり深く溜息をついてみせた。 「セリオにゃ悪いけどさ、このネタ、ぜってー誰かがとっくにつかってると思うぞ?」 「…それが今回の依頼か」 「違う」 ぺそ。 いったい何人のSS作家を狙撃するつもりだ。 いーからしまえ。組立式のカスタムライフル、学生鞄にしまっとけって。 「っかし、なんでそこまでハマっちまうかね〜」 「…彼のシビアな生き方、それになによりもキリングマシンというふれこみに心酔しました」 メイドロボットがキリングマシンに憧れてど〜する。 「てゆーとアレか? セリオ。ラジオやテレビの音楽番組に“賛美歌13番”をリクエストしてコンタクトをとるのか?」 「…当然だ」 「依頼人の嘘や裏切りは許さないのか?」 「…当然だ」 「でもって、なりゆきで男に抱かれている時も、自分だけ冷静だったりするのか」 「…当然....んんぇえ”?」 ゴルゴですか? マグロです。 あ、セリオが、セリオがさめざめ泣いてるっ。 「…マグロじゃないです」 あ、ああっ、セリオがだくだく涙を落としてるっ。まさに滝っ。悲しいのか? マグロとよばれてそんなに悲しーのか? なんかすっげー新鮮っ。「生き」がいいっ、「生き」がいいぞっセリオっ。 「…マグロじゃないもん……浩之さんが下手くそなだけだもぉん……」 ちと待ておいこら。 「誰が下手くそだ誰がっ」 フキフキだってしてやったじゃないかっ。 「…いや……いや……、マグロはいや……ぁ……っ」 セリオはぼろぼろ泣いている。 セリオがぐずぐず泣いている。 あー……――なんか良心の呵責っての感じるよな。こーゆーの。 「わ、悪りぃ、セリオ、俺、謝るからさ、泣きやんでくれよ、な……?」 「…マグロじゃない……だって……赤貝……イソギンチャク……」 こらこら。 「……法螺貝……ナマコ……」 なんだそれは。なんなんだそれは。 「……壷洗い……ねとねと……ぐちょぐちょ……ぬちゃぬちゃ……ゆるゆるじゃないもん……がばがばじゃないもん……」 おーい。セリオーっ。 「……トラフグ……」 ちょっと待てえいっ。 「セリオっ、トラフグってなんだーーーーーっ!」 「……毒を持ってる……」 劇毒ですか? 悶絶死です。 ぺそ! ぺそ! 俺はセリオを叩いた。もの云わずセリオを叩いた。 「…あう、あうっ」 ったく、しょーがねー知識ばっか持っちまいやがって。 「お前、定期検査受けてるだろーが。梅毒やなんかだったらチェックに引っかかってるって」 「…大丈夫?」 「おお」 「…マグロじゃない?」 「おお」 「……。」 あ。セリオが笑った。 なんだよ。ちゃんと笑えるんじゃねーか。 あるんだろ? お前にも。マルチと同じように、「心」ってやつが、さ。 「…もうゴルゴはこりごりです」 「そーかそーか」 「…もうこれはいらないですね」 呟きながら、セリオは学生鞄から――。 「…セリオ。なんだそれは」 「…カスタムスキンです」 「…て、なに?」 「…百発百中……です」 「……。」 「……。」 ぺそ! ぺそ! 「…あう、あうっ!」 ――なんかダメだ。ダメダメだ。