来栖川綾香はラーメンが大好物だ。 先日、藤田浩之と食べに行って以来好物となった。 単にラーメンが美味しいだけなのか、『恋するお年頃パワー』が上乗せされているかは不明だ。 今日も綾香は自室でセリオを従え特製のラーメンを食していた。 …ちゅるっ……ずずずっ…ずるずるっ……ぽんっ…ごっくん… 「ふ〜、やっぱ美味しいわねぇ〜。」 満足そうに呟く綾香。微妙にオヤジくさい。 例えるなら、風呂上りのビールを楽しむ会社帰りのサラリーマンといったところか。 …話は変わるが、来栖川綾香は決して無知ではない。 ただ、常識に疎いだけなのだ。 前回、コアラのマーチから発生したコアラに対する誤解もそういった事情に因るモノなのだ。 そして、それらの常識的な事象に関する誤りを正すためという意味でもセリオは十二分に活躍していた。 話は本筋へ戻る。 ………… 「ねぇ、セリオ。」 ラーメンを食べ終わった後に綾香は意を決した様にセリオに声を掛けた。 「―何か御用でしょうか、綾香さま?」 「ちょっと確かめたいコトがあるんだけど…」 「―………綾香さま。」 「…何よ?」 「―…おそらくは綾香さまがお考えになっている疑問は事実に反した内容と予想されます。」 「ふ〜ん。…でもなんでわかるのよ?」 「―今現在までの、食事後における綾香さまの食物、動物に関するご質問の内容から推測しました。」 「………なんか、『わたしの考えは間違いだらけ』って感じがするんだけど…?」 「―…事実そうだったので…」 事実そうだった。 「ねぇ、セリオ。あなたのデータとかを信頼してないワケじゃないのよ。ただ…ちょっとね〜。」 「―……………」 「できれば、ちゃんと聞いて教えて欲しいなぁ〜とかね。」 「―…わかりました。どうぞ、お聞かせ下さい。」 これだけだと、セリオが綾香に対し甘さを見せた、となるのだろうが、 この時の綾香の目、構えはいつでもセリオに制裁を加えられるようにできていたことを補足する。 「悪いわね〜。…ラーメンにシナチクって入ってるじゃない?」 「―はい、シナチクですね。」 「そのさぁ…シナチクの造り方って…」 「―綾香さまがお造りになるのですか?」 「違うわよ…ちょっと気になるだけよ。」 「―………」 「それで製造過程なんだけど…(中略)ってホント?」 「―………」 「………どうしたのよ?」 「―…すいません。回路の不備に因ると思われる目眩が…」 「…大丈夫なの?」 「―…はい。大丈夫…です。」 「で、どうなの?」 「―違います。絶対に違います。データを照合するまでもなく違います。」 「…今日はやけに反抗的ね…。」 「―………只今、回路の不備に因り言語障害が発生していると…」 「…わかったわよ。違うのね…。」 「―はい、違います。…ちなみにその情報はどこから…?」 「ん?ああ、浩之がね…」 「―そうですか…。」 セリオ、綾香の生活保護のため藤田浩之をターゲットに補足。 こうして、来栖川綾香はまた一つ利口になった。 <蛇足> 藤田浩之直伝、来栖川綾香のシナチクの造り方 1、ラーメン店の客が残した使用後のワリバシを用意する。 2、1のワリバシをこれまた客の残したスープで長時間煮る。 3、充分に煮たワリバシを等分の大きさに切る。 …完成。シナチクの出来あがりである。