狂戦士 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:4月14日(金)19時46分
 オレはアンドロイド、俗に言う人間もどきが大嫌いだ。
 わざわざ自分の体を機械に置き換える、サイボーグといわれる連中も嫌いだ。


   21世紀の初めに来栖川電工がメイドロボを開発するに至り、人間型ロボット
  は現実の物となった。これはそれまでのロボットのイメージと大きく異なり、人
  間によく似た姿をしていた。
   当初、人間型ロボットは単に「ロボット」と呼ばれることが多かったが、その
  姿振る舞いが人間と区別が付かなくなるにつれ、「人間に似たもの」を意味する
  「アンドロイド」と呼ばれるようになった。


 だから、今目の前で行われているようなことは、非常にむかつく。
 絹を裂くような悲鳴につられて、裏路地の奥に来てみるとこれだ。


   アンドロイドが社会に普及するにつれ、彼らの起こす犯罪が大きな社会問題と
  なってきた。アンドロイドの身体能力は人間と比べて非常に高いため、凶悪な犯
  罪となることが多かったのである。
   同時に、アンドロイドの技術を応用して体の一部を機械化したもの、いわゆる
  サイボーグによる犯罪も多発した。
   そういう連中を始末するために現れたのが、オレ達のように賞金首を狩ること
  で生計を立てる者、「ハンター」である。


 薄暗い路地の奥では、でかい人影が二つ、こちらに背を向けて立ちふさがっていた。
 人類にあるまじきいびつな影といい、どうやら俺の嫌いな改造人間どもらしい。
 美女(すでに確定)の姿は見えない。巨体の陰に隠れてしまっているようだ。
 巨体の肩に手をかけ、こちらに注意を向けさせる。

「退け、邪魔だ!」
「ああん、何だこのチビスケわ?
 その手で、どうしようってん・・・」

 最後まで言わさずに殴り倒す。
 火花が飛び散り、くずおれる巨体が二つ。
  スタンナックル
 オレの武器だ。
 ちなみにオレが着ているコートには、ほかにもいろいろ入っているが今は秘密だ。

「さぁ、もう大丈夫ですよ、お嬢・・・」

 怯えた目でこちらを見る少女。
 保護欲をそそる、その佇まい。
 美少女ではなく、かわいい系の顔立ち。
 赤いワンピースが、緑の髪に映えてかわいい。

 そう、それは12、3歳ぐらいの女の子だった。

「・・・お嬢ちゃんだな、どちらかというと・・・」

 残念ながら、オレの守備範囲外だ。
 もう10歳も年上なら、このままホテルにでも連れ去るんだが。
 オレは自己嫌悪に陥り、頭を抱えた。

「ああ、さっさとおうちに帰んな」

 ひらひらと手を振りながら、その場に背を向けた。
 どうも、オレの勘も狂っちまったらしい。

「くそ、失敗した。
 帰って、酒飲んで寝よ」

 しかし、すんなりとその場から立ち去ることはできなかった。
 コートがなにかに引っかかったような感触。いやな予感がする。
 恐る恐る振り向くと、件の少女がおれのコートを握りしめていた。

「なんだ?」
「あのー、帰るとこ無いんで・・・」

 おいおい、訳ありかよ・・・
 うちには余分な食い扶持はないんだが・・・
 ついでに言えば、オレは幼女趣味でもない。

「あのなぁ」

 しかし、拒絶する言葉を吐くことはできなかった。
 たとえて言うならば、捨てられた子犬の目。
 縋るような、その目を拒絶することはできなかった。
 思わず、ため息が漏れてしまった。我ながら、お人好しな・・・

「浩之」
「え?」
「オレの名前だよ。
 いいよ、しばらく面倒見てやるよ」
「あ・・・」

 少女の顔が、花でも咲く様に綻んだ。
 たとえるなら、ひまわりって感じだな。

「マルチといいますー。
 よろしく、お願いしますぅ」


 そんなわけで、オレはマルチの面倒を見ることになった。

   ***

「あ、浩之さーん。
 おかえりなさーい」

 とててててて、ぽふ。
 マルチが抱きついてくる。

「お、マルチは甘えんぼだな」
「えへへへへー」

 最近帰宅すると、玄関先でマルチをなでなでするのが日課となった。
 
 なぜかオレはマルチになつかれてしまった。
 これほど無防備にオレと接する人間も珍しい。
 別に悪い気はしないが、妙にくすぐったい。
 オレは目つきが悪い。悽愴としているとすら言われる。
 その為、これまで距離を置いたつき合いしかしてこなかった。

