「けんたろ?」 「スフィー、どうしたんだ? ドア開けて入って来いよ」 「ん、ここでいい。 顔合わせたら、泣いちゃいそうだから。 明日別れるのがつらくなっちゃうから」 「そうか・・・そうかもな。 ・・・いよいよ、明日なんだな」 「うん、明日だね」 「この半年、早かったな」 「うん」 「スフィーがうちに来た日のことが、つい昨日の事みたいだよ」 「うん、わたしも昨日の事みたいに思ってた」 「俺、さ。なにもかも楽しかったよ。 スフィーが来てから今まで、本当に幸せだったよ」 「ほんと? 嬉しい・・・ けんたろ?」 「うん?」 「今まで・・・ホントにありがとね」 「ああ」 「・・・じゃあ、また明日。 笑顔で、ね」 「ああ、じゃあ明日。 とっておきの笑顔を見せてやるからな!」 「うん・・・。 じゃあ、おやすみ」 「ああ、おやすみ。 ・・・スフィー?」 「うん?」 「おまえのことだから、つまらないこと考えてるんだろうけど・・・ 釘刺しておくけど、俺の記憶を消そうなんてするなよ」 「え? え? なんで、分かっちゃったの?!」 「ばっか、おまえの考える事なんて何でもお見通しだよ。 いいか、俺の記憶を消して帰ったりしたら、俺おまえのことを許さないからな? 俺に黙って帰ったりしたら、俺一生おまえのこと恨むからな」 「・・・バカだねけんたろ、記憶無くしちゃったら怒ることもできないよ?」 「それでもだ! いいか、約束だぞ!」 「・・・うん」 「おはよう、スフィー。 ・・・あれ? どこ行ったんだ? なんでいないんだよ? なんで親父の布団が、きれいに畳んであるんだよ? きちんと押入の奥に仕舞ってあったはずだぞ? いや問題はそんな事じゃない、スフィーだ。 せっかく、出発前にあいつにたくさん食べさせてやろうと思ってご飯用意してたのに・・・ スフィーっ まさかホントに黙って帰っちまったのか? ああ、畜生っ、バカか俺は?! なんで5合もご飯炊いてるんだ? 一人で食いきれるわけないじゃないか! ああっ、今日から一人で店を開けないといけないよ! それでももうちょっとこう、挨拶してから行けばなんか違っただろ?! いや、いつも一人で店を開けていたじゃないか! なんで俺はこんなに怒ってるんだ? ああもう、なんで怒ってたんだか分からなくなっちまったよ! 畜生ぉぉぉっ」 ごめんね、けんたろ