このSSは故夏目漱石氏の名作『夢十夜』の『第一夜』を参考に製作…っていうかパクって考案されたSSです。 元の文章と比較して「うわ、マジでパクリじゃん!?」と言われても困るだけしか出来ないので堪忍して下さい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− こんな夢を見た。 腕組みをして燃え盛る炎の真っ只中に座っていると、あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと言う。 女は肩くらいにまである髪を地面に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。 真っ白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、その眼は紅く輝いていた。どうにも死にそうには見えない。 しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。拙者も確かにこれは死ぬなと思った。 そこで、そうか…、もう…死ぬのか…、と上からのぞき込むようにして聞いてみた。 死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと眼を開けた。 大きな潤いのある眼で、長いまつげに包まれた中は、ただ一面に真っ紅であった。 その真っ紅なひとみの奥に、拙者の姿が鮮やかに浮かんでいる。 拙者は透き通るほど深く見えるこの紅目の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。 それで、ねんごろに耳のそばへ口をつけて、死ぬのではなかろうな、大丈夫であろうな、とまた聞き返した。 すると女は紅い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、しかたがないわと言った。 じゃ、拙者の顔が見えるかと一心に聞くと、見えるかって、ほら、そこに写ってるじゃありませんかと、にこりと 笑ってみせた。 拙者は黙って、顔を上げた。炎を呆然と見つめながら、どうしても死ぬというのかと思った。 しばらくして女がまたこう言った。 「死んだら埋めてください。わたしの角で穴を掘って。そうして時々輝くヨークの破片を墓標に置いてください。 そうして墓のそばに待っていてください。また逢いに来ますから。」 拙者はいつ逢いに来るかと聞いた。 「わたしのことを想うでしょう。それから姉さん達を憎むでしょう。それからまた想うでしょう、そうしてまた憎むでしょう。 ………想いながら憎み、憎みながら想う、………待っていられますか。」 拙者は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、 「百年待っていてください。」 と思い切った声で言った。 「百年、わたしの墓のそばに座って待っていてください。きっと逢いに来ますから。」 拙者はただ待っていると答えた。 すると、紅いひとみの中に鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。 静かな雫が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱたりと閉じた。 長いまつげの間から涙が頬へ垂れた。 ……もう死んでいた。 ………結局最後まで「姉さん達を許して。」とは言わなかった。 拙者はそれから山を降りて、角で穴を掘った。ときどき青くぼうっと輝いた気がした。 湿った土の匂いの中、穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。 掛けるときにも角が輝いた気がした。 それからヨークの破片の落ちたのを拾ってきて、軽く土の上に乗せた。ヨークの破片は丸かった。 きっと長い間大空を飛んでいる間に、角が取れて滑らかになったんだろうと思った。 抱き上げて土の上に置くうちに、胸と手が少し温かくなった。 拙者は苔の上に座った。これから百年の間、こうして待っているんだろうなと考えながら、腕組みをして、丸い墓標を眺めていた。 そのうちに女のことを想った。涙が流れ出た。 そして、女の姉達を憎悪した。身体が憎しみの炎で焼き尽くされるようだった。 拙者はこういうふうに想いと憎悪を繰り返しながら、日々を過ごしていった。 女の言った百年はまだ来ない。 あろうことか、しまいには、未だに輝きつづける丸い墓標を眺めて、拙者は女にだまされたのではなかろうかと思いだした。 すると墓標の下から斜に拙者のほうへ向いて青い茎が伸びてきた。 見る間に長くなって、ちょうど拙者の胸のあたりまできて止まった。と思うと、すらりと、揺らぐ茎の頂に、 こころもち首を傾けていた細長い一輪のつぼみが、ふっくらと花弁を開いた。 真っ白な百合が鼻の先で骨にこたえるほどにおった。そこへはるかの上から、ぽたりと露が落ちたので、 花は自分の重みでふらふらと動いた。 拙者は首を前へ出して、冷たい露の滴る白い花弁をじっと見つめた。 どのくらいの間そうしていただろうか。不意に百合がこう言った。 「そんなに見つめちゃイヤですぅ。(てへっ)」 拙者はようやく自分が女に騙されたことを悟った。 なんとも不思議な夢でゴザッタ、ニンニン!