 うちに帰ったときに誰かが居るってのがこれほど落ち着くとは思わなかった。

「今日はおでんに挑戦してみましたー。
 あ、それとも、お風呂を先になさいますかぁ?」

 何となく、家の中のことはマルチがすることになってしまっていた。
 マルチ曰く、「お世話になりっぱなしにもいけませんから・・・」だそうだ。

「うーん、そうだな。
 マルチを先にいただこうか」
「あーれー」

 こんなのは久しぶりだ・・・
 もう長いこと、こういう生活があったことを、忘れていた。
 ん? じゃ、前にもこんなことがあったのか?
 デジャヴ?


 実はオレには、1年前までの記憶がない。
 「浩之」という名前は、オレがその当時持っていた防弾コートに書かれた名前だ。
 実のところ、この名前もオレの本名ではないのかもしれないが・・・
 ほかにオレに残されていたのは、奇妙な体術とロボットに対する強烈な憎悪だった。

 そんなオレがハンターを商売にするのは、当然の成り行きだった。


 オレのハンターという仕事に、マルチはあまりいい感情を持っていない。
 人間の不安をあおる存在である賞金首(アンドロイド)共を排除する。
 それが必要悪だと認めつつも、オレの『狩り』を嫌がるのだ。 
 何度も話し合ったが、そのたびにマルチはこう言うのだ。

「だって、殺されてしまう皆さんが、可哀想なんですぅ」

 驚いたことに、マルチにとってロボットも人間も等価値な存在らしい。
 こいつにかかると、みんな「いい人」になってしまうのだ。
 機械共は獲物、俺は狩猟者。この点で、オレ達の意見は食い違った。

「浩之さんは、なぜハンターをされているんですか?」

 逆にマルチに、このように聞かれたこともある。
 オレが奴らを狩る理由。
  何者かが、ぼんやりと佇んでいる。
  そいつは、両手になにか丸いものを抱えていた。
 一つだけ、そんなシーンがオレの脳裏に浮かんできた。
 これが何を意味するのかは、さっぱり分からなかったが。
 それは強烈な憎しみとともにオレの記憶によみがえってきた。

「なぜ? オレにもわからねぇな。
 でもな、ロボット共を見ると体が疼くんだよ。
 心がな、憎悪の黒い炎で塗りつぶされちまうんだよ。
 あの機械の体を引き裂けと、オレに命じるんだよ。
 オレにとってはな、機械の体は全て敵なんだ」
「ひっ・・・」

 そのときマルチは、恐怖に目を見開いて後ずさった。 
 無理もないだろう。
 オレの顔は、暗い歓喜の表情に引きつり、目は憎しみに燃えていただろうから。

 殺意。

 まさしくオレは、機械共に対する憎悪と、殺意の波動をまき散らしていた。
 しかしそんなオレを、マルチは深い悲しみの顔でみつめた。

「浩之さんは、まだそんなことをおっしゃるのですか?」
「まだ?
 おまえなにか、オレの過去のことを・・・」

 それ以上、言葉を続けることができなかった。
 あまりにも深い、悲しみの表情だったから。
 それは、普段のマルチからは想像もつかない代物だった。
 そんなマルチの顔を見ては、問いただすなんてことはできなかった。
 そしてそれ以上に、その表情に思い当たるものがあるような気がした。
 何か思い出しそうなのに、それがなんだか分からないもどかしい気持ち。
 それとともに、心の内に滲む、何とも言えない罪悪感。
 かすかな既視感を感じると共に心の底にちくりとした痛みを感じた。

