マルチのドジ具合が、どうもひどくなったような気がした。。 おかしい? こいつは、一応学習型のはずなんだが・・・ 観察しているうちに、どうやらたびたび居眠りをしていることに気が付いた。 こないだなんか、俺と話をしている最中に居眠ってたし。 心配になって、長瀬のおっさんに電話してみた。 「ふむ・・・ どうやら、記憶領域にフラグメンテーションが溜まってきたようだな」 話によると、HM−12シリーズは経験したことの全てを記憶しているわけではない んだそうだ。 ある程度の優先順位をつけて取捨選択をし、あるものは圧縮をかけて保存し、あるもの は削除され、充電時の自己診断時にデフラグを行っているんだそうだ。 その中でもシステムに関わるような「最重要」なデータは、保存場所が固定される。 「ログから察するに、どうやら浩之君関係のデータが、記憶領域を圧迫しているようだね。 マルチにとって、君との思い出はよっぽど大事なものらしいね。 私の娘は、幸せなんだねぇ・・・」 ちょっと、ジーンとしちまった。 「そうだねぇ。 データのダウンロードやらシステムのアップグレードやら、記憶領域の増設やら・・・ 基本的にHM−12にはアクティブな外部記憶装置はないから、 できることはそれぐらいだな」 そういうわけで、マルチは1週間ほど里帰りをしていた。 「浩之さーん、ただいま帰りましたー」 おっ、帰ってきたか! 1週間は長かったぜ。 一刻も早くマルチを抱きしめて、なでなでしてやらねば・・・ 久々に出会ったマルチは、玄関に迎えに出た俺の顔を見るとなんだかぎょっとしたような 顔をした。そしてぐるぐると周りを見回し、ぎこちない笑みを浮かべると、俺にこんなこと を言った。 「あのー、どちら様でしょうか?」 おいっ