大切な、思い出 投稿者:丹石 緑葉 投稿日:3月17日(金)23時49分
 マルチのドジ具合が、どうもひどくなったような気がした。。
 おかしい? こいつは、一応学習型のはずなんだが・・・

 観察しているうちに、どうやらたびたび居眠りをしていることに気が付いた。
 こないだなんか、俺と話をしている最中に居眠ってたし。

 心配になって、長瀬のおっさんに電話してみた。

「ふむ・・・
 どうやら、記憶領域にフラグメンテーションが溜まってきたようだな」

 話によると、HM−12シリーズは経験したことの全てを記憶しているわけではない
んだそうだ。
 ある程度の優先順位をつけて取捨選択をし、あるものは圧縮をかけて保存し、あるもの
は削除され、充電時の自己診断時にデフラグを行っているんだそうだ。
 その中でもシステムに関わるような「最重要」なデータは、保存場所が固定される。

「ログから察するに、どうやら浩之君関係のデータが、記憶領域を圧迫しているようだね。
 マルチにとって、君との思い出はよっぽど大事なものらしいね。
 私の娘は、幸せなんだねぇ・・・」

 ちょっと、ジーンとしちまった。

「そうだねぇ。
 データのダウンロードやらシステムのアップグレードやら、記憶領域の増設やら・・・
 基本的にHM−12にはアクティブな外部記憶装置はないから、
 できることはそれぐらいだな」


 そういうわけで、マルチは1週間ほど里帰りをしていた。

 
「浩之さーん、ただいま帰りましたー」

 おっ、帰ってきたか! 1週間は長かったぜ。
 一刻も早くマルチを抱きしめて、なでなでしてやらねば・・・

 久々に出会ったマルチは、玄関に迎えに出た俺の顔を見るとなんだかぎょっとしたような
顔をした。そしてぐるぐると周りを見回し、ぎこちない笑みを浮かべると、俺にこんなこと
を言った。

 「あのー、どちら様でしょうか?」
 おいっ