   ***

 通常ハンターは、ギルドに属している。
 まぁ、ハンターの元締めって感じのものだ。

 ギルドではある程度の仕事の斡旋もやっている。
 当然、ハンターやそれに関わる者達の溜まり場ともなっているのだ。
 この連中に、日の当たる職業のものはほとんどいない。
 少なからず、闇に属する仕事で生きるものばかりである。
 例えば、武器商人。改造屋。殺し屋。その依頼人。そして、情報屋。
 ある日俺に重大な情報をもたらしたのも、そんなたむろしている連中の一人だった。 

「ようヒロユキ、精がでるな」

 そいつはいつものように、ギルドの片隅から陰気な声をかけてきた。
 指先に端末のコードをつないでいる。デッカーとも呼ばれる連中だ。
 俺は未だにこいつが人間なのかどうか分からない。

「たった今入った、ホットなニュースだ。
 大物がこの町に入ったぞ」
「ほう、おまえの言う大物がいったいどれほどの者だってんだ?」

 オレはどうもこいつが気に入らない。
 いつもフードをかぶっていて、表情が読めない。
 何より、とことん陰気な男なのだ。
 こいつと話していると、気が滅入ってくる。
 しかも、人を食ったような話し方をする。
 こいつはオレをひいきに見ているようなのだが。

「こないだの大物は、オレと戦って1分も持たなかったぞ?」
「そりゃ、お前が強すぎるのだ。
 あいつはA級のハンターを何人も殺していたぞ。
 そして今回のこいつも、そうだ。
 間違いなく、またこの町に血の雨が降る」

 は、望むところだ。
 獲物は、強いほど倒し甲斐がある。

「しかもこいつは強いってだけじゃないな、女子供も殺している。
 初犯は2年前の女殺し。その女の連れは瀕死の重体を負った。
 今のところネットに出ているデータは、と。
 ほう珍しい、全身をチューンアップしたサイボーグらしいな。
 自分の体を顧みず、目に付いたものを片っ端から殺しまくる。
 その見境のない戦いぶりから、奴についた通り名は、バーサーカー」
「はん、それなりの経歴だな。次の獲物はそいつに決まりだ。
 とりあえず、現在確認できるだけのデータをくれ。
 名前、容姿、攻撃方法・・・全てだ」
「そう言うと思ったぞ。
 その辺は、ここにプリントアウトしてある。
 名前は・・・ヤジマ、か」
「なに?!」

 オレは目の前の書類を、奪い取った。
 確かに、ヤジマという名前が書いてある。
   どくん
 心臓が跳ねる。俺の血が、騒いだ。
 奴が・・・ 奴がついに、また俺の前に姿を現すのか?
 俺の脳裏に、ヤジマの名前と共に一つの情景が浮かんだ。
 まだ人の姿をしたヤジマが、何か丸い物を持っている。
 それは俺が最初に見た、ヤジマの姿だった。
 俺は、自分自身が再び憎悪の炎に塗りつぶされるのを感じた。

   そのときの俺の反応は、劇的な物だった。
   オレ自身がとまどうほどに。
   オレの知らない記憶が、オレを支配していた。
   ただ一つ、オレにも覚えのある光景とともに。
   ヤジマ? だれだ、そいつは?

「どこだ! 奴は今、どこにいる!」
「まあ待て。あわてる乞食は貰いが少ない。
 こういうことは、きちんと手順を踏まなければな」

 俺は、手元にあるコインを放り投げた。

「とりあえず、今の手持ちはそれだけだ」
「・・・ふむ、少し足りんぞ? まあいい、私とお前とのよしみだ。
 奴は今Dブロックに潜んでいる。少なくとも、それが最新の情報だ。
 おおかた、鼻の鋭い連中がもう向かっているであろう。
 急いで行ってやってくれ。もう手遅れだろうけどな」

 ついに見つけたぞ、ヤジマぁぁ!
 俺の憎しみの根元、俺から全てを奪った男。
 もう逃がさねぇ、今度こそあかりの仇をとってやる!

