セリオ様と浩之 そのさん 投稿者:鴉片 投稿日:6月17日(土)00時09分
■4月某日。放課後。
■駅前。バス停。
 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりとセリオの横に立とうと――。
「…俺の背後に立つな」
 えーっと、若干 俺から間合いを計りながら正面を向けてかまえるセリオ。その眼光はいつもより隙が無く、緊張感漂い、その手にはいつものように――
「おい、こら、待て」
「…なんだ」
 なんだ、じゃねえよ。
「女子高生が葉巻を喫うな」 ぺそ。
「メイドロボットが葉巻を喫うな」 ぺそ。
「…痛い」
「ついでに口答えするな」 ぺそ。
 ようするにアレだな。セリオ。アレだろ。アレなんだろ。

「…東洋系の顔立ちだが人種、国籍は不明」 人間じゃないだろ、お前。

「…いかなる組織にも属さず」 研究所はどーした。来栖川のお屋敷は、西園寺は。

「…イデオロギーとも無関係」 人間至上主義じゃねーのか?

「…俺はセリオ十三(サーティーン)。世界を股にかける超国際規模の凄腕スナイパー」

 じゃじゃーん。

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 こないだバスの待ち時間にセリオをゲーセンに連れてってやったのが、どーも影響しているらしい。

「んな、よく喋るゴルゴ13がいるかっ」
「…まだ一巻目あたりとゆーことで」
 おいおい。
 俺は思いっっっきり深く溜息をついてみせた。
「セリオにゃ悪いけどさ、このネタ、ぜってー誰かがとっくにつかってると思うぞ?」
「…それが今回の依頼か」
「違う」 ぺそ。
 いったい何人のSS作家を狙撃するつもりだ。
 いーからしまえ。組立式のカスタムライフル、学生鞄にしまっとけって。
「っかし、なんでそこまでハマっちまうかね〜」
「…彼のシビアな生き方、それになによりもキリングマシンというふれこみに心酔しました」
 メイドロボットがキリングマシンに憧れてど〜する。
「てゆーとアレか? セリオ。ラジオやテレビの音楽番組に“賛美歌13番”をリクエストしてコンタクトをとるのか?」
「…当然だ」
「依頼人の嘘や裏切りは許さないのか?」
「…当然だ」
「でもって、なりゆきで男に抱かれている時も、自分だけ冷静だったりするのか」
「…当然....んんぇえ”?」

 ゴルゴですか?
 マグロです。

 あ、セリオが、セリオがさめざめ泣いてるっ。
「…マグロじゃないです」
 あ、ああっ、セリオがだくだく涙を落としてるっ。まさに滝っ。悲しいのか? マグロとよばれてそんなに悲しーのか?
 なんかすっげー新鮮っ。「生き」がいいっ、「生き」がいいぞっセリオっ。
「…マグロじゃないもん……浩之さんが下手くそなだけだもぉん……」
 ちと待ておいこら。
「誰が下手くそだ誰がっ」
 フキフキだってしてやったじゃないかっ。
「…いや……いや……、マグロはいや……ぁ……っ」

 セリオはぼろぼろ泣いている。
 セリオがぐずぐず泣いている。

 あー……――なんか良心の呵責っての感じるよな。こーゆーの。
「わ、悪りぃ、セリオ、俺、謝るからさ、泣きやんでくれよ、な……?」

「…マグロじゃない……だって……赤貝……イソギンチャク……」
 こらこら。

「……法螺貝……ナマコ……」
 なんだそれは。なんなんだそれは。

「……壷洗い……ねとねと……ぐちょぐちょ……ぬちゃぬちゃ……ゆるゆるじゃないもん……がばがばじゃないもん……」
 おーい。セリオーっ。

「……トラフグ……」

 ちょっと待てえいっ。
「セリオっ、トラフグってなんだーーーーーっ!」
「……毒を持ってる……」

 劇毒ですか?
 悶絶死です。

 ぺそ! ぺそ!
 俺はセリオを叩いた。もの云わずセリオを叩いた。
「…あう、あうっ」
 ったく、しょーがねー知識ばっか持っちまいやがって。
「お前、定期検査受けてるだろーが。梅毒やなんかだったらチェックに引っかかってるって」
「…大丈夫?」
「おお」
「…マグロじゃない?」
「おお」
「……。」
 あ。セリオが笑った。
 なんだよ。ちゃんと笑えるんじゃねーか。
 あるんだろ? お前にも。マルチと同じように、「心」ってやつが、さ。
「…もうゴルゴはこりごりです」
「そーかそーか」
「…もうこれはいらないですね」
 呟きながら、セリオは学生鞄から――。
「…セリオ。なんだそれは」
「…カスタムスキンです」
「…て、なに?」
「…百発百中……です」
「……。」
「……。」
 ぺそ! ぺそ!
「…あう、あうっ!」

 ――なんかダメだ。ダメダメだ。