―恋愛のきっかけなんて、大抵小さなコトさ。 …と、昔の人が言ったかどうかは知ったこっちゃないが、だ。 オレと先輩の『きっかけ』はホントに些細なコトだったと思う。 あの日…、オレが初めてオカルト研の部室に行ったあの日。 何気無く先輩に尋ねた一言。 「なぁ、先輩。あの妙ちくりんな人形は何なんだ?」 …そう、この一言から全てが始まったのだ。 ―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/― 「なぁ、先輩。あの妙ちくりんな人形は何なんだ?」 「………」 「え、とうもろこしの皮で出来てる人形?しかも手作り?」 「………(こくん)」 「ふぅん、一緒に作ると『仲良し』になれるオマケつきか………よし、先輩、一緒に作ろうぜ?」 「………(こくん)」 「よっしゃ、決まりだな。…さてと、材料は…?」 「………(ふるふる)」 「え?何事も原点から?最初から作る?………そりゃ、どういう―?」 「………」 「………タネ?」 「………(こくん)」 「………もしかして…もろこしの?」 「………(こくん)」 「…マジかよ?」 「マジです。」 「……まぁ…しゃあないか…。」 「………(こくん)」 …こうしてオレと先輩のもろこし栽培の日々が始まった。 先ずは学校と交渉して部活動の一環として畑を用意してもらった。 畑と言っても小さなモノだし、耕す必要もあった。 例年よりも多少暑く感じる春の日を浴びながらオレはせっせと耕した。 先輩は力仕事には向いていないということで作業自体はオレ一人で進めたが、 いつでも先輩は傍でオレを見守って励ましてくれた。 やがて季節が移り、もろこしは立派に成長した。 収穫したもろこしは二人で料理して仲良く食べた。 オレも先輩も特に料理が上手だったワケではないがとても美味しかったと思った。 焼きもろこしを食べながらオレは先輩に愛を告白した。 雨の日も風の日も、決して嫌がることなく協力してくれた先輩。 いつでも一緒にいてくれた。 もろこしの中で芽生えた愛情。 先輩…大好きだ。 「先輩………今度は…オレと先輩の『もろこし』を育てないか…?」 「……浩之さん…。」 「…芹香っ!」 「…浩之さんっ!」 「つくろうな!オレと芹香の『もろこし』、つくろうな!」 「………(こくん!)」 がばぁっ! あ〜れ〜… ―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/―/― …と、いうワケで。 オレと芹香は結婚した。 芹香は来栖川を捨てて、オレと夫婦で農場を経営している。 もちろん、栽培しているのはもろこしだ。 あの後、宣言した通りにオレと芹香の『もろこし』も出来た。 名前は『藤田もろこし』。 イイ名前だろ? 農場の経営は『庶民と令嬢を結んだ愛のもろこし』というコピーがウケたのか、結構繁盛している。 まぁ、どうせ、じじいや綾香がネマワシでもしてるのだろうが…。 何の変哲もない、ただのもろこし。 そのおかげでオレは芹香と結ばれ、幸せな家庭を築いている。 ホント、『きっかけ』なんて些細なコトだったりするワケだ。 …ありがとな、もろこし…。 …あれ、人形?