 俺が最初に見たヤジマが、手に持っていたもの。
 それは俺の恋人、あかりの首だった。

   おいおい、あかりとかヤジマとか、いったい何なんだ?
   オレは、1年と少し前のことは知らないんだぞ?
   オレの困惑をよそに、俺は割と冷静に準備をしていた。

 今度の狩りは、いつもとは違う。
 何せ俺を2度も殺してくれた、奴が相手だ。
 万全の準備が必要だ。
 反応強化剤を用意し、武器のリミッターをはずす。
 バッテリーパックも、いつもよりでかいのを用意した。

「浩之さん、お仕事ですか?」

 珍しく、俺の背中にマルチが声をかけてきた。
 いつもは声をかけてこず、黙って指示に従うのだが。
 俺の尋常じゃない様子が気になったのだろうか?

「おおよ、奴がでた。今度こそトドメをさしてやる」
「・・・浩之さん、まだヤジマさんのことを諦めてなかったのですか?」

 さすが俺の相棒だ、よく分かっている。
 返事をしようと振り向いてみて、俺は絶句した。 
 マルチは、あの深い悲しみの表情をしていた。
 いつも俺に痛みを感じさせる、あの表情だった。
 しかし今度ばかりは、引き下がるわけにはいかなかった。

「諦められるわけがないだろう?! 奴は、俺から何もかも奪ったんだぞ!」
「少なくとも1回目は、不可抗力だったはずですよ?!
 もう、こんなことはやめてください・・・」
「これで、最後だ」

 だめだ、マルチと話していると気力が萎えてくる。
 マルチの悲しみの表情が、俺の強烈な憎悪を薄めてしまう。
 これから俺のする事を考えると、こいつはまぶしすぎる。
 「復讐」
 そうだ、これから俺のすることはただの復讐にすぎない。
 俺は、薄汚い復讐者にしかすぎない。
 あまりにもそれが、空虚なことに思えてきた。

 何故あの情報屋が気に入らないか、分かった。
 あれは、俺の心の闇からの言葉のように感じるからだ。
 まさしく、今の俺自身のように思えてくるからだ。
 マルチの前では霞んでしまうような、闇。

「浩之さん、一つだけよろしいですか?
 浩之さんは、ロボットが嫌いですか?」
「当たり前だ!
 奴らにはな、心って物がないんだよ。だから、平気で人間を壊すことができるんだよ。
 サイボーグも同じだ。連中はな、どこかに心って物を忘れちまってるんだよ。
 だから俺は、壊すんだよ。俺の憎しみを、奴らに叩き付けるんだよ」

 それだけ言い残し、俺はうちを飛び出した。

 D地区。そこは、今やもう人の住んでいない、廃棄地区だった。
 ここでなら、重装備のハンターも大暴れできる。
 事実、奥の方から激しい戦いの音が聞こえてきていた。
 しかしそれも、数分前から絶えている。

 廃棄地区を奥へ進んでいく。
 激しく戦った跡が、そこここにあった。
 だから、追跡はかなり楽だった。
 やがて、巨大な影が目前に現れた。
 そいつは、瘴気をまとっているように見えた。
 有無を言わせず、ナイフを投げる。
   カカカッ
   ・・・ドン!
 さすがに、この程度の爆裂ナイフでは、効かない。
 もとより、これでダメージを与えるつもりはない。
 奴の注意を引くことはできたようだった。

「この時を待っていたぜ、ヤジマぁぁぁ」

 そこには、ムッとする臭いが立ちこめていた。
 赤。血の赤。そして、人間だった物のパーツ。
 そこはさながら地獄のようだった。
 ヤジマはその中心に立っていた。
 返り血で赤く染まり。
 人の姿を捨てた、異形。 
 鬼、いや悪魔にも似た姿。
 それでもそれは、ヤジマだった。
 俺はロッドを構え、近づいた。

