―昔、男ありけり。 雨月山の鬼退治が縁で共に人生を歩むコトとなった次郎衛門とエディフェル。 されども、世間一般の目は厳しく「鬼の娘」、「鬼侍」等との悪評も絶えぬのであった。 やがて二人は人々の悪意に追われるように城下を離れ、安住の地を求め旅に出たとさ。 …ちょうど芥川(あくたがは)と呼ばれる川の近くを通りかかったときであろうか、 その晩は明るく晴れた月夜であったが突如黒雲がたちこめ大雨となった。 雷までもがとてもひどく鳴り、二人は世間で「鬼が出る」と噂の古い庵へと避難したのだった。 外では雷の音が一晩中鳴り響いたが、そこはなんといっても二人は「鬼」。 神経のズ太さは通常の人間の比ではなく、あっという間に次郎衛門は眠りこけた。 …夜中にエディフェルが一人ごそごそとしているのにも気付かず…。 ―翌朝 庵には裸同然の次郎衛門が一人佇んでいた。 目を覚ましてみればエディフェルの姿は見えず、一通の書状があるのみ。 書状に綴られた言葉は… 『領収書・キャバレー『ヨーク』』 の一言のみ。 後に舞い戻った次郎衛門は人々に語る。 「あの庵には鬼が出る。」…と。 ―領収書何ぞと人の問いしとき銭と答へて消えなけりものを (読み人知らず)