■4月某日。放課後。 ■駅前。バス停。 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりと坂下好恵の横に立つ。 「坂下とこんな処で出くわすなんて珍しいこともあるもんだな」 「…私だってバスくらい乗るわ」 流れる車線を見据えたまま憮然として返す。 ったく、コイツもそこそこイイセンいってると思うんだが、愛想が悪いのなんとかしねーとな。 「なにが可笑しいのよ」 「いや、べつに?」 「そう」 「……」 「……」 「……」 「なあ。坂下」 「なによ」 「お前、どうして今の俺らの学校を選んだんだ?」 「え?」 質問の意図を計りかねて坂下は心持ち顔を上げる。 「どういう意味よ」 「いや、な。綾香と決着を着けるんだったら、寺女にいけばよかったと思うんだが」 「……」 「寺女にもあるんだろ? 空手部くらい」 「……」 「なにしろ綾香が選んだくらいだからな。お嬢様校とはいえ、そこそこの強さなんだろう?」 「……」 「…坂下?」 「……」 かなり長い沈黙の後、坂下は――泣いていた。 「坂下? 泣いて――どうして――っ!?」 「藤田。私ね、私――」 頬をつたうものもそのままに坂下が呟く。 「いたのよ。西園寺に」 「えっ?」 「でもね。入学して一週間で辞めちゃった。…ついてゆけなかったのよ。…私…、最低だよね、 葵にはエクストリームのことであんなことを云っておきながら……私自身が西園寺をなめていたのよ」 坂下。お前に――一体何があったんだ――? 「むね」 「――――――はい?」 坂下は、泣いていた。 「むね。むね。むね。右を見ても、むね。左を見ても、むね。Cカップで白帯扱い、 DやEで有象無象の黒帯クラスのまさに西園寺は『巨乳の武道館』っ!」 坂下は、泣きながら吠えた。 悔し涙だった。 俺は――悪い、少しひいていた。 「寄せて上げて、やっとこさのBで何が悪いっ!! ウソ胸のどこが悪いんだ藤田っ!!!? 藤田ぁっ」 ――なんかダメだ。ダメダメだ。