HMX―13セリオは焦っていた。 『ToHeart』はPSにまで進出したというのに、自分は未だに攻略可能キャラに加わっていないのだ。 自分の主人である来栖川綾香までもがヒロインに昇格しているというのに…。 あの役立たずのHMX―12・ポンコツ・マルチは今では人気No1にまでなったというのに…。 いつの日か、研究所で交した会話が思い出される…。 セリオさん、セリオさん、わたし人気投票で一位になっちゃったんです! ―…それはよかったですね、マルチさん。 はいっ、ありがとうございます。…セリオさんは何位だったんですか? ―…私は…マルチさん程では…。 あっ!そういえばセリオさん、攻略できなかったんですね!(←悪意はない) ―………そうですね…。 セリオさんの良さも攻略できなきゃ、わかりませんよね! ―………そうですね…。 でも大丈夫ですよ、セリオさん!だって『一位の』わたしと同じメイドロボなんですから。(←悪意はない) ―………そう…ですね…。 あの日、セリオは誓ったのだ。 必ずやヒロインに昇格し、あのポンコツを追い落とすと…。 彼女にとって藤田浩之という異性に興味は無い。あくまで、自らの悲願を成就せんとするためのヒロイン昇格であった。 …が、彼女は地味だった。 自分には確かにサテライトサービスがある。 世界中の達人の技を自らの技とする、この機能…かなりの能力だ。 …しかし、ヒロイン、藤田浩之の妾となるには少々役不足だった。 彼女は考えた。 …私には何が足りないのだろうか? …そう、私には『武器』がないのだ。藤田浩之を虜にする強力な武器を!! 神岸あかりには『幼馴染』という武器がある。 長岡志保には『かけがえのない友情』という武器がある。 他にも『巨乳メガネ』、『熱血純情格闘』、『不幸な予知能力(偽)』、…いろいろありすぎる。 ダメだ…今から自分で『武器』を研究し編み出すには時間がない! 今にも時代は同人誌即売クラブと魔女ッ娘の経営クラブに移り変わろうとしているのだ。 昔の人は言いました。 『親のスネはカジって、カジって、カジりまくれ!!』 ―で、研究室 「…で、何かね?私はセリオを改造して藤田君を虜にさせてくれ、という…」 ダルそうに話す長瀬源五郎。全く持っていい迷惑だ。 「―お願いします。私はこのまま、あのポンコツの無表情な友人として埋もれていたくありません。」 ライバル的関係にあるとはいえ、姉に当たる存在をポンコツ呼ばわり。しかし、実際マヌケだから仕方ない。 「そうは言ってもねぇ〜。」 未だ乗り気でない。当然だ。 「―……お願いします。…『お父さん』。」 「……まぁ…ねぇ…。ちょっとくらいなら…ねぇ…。」 あっさり落ちる。世の中の父親達は愛娘の『お父さん』に弱い。彼とて例外ではない。 「しかしねぇ…予算も材料も無い。改造って言ったってねぇ…、そうだ、セリオ。」 「―はい?」 早速、セリオにレクチャーを始める長瀬。 …が、この時、彼の瞳は『娘ラブ親父』の目から『イタズラ大好き親父』の目に変わっていた。 〜一週間後〜 「―浩之さん。」 「よぉ、セリオじゃねぇか。マルチは一緒じゃないのか?」 「―いえ、今日はちょっと…。」 …この男はまだ、ポンコツを求めるのか…でも大丈夫、縛りマスターのデータをダウンロードして荒縄で縛っておいてあるから… あの細腕では絶対に脱出不可能。つーか、力があっても多分ムリだ。 「ふ〜ん、セリオだけなんだ…ちょうど良いや、ちょっと話そうぜ。」 「―はい。」 なんと軽薄な男でしょう。妾が十人近くいるというのにまだ足りないと…。 しかし、コレは好チャンス。全てはシミュレート通りです。 このまま一気にヒロイン昇格です。 〜平凡な会話が続いて時間が過ぎた、と思いねェ〜 「お、セリオ。もうすぐバス来るぜ。」 今です!主任から伝授された『女が男を落とすテク・その34』を使うときです! 「―浩之さん…。」 「…セリオ?」 …先ず、上着の襟の後ろを上げて後頭部に引っ掛けます。 そして、できるだけ無表情でこの一言! 「―じゃ〜みら〜。」 止まる時、凍る空間。 「・………」 「―………」 「…あ、じゃ、じゃあ…な…。」 「―………はい…さようなら…。」 去って行く浩之。 立ち尽くすセリオの横をついでにバスも通りすぎて行く。 彼女の夢は断たれたのだ…。 …でも、でも、…まだ柏木家とかあるし! 彼女は諦めていない。