痕・外伝〜夢十夜〜 投稿者:あかすり 投稿日:4月1日(土)02時00分
 このSSは故夏目漱石氏の名作『夢十夜』の『第一夜』を参考に製作…っていうかパクって考案されたSSです。
元の文章と比較して「うわ、マジでパクリじゃん!?」と言われても困るだけしか出来ないので堪忍して下さい。
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 こんな夢を見た。

腕組みをして燃え盛る炎の真っ只中に座っていると、あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと言う。
女は肩くらいにまである髪を地面に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。
真っ白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、その眼は紅く輝いていた。どうにも死にそうには見えない。
しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり言った。拙者も確かにこれは死ぬなと思った。
そこで、そうか…、もう…死ぬのか…、と上からのぞき込むようにして聞いてみた。
死にますとも、と言いながら、女はぱっちりと眼を開けた。
大きな潤いのある眼で、長いまつげに包まれた中は、ただ一面に真っ紅であった。
その真っ紅なひとみの奥に、拙者の姿が鮮やかに浮かんでいる。

 拙者は透き通るほど深く見えるこの紅目の色沢を眺めて、これでも死ぬのかと思った。
それで、ねんごろに耳のそばへ口をつけて、死ぬのではなかろうな、大丈夫であろうな、とまた聞き返した。
すると女は紅い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、しかたがないわと言った。

 じゃ、拙者の顔が見えるかと一心に聞くと、見えるかって、ほら、そこに写ってるじゃありませんかと、にこりと
笑ってみせた。
拙者は黙って、顔を上げた。炎を呆然と見つめながら、どうしても死ぬというのかと思った。

 しばらくして女がまたこう言った。

「死んだら埋めてください。わたしの角で穴を掘って。そうして時々輝くヨークの破片を墓標に置いてください。
そうして墓のそばに待っていてください。また逢いに来ますから。」

 拙者はいつ逢いに来るかと聞いた。

「わたしのことを想うでしょう。それから姉さん達を憎むでしょう。それからまた想うでしょう、そうしてまた憎むでしょう。
………想いながら憎み、憎みながら想う、………待っていられますか。」

 拙者は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、

「百年待っていてください。」

と思い切った声で言った。

「百年、わたしの墓のそばに座って待っていてください。きっと逢いに来ますから。」

 拙者はただ待っていると答えた。
すると、紅いひとみの中に鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れてきた。
静かな雫が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱたりと閉じた。
長いまつげの間から涙が頬へ垂れた。

……もう死んでいた。

………結局最後まで「姉さん達を許して。」とは言わなかった。


 拙者はそれから山を降りて、角で穴を掘った。ときどき青くぼうっと輝いた気がした。
湿った土の匂いの中、穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。
掛けるときにも角が輝いた気がした。

 それからヨークの破片の落ちたのを拾ってきて、軽く土の上に乗せた。ヨークの破片は丸かった。
きっと長い間大空を飛んでいる間に、角が取れて滑らかになったんだろうと思った。
抱き上げて土の上に置くうちに、胸と手が少し温かくなった。

 拙者は苔の上に座った。これから百年の間、こうして待っているんだろうなと考えながら、腕組みをして、丸い墓標を眺めていた。
そのうちに女のことを想った。涙が流れ出た。
そして、女の姉達を憎悪した。身体が憎しみの炎で焼き尽くされるようだった。

 拙者はこういうふうに想いと憎悪を繰り返しながら、日々を過ごしていった。
女の言った百年はまだ来ない。
あろうことか、しまいには、未だに輝きつづける丸い墓標を眺めて、拙者は女にだまされたのではなかろうかと思いだした。




 すると墓標の下から斜に拙者のほうへ向いて青い茎が伸びてきた。
見る間に長くなって、ちょうど拙者の胸のあたりまできて止まった。と思うと、すらりと、揺らぐ茎の頂に、
こころもち首を傾けていた細長い一輪のつぼみが、ふっくらと花弁を開いた。
真っ白な百合が鼻の先で骨にこたえるほどにおった。そこへはるかの上から、ぽたりと露が落ちたので、
花は自分の重みでふらふらと動いた。




拙者は首を前へ出して、冷たい露の滴る白い花弁をじっと見つめた。





どのくらいの間そうしていただろうか。不意に百合がこう言った。



「そんなに見つめちゃイヤですぅ。(てへっ)」






 拙者はようやく自分が女に騙されたことを悟った。

 なんとも不思議な夢でゴザッタ、ニンニン!