「醜い姿になったな。
 俺だよ、藤田だよ。
 もう、覚えていないのか?」
「お、お・・・」

 呻きながら、自らの体を掻きむしるヤジマ。
 俺を見ているのかどうかすら、怪しい。
 しかしやがて、一つの言葉を繰り返し始めた。

「ふ・・・じ・・・た?
 ふじ・・・た」

   おおおおおおおおおおおおぉぉぉ
 突然、雄叫びをあげ始めた。

「ふん、覚えちゃいるのか。
 今度こそ、楽にしてやるぜ」

 ヤジマは、いきなり襲いかかってきた。
 腕を振るい、触手を伸ばし、電撃をとばす。
 俺はそれを受け流し、なぎ払い、弾き返した。
 さすがに、尋常なパワーではなかった。
 しかし今の俺にとっては、そよ風にも劣る攻撃だった。
 奴の全ての攻撃が、計算できる。
 どう来るか分かっている攻撃を凌ぐのは、造作もないことだ。

 俺のねらう場所は一つだった。
 奴の脳と体をつなぐ、コネクタ部分。人間で言う、延髄である。
 おそらくもっとも装甲の厚い部分だろうが、そこを破壊すれば一撃で沈むはずだ。
 奴の攻撃を受けながら、ひたすらに待つ。
 ヤジマが、蹴りを放つ、掴みかかる、炎を吐きかける。
 俺はそれを、弧を描くように避け、捌き、牽制する。
 そして、そのときが来た。
 俺の蹴りが奴の拳をはじき飛ばす。
 やつが体勢を崩し、俺に背を向けた瞬間。

 一閃。

 ロッドを奴に突き刺す。
 予め、装甲の継ぎ目は見つけてあった。
 そこに、ロッドを強引に捻り込む。
 そして最大電流を流す。
 それだけで、ヤジマはぴくりとも動かなくなった。
 あっけないと言えばそれまでの、終わりだった。

「終わった・・・」

 どれほどの時間、オレはそこに佇んでいたのだろうか。
 いつの間にか、「俺」の意志は、オレに戻っていた。
 いや、「俺」と「オレ」が混ざっていた。
 双方の意志が、朧に混在していた。

「浩之さん、またヤジマさんを殺してしまったのですか?」
「マルチ? なぜ、こんなところに・・・?」

 突然、マルチに声をかけられた。
 オレは見られたくないものを見られたように感じ、あわてて振り向く。
 マルチは、ヤジマだった物の一部を抱えて、歩いてきた。

「マルチ・・・
 違う、違うんだ・・・」

 オレは自分でも何を言っているのだか分からなかった。
 それが見えないかのように、マルチは無表情に歩いてゆく。
 ヤジマだった塊に向かって。

「何故わたしがここに、ですか?
 直すんです。
 また、あなたが壊してしまいましたから」
「壊した? それは違うぞ。
 こいつはもう死んだんだ。
 ついに俺はあかりの仇を討ったんだ。
 ・・・オレが殺しちまった、みたいだな」

 俺はマルチの背に話しかけた。
 しかし、それも聞こえてないかのようだった。
 ぶつぶつと、オレに分からないことを呟いている。

「わたしはこの世界に存在する全てのみなさんが好きです。
 だからわたしは、生き続ける限り、力をふるうんです。
 そのものの願いを形にして顕す。
 それが、わたしの与えられた力であり、使命ですから」

 そして、俺の方を刺すような目つきで振り返った。

「あなたを得るためにわたしの払った、それが代償です」
「お前、何言ってんだよ?」

 マルチの腕をつかみ、乱暴に引っ張る。

  ごそり

 マルチの腕が、潰れて、抜けた。
 コードの束を引っ張りながら。
 
「お前・・・ロボットだったのか?」
「ええ。でも、私だけじゃありませんよ。
 ・・・
 あなたが壊されるたびにわたしが助けて、
 あなたが殺すたびにわたしが直すのに、
 あなたはそのたびに全てを忘れて・・・
 わたしはもう誰にも居なくなってほしくないのに・・・」


 ゆっくりと、俺の記憶がオレの中によみがえってくる。
 俺はマルチの言葉を最後まで聞くことに耐えられなかった・・・


「ロボットが、誰かを好きになっちゃいけませんか?」

 
 オレは、機械野郎が嫌いだ。
 人間のふりをするロボット。体を機械に換える人間。どちらもだ。

 そしてオレは、機械人間である俺自身も、大嫌いだ。