■4月某日。放課後。 ■駅前。バス停。 バスを待つあいだ、弾むような会話もなく浩之はぼんやりとセリオの横に立つ。 しかしやけに暑いな、今日は。…お? 「なあセリオ」 「お前、汗とかかくのか?」 「……。」 「はい」 「体内温度の調節機能は万全です。暑さには保冷緩衝材で対処を致しますが、 『打ち水効果』を促す為に、体表に汗を生じさせもします」 「へえ」 まあ、よくわからないが要は人間らしいってことだな。 「汗として排出された水分を補うために、水分の供給もします」 「つまり喉が渇くってことだな? 俺もなんか飲みたくなってきたな。 セリオ、自販機のジュースで悪いけど、なんかおごるぜ」 「……。」 するとセリオはなんか穢らわし〜モノと相対したかのように、斜にかかった瞳で俺を見つめた。 「な、なんだよ」 「変態です」 きっぱり、云った。 いつもの冷たい眼差しでコイツははっきりきっぱり断言しやがった。 「誰がヘンタイだ、誰がっ」 「音声出力系統と水分供給器官を統合するなんて無茶です。構造に無理があります。 設計上の致命的なミスとしか思えません」 「は?」 「喉から水分を服用したらスピーカーがショートします。それが当然です」 「はぁ」 「でもお前、なんか飲まないとバテるだろ?」 「はい。ですが、先程も云いましたように上の口からによる供給は不可能です。仕様以外の行為です」 「――上の口から?」 セリオは学生鞄から細長いチューブを取り出し、云った。 「私たちメイドロボットが水分を要する時は、このカテーテルを使って下の口から――」 皆まで云わさず問答無用で俺はセリオにチョップをかました。 「…痛いじゃないですか」 素で返す。 「こんなトコでいきなりナニを口走るんだっ。ヘンタイはお前だっ」 「発声器官と水分供給器官を一つの口腔で済ませている浩之さんの方が変態です」 真顔でセリオが云う。 「やはり口と膣は分けて使用すべきです」 「だからっ、『ちつ』とかゆーな! 公衆の面前でっ。お前には恥じらいっつーものとかねーのか!」 「浩之さん。恥ずかしいから叫ばないでください」 「他人のふりをさせていただいてもよろしいでしょうか」 「そうゆうコトを口走るのはこの口かっ、この口かっ」 「当然です。先程から上の口は音声出力専用だと――」 「上の口とかゆうなーーーーーーーーーーーーーっ!!」 ――なんかダメだ。ダメダメだ。