【賑やかな朝餉】 投稿者:犬丸 投稿日:4月28日(金)01時27分
 カーテンで減少した柔らかな陽光が、部屋を仄かに照らす。

「……うーん」

 浩之は、まだ気だるさの残る瞼を少し開けた。
 身体が重い。昨日の疲れが残っているのかもしれない。

 顔を横に向けると、マルチが幸せそうな顔をして眠っている。
 
 ――俺よりねぼすけなメイドロボもなあ。

 そう思うが、それを不快に思った事は一度もない。
 その寝顔を見るたび、微笑が零れる。

 それに昨日の夜は燃えた。
 いや燃えた。
 そりゃあもう、モリモリ燃えた。

 何がどう燃えたのかは余人には知ることは出来ないが。

 布団から出ようとしたとき、手にひやりとする感触が伝わってきた。
 ガバリと掛け布団を剥ぎ、敷布団を見つめる。

 ――あった。
 ――見事な世界地図が。

 今までは笑って許した。
 まあ、可愛いとも思った。
 だが、仏の顔も三度までという。
 それに浩之は人間だった。
 「短気」と分類されるくらいに、感情的な。

「ま〜〜〜〜〜る〜〜〜〜〜ち〜〜〜〜〜!!」

「ふに〜なんでしょ〜」

 寝ぼけ眼を擦りながら、マルチは起き上がった。

「なんでしょうじゃねえだろ、なんでしょうじゃ! これ見ろ!」
 
 びしりとオネショの痕を指差す。
 二本指で、しなを作って。
 どことなく月影先生風。

「はぁ……アフリカ大陸さんに似てますね〜」

「アフリカ大陸さんじゃねぇぇぇぇ!! 何か、お前はアレか? これで世界制覇するつ
もりか? そのたびに俺は後ろ指をさされなきゃならねえのか? 『あ〜ら、藤田さんと
ころ、今日はアフリカ大陸よ。もう高校生になるのに、ドゥフフフ…』って近所のオバチャ
ンに指差されなあかんのか? みんなに笑われてお日様にも笑われる、被害妄想気味の、
お魚咥えたドラネコ追っかける人みたいに指を差されるのか? 俺はそんな指差され人生
いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 気持ちも分かるが、悲観すぎ。
 
「はぁ……それじゃあ、今日ちゃんとほしときますう」

「ちがうっつうの」
 
 ぺしっ。

「あうっ」

「駄目だ駄目だ駄目だ! そんな事じゃ駄目だ!! もうおねしょは卒業だ。グラデュエー
ションだ。『禁オネショ』。今日からこれが藤田家家訓その一だ。この家訓を破ったもの
には、罰だ。目には目を、歯に歯を。byハンムラビ法典。分かったか!!」
 
 びしりと指をマルチに差す。
 二本指で、しなを作って。
 どことなく月影先生風。

「あの〜、ハンムラビさんってなんなんですか?」

 マルチ理解度0%。

 ごすっ。

「ほぶっ」

 ナイスボディ。

「つまり、オネショをしたら、罰ということだ」

「……はあ」

「それにマルチ。お前は今日オネショをした。だから罰な。当然の結果な。因果応報、天
網恢恢疎にして漏らさずな」

「はあ〜、罰というのはイイコトなんでしょうか?」

「そうか…そんなに期待しているのかぁ…ふふふ…それじゃあ行くぜえ! 第一回『チキ
チキマルチ折檻ゲ〜〜〜ム』!! 今日のお題はこれ!! 『なでなで5千』さ〜〜〜あ、
覚悟して行ってみよ〜〜〜い!!!」

 妙にハイテンションのまま、手を高く突き出す。
 どうでもいいが、それは罰か?

「はわわわわ、そんなうれし恥ずかしなんて、罰さん素敵ですう」

 頬をそめ、いやんいやんと顔を振るマルチ。
 絶対勘違いしてる。

「泣き叫べぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜」

 こうやって、マルチの記憶にまた一つ、間違った単語が刻み込まれてゆく。


――翌朝、藤田家――

「ま〜〜〜〜〜る〜〜〜〜〜ち〜〜〜〜〜!!」

「はい〜なんでしょ〜」

「なんでしょうじゃねえって言ってんだろ! 堪忍袋の緒は切れる為にあるんだぁぁぁぁ
ぁぁ!! 今日と言う今日は許さねえぜ!! 第二回『チキチキマルチ折檻ゲ〜〜〜ム』
!! 今日のお題はこれ。『ふきふき1万』さ〜〜〜あ、覚悟して行ってみよ〜〜〜い!
!!」

「そんな〜〜〜嬉しいですう〜〜〜〜〜」

「苦痛の呻きを聞かせやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「はわわわわわわ〜〜〜〜〜〜〜」

 のほほんとした朝餉の町並みに、黄色い声が染み込んでいく。
 藤田家の朝はいつも賑やかだ。
 羨ましいぐらいに。


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 マルチをいじめたくなって書きました。
 随分前に書いたもので、ノリだけで書いたような気が……。

 お見苦しいと思いますが、ご容赦を。

http://w3.mtci.ne.jp/~tears1/