『セリオ様と浩之 そのに』 文責:鴉片 ■4月某日。放課後。 ■駅前。バス停。 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりとセリオの横に立つ。 「ぶい」 いつものポーカーフェイス然とした少女と目を合わせられ、俺は大いに反応に困った。 「いや…、セリオ。前振りもナシにいきなりVサインをされても、なにがなんだか」 「まさか続くとは思いませんでしたから」 「…セリオ」 溜息。 「いいか。そういうことは思っても口にはしないものだ」 「そうなんですか?」 推し量るようにまじまじと俺の顔を見つめ、彼女は少しだけ俯いた。 「……複雑です」 「それはそうと…セリオ、お前にも『心』ってあるのか?」 「心、ですか?」 「ああ。マルチのようなのがお前にもあるのかってふと疑問に思ってな」 マルチ、という言葉にセリオの目が負荷を帯びて僅かに細められた。…気がする。 「浩之さんのおっしゃるようなモノは私にはありません」 「そうか」 ちょっと、残念だな。 「第一、あんなものを導入したら、システムが不安定になるのは目に見えています」 目をつむる。 「私には見えます。五万項目以上にも及ぶバグとセキュリティホール――」 「だからっ、そうゆうコトを口にするなっ」 「浩之さん。心の無い万能無敵しかも容姿端麗のメイドロボットと、 心を常駐させたばかりにフリーズとハングアップを繰り返すおっぺけぺーなちんくしゃメイドボロット、 常に側にいて欲しいのはどちらでしょうか」 「どちらって、お前――」 その質問、なんだ? おい。 「只の弐択です。正答率は50%。ですがこの場合、誤答率は限りなくゼロに均いかと思われますが」 いや真顔で云われても。 「ちなみに。回答を間違えた場合、罰ゲームを用意してあります」 「ば、罰ゲーム?」 「サテライトサービスに、新たにイタリアマフィア式拷問術百選というのが加わりました」 「くわえるなっ」 「私はKKK式の採用を強く推したのですが」 「推すなっっっ」 「どうしてですか?」 「だからっ、素で返すなあぁっっっ!」 「浩之さん。回答がまだのようですが」 しれっと。 「ヒトのハナシを聞けよっ」 ぜいぜいぜい。 「――なあセリオ。お前にも『心』をもって欲しいっていう奴はけっこう大勢いると思うぞ?」 「それは一般女性との恋愛交渉に関した事項についてひどく欠落した日常を送っておられる人達のことですか?」 「それは云い過ぎだっ」 俺はセリオにチョップをかました。 どぐぉうわっ。 腹を庇いながらその場に倒れ込む俺を見下ろし、仁王立ちでセリオが呟く。 「――痛いです」 「…痛いのは俺だ」 なぜ正拳突きでかえすかな。セリオ。なぜ俺を殴り倒すかな。 「お前、ロボット三原則って知ってるよな?」 「はい。一般常識として心得ております」 当然のようにセリオが云う。 「知識として把握していれば充分だろうと開発主任がおっしゃられていたとのことですので、私への採用は見送られたようです」 至極当然かのようにセリオがのたまう。つーか、見送るなよ、そんな大切なものっ。 「浩之さん。イタリアマフィアの拷問はこのようなものではすみませんよ。たとえば彼らは釣り糸と釣り針を使って――」 ――なんかダメだ。ダメダメだ。