好恵様と浩之 投稿者:鴉片 投稿日:5月22日(月)03時01分
■4月某日。放課後。
■駅前。バス停。
 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりと坂下好恵の横に立つ。
「坂下とこんな処で出くわすなんて珍しいこともあるもんだな」
「…私だってバスくらい乗るわ」 流れる車線を見据えたまま憮然として返す。
 ったく、コイツもそこそこイイセンいってると思うんだが、愛想が悪いのなんとかしねーとな。
「なにが可笑しいのよ」
「いや、べつに?」
「そう」
「……」
「……」
「……」 「なあ。坂下」
「なによ」
「お前、どうして今の俺らの学校を選んだんだ?」
「え?」 質問の意図を計りかねて坂下は心持ち顔を上げる。
「どういう意味よ」
「いや、な。綾香と決着を着けるんだったら、寺女にいけばよかったと思うんだが」
「……」
「寺女にもあるんだろ? 空手部くらい」
「……」
「なにしろ綾香が選んだくらいだからな。お嬢様校とはいえ、そこそこの強さなんだろう?」
「……」
「…坂下?」
「……」

 かなり長い沈黙の後、坂下は――泣いていた。

「坂下? 泣いて――どうして――っ!?」
「藤田。私ね、私――」 頬をつたうものもそのままに坂下が呟く。 「いたのよ。西園寺に」
「えっ?」
「でもね。入学して一週間で辞めちゃった。…ついてゆけなかったのよ。…私…、最低だよね、
葵にはエクストリームのことであんなことを云っておきながら……私自身が西園寺をなめていたのよ」
 坂下。お前に――一体何があったんだ――?
「むね」
「――――――はい?」
 坂下は、泣いていた。
「むね。むね。むね。右を見ても、むね。左を見ても、むね。Cカップで白帯扱い、
DやEで有象無象の黒帯クラスのまさに西園寺は『巨乳の武道館』っ!」
 坂下は、泣きながら吠えた。
 悔し涙だった。
 俺は――悪い、少しひいていた。
「寄せて上げて、やっとこさのBで何が悪いっ!! ウソ胸のどこが悪いんだ藤田っ!!!? 藤田ぁっ」
 ――なんかダメだ。ダメダメだ。