「やぁ浩之君、まだ起きていたのかい? どうだい、マルチの耳カバーに搭載した電話システムは?」 「お、おっさん、久しぶり。ちょっとマルチに付き合っててな・・・ っつーか、これに電話するんだったらもうちょっと時間を選んでくれ。 ・・・萎えちまったよ・・・」 「おっとそりゃ失礼。うちの娘は毎晩愛されているんだねぇ。 ところで明日、君の所に訪ねていってもいいかい?」 「え、マルチになんか用なのか? なんなら研究所に連れて行くぞ、ちょうど俺も休みだし」 「いや、君の家でなければならないんだ。 そういうわけで、明日の昼過ぎに、お邪魔させてもらうよ」 「こんにちはー、マルチはいるかい?」 「いらっしゃい、お義父さん。 来栖川電工研究所の長瀬所長が直々の用事とは・・・ 何か重大な用事なのか?」 「娘の顔を見るのに何か理由が必要かい? ・・・マルチ〜、婿殿が儂を邪険にするんじゃ〜」 「おいおい」 「いやもちろん、娘の顔を見に来たってだけじゃないけどね。 マルチの電話システムにオプションを取り付けようと思ってね。 こうして持ってきたんだが・・・マルチはいないのかい?」 「ああ、すまねぇな、ちょうど買い物に行っているんだ。 もうすぐ帰ってくると思うけど・・・待つかい? 茶ぁぐらいなら俺でも入れれるぞ」 「そうだね・・・ 先に、これの取り付けを済ましてしまおう。 台所に案内してもらえるかい?」 「・・・おい。 なんだ、あれは」 「見ての通り、耳だよ」 「いや耳は分かる。 問題は、何でコンロの向こう側に、んなもん付けてんだよ?!」 「・・・壁に耳あり?」 「こらっ!」 「まぁまぁ、これは科学的洞察による非常に重要なものなんだよ。 論より証拠。 例えば今ここにやかんが沸いているよね? これを取ろうとすると、やたら熱いわけだ。 そんなとっさの時に! 耳をつまむ!」 「だからってなぜに壁にある耳をつまむんだよ?」 「熱いものを触ると、耳に手を持っていくものだろ? 残念ながら、マルチには耳カバーがついているからね。 代わりにこっちをつまむと言うことだ。 より人間らしい仕草になっただろ?」 「気色悪いわっ! はずせ!」