…がた……ごと……ごろごろ… まただ… わたし、柏木楓、は上体を起こすと枕元の時計を見た。 …午前2時…こんな夜中に一体誰が何をしているのだろう? 30分くらい前にも同じ物音で睡眠を中断された。 誰だか知らないけど迷惑な話だ。 睡眠不足は美容の大敵という古典的格言を知らないのだろうか? …がた………ごろごろ…… 何かが転がる様な物音は止まずに続いている。 冗談ではない。明日は学校なのだ。 仕方なくわたしは物音の止めるために布団を出た。 物音の出所はすぐにわかった。 部屋を出て廊下へ出ると耕一さんの部屋から例の物音が聞こえてきたのだ。 てっきり千鶴姉さんが冷蔵庫を漁ってるとか、梓姉さんが寝ぼけて暴れてるとかだと思っていたので 耕一さんが発生源だったとは少し意外だ。 ……ごろごろ……ごろごろ… 部屋の戸に耳をつけると中から何かが転がる音が聞こえてきた。 一体、何が転がっているのだろう。 「楓ちゃ〜ん……。」 いきなり呼ばれてドキッとする。 しかし、どうやらバレたわけではない様だ。 …別に隠れる必要もないのだけれども…。 …ごろごろ… まだ聞こえる。 もしかして転がっているのは耕一さんなのではないのだろうか? そんな考えが浮かんでくる。 とにかく静かにしてもらわないと眠れない。 意を決して戸を開ける。 わたしの目に映るのは……… …ごろごろ… う〜ん、気持ち良い! 部屋一面に散らばったティッシュの上を転がりながらそう思う。 俺、柏木耕一、は隆山の自室で全裸で転げ回っていた。 部屋には楓ちゃんを『ふきふき』した使用済みティッシュ1年分が散らばっていた。 「楓ちゃ〜ん……。」 声に出して思わずニヤリとしてしまう。 客観的に今の自分を見れば、おそらく『変態』の烙印を押されてしまうのではないだろうか。 もし見つかったら千鶴さんに半殺しにされ、梓に残り半分を殺され、初音ちゃんに軽蔑(+涙)をくらってしまうだろう。 楓ちゃんが知ったら………想像もつかない。…ちょっと知りたい気もする。 そんなバカなコトを考えながら転げ回る。 誰も知らない俺だけの秘密。俺だけの時間。 …楓ちゃん… 俺が再びティッシュの上を転がろうとした、その時… …がらっ… 静かに部屋の戸が開かれた。 楓ちゃんが立っていた。 心臓が止まると思う程、驚愕したが……反面、何故かちょっぴり嬉しかった。 いったいこれからどうなるか…それは誰にもわからない。